ボイド
夢を見ていた。
11の歳だった。
カゲは、剣闘士としての訓練を受けていた。
聖なる都市アークで人狩りにさらわれたカゲは
ひ弱で小さな子供だった。
「こんな細っこい子ども、役にも立たない。
殺してしまえ」
そう言われて処刑場に連れ行かれたが、すんでのところで
誰かに呼び止められて命拾いした。
「待て。少年よ。こちらに顔を見せてみよ」
カゲは、目隠しをされたまま声のするほうへ顔を向けた。
声の主の冷たい指先が、カゲの目隠しをするりとほどいた。
「美しい」
カゲはまっすぐ、声の主を見上げた。
彼は角ばった白い帽子をかぶっていた。
帽子から薄いベールが垂れており、彼の顔を隠していた。
「美しい少年だ。意思の強そうな黒い瞳。高い鼻筋。
なめらかな肌に黒い髪が物憂げにかかっているところも
とてもいい。殺すのはあまりに惜しい」
そういうと、彼は都一の剣闘士の名前を挙げ、
「やつに、この者の指導をさせよ。どんな厳しい訓練をさせても
構わぬ。一流の剣闘士に育て上げろ」
カゲを連れていたものたちは、跪いた
「御意」
そして、カゲは再び目隠しをされると、彼らに両腕をつかまれて
連れていかれた。
やがて、光さす暖かい部屋で、カゲは目隠しを外された。
そこには、金髪で背の高い優しそうな青年が立っていた。
その人は、まるで陽だまりの中に立っているようだった。
右手を差し出すと、優しそうな笑みを浮かべて
「よろしく。今日から君の面倒を見るボイドだ」
カゲは、戸惑いながら己の右手を差し出した。
「僕の名前は……」
「いや、何も言わなくていい。この都では本当の名前なんていらない。
そうだな。君の名前は、今日からカゲだ」




