三章~13話 ダンジョンアタック二回目4
用語説明w
変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス
ギガントであるハンクが後ろに下がる
これは、予想以上にパーティの戦闘力を低下させた
地下五階層
幸運なことにモンスターとの遭遇はなし
階層ボスの部屋までの道のりがほぼ一本道であり、強力な階層ボスと生息域を重ねないために他のモンスターが入り込みにくいのかもしれない
地下四階層
モンスターを避けてルートを選択
しかし、ルート的にモンスターとの避けられない戦闘があった
大サソリ
巨大なサソリのようなモンスターで強力な甲殻と毒針を持つ
「…俺も前衛に出るか?」
ハンクが声をかけて来る
「いや、一匹だから大丈夫だ。いざという時に、エスパー二人を守ってくれ」
ハンクには、フアンの遺体を守ららせつつ後ろに下がっていてもらう
前衛兼斥候の俺が前に出て陽動
その間に後衛が魔法を発動準備
「うおぉぉぉぉっ!!」
ゴガッ!
遠心力を加えた流星錘とを叩きつけて甲殻を割る
だが、固ぇ!
サソリのハサミと尻尾を避けて隙を伺う
シャキキーーーーン!
アーリヤの冷属性範囲魔法が炸裂
ダメージは大きいが、仕留め切れていない
「タルヤとタイミングを合わせろ! そっちを狙われたら…」
俺が怒鳴った直後、魔法を脅威と見たのか、大サソリがアーリヤとタルヤを狙う
させるか!
俺は流星錘を大サソリの尻尾に巻き付けて、引っ張られる力を利用する
同時に、触手の推進力!
ヒュオッ…!
大サソリの上まで行き、サードハンドを併用
背中側に浮かせていたのは、フアンの使っていた斧だ
大型の敵には大型の武器が必要
ギガントがいない以上、俺が大型の武器も使う必要があるので拝借した
バキッ!
「ギチギチギチ…!」
気持ち悪い音を立てながら、脳天を割られた大サソリが尻尾を振るう
俺の後ろにはタルヤとアーリヤがいる
ここで大サソリを止めないとまずい
ドゴォッ!
「ぐうぅぅぅっ…!」
尻尾を凪ぎ払われてラウンドシールドでガード
衝撃で吹き飛ばされるが、その勢いを飛行能力の推進力で相殺、空中で静止する
バリバリバリーーーー!
「----ッ!!」
俺が離れた瞬間、タルヤが雷属性投射魔法を直撃させる
やっとのことで大サソリが倒れた
「ラーズ、大丈夫?」
タルヤが俺に駆け寄る
「ああ、大丈夫だ。いざとなったらハンクが前に出るとはいえ、可能な限りリスクを下げたい。魔法を撃つなら同時に打ち込んで止めを刺してくれ」
「…ごめんなさい、私のミス…」
アーリヤが謝る
「いいさ、次は気を付けよう」
まだ、先は長い
一つの失敗をうじうじしても仕方がない
四階では、もう一回亀のような固いモンスターと戦い階段に到着した
地下三階層
最初の部屋でモンスターと遭遇
小型のクマ型モンスター、ムーンベアが三体だ
胸に三日月のような白い模様がある黒い熊
一メートル半ほどの、俺達より少し小さいくらいの体格だ
これって、普通のクマじゃないのか!?
だが、モンスターだろうが動物だろうが、クマに襲われれば普通に死ねる
「グガァァァッ!」
ムーンベアが襲い掛かる
流星錘の投擲、鼻面にストレート
横から耳にナイフを突き刺す
バチバチッ!
タルヤが雷属性投射魔法を連発し、残り二匹のムーンベアの動きを止める
ナイス!
走って、動きを止めているムーンベアにショートソードを突き刺す
欲を出すな
怪我を負わせて動きを止めろ
シャキーーーン!
アーリヤの冷属性範囲魔法が、負傷したムーンベアを仕留めて行く
…痛感する
ギガントの身体能力と、エスパーの魔法はやっぱり強力だ
ドラゴンも、準じた身体能力とサイキックや魔法力があるはずだが(俺には魔法力は無いが)、やはり威力が違う
ギガントが前衛にいれば、近づいた敵を確殺できる
ドラゴンの俺では、確殺に時間がかかるため、一対一の状態じゃないと止めまでは刺せない
…さぁ、やっと一対一だ
ヘルマンとの訓練の成果を試す
「グガァァァッ!」
四つ足で走って来るムーンベア
パターンが分かって来た
ムーンベアは、攻撃時には後足で立つか、四つ足で組み伏せて来るかのどちらかだ
間合いを調整して、後足で立たせる
正面から流星錘で攻撃
半歩下がり、また前に出て攻撃を誘う
「ガァァッ!」
ムーンベアが激昂して後足で立ち、爪を振り上げる
来たっ!
