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東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜  作者: 金柑太郎
第一章 変わらない毎日【幻想郷の日常】
16/27

十六話 狂気は満ちる

忙しかったです。なので毎日気分転換で100文字ずつ書き続けたらいつの間にか6000文字になってました。

「なっ!?」


 視界が真っ赤に染まったのと同時に、目の前をなにかが通り過ぎた。頬に風を感じ思わず振り向く。その何かは廊下を真っ直ぐと突き進み、ドーンッと音を立てて爆ぜる。明らかに今のは博麗の巫女を殺すために放たれたものであったのだが、事前に何かを察していたのか横に飛んでかわしていた。


「あら、今の不意打ちをかわすのね。」


煙の向こうに佇む異変の元凶は悠々自適に呟く。その余裕を感じさせる話し声はどこかファンタジーにでてくるような女王様を連想させた。


「何か索敵系の能力でも持ってるのかしら?」


 能力?聞き捨てならない言葉が聞こえたが、この世界にはそんな要素もあるのか?弾幕や、人間が空を飛んでいる時点ですでに現代とはかけ離れているが中二病じみたいな要素がさらに加わるとは思ってもいなかった。しかし、巫女は


「いいえ、勘よ。何となくそんな気がしたから。」


 と能力ではないと言う。その勘が能力なんじゃないの?と言いたいが、生憎話すことはできない。ていうか、今の攻撃を勘で避けるなんてどんな思考回路なのだろう?やはり博麗の巫女というのは元から何かを持って生まれてくるのかもしれない。


「ふーん。今のを勘でねぇ。あなたは人間よね?」


「その口ぶりからしてあんたは人間じゃないっぽいわね。」


 徐々に煙が晴れていく。灰色が透けていく。玉座らしきものの輪郭が見えてくる。そして最後に浮かび上がったのは、真っ白な肌に青紫っぽい髪、真っ黒な翼にピンク色のドレスを纏った少女。それがいた。身長が10歳もいかなそうな幼女であったので一瞬拍子抜けしたが、その姿を見ているだけで脅しをかけられているような凄みもまとっていた。

 なんていうか、表現しずらい感じだ。


「そろそろおしゃべりには飽きてきたわね。我が名は吸血鬼レミリア・スカーレット。この館の主であり幻想郷を手に入れるものよ。」


「吸血鬼‥ねぇ。私は博麗霊夢、博麗の巫女で妖怪退治をやってるわ。本当はお賽銭で生活したいんだけどねぇ。はぁ〜。」


「フーン、博麗の巫女ね。そう。じゃ早速、始めましょうか。」


 吸血鬼と博麗の巫女の弾幕ごっこ。なんだか恐れ多い響きだが、同時に気になってしまう自分もいる、この2人の戦いはどのくらいのレベルのものなのだろうと。自分はごくりと唾を飲み込んでこの場の成り行きを見守ることにした。


「神槍スピア・ザ・グングニル。」


 そうレミリアは静かに呟くと、さっきまでは握られていなかった赤紫に耀く大きな槍を右手で握っている。その槍はまさに相手を破壊するためだけに作られたものであるということがその鋭い形状からわかる。持ち主の身長を軽く超えるその槍は怪しく、そして狂気的な空気を醸し出しており見るからに危険度MAXの代物だ。


「穿ちなさい。」


 それのみを告げ、腕を大きく振りかぶるとその槍を放つ。銃弾よりもはるかに速いスピードで放たれたその槍は雷のように音を置き去りにして目の前の博麗霊夢を捉えていた。風のみを感じ、あまりの速さに体がすくむ。しかし、


「そんなのお見通しだってのよ!」


博麗の巫女は当たり前のようにその攻撃を避けていた。左手で結界のようなものを張ってうまく受け流すとそのまま飛び上がる。


「夢符 封魔陣!」


そう叫ぶと、赤い弾幕を無数に展開させる。それらは目の前の吸血鬼を確実にしとめるために隙間なく放たれったはずなのだ。しかし、その攻撃は当たらなかった。吸血鬼の彼女は、信じられない反射速度と運動神経で弾幕の隙間へと身体を滑り込ませた。その繊細で力強い技術に思わず、


