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東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜  作者: 金柑太郎
第一章 変わらない毎日【幻想郷の日常】
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二十七話 春冬異変・肆

久しぶりです。・・・毎回こんなこと言ってる気がする。

「終わったっぽいな。はぁ、長かった。俺もあんぐらい弾幕うちてーよ。」


「お前には無理だよ。あきらめろ。」


 俺はにっこりと笑って言ってやった。未だに犬斗は、一つの弾幕しか打つことができない。霊力の問題なのか、いくら特訓してもいつまでたっても変わらないのだ。紫もなぜなのかわからないらしく、首をかしげるばかりである。


「ストレートに言いすぎな。お前は俺より身体能力低いくせに。」


 少し効いてしまったのか、むっとした顔をしている。こういう時はあまり話を長びかせない方がいい。あいつとの長話の先にあるのは大抵喧嘩だ。話題を変えよう。


「それはそれとして、あいつ死んでないよな。」


 黄色髪は地面に横たわり肩で息をしているが、極太のビームに吹きとばされた白髪の少女はのびてしまってるのかピクリとも動かない。


「多分大丈夫だろ。俺たちも紫と戦って死んだことないし。」


「いや、さすがに俺たちもあの威力の弾幕は味わったことないぞ!?」


 たしか弾幕はあくまで平等に戦いの勝敗を決めるもので、殺しのために存在するものではなかったはずだ。


「一応確認してから先に進もう。」


 黄色髪は疲れているのかまだ動きそうにないので、先に進んでおこうという算段だ。このまま出発するのを待っていてもいいが、箒で飛ばれてしまってはこちらも追いつきようがない。


「もう歩きたくないぞ。」


 あきれたように溜息を吐き、犬斗はどさりとその場に倒れる。


「はいはい、明日の稽古は休んでいいからさっさと行くぞ。」


 俺たちは既に重い腰をよっこらせと持ち上げ、ピクリとも動かない白髪の少女へと近づく。遠くで見るとわからなかったが、これまた随分小さい女の子だ。緑色の服に黒色の髪留め、腰に刺さった刀の鞘。この見た目であのスペルカードか・・。


「この世界は、インフレしすぎている。」


「それは前からわかってたぞ。」


「たしかに。周りがすごすぎて自分たちがゴミに見えるな。」


「そんなくだらない話してるんだったら、さっさと登ろうぜ。」


 さっきまで、いかにもダルそうな顔をしていたくせにむかつくやつだ。犬斗ももう少し性格がよかったら、社会を上手く渡れただろうに。


 離れたところに転がっている刀をこっそりと拾い少女の足元に置くと、俺たちはそのまま歩き出した。犬斗は黄色髪に見られたらどうするんだと言っていたが、こっちを見ていなければ大丈夫だろう。


「さてと。ここからまた石段地獄だと思っていたんだが、犬斗どうやら朗報だ。」


 上を見てみるともう少し登ったところに大きなお屋敷のようなものがポツンと存在している。遠目から見ているのにも関わらず、荘厳な雰囲気を感じる屋敷だ。


「やっとこの階段地獄からおさらばできるってことか。」


犬斗はやれやれと首を振りながらため息をついた。


「思ったよりもすぐに着いたな。」


「おめぇはおぶられてるからいいけどよ、こっちは人2人分の重さがかかってるんだよ。」


という犬斗の怒りを横目で流しつつ、再び屋敷の方へと目を向けた。

 桜の花びらが心地の良い春風に乗って飛んで行く。空へと舞った花びらたちは、やがて集まって一つの筋となり、屋敷の中へと消えていった。自分達が屋敷の下にいるため屋敷の中に何があるのかまではわからないが、屋敷が異変の中心であることは確定である。


