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東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜  作者: 金柑太郎
第一章 変わらない毎日【幻想郷の日常】
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十話 食べてはいけない人間

いやはや、やっと二桁到達です。時が経つのは早いですね〜。

「あなたは食べていい人間?」


「ダメよ~ダメダメ!」


 おいおい看板どうりのやつが出てきたぞ。いかにもって感じだ。その容姿といえば夜の真っ暗な闇と対象的なキラキラと光る金髪に黒いワンピース。そして、赤いリボン?を頭に携えている。正直言って拍子抜けしたが、俺はこの世界は見た目に騙されてはいけないということを紫から学んだ。


「ほらあっちに行けばもっと美味しいお肉があるぞぉ。」


「食べていいのだ〜?」


おいおい会話が成立してないぞ?


「いいのか?」


「いや俺まだ何も言って」


「そうなのか。ありがとうなのだ〜。」


ちょっとお話が勝手に進んでませんか?ていうかまずい方に進んでません?


「い、一回話を聞こうか。」


もう一回会話を試みようとした時、俺は彼女の目がギラリと見開かれたの見逃さなかった。もう会話するのは無理だろう、と直感で感じる。だって見開かれた彼女の目は人殺しそのものの目をしていたから。


「いただきますなのだ〜。」


 その言葉と同時にその少女は足を一歩前に進ませる。その速さは人間のものではなく、あきらかに常軌を逸っした速度であったことから彼女が妖怪であることを再確認する。

 少女は拳をこちらの腹部に伸ばし貫いてこようとするが、


「こんなとこで死んだらあいつらに一生笑われ者にされるからな。」


 体を一歩引き、その拳を自分の右前にいなす。少女の動きは単調。何とかその速度に反応し、いなすことができた。彼女は地面をゴロゴロと転がり近くの木へと衝突する。あれで気絶してくれたらいいのだが‥‥。


「おにーさん強いのだ〜。」


 ですよねー。まぁ妖怪って言うからには人間より体も丈夫なんだろう。


「切り替えろ。」


 自分に言い聞かせ、立ち上がる少女を見据え、考える。俺が生き残るために最善な方法は‥、


「逃げるんだよ〜。」


体をその場で反転させ、走り始める。結局コレだ。今、無理に戦っても妖怪相手じゃ勝ち目がないだろう。今はもてる自分の身体能力をもって逃げるのが得策だ。

 自分が草を踏みしめる音と、風を切る音のみが聞こえる。夜の明かりのせいで新緑が深緑に染まり、まるで中学校の一人下校の時のような孤独感を覚えるが、そんなことを考えている暇はない。今は後ろで振るわれている、暴力と呼べるのかも怪しい攻撃をなんとしても回避しなくてはならない。彼女が足を払ってこようとするの確認し、上へと飛ぶ。


 足元の土が振動とともに爆ぜ、後ろを振り返ってみると、そこの地面だけがえぐれていた。


「ちょっと手加減してくれないかなぁー。」


 頬を伝う冷汗を拭いながら言ってみるも、少女は無反応で次の一手をこうじてくる。彼女は持てる限りの脚力をもってこちらへと飛びかかってくた。とっさに横に飛ぶが、右腕を何かに掴まれる感触を感じる。見てみるとそれは少女の手だった。そのまま口をあんぐりと開け、

 

「いただきますのだ〜。」


と俺の腕にかぶりつこうとしてくる。今噛みつかれたら右腕がまったく使い物にならなくなるという革新があった。

 俺の脊髄反射は持てる限りのスピードで仕事を行い、右腕を前に向かってボール投げの要領で振り抜く。遠心力で彼女は手を離し飛んでいくが、右腕を何かにえぐられる感覚を覚える。視線を右腕に向けると、彼女の歯にえぐられたと思われる見るからに痛々しい傷があった。そこからはどす黒い血がチロチロと流れ出ている。血の色を見て、傷ついたのが静脈であることを確認しホッとするも、もう次の攻撃が迫っている。


「後でアドレナリンに感謝しないとな。」


 幸いアドレナリンの痛み止めの効果で、右腕の痛みは感じない。抱きついてくる彼女の両腕を掴むと、自分はしゃがみ、後ろに向かって投げ捨てる。すると少女は自分の上を通って転がっていく。

