少年とカゲ 3
闘技場の外は暗く深い森になっていた。
砂漠の下になるのだろうか。
空はなく、わずかにあいた天の隙間からうっすらと
光が差しこんでいる。
うっそうと繁る植物は見たこともないものばかりで
幼い頃、図鑑で見た古代のシダ類に似ている気がした。
「まだ遠くまで行ってないはずだ。探せ」という声が
聞こえてきた。
カゲは、小さく聞こえてくる水音をたよりに
がむしゃらに突っ走った。
近くに水場がある。
この小さな身体にこびりついた血を洗いながさなくてはならない。
綺麗な水が流れていれば、飲ませることもできる。
急がなければ。
時間がたてば、こいつは死ぬ。
いや、死んだってかまわないはずだ。
いつだって、俺はそうやって生きてきた。
なぜだ。
カゲは混乱してきた己の心を静めようと首をふった。
今は考えるな。考えても意味のないことだ。
こいつを生かしたい。そう思った。
なら、それだけでいい。
その目的のために、やれることをやるだけだ。
追手の声も遠ざかり、しんとした森の中を
カゲは、かなりの時間、走り続けた。
皮膚を切る、ささくれだった植物の棘の隙間を
くぐりぬけたとき、突然、空間の広がりを感じた。
足元に水が流れている。
水の流れにそって、上流へ向かうと暗がりの中に
ぽっかりと開いた洞窟の穴があった。