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プロローグ

ここはグアヤキル。絶望と貧困の町だ。


ある朝、男がその町から出奔した。

男の名はカゲ。

虫のような眼をした男だ。


粗末なマントを身にまとい、左目はつぶれている。

錆びた剣を腰にさし、片足を軽くひきずるように歩いている。


この町ではとりたてて珍しい姿ではない。

むしろ五体がそろっているだけ、いい方と言える。


カゲは21の歳にグアヤキルにやってきて、10年をこの町で過ごした。

カゲは全てを手に入れ、全てを失っていた。

そして、とても疲れきっていた。消耗されきっていた。

カゲの心はぼろぼろのマントのように擦り切れ、その形を失っていた。


”ああ、そうだ。死のう”


カゲはふと思いたった。


だが、なぜ?


カゲには死ぬ理由がなかった。

だが、それと同じくらい生きる意味もなかった。


人はなぜ生きるのか。

カゲは、今、生きている。希望はなくとも。

生に対して、何の感動も覚えなくなった。

それなのに死は怖い。


怖い。怖くてたまらない。

わずかな食べ物をめぐり、カゲは人と争い、人を殺した。


小さなパンを片手にカゲは思った。


こいつの命はパンより軽かったのか。

そう。軽かったのだ。

少なくとも、俺にとっては。

パンくずにも満たない軽さなのだ。


血を流す死体の横で食べるパンは美味かった。

たとえ色のない眼球を見開き、音のない世界にいってしまった死体のそばでも。


グアヤキルには雨が降っていた。


カゲは死体の横で濡れそぼっている。

腐臭をあげる前に、ねずみ共が彼を貪り食ってしまうだろう。


グアヤキルは死と絶望の町。


だから俺は、ここを出奔する。

命の意味を確かめるために。





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