「おぉ。」


と声が漏れてしまう。慌てて口を抑えて彼女達の会話に耳を傾けた。


「ふぅん。あなた人間にしてはやるじゃない。吸血鬼である私の攻撃を一度見ただけで避けるなんて。」


「生憎とこちらもそういう商売をさせてもらってんのよ。お金は貰えないけどね‥‥はぁ。」


「まぁ、あなたがいくら私の攻撃に反応できたとしても所詮人間。私達吸血鬼の運動神経には及ばない。‥‥わからせてあげるわよ。」


「あら、そう。じゃあ精々頑張ってね。私に退治されないように。」


 二人は互いを挑発しあいながら、眉間の間に火花をちらしている。さっきの会話は一見自然に聞こえるが、一つ気になることがあった。話術を学ぶ警察だから気づけたことかもしれない。私達とはどういうことなのだろう?ここにいるレミリアと名乗る少女と、他に吸血鬼がいるのだろうか?これまで見てきた刺客はみんな吸血鬼ではなさそうであったが。

 まぁわかんないものはしょうがないか。


「じゃあ、覚悟しなさい。‥‥血を吸われるね。」


前髪がボサボサになるほどの衝撃波とともにレミリアが飛び上がる。


「紅符 スカーレットシュート!」


紅の弾幕が浮かび上がり、乱暴に地面に叩きつけられる。この主人は自分の屋敷を自分で壊しているということに気づいているのだろうか?わからないが、ここにいたら巻き添えを食らいそうで怖い。ただでさえ犬斗みたいな身体能力もない俺は流れ弾を避けられるかも定かではない。唯一できるのはヘボい弾幕を一発程度撃つことができる程度だが、どうせ気絶してしまう。


 先程霊夢と名乗った巫女は体捌きと結界でそれを防ぎきると、浮かび上がる。何回も見たのにも関わらず、人間が飛んでいるということに違和感しかない。


「私の速度についてこられるかしら?」


 レミリアは挑発的に言うと、後ろに生えたいかにも吸血鬼っぽい翼をバサッとはためかせ高速で空を飛び回り始めた。負けじと霊夢もそれを追いかけ、前に弾幕を撃ったり後ろに撃ったり、空中での戦闘が始まった。まるで戦闘機の戦いでもみているようであったが、それを行っているのはれっきとした生き物。そのことを考えるとなんだか恐ろしくなって鳥肌がたつ。


「こんなのになれるわけ無いだろ‥。」


一人寂しくぼやきながら、八雲紫の顔を思い浮かべる。あいつが俺をこんなところに連れてこなければ今頃俺は現代で楽しく暮らせていたのだろうか?


「ははっ、それもわかんねぇか‥。」


 乾いた笑いとともに、自分の人生を思い返した。今自分が何をすればいいのかわからない。だからせめて、今この場で行われている戦闘を絶対に忘れないように目に焼き付けて置こうと思った。

 お祓い棒と槍が交差し、お札と真紅の弾幕も交差する。目で追うのがギリギリのスピードで移動する彼女達を目を見開きながら追い、どういう動きをしているのかを徹底的に分析する。


「何か、あんまり考えてなさそうな動きだな‥。」


 彼女達を見ていて思ったのだが、相手の数手先を読み合いながら戦っているというよりはそのばその場で臨機応変に戦っているように見える。お互い知らない者同士だから探り探り戦っていくのかと思ったが、どんどん自分の手札を切っていっているようだ。


「あんまり探り合いとか無いんだな。」


 つまりやり合う時はとことん全力でってことか‥。万が一戦うことになっても手加減してもらえないかもなぁ。ていうかようやくこの屋敷の作りに納得がいった。吸血鬼、つまり西洋の妖怪みたいなもんだ。だったら洋館であることに納得がいく。

 

