2トカゲ
「待てこのクソガキ!!」
待てと言われて素直に待つアホがいるかよ!
アバヨとっつぁーん!
木の上を渡り、建物の屋根を伝い、時に塀の上を走り、俺を追いかけていたゴツイトカゲを撒く。
俺の家は戦士の家系なもんで、戦う訓練とかしねぇといけねぇそうだ。
んな面倒くさいことしたくない俺は、賢くバックレるって寸法よ。
俺を追っかけてたのは俺の家に仕える戦士の一人、ゴウザ・ムワカっておっさんだった。
まぁ、俺の家庭教師みたいなのに指名したオヤジを恨むんだな。
たまに参加してやるよ!
ゴウザを完全に撒いた俺は、いつも逃げ込んでいる村の薬師のバァさん家にお邪魔した。
手には土産の薬草を持ってな。これがねぇと追い出されちまう。
「おうバァさん生きてるかー」
「死にたいのかいクソガキ」
バァさん、って言ってるが、薬師のバァさんは年はバァさんなんてレベルじゃねえほど嵩んでるだろう。
なんせエルフだからな!
「バァさん幾つだっけ?」
年を聞くと、雷撃で答えられた。
体表がチリチリするが痛くはねぇ。物騒な突っ込みだこりゃ。
「他のやつにやったら死んじまうぞ」
「安心おし。アンタにしかやらないよ」
小気味良い答えだが、俺だってこええよ…
「またゴウザから逃げてきたのかい」
「いやぁ、つまんねぇしなぁ」
俺の感想にバァさんは溜め息をつくと、作業場のテーブルを片付け始めた。
やることは分かってるから俺も手伝う。
薬草は専用のボックスにいれて、テーブルの上の器具を整理していく。
「また魔術かい」
「薬学は全部覚えたからな。魔術の続きをたのまぁ」
ここで俺は魔術を習っていた。
龍人は本来魔術を使わない。強いからだ。
魔術を使う龍人はバカにされる。
強い魔力を持ち、高い身体的素養を持ってる龍人は肉体こそ至宝だって考え方が主流なんだがよ…
どう見たって脳筋なんだよなぁ…
このエルフのバァさんはそんな脳筋の龍人に魔術で圧勝出来るバケモンの一人だ。
村にはあと一人バケモンがいて、それが村長だ。あのジジイもヤバい。
「おうバァさん、今日はどの本使うんだ?」
器具を片付け終えた俺は、となりにあった本棚の前に移動した。
参考書はどれかなぁ、っと。
「今日は要らないよ」
「お?」
振り向くと、バァさんが普段は見らんねぇマジの顔になってやがった。
「俺に惚れたか?」
「死ねやクソガキ」
痛てぇ!?
今の雷撃俺でも痛かったぞ!
見ろ!肌が鱗状になってんじゃねぇか!
あ、俺トカゲだったわ。