 それにしても夜の森ってのは暗いもんだ。一寸先は闇、まさにこの言葉がこの状態を表すのに一番適しているだろう。


「おにーさん、本当にニンゲンなのかー?」


「そうだよ。ただ人一倍危険な思いをしてきたんだ。」


「そうなのかー。でもオニーサンもここで終わりみたいなのだー。」


「うーん。それはどうかな。」


「でも周り見てみるのだー。」


 あたりを見回してみるもさっきと変わったところは無く、あたりにただ自分が立っている地面と2、3本の木そして闇が見えるだけだ。‥‥ん?


「最初からこんな暗かったっけか?」


 森に入った時は見えていた景色が見えなくなっている。時間の経過のせいだと思っていたが、よく考えてみれば夜が更けたところで月明かりがあることには変わらない。ならなぜ、視界が狭まっているのか?


「そっか、オニーサンには見えないのかー。」


「どういうことだ?」


「オニーサンの周りには私の闇が立ち込めてるのだ。チョット待ってなのだー。」


 その言葉通り、数秒間待っていると、不意に視界を遮っている闇が朝の霧みたいにはれていく。そのはれた視界に写っていたのは、3方を高い崖に覆われた逃げ場のない絶望的な光景であった。


「は?」


 色々な情報が混み合っていてなかなか整理することができない。何で急に闇が晴れた?その少女がなにかしたのか?ていうかこれ俺詰んでね?


「Please Someone help me!!助けてくれー!」


「ごめんなのだー。美味しくいただくから許してなのだー。」


 それじゃなんにも解決になってないわ!内心突っ込むが、でもどうしてもこの場を覆すためのアイデアは浮かんでこない。

 こうなったらダメ元で突っ込むか?こんなことを考えている間にも少女は着々とこちらに向かって歩いてきている。


 一歩踏み出す。


「うぉおおぉぉおおおおぉぉおお!!」


 死にたくない。これ以外の方法がない。でも少しでも可能性があるなら、俺はそれに賭けようと思った。近づいたら死ぬかもしれないそんな恐怖を抱えながら、俺は突っ込んでいく。


 彼女に命を刈り取られる間合いの一歩手前だった。


「はぁ。お酒なんか飲むんじゃありませんでしたね。」


 そんな凛とした声音が森に、いや鼓膜に響き渡った。お互いの動きがピタリと止まり静の時間が訪れる。その声の主は‥‥、


「藍パイセン!」


「パイセンってつけないでください。ていうか、あなたは本当に面倒事に絡まれますね。」


「知らん。望んだわけじゃ無いんだけどな。」


 藍は話していたとおり、お酒を飲んでいたのか頬をピンクに染めており腕には一匹の黒い猫を抱いている。


「ルーミア、この方は紫さまの客人です。これ以上傷つけるならば、力でわからせないといけないのですが、どうです?」


「私はニンゲンを食べたいだけなのだー。」


「会話が成り立ちませんか。それは肯定と認めていいんですね。」


 その返事もせず、再びこちらに近づいてくる。


「藍オネーサン酔ってるみたいなのだー。」


「そうですね。私はあなたの相手をするのには酔い過ぎました。なので、代理に頼みたいと思います。この子が偶然この屋敷にいたので助かりました。」


 そう言い終わるとほぼ同時に、藍は叫んだ。


「式神「橙」!」


 すると腕に抱かれた黒猫は、藍の腕から飛び出すと空中で、赤い服をきた女の子へと変化した。その女の子は、落ち着いた茶髪にひょこっと可愛い猫耳をはやしている。こいつさては‥‥


