不条理 2
その日は、とても暑い夏の日だった。
カゲが、ボイドから彼のあらゆる型を教わり始めてから
三年が過ぎようとしていた。
ボイドの型は狼と生きる部族らしく優雅で
美しいものばかりだった。
その刀は、敵に致命傷を与えているにもかかわらず
慈悲にも慈愛にも似た優しさを感じさせた。
だが、カゲの剣には、その慈悲も慈愛も宿ることはなかった。
型はたしかにボイドとそっくりだったが、何かが違う。
感情のない乾いた舞踊を見ているようだった。
「カゲ、君はいくつになった?」ボイドが問うた。
「はい。来月で15歳になります」カゲは、片膝をついて答えた。
この頃には、カゲは心底、ボイドに敬愛の情をいだいていた。
ボイドの生き方はその剣と同じく、美しく慈悲と慈愛に満ちたものだった。
幼い頃に家族のもとから連れ去られたカゲにとって、ボイドは
兄とも父とも呼べる存在となっていた。
「そうか。では、来月がお前の初めての闘いとなるだろう。
君には、たった一つの型をのぞいて僕の全てを教えたつもりだ。
最後の一つは、自分で探しなさい。
その最後の型こそが君の全てであり、君自身を救うものだろう」
「はい」
「そして約束してほしい。君はこれから長い苦難の日々にさいなまれるだろう。
けれども、決して自分で自分の命を絶ってはいけない。
人は、誰しもなんらかの天命を受けて生きている。君の命が終わる瞬間は
天が決める。その時が来たら、君には必ずわかるはずだ。
それまでは、あらゆるものに抗って生きてほしい」
そして、その日の夕べ、ボイドは初めて闘いで負傷した。
闘いには勝利したものの、ほぼ相討ちになり彼は右腕の健を切られた。
ひどい痛みに襲われているはずなのに、彼は腕をおさえて
うずくまったまま一言も発さなかった。
そして、剣士として致命的な怪我を負ったボイドは
規定通り、屠殺されることとなった。




