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東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜  作者: 金柑太郎
第一章 変わらない毎日【幻想郷の日常】
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十一話 地獄の修行

そこそこ間あきましたね。とりあえず読んでいってくれ。

「ふぁぁ。」


 軽くあくびをして、横たわっている自分の体を起こす。布団から出ると外は薄ら寒くこの服一枚では足りないという結論を出し、部屋の隅に置いてある澄んだ青色の制服を着る。帽子は室内なので取るとして、腰のホルダーやベストをつけるか迷ったが、つけてしまうと硬い印象をあたえてしまうかもしれない。そのまま置いておくことにした。


「仕事の癖が抜けないな。」


 普段警察の仕事はかなり早朝から始まる。どんな時間でも犯罪に対して対処しなければならないからだ。隣では社が、ぐうすかと軽いイビキをかきながら寝ていたので起こさないようにそっと部屋を出る。

 顔を洗いに井戸まで行こうと廊下を一歩踏み出すと、ズキッと頭が痛む。昨日の夜の記憶を辿ってみると、酒を飲んでいた事を思い出した。


「二日酔いなんていつぶりだろう。」


 あんまりお酒は飲む方ではなく、昨日は何となくその場のノリで飲んでしまったが、もう少し抑えておけばよかったという後悔がふつふつと湧いてくる。


「はぁ。ここだけ見れば一見田舎の旅館って感じなんだけどな。」


 ここが幻想郷という未知の場所だということは未だに信じがたいが、昨日の二人の少女の弾幕ごっこというものを見てしまった以上、自分の気持ちにこれ以上嘘をつくわけにはいかない。


「はぁ。今日大丈夫かな?」

 

 藍が言ってたかんじだと今日から練習が始まるようだが、こんなボロボロな状況で大丈夫だろうか?そんな心配を心の隅に抱えながら外に出る。

 外は薄いオレンジに染まっているが、反対の空を見てみればまだ月が出ており夜に染まったままである。そんな幻想的な光景のおかげだろうか、二日酔いも少し和らいだ気がする。


「元気だしてこ。」


その呟きとともに手ですくったキラキラと光を反射する水を頬にぶつけて気合を入れる。そしてもう一杯水をくもうと手を伸ばしたときであった。


「あら、習慣なのかしら?」


と怪しげな声が耳元で囁かれ、ゾクッと体が震え、鼓膜が不快な震動受け取る。思わず反射的に飛び上がり後ろを振り向くとそこにいたのは、


「そんな驚かなくたっていいじゃない。」


「紫かよ。驚かすなってこんな朝早くに誰も起きてるだなんて思わないだろ。ていうか昨日どうしたんだ?」


 この質問をすると紫は不機嫌そうな感じになり、


「神社に泊めてもらったのよ。」


とぶっきらぼうに言う。


「あいつ神社にすんでるのか?」


「そうよ。博麗神社っていう神社なんだけどね〜。なにぶん参拝者が少なくてひもじい思いしてるのよ。」


「ふーん。」


と相槌をつき、手の中でほとんど滴り落ちてしまった水を頬に当てると寒くなってきたのでそそくさと屋敷の中に戻る。帰り際に紫に


「朝ごはん食べたら始めるから。」


と言われたので、自室に戻って本でも読んでおくことにした。

自室に戻ると、さっきは置いていなかった数冊の古ぼけた本が置いてあった。藍の計らいであろうか?まぁここに置いてあるっことは読めってことなんだろう。


「何の本だ?」


 思わずそんな声が口からこぼれる。表紙は黄色っ茶けており、背表紙は擦りに擦れて何の文字が書かれているのかわからなくなってしまっている。埋蔵金のありかでも書かれているのではないかと思われる程にその本は古ぼけている。

 

「こういう本には大抵大事な事が書かれてるんだよな。」


 表紙をぺらりとめくって見ると、日焼けしたページのど真ん中に「幻想郷」とだけ書かれており、おそらく幻想郷についての情報が載っているということを察する。そのままページをくり、達筆な文字がつづられており、何やら図解されている。


「こりゃ読むのに時間がかかりそうだな。」


そうつぶやくと、俺は本の世界へ引き込まれていった。








本の半分ぐらいまで読んでふと顔をあげるともう完璧に日が昇っていることに気づく。陽光が白い障子を通り抜けて部屋内に差し込んでいる。


「そろそろ朝食の時間か。」


 美味しそうな匂いが鼻腔を刺激し、口の中でじわりと唾が滲み出てくる。横を向くとまだ社はぐぅぐぅと静かな寝息を立てていて自分では起きそうもない。話を聞いた感じ社はだいぶブラックな仕事に勤めていたらしい。起きる時間を気にせず、寝れるのは久しぶりなのかもしれない。

 