「‥‥お前さては化け猫だな!」


「にゃ、なに!な、なぜ私の正体が」


「いやだって猫の妖怪で知ってるの、化け猫と猫又ぐらいしかいないもん。猫から人に変化するなんて化け猫しかいないもんな。」


「ふーん。本当は、あなたを取って食べちゃいたいけど、藍さまがいるからやめとくね。さてルーミアちゃん。妖怪の森に帰ってもらおうか。」


 俺との会話を半端無理やり終わらせるとその橙と呼ばれた化け猫の女の子はルーミアに向き合う。


「ルーミアちゃん、妖獣の最大の利点はね圧倒的な身体能力なんだよ。」


 そう橙が言い終わった直後であった。フッと姿が消えたのだ。視線だけを動かしどこに行ったのか探すと彼女はすでにルーミアの目の前におり、一瞬で彼女があそこへ移動しただけであることを俺は悟る。

 しかし、ルーミアもそれに反応しているらしく後ろに飛び下がって攻撃を回避している。


「じゃ、私達は帰りましょう。」


「え?最後までいなくていいんですか?」


「ルーミア相手ならあの子でも十分よ。ルーミアは妖怪の中ではあまり強い方ではないから。」


「あれで!?」


 その言葉を最後として俺たちはこっそりその場を後にする。ある程度離れてから、


「仙符、鳳凰卵(ほうおうらん)|!」


という叫びとともに大きな爆裂音と、震動があったということを最後に付け足しておく。




藍さんと二人で夜の森から八雲亭に帰っていた俺は申し訳なさすぎて、繰り返し謝罪の言葉を半端悲鳴のような感じで伝えていた。


「すみませんでしたぁ!」


「だからもういいって言ってるじゃないですか。見えやすい位置に看板置いてなかったこちら側にも負がありますし。」


「でも、藍さんが来てくれなかったら死んでるところでしたぁ!手当もしてもらっちゃったし。」


「お礼ならあの子に言ってあげてください。実際助けたの私じゃないですし、そのほうがあの子も喜びますよ。」


「確かにそうかも。わかりました。」


 承諾の返事をすると、内心気になっていたことがあるのを思い出した。


「そういえば、式神って確か、陰陽師の技っていうか術ですよね?で、藍さんは紫の式神であると。つまり、式神の式神がさっきの橙ってことですか?」


「まぁ言ってしまえばそうでしょうけど、あの子は普通の式神と違うんです。普段は黒猫の姿をしていて化け猫として妖怪の森ってところに住んでいます。でも私があの子に、式神を宿らせることによって一時的に私の式神にしているんです。」


 高等テクニックすぎてよくわからないが、とにかくすごいってことだけがわかった。


「そういえば今日紫さま追い出してしまったので言い忘れていますが、紫さまいわく明日から地獄の特訓を開始するとのことですから頑張ってくださいね。」


地獄の特訓・・。つまり今日の昼間に見せられたあれをできるようになるための特訓ってことだろうか?


「ここの住人はみんな、あんな化け物みたいなことができるんですか?」


「そういうわけでは無いです。人里というところに行けば、戦えない住人なんて山ほどいますし、能力も持っていない人間がほとんどですよ。」


「つまり、あの子達は人間じゃないってことですか?」


「いいえ、違います。あの子は選ばれた人間なんですよ。博麗の巫女。それが彼女に与えられた使命であり、彼女を縛る台座でもある。まぁあの子もそれを楽しんでいそうなのでいいですけど。」


藍はどこか遠くを見つめているような顔をして、こちらに視線を向けると、


「この話はもう終わりにしましょう。」


その言葉はしばし静寂を招くが、藍はさっきの顔に戻っており


「夜ふかしは明日の修行にさわるでしょう。屋敷についたらもう寝ちゃって下さい。真弓さんももう寝てらっしゃると思いますので。」


「俺が大変な目にあっている間にあいつはもう寝てるのか。」


俺が一人呟くと、藍は気まずそうに口を開く。


「実は社さんが出てってからお酒を開けたんですけど、真弓さんはあまりお酒に強くないらしくて散々妹の自慢話をして寝てしまいました。」


 やっぱいなくて良かったかも。


 葉を磨き寝床に入る。白い月明かりが破れた障子から差し込んでくる。隙間からは見えない月を想像し、まだ月のウサギさんは俺のことを蔑んでいるのかと考えてみる。そんな寂しげな青年を寝かしつけるように幻想郷の夜は更けていった。

次回修行です。どうなるかわかりませんがよろしく。

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