六話 本当の幻想
もう言うことありません。投稿がものすごく遅れたことにはもう触れないでください。・・・・・・・今回はやっと幻想入りですね。やっとです。
何が起こったのか理解できない。あの青年を追いかけ、神社に入ったはずだ。幸い二人の少女たちが神社に入ったのを目撃していたのでなんとか見失わずにすんだのだが、中に入ってみれば変な女が居て、気づいたときにはもう身体が宙に浮いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここどこだよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼。」
目が覚めたら俺は布団に寝かされていた。服は旅館に置いてある浴衣みたいなものを着させられていて何が何だか訳がわからない。
「展開が早すぎるんだよ!」
隣を見ると追いかけていた青年が自分と同じような服装で寝かされている。ん?青年・・・・。
「御用あらためだぁ‼‼‼‼‼‼‼」
布団へ飛び込むと寝ている青年の手首を掴み捻り上げ組み付き、確保の態勢をとる。何が何だかわからないがとりあえず確保だけはしておいたほうが良いだろう。こいつが人殺しだったらたまったもんじゃないからな。
青年の右手首を左手でつかみ、反対の右手で青年の肘を絡めて関節を決める。これは合気道の一種で、敵の動きを封じる方法だ。合気道をやっている人ならばあまり痛くないだろうが、普通の人ならばかなり痛いだろう。
「痛ってぇええ‼‼‼」
青年の悲鳴がこだまする。寝ていて気の緩んでいる所を無理やり締め上げられたんだ。自分でやっておいて何だけどそりゃ痛いだろう。まぁ抵抗せずに力を抜けば痛くないのだが、今の彼からしたらそれどころでは無いかもしれない。
「暴れるなって!」
このままだと暴れられて逃げられてしまうかもしれないので無理やり抑えつけるしかない。片膝を青年の腹に付き更に体重をかけようとすると、ググッと体を押し戻される。
「離せよ!」
こいつやべぇよ、押さえつけてるのに、まるでコイキングのように跳ね回っている。この細い体のどこにそれだけの力があるのか。
最初はフワリと綺麗に整えてあった布団も今やその乱闘騒ぎによって乱れに乱れまるで団子ようにしわくちゃになってしまっている。無理やり抑えるために全体重をかけると、
「おっ・・折れる折れる折れる折れる‼」
と、さらに暴れる始末だ。
そしてさらに3分ぐらいもみ合っていると不意に暴れてバタバタともがく青年の肘が、みぞおちに入っていまった。
「ごふっ。」
数分間ずっとバタバタしていたのでお互いはぁはぁと息が上がっていた状態でのみぞおち。きつすぎる。ていうか息ができん。思わずうずくまると青年は息を荒気ながらも手を振り払い、何かを叫ぼうとした時‥‥、真後ろの障子が、パンッ‼と気持ちのいい音を響かせて開かれ、それと同時に地を震わせんばかりの怒声が飛んできた。
「お前ら人様の家で何しとんじゃ、こらぁ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
そして、二人共。持っていたオタマで殴られる。カツーン。オタマが頭に直撃し良い音が響くと同時にベチョっと何かドロドロした感触がする。普通はここで痛がる所だろうが俺たちは声すら上げることができなかった。
「「けも耳じゃねぇかぁーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼」」
つややかな金髪の上に先っぽが二股にわかれた奇妙な帽子。白と青を基調とした服を纏い、奇妙な帽子の隙間からケモ耳が覗いている。そして背後には溢れんばかりの尻尾を蓄えている。・・信じられない。けも耳がこの世に存在したのか⁉けも耳なんて2次元の中だけだと思ってたのに。青年の方を見ると口をあんぐりと開けて放心状態になっている。
「けも耳?」
さらに驚きなのが障子が開け放たれた向こうが緑で覆われていて、間違いなく東京ではないということがひしひしと五感に伝わってくる。ここまでの自然で覆い尽くされている場所は東京にはないだろう。強いて言うなら、奥多摩とかかもしれない。
というかそもそも下に落とされたってことは落とし穴に落とされたってことだろうか?でもそしたら底に付く前に衝撃もなく気絶するのはおかしい。
これでも俺は警察官だ。訓練を受けている。だから生半可な恐怖ごときで気絶はしないだろう。だったら何だ?地下世界に落とされたとでも言うのか?
