三章~15話 ダンジョンアタック三回目1
用語説明w
ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴
ギガントタイプ:身体能力に特化した変異体。平均身長2,5メートルほど、怪力や再生能力、皮膚の硬化、スタミナの強化、高い免疫、消化能力を獲得
エスパータイプ:脳力に特化した変異体。サイキックと魔法能力が発達し、脳を巨大化させるため額から上の頭骨が常人より伸びる
タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う
三回目のダンジョンアタック
ポッドに入り、また浮遊感と加速度を感じる
地下深くに落ちて行く感覚…
どうせ窓もなく座っているだけなので、俺はいつも通りにさっさと寝ることにした
今回は四人のパーティだ
ギガント、ドラゴン、エスパーが二人
ギガント、魚人男性のカブス
エスパー、ドワーフのオスバル
ドラゴンの俺とエスパーのタルヤの四人だ
「なぁ、お前達。教官が言ってた、五階の階層ボスを倒したって本当かよ?」
カブスが聞いてくる
「それが本当なら十階なんかすぐじゃないか! 今回はついてるな」
オスバルもテンションが高い
…出発する時、エントランスでトラビス教官から声をかけられた
「今期の被験体で、五階の階層ボスを超えられたのはお前達だけだ。今回も期待している」
「え!?」 「本当かよ!」
それを聞いて、カブスとオスバルが驚いていた
だが、それはアイアンカップルの実力と、フアンの犠牲があって初めて勝ち取った成果だ
カブスとオスバルが相応の働きをしてくれないと、あんなにうまくは行かない
それどころか、あの理想的なパーティでさえ、階層ボスを倒すのがやっとだったのだ
一人少ない四人のメンバーでは、五階の階層ボスまでたどり着けるかどうかも怪しいと俺は予想している
地下一階層
「オラァッ!」
カブスが盾を構え、ロングソードを振るう
大ネズミ相手には、安定して戦えた
オスバルは、補助魔法の防御魔法、硬化魔法、耐魔力魔法を使える
この三つの魔法は、戦場では生存率を上げる最重要魔法だった
銃弾を止める防御魔法、魔法から生き残る耐魔力魔法、爆発や衝撃から守られる硬化魔法だ
「オスバル、大変だと思うがテレパスでの索敵は続けてくれ。疲れたらタルヤが変わるし、階層ごとに休みもとろう」
「分かったぜ!」
カブスとオスバルはおしゃべりだ
闘いが終わるたびに、くだらない話をしている
あのナースさんがかわいい
この施設を出たら何がしたい
早く十階まで行ってしまいたい
とりとめのない話だ
地下二階層
階層途中の情報端末のあるスペースで一休みし、下へ降りる
最初の部屋で、オーク五匹との交戦となった
やることは変わらない
ギガントのカブスが盾を構えて前衛に
その後ろから、エスパーのタルヤの範囲魔法、オスバルがテレキネシスでショートソードを刺突
オスバルは攻撃魔法は使えないが、サイキックでしっかり戦闘に貢献している
俺は、位置取りを気にしながらオークを削る
カブスの所にオークが集まりすぎないように引き付けて分散させる
そして、武の呼吸
チャンスに死地に踏み込む勇気
覚悟と攻撃の密度を上げて、仕留め切る
安定した勝利
現在、負傷無しだ
地下三階層
また階層が変わる場所で休憩
疲労が溜まれば集中力が途切れる
適度に急速を取って集中力を回復させられるペース配分が大切
「なんか余裕だな。このまま階層ボスを倒せるんじゃないか?」
オスバルが言う
「もう少しペースアップしていかないか? その方が消耗も少ないだろう」
カブスも乗って来た
「まだ、敵が弱い地下一階と二階だからでしょ? それに、ラーズが敵を散らせてくれているから私達で処理できているだけよ。もっと慎重にいかないと…」
タルヤがそんな二人を諫める
俺達は前回、仲間を失っている
用心するのは当然だ
「これから敵が強くなってくる。カブスはエスパーの二人を守ることに集中してくれ。攻撃は控えて大丈夫だ」
「何言ってるんだよ、俺がモンスターを一撃で殺した方が早いだろ」
「…」 「…」
神経を逆なでしてもしょうがない
俺達は、指摘よりもチームワークを優先することにした
オスバルは、まじめにテレパスの探知をしてくれている
モンスターに先制される危険は減らせそうだ
…二つ目の部屋でモンスターと遭遇した
「ちっ、ゴブリンかよ。雑魚じゃねぇか」
カブスが、防御をせずにゴブリンの集団に斬りかかった
「カブス、戻れ! 後衛が囲まれるぞ!」
「ゴブリンごとき余裕だろ! さっさと倒しちまった方が早い!」
ゴブリンは十匹ほどの群れだった
だが、その群れの中には想定外が二つ
一つは、狼型のモンスターを飼っていたこと
動きが早く、一匹がカブスの足に噛みつき、もう二匹がエスパーの二人を狙う
そしてもう一つが、ゴブリンの装備だ
剣や槍、そして弓を持ち、装備が充実していた
「オラァッ!」
カブスがギガントの腕力で目の前のゴブリンを叩き切る
だが、足を狼型モンスターに噛みつかれ、動きが止まったところを槍で足を刺される
バシュッ!
