第3話
状況を整理すると、このまま何もしなくても二〜三ヶ月で終了。
エネルギーの獲得手段三つは、モンスターが弱くてダメなのと、エネルギーが足りなくてダメなのと、外部との連絡手段がないからダメなので三つとも厳しい。
どこかに逃げるにしても、外の敵が強すぎてそれもダメ。
しかも、周辺の地形もわからないし、どこかに行ったとしても生き延びられる場所もわからないと。
なんとなく二人共黙ったまま時間だけは過ぎていく。
まだなにか方法があるような気もするから、諦めるのはまだ早いと思うけどさてどうしよう?
「ちょっと確認なんだけど、有史以来ダンジョンの維持が出来ていないってことは、前にここに来たダンジョンもあるんだよね?」
「はい。私が教えられただけでも数十回送られてきたはずです。」
「その人達はボーナスポイントももらった上で来ていたと思うんだけど、どんなやり方したとかはわかる?」
「ダンジョンの運営方法は個別の秘密になりますので、詳細まではわかりませんけど、おそらくはダンジョン専門学校で習う基本の方法だと思います。」
「詳細はわからないけど基本どおり行った可能性が高いと?」
「はい。詳細は教えてもらえませんが、基本から外れて失敗した場合、失敗例として授業で教わることになりますから。」
「なるほど。成功例がないここだと基本から外れた場合は、そのまま悪例として教えられるけど、それを教わらないが以上、学校で教わったことをやった可能性が高いんだね。
だとしたらまだ生き残れる可能性があるかも。」
なんとか希望を一つ見つけて喜んでいたら、
「そんな気休めはよしてください!!ダンジョン専門学校で教えられているってことは、今まで有史以来の積み重ねで一番良い方法なんです。それを神様方が教えている以上それより良い方法なんてありません!!
もうわかったでしょ、私達にはもう手段は残されていないんですいい加減にしてください!!もう後は静かに枯渇するのを待てば良いんです!!
これは神様が顕現しない世界の人にはわからないんです!!!」
今まで恐怖を抑えていたのか、それとも神様の教えを疑ったからか、一気に爆発してしまった。でもこのまま待つのは嫌だし、なるべく優しく諭すように気をつけながら。
「まぁ落ち着いて、その基本を守っても今までここは維持できていないし、ここだけのセオリーを学校では教えないでしょ。それこそ個々の秘密だ。
確かに基本は大切だけど、状況によっては違うやり方が正しい場合もあるんだから、ボーナスポイントがあっても基本ではダメなのがわかった。
これは可能性の一つ、選択肢の一つを私達が試すまでもなく消せたということ。
つまり失敗の選択肢を消して、正解の選択肢を引く可能性が一つ増えたということなんだ。」
この後色々言葉を尽くし短くない時間をかけて、なんとかまた話せる状態まで持ってこれた。
彼女の言う通り、私はこの世界のことを知らなすぎる、元の世界すら曖昧だし、わかっているからこそ黙っては居られないことがあるんだろう。
「すいません取り乱しました。大丈夫です。続きをお願いします。」
「お互い少し疲れただろうし、今日は一旦終わりにして、明日また話そうか?」
少し疲れが見える彼女に声をかけつつ、そういえば一体どのくらいの時間がったたのだろう。
ずっと話していたような、まだ1時間も話していないような不思議な感じがする。
「いえ。私もマスターもエネルギーの供給がありますので、休息も別のエネルギー摂取も必要ありません。
精神的な疲れは基本的に気の所為です。希望があるならそれにすがりたいですし。」
また新情報だ。食べなくても寝なくてもエネルギーの供給で済むとは。
精神的な疲れも気の所為って、元の世界ならブラック企業が言いそうだな。
「じゃあまず基本を教えてもらえる?私はそれも知らないから。」
「はい。まずここの様な部屋をコアルームと言いますが、コアルームはダンジョンの心臓部になります。この部屋に敵対生物が入るとダンジョンの全機能が停止します。
ですが、コアルームからしか通路は伸ばせず、コアルームから繋がった通路は必ず外に繋がなくてはいけません。これはダンジョン制作のルールなので変えられません。
通路をふさぐ扉は大丈夫ですが、必ず外側から開けられる機能がないといけません。
また通路の高さや幅はマスター基準になるため、最低でもマスターが不自由なく通れるもの、つまり縦は二メートル程横は一メートルは必要です。
