碧色の瞳
カゲは、しばしその隙間から差し込む光を見つめていたが、
やがて何事もなかったかのように、蜂の巣のほうへ身体を向けた。
侵入者に気付いた斥候が近づき、彼の周りを飛び回った。
構わず、どんどん近づいていくと、やがて巣の中から
すさまじい数の蜂が飛び出して来た。
だが、カゲの身体にとりつき、針で刺そうとした蜂は
全身に塗りたくられたカゲの強烈な毒の血にあおられ、
力を失い湖へと落ちていく。
無数の屍が音もたてず、降り積もっていった。
カゲは、巣の間近によると片手で身体を支えたまま
腰の剣をすらりと抜いた。
そのまま、巣めがけて、ぐさりと剣を突き立てる。
崖からえぐりとろうと試みたが、巣は半分に割れて、
下部がぶら下がったような状態になった。
丸見えになった巣の中で無数の幼虫が蠢いている。
中央には女王蜂もいるのか。
「焼けばこいつらも食えそうだな」
カゲはつぶやくと、剣を抜き去り、巣と崖の隙間に剣をさしこんだ。
大きくふりかぶると、ひきはがされた巣が湖の上へと落ち込んでいく。
同時に中から、すさまじい轟音がして、蜂たちが
逃げ出していく。
カゲは、天井の隙間から次々に地上へと飛び出していく蜂を無言で見送り
静かに崖を下っていった。
カゲは少年のそばに戻ると、岸へ打ち寄せられた蜂の巣から
取り出した蜂蜜を口元へゆっくりと流し込んだ。
まずは、ほんの少量。
蜂蜜でアレルギーを起こす人間もいると聞くからな。
少年は、蜂蜜の甘さを感じたのかうっすらと目を開けた。
美しい碧色の瞳だ。
「甘い」小さくつぶやくと、さらに、二口、三口と蜂蜜を
口にすると、小さな寝息を立てはじめた。
指についた蜂蜜をぺろりとなめると、カゲはごろりと地面に
寝転んで静かに目を閉じた。