「でもなぁ。起こさなきゃだめなんだよな。」


 社にはすまないが、今日から修行って話だった。こいつにそれが伝わっているかはわからないが、朝食に遅れてあのBBAに何されるかわかったもんじゃない。


「お〜い、社。起きなさんな。」


 軽く肩を揺すってみるも社は無反応。声をかけても起きてくれそうにない。


「しゃあないから少し実力行使に出させてもらうとするか。」


俺は腕を振り上げるとパシンっとビンタをかましてやる。すると、


「俺の眠りを邪魔してんじゃねぇ!」


と目を半開きにしたままこちらにビンタをしかえしてくる。寝ぼけてるのかわからないが、せっかく起こしてやっているのにこちらに危害を加えてくるとは許しがたい。


「起こしてやったんだから少しぐらい感謝してくれてもいいんじゃないかな?」


 そう言ってやると、再びビンタをかます。さっきよりも威力は強く、不意打ちだったら目から星が出るかもしれない。


「はぁ?お前加減ってものがあるだろうが!こっちはスヤスヤと夢の中でハッピーな時間を過ごしてたんだよ!ほら見てみろ。俺の右頬、絶対真っ赤になってるって!だって痛ってぇもん。ヒリヒリするもん。」


と言いながらも明らかにエグい風圧を感じさせるビンタが俺の右頬に向かってきていた。


「死ねぇぇ!」


その人を殺しかねないビンタは俺の頬に‥、当たらなかった。俺は寸前で顔のみを後ろに躱し、ふっふっふっと笑ってやる。


「ふっ、バカァめ。君の次の行動は読めているのだよ。君はその短気な性格をどうにかした方がいいんじゃあないか?」


 そう嘲笑してやると、再び平手を構え全力を社の頬に叩き込んでやろうと腕を精一杯振り上げ、振り抜く。


「お前が死ねぇぇ!」


しかしいつまで立っても手が頬に触れる感覚はない。何故だ?後ろに向いたままの頭を持ち上げ、社に目を合わせると、


「な!?」


社は俺の手が触れる直前に首を持ち上げるようにして俺のビンタをいなしていた。


「あれれ油断しちゃったかなぁ?まぁしょうがないよね。だってあなた俺より強いって勝手に思ってるんだもんね?、ってことでお前が死ねぇぇぇぇ!」


バチンと俺の頬で衝撃が爆ぜ首のみがふっ飛ばされてしまうほどのビンタが俺を吹き飛ばす。そのままゴロゴロと柔らかい畳の上を転がっていき、あまりの痛みに悶絶していると、


「俺の方が一枚上手だったようだな。」


とムカつく口調で俺を煽ってきた。許せん。そのまま社は障子を開けて外に出ていこうとしたが、


「どうやらお前は俺を怒らせちまったようだなぁ。」


 社が俺の殺気に気づき振り向くと、


「ほう。まだやる気か?」


「生きて朝食を食べれると思うなよ。」


瞬間お互いの張り手が重なり、いなしいなされ張って張られてのビンタ勝負が始まった。


「「うぉぉぉぉぉぉ」」


互いの叫びが重なり、同時に吹き飛ばされ、立ち上がる。こんなことを10分ぐらい続けた頃であろうか?


「いいかげんにしろぉぉ!」


と藍におたまで殴られた俺たちは、二人仲良く畳の上に倒れるのであった。






「ほらさっさと食べなさい!」


 畳に倒れた俺たちは、そのまま藍に引きづられながら食卓まで連れて来られていた。男二人を一人で引きずっていくあたり、藍も妖怪であるんだなぁと、のんきに考えているも頬からはジンジンと痛みが伝わって来ており、赤々と腫れてしまっている。


「は~い。」


 力なく返事をしてホカホカの美味しそうなご飯を口の中に入れるも、昨日のような感動を得られることはなく口の中からにじみ出る血の味が邪魔をしてしまっている。

 社の方を見てみると、同じく頬を真っ赤に腫らしており死んだような顔をしたままただ食事を口に運んでいる。


「ごめんな‥。何か大人気なかったわ。」


 鉄の味のするご飯を無理やり飲み込むとそう社に謝る。


「いや、俺が原因だし。すまん。」


 よかった。とりあえず仲直りをすることができたらしい。でも残ったご飯を食べないと紫との修行に遅れてしまう。


「社‥。味覚を封じるんだ…。」


 俺たちは二人とも心を無にして残ったご飯を胃の中に叩きこむ。あぁ、始まる前からこんなんでいいのだろうか?という不安が生じるも、ここまで一緒にはしゃいだ相手はいつぶりだろう。という疑問に押しのけられどこかへ飛んでいってしまう。

 媚を売って、社会の闇に揉まれて誰かに裏切られ、俺も社と同じくらい心の奥底で人間不信になっていたのかもしれない。あいつとは性格は違えど、案外相性がいいのかも、と心のどこかで思う。


 そんな思考の海を突き破ってきたのは、


「さぁ地獄の修行の始まりよ(^o^)。」


と満面の笑みで俺たちを修行へと向かわせる紫の声であった。





「はい!ということで紫先生の授業を始めていきたいと思います!まずは、弾幕を打てるようになりましょう。」


「先生!出し方がわかりません!」


「それを今から話そうとしてたの!だまらっしゃい!」


「すんません。」


「えっと、まず生き物には主に霊力、魔力、妖力が宿っているの。人間は霊力、魔力。妖怪は妖力。を宿している、そして私だとよくわからないけどあんた達はどうせ霊力しか持ってないはず。パチュリーに聞けば一発なんだけどねぇ。生憎あんた達を外に出すわけにはいかないのよ。」