「犬斗。異変の主は何でこんなことをしたんだろうな。」


「俺にわかるわけないだろ。」


「ちょっとくらい頭使って考えてくれよ。」


 相変わらず、難しいことを考えるのは嫌いらしい。ちょっとくらい思考してくれないと、将来が心配なのだが。


「まぁ現状から考えると、春を奪ってみんなを凍死させてやるみたいな感じだろ。」


「発想が物騒すぎだろ。なんかもっとロマンチックにいい感じのがあるだろ。」


「だったら最初から聞くなよ。お前みたいなやつは頭の中のお花畑で暮らしていきな。」


「それは、お前だろ。何も考えてないくせに。この前だって、お前が・・。」


と、喉まで出かかった言葉を飲み込み、慌てて自分を取り戻す。一呼吸おいて、星のない空を見上げた。この異変はいったいどんな結末が待っているのか、それは俺もわからないがそれを見届けるのが俺たちの役目だ。

 

「行くか。」


 足に力をこめ、階段を登る。少ししか登っていないはずなのに太腿が重い。本能がここに異変の主犯がいると自分に知らせているのだ。パラパラと音を立てて小石が階段を落ちていく。横目で犬斗を見ると、顔をしかめており、握る手に力が入っている。こいつもわかっているのだ。ここにはとんでもない力を持ったやつがいるということを。


「階段を登り終わったら門の脇で誰かが来るのを待ったほうがいいかもな。」


「犬斗にしては、結構慎重だな。」


「まぁ、前回の異変で瓦礫に殺されかけているんでな。どんな状況になっても、やっぱり自分の命は恋しいんだよ。」


「びびってるだけだろ。」


 そこまで言うと、俺たちは門の草むらへと腰を下ろした。


「異変を解決する奴がいる限り、黄色の奴にしろ博麗の巫女にしても、確実にここを通るはずだ。それまで待機だな。」



*****

「まさか異変の主犯が冥界にいるとはね。ったく、とんだ迷惑をかけてくれるわ。」


 ちょうど神社で優雅な時間を過ごそうとしてたのにも関わらず、なんとタイミングの悪い異変なのだろうか。背後から吹いてくる心地の良い風に髪をたなびかせつつ、屋敷の門の前で仁王立ちする。


「しかも、よりによって春を奪う異変とは、許されざる狼藉ね。」


 この異変の主犯は博麗の巫女の敵である以前に、私の敵だ。たっぷりいたぶってやると、心の中で思いつつ体を伸ばす。寒い中上空を飛び回ったため、体が凝りっぱなしだ。


「さてと、じゃあさっさと解決しちゃいますか。」


 でかい木の門に手をかけ、力をこめる。そのまま扉を押し切り、私は中にいた人物に対面した。


 皮肉を込めて、大きな声で言ってやる。


「一人でお花見してる気分はどうかしら。西行寺幽々子。」


「あら、随分と派手なご登場だこと。」


 桜色の髪をなびかせながら、やんわりとした口調と物腰で彼女はつぶやいた。周りには複数の幽霊が浮かんでおり、彼女が冥界の管理者であることが見て取れる。


「あんた四季から冥界の管理を任されてるくせに、よくもいけしゃあしゃあと異変が起こせたものね。こっちは、未だにこたつから抜け出せなくてイライラしてるのよ。」


 私は嫌味も込めた言葉を言ってやったつもりなのだが、私の言葉を聞いても彼女はポカンとした顔でこちらを見ているのみである。

 もともと彼女にむかついてはいたが、彼女の何もわかっていない呑気な顔が私を余計にイラつかせた。さらに彼女は口を開いてこう続ける。


「あら?あなたはこたつの外にいるじゃないの。」


 その言葉を聞いて、私はがっくりと膝を折りたくなった。必殺技が不発で終わったようななんとも言えない気持ちになってしまう。こんなにも呑気な回答をする幽々子は、本当に異変の首謀者なのだろうか。


「そういうことじゃなくて、私たちは寒くて困ってるってことよ。ったく、異変の首謀者がこんなので大丈夫なのかしら。」


「じゃあ、いっしょにお茶でもいかが?体が冷えているときは、温かいものを飲むのが一番だもの。妖夢、客人にお茶を用意してあげて頂戴。」


 いや、そうじゃなくてと言いたくなったが何とも言えずに、時間だけが過ぎていく。しかし、数秒待っても妖夢とやらの返事はこない。なんとも言えない沈黙の時間が流れ、不意打ちでいきなり襲い掛かってやろうかと思い始めたとき、彼女が思い出したように言った。