この瞬間、数少ないチャンスに確殺の攻撃を合わせる
武の呼吸だ
タックルのように沈み込み、右足のかかとから力を伝えて腕に繋げる
同時に、腰の回転背中の筋肉の力を乗せてショートソードを正拳突きのように突き出す
ゴッ!
首の骨を削りながら、ショートソードがムーンベアの首を貫通する
威力がしっかり乗って逃げなかった証拠だ
ショートソードを引き抜きながら、前蹴りでムーンベアの胸を蹴り出し、俺は間合いを取った
「…けがは無いか?」
「ないわ」 「…大丈夫」
タルヤとアーリヤが答える
俺はホッと息を吐く
神経が擦り切れそうだ
陽動をしながら、後衛が攻撃されないように位置取る
全ての攻撃を俺が受けて、その間に倒してもらう
普通にきついだろ
三階は戦闘が一回で済んだ
ラッキーだ
地下二階層
二つ目の部屋でアンデッドがうごめいていた
骸骨とゾンビ、そして浮遊霊のようなもの…
だが、浮遊霊は霊力が無ければ目に見えない
それなのに、俺の目で見えるということは、魔属性が蓄積した高位の存在、レイスだ
レイスがさっそく呪文を唱え始める
「…ラーズ、こっちに!」
アーリヤに呼ばれて後ろに下がる
アーリヤが耐魔法用の障壁魔法を構築する
ギャアァァァァァッ!!
亡者の鳴き声のような音が響き、魔属性範囲魔法が発動する
アーリヤが耐魔力魔法で魔法を相殺、タルヤがテレキネシスで精力を込めたナイフを投げつける
バシュッ!
ナイフを受けたレイスが弾け飛ぶ
スゲー、サイキックはアンデッドの霊体を破壊できるのか!
更に、アーリヤの冷属性魔法が骸骨たちを襲う
俺も前に出てアンデッドを倒していく
ショートソードを叩きつけ、流星錘を叩きつけ、ハイキックを叩き込む
数を減らし、エスパーの二人に向かうアンデッドを優先して倒していく
だが…
「きゃっ…!?」
タルヤの所にゾンビが一匹抜けた
俺も、タルヤもアーリヤも、疲労が出てきていた
集中力が切れてきていたのかもしれない
「くそっ…!」
さっき、フアンがやられたばかりだ
ゾクッ…
俺の背筋に冷たいものが走る
慌てて、ゾンビの攻撃を防ごうとすると…
ゴシャッ!
「げぺっ…」
ゾンビが鉄拳で潰される
ハンクがフォローに入ってくれていた
その後、残ったアンデッドを叩き潰して戦闘を終わらせる
「ハンク、ありがとう。接近を見逃しちゃって、危なかったわ」
タルヤがお礼を言っている
「すまなかった、俺が止められなかった…」
「そろそろ限界だ。疲労が溜まりすぎている、少し休め」
ハンクが言う
俺達は、少しの間休憩することになった
「フアンを連れて帰ってやりたい気持ちはある。だが、死のリスクを上げてまで遺体を運ぶのはどうかと思う」
俺は、愚痴を口にする
前衛が俺だけじゃ、やはり無理がある
決定力不足だ
強力な武器があるなら別だが、俺の腕ではモンスターを確殺できない
俺が引き留めている間に、魔法で数を減らしてもらうという方法しか取れない
前衛、後衛の消耗が激しすぎる
「ラーズ、お前の戦闘技術は大したものだな」
ハンクが言ってくる
「俺じゃ決定力不足だよ。ハンクの力が無いと、やっぱりモンスターとの戦闘はきつい」
「だが、采配と位置取りだけで全員がほぼ無傷だ。そして、モンスターを仕留めるときは仕留めている」
「俺は、ここに来る前は軍隊にいたからな。パーティ戦闘は経験があるんだよ」
「なるほどな…。お前とだったら、最下層まで行ける気がするよ」
ハンクがニヤリとする
こいつの笑う所、初めて見たな
地下一階層
「…ようやく、ここまで……」
アーリヤが呟く
「長かった…」
タルヤもいう
一階層に戻ってから、モンスターとの戦闘が三回
四階層や三階層に比べれば、モンスターの危険性は下がっているはず
もう最後だと気を緩んでから、俺達の集中力はすぐに戻らなかった
リザードマンに刺され、アーリヤが肩を負傷
邪妖精レッドキャップの矢でタルヤが足を負傷
大きいトカゲであるグラスリザードに噛みつかれ、俺が左腕を負傷
やっとの思いでダンジョンの出口まで戻って来たのだった
長かった…
誤字報告、ありがとうございます!
 




