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東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜  作者: 金柑太郎
第一章 変わらない毎日【幻想郷の日常】
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九話 取っ組み合いのその先に

順調順調!なかなかにペースで執筆できてます。まぁ読んでくれている方がいるかわかりませんが。

「いま後ろに誰かいなかった?」


「そんなわけないじゃない。見間違えでしょ?」


「そうだと思いたいわね。紫は秘密が多いから。」


 紫は表情には出さずとも、内心とても焦っていた。相変わらず霊夢の勘は鋭い。何とか二人を透明化させ逃げさせることはできたが、バレないかとヒヤヒヤしていた。


「それにしても霊夢また腕を上げたみたいね。」


「そう?ずっと家でダラダラしてるだけだったけど。まぁ私の才能がすごいってことね。」


満足げに、まだ大きくない胸をはりながら顔をほころばせている。いくら博麗の巫女で、強くても中身は少女だ。この子を騙すことになるのは心苦しいがこれも私の愛してやまない幻想郷のため。

 最近幻想郷はこれと言って大きな危機は無い。先代の巫女のときはまだ多少ガチの反乱など気持ちが引き締まることは起きていた。しかし、霊夢になってからは異変こそあるものの平和ボケが進んでいる。ここで問題が生じる。幻想郷のときが進むたびに現代のときも並行して進んでいるということだ。現代で時が経てばたつほど多くものが幻想と化し幻想郷へと流れ込んでくる。

 文明の利器がここに流れ着くのも時間の問題だろう。そうなったら今の幻想郷のバランスは絶対に崩れる。ここを守るためにもあいつ達が必要なのだ。


「私は様子を見に来ただけだから、そろそろ博麗結界の調整に行ってくるわね。」


「私もそこで伸びてる魔理沙を介護しなきゃいけないから戻るわ。まぁほっといてもいいんだけど。」


 そう魔理沙を案じる言葉を告げると、くるりとこちらに背を向け離れていく。私も裂け目を開くと、再び八雲亭に戻る。


「あいつらマジで許さん。」


 可愛らしい顔を憤怒に染めながら紫は裂け目の中を歩いていった。

 




「アブねぇ。」


 紫に指示され裂け目に入った後、俺たちは自分たちが寝かされていた部屋へと戻ってきていた。


「紫何したのかよくわからないけど何かスゲェな。」


「それにしてもあんなことできるのかよ。」


 俺が独り言のように言うと、真弓は


「できるかできないかじゃない、やらなきゃいけないんだ!」


「おい、それ聞いたことあるぞ。色々と危ないからやめとけ。」


「まぁ、コツ教わればできるようになるんじゃね。」


「盛大に無視すんな!」


 でも現状自主練もクソもない状況である。紫が帰ってくるのを待つ他ない。あそこでバレていたら紫を苦しめることができたかもしれないと、心のなかで考えていると目の前の空間が裂けた。


「おっ紫、おかえ」


「何しとんじゃボケー!!」


 顔面に振り下ろされる拳をギリギリで首を捻り避ける。そのまま後ろに転がったが、紫はグルグルとまるで肉食動物みたいにうなり続けている。


「話なげぇんだよ!ボケナスども!」


 今度は反対を向くと真弓に掴みかかる。


「ちょっと俺は無関係だって。だって前回俺視点じゃなくて社だっただろ!」


「メタい話すんなぁ!」


 完璧なアウトなメタい話をした真弓に俺も飛びかかる。結果的に二人で真弓をボコボコにするという事になってしまった。




「まだ、痛てぇよ。完璧に首のすじをひねったわ。」


俺と紫は正座をして並んでいる。なんでこんなことになったのかというと、目の前のケモミミが原因だ。

二人で真弓をボコボコにした俺たちは、ふと冷静になると、障子は突き破るし、布団はぐちゃぐちゃ。テーブルの上の水はこぼれ、畳にシミを作っているという悲惨なことになっているのに気づいた。