「危なっ!?」


 二人が空中でぶつかり合い、大きな瓦礫がこちらへと飛んできた。とっさに横に転ぶように避けるも膝をすりむき血が滲んだ。


「痛ってぇ〜。ったく油断も隙もありゃしねぇ。」


 床に手をついて腰を持ち上げやっと立ち上がろうとした時であった、足元の地面からゴゴゴッと地鳴りがして再び転んで仰向けになってしまった。飛んでいる二人は感じることはできないだろうが俺にはわかる。鬼気迫る何かが、何かが来る。どこからかはわからないが絶対何かが起こる、それを本能で感じ取っていた。

 慌てて揺れる地面の中立ち上がり身構えていると、ボコッっと床が盛り上がりバキバキっという破壊音と共にレーザーが間欠泉のように吹き上がる。

 今のも弾幕なのか!?太すぎじゃねぇか?紫の攻撃で見たことはあったが、こんなに太いレーザーがあるのかとアングリと口を開いて呆然としているとレーザは天井を突き破り、更には屋根を突き破って徐々にしぼんでいった。

 天井にポッカリと穴が空き紅の空が姿を表す。すると、上空に浮かび上がる瓦礫と共に人らしきものがドサッと真横に落っこちてきた。見てみれば金髪のショートにボブキャップ赤色のワンピースを着た小学生くらいの少女が横たわっている。

 一瞬迷ったもののほうっておくのは危ないと思いその少女を起こしてみることにした。そして彼女の肩に手が触れようというとき、閉じていた目がギンっと見開きニヤッと口角を釣り上げた。光の宿っていない彼女の目にこちらは見えないはずなのにこちらに焦点があっているような気がして思わず後ろに飛び下がる。


「はぁ、はぁ。」


 なぜだか動悸が収まらない。はぁ、はぁ、と呼吸が荒くなりなんだか気持ちが悪くなってきた。ふと身体がグラッと揺れ、倒れそうになり崩れかけの柱にもたれかかる。


「もっとアソボウ。」


 抑揚のない声で、かつ狂気的な声でそれを告げると空中に浮かび上がりどこかに消えていった。キーン耳鳴りのする耳で、レミリアが


「フラン、なんでここに!?」


と叫んでいるのが聞こえる。あの狂った少女も吸血鬼なのか?とジンジンと痛む頭で考えながらドサッと腰を下ろす。


「今のは何だったんだ?」


彼女は狂っているそれだけは確かだ。体の不調はおそらく急激なストレスを感じたことによる精神へのダメージが原因だろうが、あの目を見ただけでこんな身体が駄目になるもんなのか?わからないことだらけだが、今は自分の気持を落ち着けることが優先だ。


「すぅ〜はぁ〜。」


深呼吸をしているといくらか呼吸も落ち着いてきた。さっきの出来事からおそらく数10分がたっているが、よくわからないまま4人の少女が戦闘を始めている。そのうちの一人は魔法使いの格好をしており見たことも無いが、さっきの金髪の少女も参加しているようだ。


 抜けた腰を持ち上げようと踏ん張っているとこちらに近づいて来る足音が爆音に混じって聞こえた。


「大丈夫か?!」


犬斗はこちらに慌てて近寄ってくると俺を抱き起こす。


「すまん、ちょっとビビって腰抜かしてた。」


 頬をかきながら恥ずかしい気持ちを押し殺して、ありがとう。と感謝を述べると向こうは当然だと言わんばかりの笑顔で


「お前はそんな柄じゃねぇだろ。」


と減らず口を叩いている。


「それはお前もだろ。」


と返すと、そうか?ととぼけて話題をそらされてしまった。実際あいつは俺と出会う前は結構冷たい感じだったが、そろそろ本性が見えてきたのかもしれない。本当は優しい奴、それが犬斗だ。


「で、今これどういう状況なん?」


「俺にもさっぱりわからない。腰抜かしてたときなんて言ってたか聞く余裕なかったからな。」


「見たところ、二対二の構図ぽいっな。」


 空を見上げてみれば、博麗の巫女霊夢と魔法使いVS吸血鬼の二人の戦いのようだ。金髪の少女の方を見てみればさっきのような狂気は宿っておらずちゃんと自分の意志で戦っているように見える。この数十分の間に何があったのだろう?何も聞いていなかったことを後悔するも戦いからは目をそらさない。

