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記憶にない景色

「カゲ」


細くて高い小さな声が聞こえたと思ったとき

カゲの脳裏にある光景がフラッシュバックした。


どこか広い屋敷の屋根裏部屋。天井の小窓からさす陽光。

手のひらにからまる少女の白くて細い指先。

ふわふわした長い髪が、陽の光を反射して輝いている。


記憶にない場所。見たことのないはずの少女。


なんだ、これは。


カゲは、一瞬、躊躇して足を止めた。


「お兄さん」

もう一度、甲高い声が実際に耳に響いてきた。

振り返ると、まだ十歳前後の少年が

カゲのマントにしがみついていた。


「助けて。お兄さん」

ぼろぼろの身なりで背中の大きな傷跡がまだ治りきらず

生々しく残されている。


一人の兵士が「動くな」と鋭い叫び声をあげて、

少年を引き戻そうとした。


カゲは兵士を一瞥すると、顔色も変えずその剣で腕のカマを

薙ぎ払った。

切り落とされた己の腕を見ながら兵士は

「うわあああああ」と叫び声をあげた。


「お兄さん。助けて」少年は恐怖で、両の目から泪を

ぼろぼろ流している。


「くだらん」カゲは低い声でつぶやいた。

「だが酔狂だ」

咽喉の奥でくっくっと笑うと、少年の身体を小脇に抱えこんだ。


「先を見てもわかるとおり、俺の身体を流れる血は猛毒だ。

返り血を浴びただけでも、弱い奴は死ぬ。

だが、それを覚悟で切ってくる奴がいるなら相手になろう」


少年を小脇に抱えたまま、反対の手で

滴り落ちる血で真っ赤に染まった剣を持ち、

ぎらぎら光る双眸で周囲を睨みつける姿は、

まさしく死神そのものだった。







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