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三章~17話 ダンジョンアタック三回目3

用語説明w

流星錘(りゅうせいすい):三メートルほどの紐の先に、細長い重りである錘が付いた武器。錘にはフックが付いており、引っかけることもできる


タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う


「おい…」

俺はカブスを睨みつける


「あ…あ…」

カブスは、部屋の入り口で震えていた


この野郎、庇ったタルヤを見捨てて逃げやがった

カブスがすぐにウェアウルフの止めを刺していたら、タルヤは重傷を負わずに済んでいた


「お前が進みたいと言ったんだぞ? お前が戦えると言ったんだぞ? それなのに…」


「殺されると…、俺も負傷して…」


「ふざけんな! タルヤはお前を庇ったんだぞ!? それを…」


「ひっ…あぁぁっ……!!」


感情に任せて怒鳴りつけると、カブスが震えだしてしまった


このクソ野郎が…

いっそのこと、この場で…


「ま、待てって、ラーズ!」

オルバスが見かねて止めに入った


「こいつのせいでタルヤが…」


「分かってる! だが、今は生きて帰ることが先決だろ! タルヤだって早く連れて帰らないと危険な状態なんだぞ!」


「…っ!」



…オルバスの言う通りだ

落ち着け


こんな状態になったのは俺のせいだ


カブスの無理を見抜けなかった

大丈夫という言葉を鵜吞みにしたのも俺だ


実質、リーダー的な立場にありながら、カブスの到達ポイントを欲するという欲を甘く見ていた

俺も、進むことにゴーサインを出してしまったんだ



「ふぅー…」

深呼吸をする


最優先目標は生還だ


その為に必要なことは?

戦力の確保だ


俺はカブスに目を向ける


「…カブス、よく聞け」


「あ…え…?」


「俺達は生きて帰らなければいけない、そうだろ?」


「あ、ああ…」


「そのためには、お前の力が必要だ。足の負傷があっても、しっかり歩いてもらう必要がある。できるか?」


「…ああ、歩くくらいなら」

カブスが頷く


「もう一つ。お前の役目は、安静にタルヤを運ぶことだ。モンスターがいようが何だろうが、絶対にタルヤを静かに運べ」


「た、タルヤを…!? そんなの無理だろう! 置いていくべきだ!」

カブスが大声を出す


…ふざけるな

よくお前がそんなことを言えるな!


一瞬、本気で殺してやろうかという気になる

だが、落ち着け


目的は生還することだ

この野郎の気持ちを理解しろ


こいつは恐怖に駆られている

だから、心が狭くなっているんだ

安心させる必要がある


「タルヤは一刻も早く治療が必要だ。そのために、急いで出口に戻る。…安心しろ、戦闘は全部俺が請け負う」


「戦闘を…、ラーズが一人でか?」


「そうだ。タルヤを安静に運ぶにはそれしかない。その代わり、何があろうと絶対にタルヤにショックを与えるな」


「あ、ああ…」


「お前の仕事は一つだけだ。いいか、タルヤを落としたりショックを与えたら、その時は…」

感情が溢れ出す


「わ、わ、分かった…!」

カブスが、俺の表情を見て必死に頷いた




・・・・・・




タルヤは意識を失っている

背骨の損傷は間違いなく、重傷だ


急いで連れて帰らなければ命の危険がある



「オルバス、テレパスの索敵は続けられそうか?」


「ああ、大丈夫だ。さっき、ひと眠りさせてもらったからな」


「戦闘は俺ができるだけ引き受ける。もし抜けられてしまったら、タルヤとカブスの守りを頼む」


「…ああ、分かった。だが、一人で大丈夫なのか?」


「他に方法が無いからな。補助魔法を頼む」



地下四階を抜け、地下三階へ

途中、情報端末でタルヤの負傷と帰還の報告を行う


後は帰るだけだ



「…いる。モンスター五匹だ」

オルバスが探知する


最初の部屋からモンスターか、運が悪い

この部屋は絶対に通らないと先へ進めない


「…」

タルヤを背負ったカブスが不安そうに俺を見る


「心配しなくていい。通路で安心してみてろ」


俺は、カブスを動揺させないために声をかける

あくまで、タルヤに振動を与えないためだ


「ラーズ、補助魔法だ。…防御魔法(小)、硬化魔法(小)、耐魔力防御(小)」


「サンキュー。オルバスは二人を頼むぞ」

そう言って俺は中に入って行った



中にいたのは一メートルほどの蟻だった


走って部屋の中央へ

同時に背中に精力(じんりょく)を溜める


流星錘で先制



ガキッ!