「パチュリー?誰だそれ。」


「あら、いらないおしゃべりが過ぎたわね。今のあなた達には関係のないことだから気にしないで頂戴。で、弾幕はその体に宿ってる霊力を使ってうちます。ここまでわかりましたか?」


「「はい。」」


「で、霊力を弾幕にするためにはまず、霊力を外に具現化してその後に形を作る。」


「先生!どうやって具現化したらいいんですか?」


「何となくだ!」


「先生!それは流石に適当すぎじゃ無いですか?」


「だまりなさい!本当何だからしゃあないでしょ!えぇとねぇ。何となく体から沸き立つ感じ?っていえばいいのかな?現代で言う‥‥ちゅうにびょう?ってやつかしら。」


「先生それって本当なんですか?」


「Yes, I do. 」


「じゃあ俺得意だわ。俺元中二病だし。」


「それ平然と言ってのけることじゃなくね?どちらかと言えば黒歴史の方に入るんじゃね?」


 自分の黒歴史を平然と公言した社に驚きつつもツッコミを入れる。


「チッチッチッ。違うのだよ。ここの世界では中二病が正義なのだよ。」


 なるほど、彼の言っていることは表現は違えど現実に囚われていては駄目ってことを言いたいのかもしれない。流石に考えすぎか?


「じゃあやってみますか。」


俺はのっそりと立ち上がり精神統一をしてみる。顔が腫れてしまっているのでぴっしりと決まらないけれど何となく分かる。体が沸き立つ感じ、全身に鳥肌が立つ感じ。


「そうそう。ちょっと出てるわよ。学習効率が良くて助かるわ。」


 何か掴んだ気がする。何だろう?アドレナリンを無理やり引き出す感じだ。


「慣れればそんな力まないでもできるようになるわよ。」


その言葉を皮切りに俺は全身の力を抜く。まるで、ストローでエネルギーを吸われてしまった感覚だ。力が入りにくい。


「じゃあ、社。次やってみてや。」


「あぁ。いくぞ!うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉおぉおお!!!」


 目が見開き、全身の隅々まで神経を研ぎ澄ましているのがこちらにも伝わってくる。これはかなりの量がでてるんじゃないか?


「はぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!」


そう叫んだ瞬間だった。バッタリと社が仰向けに倒れる。なんだ?こいつ力みすぎて頭の血管プチッとイッちゃったか?


「うっぷ。」


はぁ?紫のほうから嫌なうめきが聞こえてきた。


「そいつ、やりやがった‥‥。」


「はぁ?」


「こいつ‥‥自分の体の霊力全部一気に放出しやがった。」


「なんだって!?」


 まるで絵に描いたような反応をしてしまったが‥‥、こいつ何やってるの?バカなの?


「もうこいつ動けなさそうだな。」


倒れた社を見てみると白目を向いて失神している。まるで地上にうちあげられた深海魚みたいな印象を持ったが、それも一瞬のことで紫が地面に裂け目を開きそのまま丸太のように体勢を崩さず垂直落下していった。


「とりあえずあなただけでも続きをしましょうか。」


 続き?まさか今日で弾幕を打つところまで進むっていうのか?


「ちょ、ちょっとそれは早くないか?」


「だって地獄の特訓って言ったじゃない。」


「まじかよ‥‥。」


 弾幕とやらを早く打てるようになることに越したことはないが、何だか精神的にまいるものがある。ただでさえ、あれをやるだけで疲れるっていうのに。


「で、どうしたらいいんだ?」


「まず、さっきみたいに霊力を外に出してから、それを頭の中でどんな形にするか頭の中で想像するの。できるだけ具体的にね。」


「なるほど?まぁ想像って結局やってみんとわからんから一回やってみるわ。」


 再び全身を集中させて霊力を体内から体外に放出させる。一回目ではかなりあやふやな感覚だったが、二度目の今回は確かに自分の体から霊力がにじみ出ているのを感じることができた。想像。どんな形を想像したらいいんだ?

 数秒間考えていると、ふと頭の中で弓矢が連想された。何故弓矢なのか?そう思う間もなく鈍く光る鋭利な矢じりが本能的に頭に浮かんでくる。

 そのときだった。自分の手のひらから1メートルくらいの青く輝く矢が射出された。その矢は青い輝きを放ちながら真っ直ぐと空間を突き進んでいき庭の石に当たって爆散した。


「やった!」


 そう叫ぶも足には力が入らない。ガクッと膝から崩れ落ちドサッと音を立てて砂利の上に倒れ込む。薄れゆく意識の中で、起きたら絶対あいつに自慢してやる。と顔をほころばせながら目を閉じた。

次回はちょっと遅れる予定です。そこんとこヨロシク(^o^)

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