「そうだ、すっかり忘れてたわ。妖夢は下で見張りをしてくれてるから今はいないの。ごめんなさいね。」


 無理なんかーい、と突っ込みたくなる。西行寺幽々子に関しては、以前に聞いていたがここまでとらえどころがなく、真意がつかめない奴だとは思っていなかった。おそらく、このまま話していても話が脱線するだけなので、異変の核心に迫った質問をすることにする。


「あなたはなんで幻想郷の春を集めているわけ?」


 この質問に対して彼女は朗らかな顔のまま口を開いた。


「私はただこの桜の木を満開にしてみたかったのよ。」


「その桜の木を満開にさせてどうなるっていうの?もし桜を見たいだけなら、紫とかに頼めばよかったじゃない。」

 

「ごめんなさいね。もちろんお花見もいいけれど、この桜の木はお花見のためのものではないの。」


「だったら、その桜は何なのよ。」


「しいて言えば、私の好奇心を満たすものかしら。この桜の木には何者かが封印されている。私にはその何者かが気になるのよ。」


「封印ですって?」


 先ほどは幽々子にばかり注目していたせいで気づくことができなかったが、後ろの桜の木からは強力な封印の気配がする。桜が満開になった時に封印が解けるようになっているっぽいが、かなり前に封じられたものであるらしく、封じられているものが何なのかまではわからない。


「つまり、あなたは自分の好奇心を満たすためだけに幻想郷の春を奪ったってことね。」


「奪ったって言い方には語弊があると思うのだけれど。」


「はいはい、話は私が退治した後に聞くわよ。だからさっさと構えなさい。」


 これ以上話していても、いたずらに時が過ぎていくのみだ。さっさと倒して、紫にでも話を聞くのが一番いいに違いない。私は体に力を入れて飛び上がり、幽々子を待つ。


「始めるわよ。」


 始まりの言葉とともに、私は全速力で幽々子へと近づく。こういう時は先手必勝で、自分の力を押し付けるに限る。そのまま幽々子の懐へともぐりこみ、そのまま近距離で弾幕を浴びせてやろうと思ったのだが、


「ふふっ、始めましょうか。」


という幽々子の一言で、無意識で弾かれたように幽々子と距離をとってしまった。飛びのいた瞬間はなぜ、自分がこのような行動をとったのかわからなかったが、少し考えるとその理由がわかった。


「『死』、ね。」


 体全身に絡みつく濃厚な死の気配に反応して体が無意識に反応したのだ。今の幽々子からはここからでもわかるほどの死の気配が溢れ出ている。さらに、彼女自身の雰囲気も変わり、笑顔でぽわぽわした雰囲気はどこに行ったのやら、おどろおどろしい笑みが彼女の顔を覆っていた。


「はぁ、これは骨が折れそうね。」



*****


 ドカンッと大きな音と振動で私は目を覚ました。ガバッと上半身を起こし、頭の中で状況を整理する。


 私は白髪の少女を倒した後、一人で上を見上げてボーっとしていたはず。まさか、そのまま寝落ちしてしまったのか。


「やばい、寝ちまった・・。」


 霊夢より先に異変を解決するみたいなかっこいいことを言っておいて、なんという醜態だ。頬からは少しよだれが垂れていて、自分の情けなさをより一層際立たせている。


「じっとしてる場合じゃないな。」


 重い体を起こし、よだれをふき取る。あれからどれだけの時間がたったのだろうか、そんなことを頭で考えつつ、振動と音のした方へと顔を向けた。


「霊夢か。」


 すでに弾幕ごっこが始まっている。寝ている間に霊夢に先を越されるなんて、まるでウサギと亀みたいだなと思ったが、自分がみじめになるだけなのでそれ以上考えるのはやめておいた。


「とりあえず、助けに行きますか。」


 聞こえてくる弾幕の音や振動からして、一筋縄ではいかない相手なのだろう。


「あいつに負けてもらっちゃ困るからな。」


次回は、はたしていつになるのやら…。筆遅くてすみません。

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