 そのとき、


「あ〜な〜た達、なぁ〜にをしてるのかなぁ?」


 目をギラギラと赤に光らせ、憤怒に燃える狐が背後にいた。今度は味噌汁のしたたるおたまがカツーンと音を立て直撃する。しかも殴られたのは俺だけだ。


「おら、さっさと正座して並びやがれ!」


「申し訳ご」


 謝罪の言葉を言おうとするも、


「黙ってろ!」


と遮られてしまった。いくらなんでも性格変わりすぎだろ。


「まず言いたいことがある。さっき私は汚くなったこの部屋を一回掃除したの。それをなに、帰ってきた途端バッタンバッタン暴れやがって。しかも紫様も。ここを掃除するのは誰ですか?私だろ!」


「「大変っ申し訳ございませんでしたぁ〜。」」


「紫さまだけ何も無いなんて思わないことですね。私は紫さまの式神なので直接危害を加えることはありませんが‥‥、今晩の夕食を抜きにすることぐらいだったらできるんですよ?」


 藍が悪い笑みをニヤっと浮かべる。


「ちょっそれだけは勘弁して!」


紫は慌てて許しを請うたが、藍は無情にも


「さっお二人様行きましょう。」


と告げるのだった。


「じゃ、そゆことで。」


 真弓は勝ち誇った笑みを紫に向け藍についていく。


「なんか‥‥どんまい。」


 このセリフあいつにも言ったなと思いつつ立ち上がって二人を追ってあるき出す。


「もう知らないもん!」


そんな小1みたいな捨てセリフを残して紫は隙間の中に消えていった。




 3人でご飯がおいてある机までくると、藍はまだよそっていない味噌汁と白米を三人分よそるとこちらにさし出してきた。


「「「いただきます。」」」


 3人の声が同時に静寂を破り、各々が食べたいものを食べていく。メニューは鮭の塩焼きに、ほうれん草の胡麻和え。真っ赤なトマトに、大根の味噌汁、白米とシンプルなものであった。

 こんな栄養バランスの整った食事なんていつぶりだろう?ほうれん草の胡麻和えを試しに口に入れてみる、瞬間からだ中に電撃が走った。


「なんじゃこりゃぁぁ!!」


 見た目はただの料理なのだが、口に入れた途端わかる。こいつプロだ。素材の味を最大限引き出し、それに加えてごまに入っている砂糖の割合も完璧だ。ほかのものにも箸を伸ばしてみると、どれも美味しくて夢中で食べる。不意にこちらを不思議に見つめているのにきづいた。冷たいしずくが頬を伝うのがわかる。

 あれ?俺なんで泣いてんだ?

そのしずくはどんどん増えていき、まるで堤防が決壊してしまったかのように溢れ出してくる。

 身体から水分はどんどん出ていっているはずなのに乾いた心が満たされていく。不思議な感覚だ。


「うぅ。」


 こんなとこでは泣いてはいけないのに、拭っても拭っても涙は止まらない。背中を吹き抜けていく薄ら寒い秋風がその涙を止めさせない。それでも口をへの字に結び、心のこもった料理を口の中にかき込む。そしてカッと器を置き、泣いているのに満面の笑みで言った。


「おかわり。」







 俺は社が食事中に泣いているのを見て、なんだか話しかけてはいけないような感じがして黙っていた。その様子は、まるで足りない何かを夢中で取り込んでいるような様子だったが本人は泣きながらも幸せそうな顔をしているので、何を思っているのかわからない。


「おかわり。」


 まだ食べるのか。泣いたり笑ったり食べたり忙しいやつだ。

その社言葉を聞くと藍はさっきまで結んでいた口を緩めニコリと笑いながら言った。


「はい。」


 それを聞くと社は再び鼻をすすり出す。それでも社は食べるのをやめずに米の一粒一粒まで味わって食べていた。


「落ち着いたか?」


 夕飯を食べ終わって少し経つと俺は社に聞いた。


「あぁ。みっともないとこ見せてすまん。それと藍さんにも申し訳ありません。せっかく料理作ってくれたのに泣いてしまって。」


「作っている方も今のあなたみたいな食べ方をされる方が本望です。ひと目見ただけで美味しいと思ってくれてるってわかりますから。常に満たされている人は今それを持っていない人よりも気づきづらいんです。今自分が持っている幸せに。」