「ギギィッ!」



顔面が砕けて体液を巻きちらすが、死んではいない

ショートソードを脳と思われる場所に突き刺すと、動きを止める


四匹の蟻が、俺の周りを囲むように動いてくる


囲まれるのはまずい

近くの一匹に自分から接近、複眼を斬りつけてスライディング

横から腹をめった刺しにする


蟻の動きは単純だ

テレキネシスを流星錘に込めながら距離を取る


そして、近づいてきた一匹に錘を投擲



バチュッ…!


「うおっ!?」



蟻の複眼が大きく弾けて、大穴が空いた


更に近づいてきた蟻の牙を躱し、ボクシング版発勁、ガゼルパンチを撃ち込む

顔を仰け反らせる蟻に、半歩足を進めて後足を踏み込む、同時に全力の崩拳



ゴッ!


「ギッ…!」



蟻の首が折れて、痙攣した


テレキネシスの衝撃の威力が、完成変異体になってかなり上がっている

ちょっとしたグレネード並みだ


…サイキック・ボムとでも名付けよう



そして、ヘルマン直伝の発勁

完成変異体の筋力を威力に乗せれば、モンスターでも十分倒せる


この二つは、輪力が使えない俺が特技(スキル)のように使える貴重な攻撃方法だ




「…またモンスターだ。今度は四匹だ」

オルバスが言う


次の部屋でもモンスターか…


「任せろ。警戒を頼むぞ」


俺は、平気なふりをして部屋の中に入る

泣き言を言ってる暇はない


中にはリザードマンが四匹だ



ドスッ!


「くっ…!」



俺を見つけると、リザードマンが槍を投げて来た

ラッキー、武器をゲットだ


俺は槍を投げ返して接近

リザードマンが斧で槍を弾きながら接近してくる



武の呼吸


死地に踏み入って生を掴むための呼吸



斧をぎりぎりで躱し、接近

口の中にショートソードを突き刺し、一撃で仕留める


リザードマンはトカゲのような外見をしており、その鱗は固い

鱗が無い場所を効率よく狙う必要がある


次のリザードマンが接近

槍の突きを躱し、持ち手にショートソードを叩きつける


そのまま前傾に倒れ込み、足のかかとを切り裂く


止めは後、次だ!



斧を持ったリザードマン

ショートソードを投げつけて意表を突く


流星錘を振り回し、斧の範囲より若干長い長さで紐を持つ

ショートソードを防いだ直後に、横から遠心力で叩きつける


よろけた隙に、首の横をナイフで切り裂く



後一匹!


リザードマンが槍で突き

躱してカウンター


だが、リザードマンが大きく口を空ける



「…っ!?」


ガブッ!



槍を手放し、俺を掴んで肩に牙を突き刺した

くそっ、まさか噛みつきを狙ってたとは!


だが、俺はぎりぎりで反応

噛まれる直前に空手のサンチン立ちの姿勢を取った

サンチン立ちとは、内股で立ち脇を締めることで、腰から下の下半身と体幹を安定させる立ち方だ


筋肉を締めることで牙に対する防御力を高め、なおかつ姿勢を維持する


噛みつきが一番威力を発揮するのは、引きずり倒して一番顎の力が入る姿勢に持っていかれた時だ

俺は、リザードマンの力に対抗すべく、体幹を逸らせて倒れない


そして、耐えながらナイフをリザードマンの首、頸動脈に突き刺した



「はぁ…はぁ…」


呼吸をする


まだ地下三階だ

呼吸を戻せ、早く回復しなくては



「ラーズ、大丈夫か!? これを飲め」

オルバスが、回復薬を渡してくれる


「ああ、助かる」


回復薬は傷の回復にもいいが、体力の回復もできる

だが、使いすぎると回復薬の効力が一時的に落ちるという欠点がある



「ラーズ…」

カブスが声をかけてくる


「カブス、タルヤを頼むぞ」


「ああ、大丈夫だ」


「よし、全員で生きて帰るぞ」


声をかけて元気付ける

前向きさを維持させる


変異体だろうが人間

…心の弱さを実感する


回復薬で、大分体力が回復した

よし、まだ戦える




一歩一歩進んで行けば、出口はそれだけ近くなる


あと何回部屋を抜けなければいけないのか

あと何回戦わなければいけないのか


時間はない

タルヤのタイムリミットは近いはずだ


本当は定期的にタルヤに回復薬をかけたいが、もう残りが少ない

少しでも早く戻り、治療を受けさせる


俺達は、また出口に向かって歩き始めた




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― 新着の感想 ―
[一言] タルヤ死んでくれるなよぉ…変異体だからそこらの兵士よりは生きる可能性があるだろう。
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