「ぎゃあっっ!」
更に、飛んできたゴブリンの矢がカブスの目に突き刺さった
くそっ、一人で前に出るからだ!
集中攻撃を受けないように、俺が敵を分散させてるんだぞ!?
意味分かってないのかよ!
俺はというと、エスパー二人を守りながら防御役をやるしかなかった
カブスに群がっているゴブリンを減らし、一匹のオオカミ型モンスターに流星錘をぶち当てて殺す
バリバリーーー!
タルヤの範囲魔法(小)が炸裂
くそっ、乱戦にはさせない
エスパー二人には近づかせない
「狼型を倒した!」
オスバルが声を上げる
「よし、次は弓持ちを狙ってくれ!」
言いながら、剣で斬りかかるゴブリンを体捌きで躱し、半歩踏み込んでの崩拳
錘を握り込んで撃ち込むと、頭蓋骨が砕ける音がした
次、二匹のゴブリン
こん棒持ちと剣持ちだ
一瞬、突っ込む動作を見せてフェイント
反応に合わせて飛び込み、剣を持ったゴブリンの喉にナイフ
回転しながら裏拳のようにナイフを振り、こん棒持ちの顔を切り裂く
バチバチバチーーー!
タルヤの雷属性投射魔法がゴブリンを焼き、カブスが残ったゴブリンを斬り倒した
地下四階層
「うぅ…、痛ぇ…」
カブスの目に刺さった矢を処理する
「だめよ、ゴブリンの矢や武器には糞尿を塗ってる。変異体とはいっても、洗い流さないと雑菌にやられるわ」
タルヤが飲料水で傷を洗い流す
「カブスの傷は重症だ。変異体だから死にはしないと思うが、戦闘には支障が出る。今回はこれで撤退しよう」
「ま、待ってくれよ! せめて、地下五階まで行かせてくれ。俺はまだ戦えるからさ」
カブスが言う
だが、カブスは足を槍で刺されて重症、片目はつぶれている
回復薬は使ったが、ここで完治するような怪我じゃない
「カブス…、今回は無理じゃないか? また次もあるしさ」
オスバルも言う
「だけど、後一階層おりるだけで到達ポイントが入るんだ。このまま戻ったら、今回のアタックは何の意味も無くなっちまうんだぞ!?」
「でも、死んじゃったらもっと意味がないのよ?」
タルヤが、興奮してきたカブスをなだめる
「お前達は負傷してないからそんなことが言えるんだ! 俺は目を潰されてるんだぞ! この痛みを無駄にしろって言うのか!!」
「…」
「どうする、ラーズ?」
オルバスが無言で、タルヤが助けを求めるように俺を見る
「…一度ここで休もう。そして、カブスの足が動くようなら五階層への階段まで進む。カブスの足が動かないなら戻る。それでいいか?」
「…分かった」
カブスが納得したようなので、長めの休憩を取ることにした
暫くすると、カブスとオルバスの寝息が聞こえて来た
眠れるのはいいことだ
体力の回復に努めてもらいたい
「…ねぇ、ラーズ」
「うん?」
タルヤが俺の横に座る
「私達って、帰れるのかな?」
タルヤが言う
「弱気だね。大丈夫だよ、前回一度通った道だ。道もモンスターも把握できているからね」
「違うわ、この施設からよ。いつになったら、外に出られるんだろうなって思って…」
タルヤが首を振る
「…地道にポイントを稼いでいくしかないよ。積み重ねの大切さはヘルマンから教わっただろ? いつか、十階層まで行けるチャンスだってあるかもしれないし」
「そうね…」
タルヤが不安そうに、自分の膝を抱える
「ラーズは、外の出たら何がしたいの?」
「…」
俺がやりたいこと
そんなことは決まっている
「…復讐かな」
「…」
タルヤが黙る
軍の仲間を皆殺しにした、神らしきものの教団
ヘルマンを使い殺したこの施設
人の命を、俺の大切な人を不当に扱った対価を払わせたい
…だが、それなら俺はどうなのだろうか
この施設に入って何人を殺した?
軍時代にだって、手を汚してきた
その家族が復讐を企てたら、俺はどうすればいいのだろうか
「…ねぇ、ラーズ」
「え?」
タルヤの声で、思考の沼から我に返る
「ラーズって、Bランクの騎士を目指してたんでしょ?」
「ああ、昔ね」
才能が無かった俺は、チャクラ封印練という封印で氣力と霊力を大幅に封印した
約十年この封印を続ければ、俺の氣力と霊力が増えているかもしれないという鍛練方法だ
その代わり、封印中は氣力と霊力が大幅に減ることで、闘氣、魔法、特技の全てが使えなくなる
つまり、Bランクとしての資格を失うという鍛練だ
「目指してた騎士を諦めるほどの理由って何だったの?」
タルヤが、俺に尋ねた
チャクラ封印練
二章~30話 チャクラ封印練 参照