 そこまで一息で言うと一呼吸置いて藍は続けた。


「はぁ〜。すみませんね。紫さまの我儘に付き合わせてしまって。」


 紫の我儘ぷりには藍も手を焼いているらしい。


「あれでもやる時にはやるんですよ。何百年もそばにいますからわかります。でもねぇ〜、欠点というかそれが良いところなんですけど、ちょっと頑固で子供っぽい時と冷静でカッコいい時の落差が凄すぎなんですよね。」


 それはまだ会って2日の俺にもわかる。幻想郷創設者としてものすごい圧を感じる時もあれば、なんだかへにゃけている時もある。


「確かに。」


「私って式神の中でも悪行罰示神という種類なんですよ。いわゆる紫さまに調服されたってことなんです。その時の紫さまの強いのなんのって。でも紫さまの世話を手伝うようになって、とっても優しい方ってことを知りました。なのでこれから色々あると思いますが、紫さまと仲良くしてあげてください。あの人ああ見えて気軽に話せる人があまりいないんですよ。」

 

「そんなことだと思ってたよ。だって最初から器が3つしか無いんだもん。どんな難癖つけてでも今夜紫に飯食わせる気なかっただろう。」


「バレちゃってましたか。こんなこと本人の目の前では小っ恥ずかしくて話せませんから。」


「まぁよくわかんないけど、頑張ればいいってことだろ。」


 立ち直った社はまぬけた返事をするが、まぁ本当に頑張るしか無いからな。


「じゃあ俺今から外の井戸で汚れた頭を洗ってくるわ。」


「お風呂に入って入ってもいいですよ?」


「いや、今からわざわざ沸かしてもらうのは申し訳ないから。じゃ、ちょっくら行ってくるわ。」


 そう言葉を残して社はめんどくさそうにモタモタと足を引きずりながら出ていく。そこまで面倒くさいなら風呂に入ればいいじゃないかと言いたいが、彼には彼のポリシーって物があるのだろう。

 そんな事を考えながらも、残った俺たちはプシュッと音を立て酒を酌み交わすのであった。





 「うぅ。さみぃよ。」


 もう秋のいりだ。乾いた風が社の黒髪と服をゆらゆらと揺らす。こんな時期の夜に水浴びだなんてしたくもないが、結局自分のせいで起こした事態だ。贅沢は言ってられない。

 昨日来た井戸まで来ると水をすくう桶があるはずなのだが、


「あれ?おけないやん。昨日の紫のやつで吹き飛ばされちゃったのか?」


しかし庭のどこを見ても桶は見当たらない。


「まさか外か?」


この井戸は屋敷の敷地の際にあり、真隣は草むらでその先には何が広がっているのかはいざ知らずだ。でも、あるとしたらそこにしか無い。少し身を乗り出して草むらを見回してみると、少し置くの方に木製の何かが見えた。


「よかった。このままだったらこの状態で寝ることになっていたかもしれない。」


 腰ぐらいの高さの塀を乗り越えると、それめがけて足場の悪い草むらを歩く。そしてその木製のものに手を伸ばし足を踏みしめた時。不意に前足の足場がズズズと音を立てて崩れ堕ちる。前足に全体重を乗せていた俺は重力に逆らえるはずもなく、ゴロゴロと下に落ちていった。

 土の上にうちつけられ仰向けに倒れる。そして一緒に落ちてきた木製のものが顔面にバチーンと直撃する。それを見てみれば、

「この先崖なので注意。落ちたら妖怪に食べられちゃうかも。」


「・・・・・。助けてくれぇ!ていうかもっと目立つとこに置いとけよぉ!」


 まぁ崖に落ちただけなら何とかなるが、その後ろが気になる。かわいいフォントで書かれており、書いた本人は冗談のつもりで書いたのだろうが、


「冗談にならねぇよぉ!!!」


ただの人間がこんなとこで独りぼっち。妖怪の生態はよく知らないが、何かたべられそうだ。


「クソッ!桶がないってところからフラグは立っていたのに何で気づかなかったんだ!」


 叫びちらしていると、ガサッ背後で草を踏む音が聞こえた。ビクッと肩を震わせ恐る恐る後ろを振り向くと、


「あなたは食べていい人間?」


はい。死にま〜す。





 次も近いうちに出せそうです。よろしくおねがいします。

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