 それが今俺にできる最善だから。


「禁忌フォーオブカインド。」


金髪の少女が言葉を紡ぐ。すると身体が分裂して分身らしきものが現れる。そして一斉に動き始めた。遠目からみていて思うのだがさっきの狂気じみているときと違って意外と思慮深い動きをしている気がする。ここに来たばっかりの若造が勝手に批評するなと言われそうだが、なんとなくそんな気がした。なおさらさっきの数十分間に何があったのか気になってしょうがない。

 

 赤に青に黄色に緑に紫。様々な弾幕が空を飛び交いぶつかり爆ぜる。まるで花火大会にいるような光景に息を詰めながらどちらが勝つのかとつい見入ってしまう。俺としてはどちらを応援すればいいのかわからないが、なんとなく博麗の巫女を応援してみることにした。紫の口ぶりから霊夢と紫は仲が良さそうだったので全く知らない人よりはいいのかなと思ったからだ。


「ったく、なんでここに魔理沙がいるのよ!?」


「いやぁ〜、ちょっと別用でな。ちょっと図書館に向かう途中で面白そうな所を見つけたんだよ。そしたら、あのフランっていう吸血鬼がいたんだよな。」


「また性懲りもなく図書館に盗みに行ってたのね。はぁ〜。」


「いや、盗んでるんじゃなくて借りてるだけだって。何度言ったわかるんだ?」


「いやそれはこっちのセリフなんだけど。」


「あら?二人ばっかで話してないで私も混ぜて頂戴?」


 赤と紫の弾幕が二人を襲う。霊夢と魔法使いはギリギリそれを避けると再び口を開いた。


「どうやら今は弾幕ごっこに集中したほうが良さそうだぜ。」


「えぇ、そうね。じゃあさっさと片付けちゃいましょ、早く帰ってゆっくりしたいのよ。」


「へんっ、そんなこと言っちゃって久しぶりの異変でお前もワクワクしてんじゃねぇのか?」


「な訳ないでしょ。それよりもっと前を見て飛んだら?いつ弾幕にぶつかっても知らないわよ。まぁあんたがいなくても私は勝てるけどね。」


「はいはい。じゃあ、霊夢はそっちの紫のちんちくりんを頼んだ、フランは私にまかしとけ!」


 二人会話を終えるとそれぞれ相手すべき方向へと飛んでいく。今の軽口から二人がどれだけ信用しあっているかがわかった。そういうハッピーな感情は自分が知らないうちに漏れ出てしまうものだ。俺と犬斗あれくらいになれるだろうか?まぁ、まだわかんないか。


 あの魔法使いは、魔理沙?と呼ばれていた。詳しいことはわからないが、相当の実力者であると見るべきかもしれない。あんな太いレーザーをタダの人間が打てるものなのか?わからないが吸血鬼をふっとばしたのだ常人にできることではない。

 魔理沙は箒に捕まり数人の吸血鬼からの弾幕をものすごいスピードで交わし進んでいく。背後からは水色のレーザーと星型の弾幕が放たれており、一人ずつその数を減らしている。4人、3人、2人、一人減るたびボンッと分身がとけ小さな花火のように元から何もなかったみたいに消えていく。圧倒的パワーと速度それが彼女には備わっていた。


「ほらみんな倒しちゃったぞ?ってことはお前が本物ってことだな。私にやられる覚悟はできたか?」


「私負けないもん。いくら相手が魔理沙さんでも手加減はしないからね。」


「ふーん、その調子だとまだなにかあるっぽいな。じゃあ見せてみなフランの全力を。」


 あの魔法使い、中々かっこいいことを言うな。男勝りな感じでそういうのが好きな人にはたまらないのかも知れない。

そんなことを考えながら、行く末を見守っているとふと吸血鬼が動きを止める。そして開いた手を前に突き出し、何か集中しているように目を閉じる。

 しかし空きだらけの彼女を魔理沙が見逃すはずもなくここぞとばかりに真っ直ぐ飛んでいく。魔理沙と吸血鬼が重なって見えないので横にずれようとした時、見えない奥側から


「キュッとしてドカーン。」


その言葉が聞こえた。

次回は今回よりも早く更新できるはず。ではさらーば!!!!

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