「つかぬことをお聞きしますが、ここはどこなんでしょうか?」
さっき殴られたことから何となく下手にでてしまう。これが恐怖政治というやつか、と内心悪態をつくも女に手を出すのはご法度なので柔らかく対応する。
「お前達は何も知らないのか?」
まるで知っているのが当たり前かのようにそのけも耳は質問してきた。
「いきなり穴に落とされただけで、何も知らないんだが。」
と青年が困ったように顔をしかめながら、口をはさむ。
そのけも耳は呆れたようにため息をつくとぶつくさと何かをつぶやいている。その呟きを耳を澄まして聞いてみると、
「紫さま後で絶対干す。」
と連呼しており、その様子はまるで獲物を狙う肉食動物を連想させる。そもそも見た目が狐っぽいので本当に肉食かもしれない。気を引き締めて対応しよう、と心に言い聞かせていると再びケモ耳の焦点がこちらに合った。
「ここが幻想郷ってことも紫様から言われてないんですか?」
「幻想郷?ここは東京なのか?」
青年が素っ頓狂な声で聞き返すと、
「はぁ〜。」
ケモ耳はだるそうにため息をつき、頭をおさえながら答える。
「ここは日本といえば日本だけど日本じゃない場所って言えば正しいかもしれないですね。幻想郷、それがこの世界の名前です。」
「いや、そんな曖昧に言われても何もわからないんだが。」
「もう面倒くさいんで詳しいことは後で紫様に聞いてください。まぁ紫さまが帰ってくる前まで適当にゴロゴロしといてください。」
「ちょっと待てよ。俺たちは元の場所に返してもらえるんだろうな?」
「さぁ?それも後で自分で聞いていください。今回の件は紫さまの独断ですからね。はぁ、まったく紫さまは何を考えているんだか・・・・。じゃあそういうことで。」
そう言うと金髪のケモ耳は俺たちに背を向け、屋敷の奥へと帰っていった。髪からカレーが滴る中、この場に取り残された俺たちは顔を見合わせると、先程とは違いゴニョゴニョとクラス替え後の気まずい会話のように、小さい声で話し始める。
「あの・・何か・・・どうします?」
額から茶色いカレーを垂らした青年がこの微妙な空気のなか質問してきた。
「とりあえず頭を洗いに行きますか・・。」
「あっ、はい・・そうですね。」
ずしりと背中にのしかかる重たい空気を背負いながら、洗面所を探すために二人で和室の外に出る。外に出てみると、この建物の作りがよくテレビで見る古民家をちょっと豪華にしたようなものである事がわかる。掃除はきちんと行き届いているようで、太陽がさしている廊下はきらりとその光を反射している。
「はぁ〜。」
思わず感嘆の声がもれる。今右手には開放的な庭が見えているがただの庭ではない。まるで牛乳のような純白の砂利が敷き詰めてある、見事な日本庭園だ。これほど立派な庭を作るのには相当な金がいるだろう。
「金持ちか・・。」
青年がつぶやくのが聞こえる。するとトントンと包丁で何かを切る音が聞こえてきたので、台所の流しを借りるため音のした方と歩みを進める。
ーガラガラー
障子戸を開けるとそこにいたのはやはり先程のケモ耳だった。
「ここに何をしにきたんですか?まだ料理中なのでお帰り願いたいんですけど。」
「いや誰かさんのせいで頭がカレーまみれになってしまったんで流しを貸してもらいたいんですけど。」
ケモ耳は少し黙っていたが、やがて勝手口を指し
「外に井戸があるのでそこで洗ってください。」
といってきた。
「いや台所の水道を使わしてくれれば良くないですか?」
青年のちょっと失礼なもの言いに少しイラッときたが、それは俺も同感だ。
「はぁ〜。さっきも言ったけどねここは日本であって日本でない場所なの。あなた達の住んでいる現代で当たり前に蛇口から水が出てくるのも、当たり前に電気が通っているのも、ここじゃ当たり前じゃないの。ほら、わかったならさっさと出ていく!」
無理やり外に追い出されるとピシャリと戸を閉められてしまう。
「どゆこと?」
電気も水道も通っていない?そんなに田舎なのか?次々と疑問が溢れてくるが、自分の着ている浴衣がどんどん茶色に染まっていくことを思うとさっさと洗ってしまおうと思った。幸い井戸は見える位置にあったので冷たい水に体を震わせながらも頭を洗い、ビチョビチョになった浴衣を絞る。
「ふ〜〜。」と一息つくと先に頭を洗って待っていた青年が聞いてきた。
「そういえば名前聞いてもいいですか?」
よく考えると布団で起きてからずっと青年と呼んでいたが名前は一応聞いておいたほうがいいかもしれない。
「俺の名前は社 犬斗。高卒で今は中企業の社畜だ。」
まじかよ。まだ学生だと思っていたがもう立派な社会人だったらしい。
「俺は真弓 優太。知ってのとおり警官をやらせてもらっている。」
お互い自己紹介をするも嫌な間が空いてしまう。これはお互い陽キャに見えても根は陰キャということの現れだろう。
「ていうか今ならここから出れるんじゃないすか?」
・・・ホンマやん。ちっとも気づかなかったが、今あのケモミミは台所。そしてあの紫とか言う女性は外出中。今なら普通に出ていってもバレないんじゃないか?
俺は無言でコクリとうなずき親指を立てる。そして、そろりそろりと、一歩一歩吊り橋を歩くみたいに慎重に屋敷の前を通り過ぎた。そして屋敷の出入口らしき門にたどり着くと、青年に合図をして全速力で走り出す。
冷たい風が頬の横を吹き抜けた。ゾクっと背を震わせ後ろを振り向く。
そこに立っていたのはあの紫とか言う女だった。
「あら、どこに行かれるんですか?」
彼女とは数メートルほど離れていると言うのに耳元で囁かれているような感じがする。
「いや、あのぉ、ちょっとお使いを頼まれたんで。じゃ、また後で!」
「そっちにお店は無いわよ。」
ニコリと微笑みながらその女は冷酷に告げたのだった。
やっと書けた。次回はできるだけ早めに出します。許して。