第5話
あの後コアちゃんから色々と慰めの言葉をかけられながら聞いた話によると、まず素体と言う種族は存在しないそうだ。
ではなぜ私の種族が素体、しかも簡易素体と言うものになったかというと、そもそも素体というものの特性にあるらしい。
素体とは、この世界を作った創造神様(前の正義と支配の神もそうだけど、この世界の神様には特に名前はないらしい、あえて言うなら権能を表すものが名前に当たり、地上ではいろいろな名前で呼ばれるが、神界では個々を区別するのは権能であるそうだ)が、この世界の生物を作るときに使った体だそうだ。
魂は個別に作ったものの、すべて別々の体を作る手間を省くために、魂の形になるように設計されており、体の能力は別に設定していかなくてはならないらしい。
そして簡易素体は、その素体を神様たちが一時的に地上に降りるために使うもので、特に能力等はつけなくても、魂が神様なのでどうとでもなると、まさに簡易的に作られた体だそうだ。
なので、技能のたぐいは一切なし。
年もとらなければ成長もしない。
性別なんて神様自体にも有って無いような物、だから性別もなし。
完成体というのは素体が完成した後に、外部から変更されるのを防ぐために、世界の理に完成体は外部からの変更が禁止されているそうで、その証みたいなもの。
神様なら内側からいくらでも変えられるから、それで何も問題ないらしい。
種族: 簡易素体(追加機能なし。完成体。)
名前: あああ
性別: 無し
職業: ダンジョンマスター(野良)
技能: 無し
成長性: 無し
特記事項: 簡易素体に加工済み魂を入れただけ。
完成体なため変更不可。
何も設定されていないため、許容量は多い。
簡易素体の基本性能のみ有効。
総評: 動いてしゃべるただの人形。
流石にこれはちょっとないんじゃないかなと思いつつ、とりあえず自分の検証のためにコアちゃんに個室を用意してもらった。(コアルームからタールピットへの扉を正面として、左右に一部屋づつ個室を作った)
これまたコアちゃんに作ってもらった全身が映る姿見に、自分の体を移して確認していくのだが、私の知る人間とは全く違うものになっていた。
まず性別についてだが、生前私は男性だったような気がするのだが、男性用の物が無かった。更に言うならば女性用の物も存在しない。
端的に言うと、お尻の穴が一つしかなく他の穴が一切ない、おそらくはそれが総排泄腔になっていると思われる。
次に哺乳類の証とも言えるヘソもない。
少し出ているお腹はツルンとしているだけで、へこみもでっぱりも無かった。
更には鼻の形はあるものの、穴は一個だけで真っ直ぐな形をしており、指を突っ込むとそのまま喉の方までつながっているようだ。
耳も真っ直ぐな穴で両方から指を強引に進めると、真ん中で触る感じがするし何故か音も聞こえる。おそらく耳は形だけで音を捉えているのは違う場所なのだろう。
ちなみに名前が『あああ』なのは、記憶の一部が破損して母音だけが残った結果のようだ。
だから元の名前は『たなか』や『はまだ』の様な感じの、母音のみの3文字だった可能性がある。
改めて実感する。
私は人間をやめたらしい。