ダンジョンの通路や部屋は、壊せるものと壊せないものがあります。
壊せるほうが低コストですが、正規のルート以外から壁を破壊して侵入されたり、壊された際に修理にエネルギーが必要だったりします。代わりに壁を掘って拡張も出来ます。状態としては支配地域と同じになりますので、掘った後にエネルギーを使用しますが、直接通路を作るより遥かに低コストで作れます。
壊せないものは製作コストも維持コストも高いですが、外部から直接侵入されたり地震で壊れたりはしません。なので、メインの経路は壊せないものを使い、枝道は壊せるようにしたり使い分けができます。ちなみに地震等でコアルームから外との行き来が出来なくなった場合、ダンジョンの全機能が停止してしまいます。」
「じゃあ最初は壊せるもので作るのが基本って感じかな?」
「はい。低コストで通路を作りある程度エネルギーが溜まってから、壊せないものでメインのルートを固めます。
低コストである程度の長さの通路を作り、配下のモンスターを作って外から小動物などを連れてきて、最低限のエネルギーを確保しつつ、ダンジョンの拡張を行っていくのが基本になります。」
「聞いてみたけどやっぱり私達のダンジョンでは出来ないね。」
ここは基本を無視するしかないか。
「まぁいくつか考えはあるけど、次は呼べるモンスターも教えてもらえる?」
「はい。今マスターの適正と私の能力で作れるのは、ゴブリンとオークとスライムとマイコニドです。
ゴブリン妖精族で個体は弱いですが、指揮個体が生まれれば組織的な動きができます。また、汚染された土を作り毎晩儀式を行って数を増やしていき進化もしやすいため、最初期のモンスターに選ばれますが、数が増えすぎると維持コストがかさむ欠点もあります。後頭が悪いので指示が理解できないことがあります。
オークは妖精族で個体の強さはゴブリン十匹分以上です。ダンジョンの場合意味はありませんが、メスが生まれにくい欠点があります。一匹のメスから生まれる子供は一度に10匹以上で、餌さえあれば数週間で成体になります。ゴブリンに比べ進化はしにくいですが、進化した個体の強さはかなりのものです。後頭が悪いです。
スライムは最弱と言われていますが、エネルギーがあれば分裂して増えるため、ゴブリンより増えやすいです。最弱ですが可能性のモンスターとも言われ、まれに強力な上位個体になったりもします。頭はそもそもありませんので、指示しても理解してもらえません。
マイコニドはキノコの魔物で、スライム並みに弱くどこにでも居るため、養殖して食用にされたりします。元々がキノコなので指示は理解しません。進化?はすぐしますが強くなったりはしません。と言いますか、基本的にモンスターの維持コスト削減のために餌用として作られましたが、放置しますと壊せる通路を埋め尽くすほど広がり、気づいたらマイコニドのせいでダンジョンが崩壊することがあるため、現在ではあまり使われていません。」
「おおーいいのが居るじゃないか。これは希望が広がってきたぞ。」
なんかちょっと興奮してきた。死ぬ前の世界でこの四種に思い入れがあったのかな?
「じゃあ早速だけどダンジョン作成からしていこうか。」
「今の説明でどこに希望があるのかわかりませんが、どのくらいの通路を作りますか?私の中で完成形を作ってから実行になります。禁止事項に引っかかると完成しませんけど。」
「その前に確認だけど、この部屋は今どこにあるの?」
「今は地下にあります。地上からだいたい一〇メートル程下になります。」
「外の様子はどんなかわかる?」
「一回外に繋げないと外の様子はわかりません。なにか障害物があれば作るときに気づきますが。」
「じゃあそこの壁に壊れない扉を外開きで作って、大きさはさっき言っていた二メートル×一メートルで。
出来たら隣に壊れない部屋を垂直に地上までつなげて。」
「はい。地上まで繋げてって、魔獣がこの部屋にすぐ来ちゃうじゃないですか!!!。」
「それで、五メートル分ぐらいタールで満たして。はい。タールピットの完成です。」
「えええええええ!!そんなのありなんですか!!!!」
「さぁ?君ができると思えば出来るんじゃない?別に禁止事項には引っかからないでしょ?」
「ああああ本当に出来ちゃう・・・じゃあ実行しますよ?」
「やっちゃって〜。」