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三章~7話 ダンジョンアタック一回目2

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


当たり前だが、ダンジョンは危険だ


そこは弱肉強食の世界、モンスター達は自分の縄張りを守る

俺達が侵入者という立場だ


戦場の危険性、人間との殺し合いとは違う

そして、訓練や選別のように終りもない

経験のない、終わりなき恐怖


たった二回のモンスターとの戦闘

それが一発でフアンの心を叩き折った


エスパーのエドとセリーヌも同じだ

心が折れてきている


落ち着いて戦えば、ドラゴンとエスパーの索敵、ギガントとドラゴンの攻撃力、エスパーの魔法があれば十分戦えるはずなのに…


ちっ…


俺は心の中で舌打ちをする

こいつらとじゃ、先には進めない


こうなったら、安全に帰ることに集中するしかない



「殺してやる…」

フアンが激昂して斧を握りしめる


「俺が勝ったら、お前ら全員、俺の指示に従ってもらう。いいな?」

俺が全員の顔を見回すと、エスパーの二人は頷いた



来いよ


俺は、指の動きでフアンを手招きする


「このっ…!」

フアンが斧を振り上げて斬りかかって来る


フアンの斧は鋭い

さすが、ここまで生き残ってきただけのことはある


だが、怒りに任せて襲い掛かってきた時点で隙だらけだ

下手投げで流星錘を投げつける



ガキッ


「甘いんだよ!」



斧で錘を防がれ、錘が上に弾かれた

俺はバックステップをしながら、今度を紐を振り下ろす


錘が上に弾かれたなら、今度は振り下ろせばいい

流星錘とはそういう武器だ



ゴッ!


「ぐぁっ…!」



フアンの頭に叩きつけられる錘


流血するが、ギガントはタフだ

まだ動けるんだろ?


流れるように、静かに接近

フアンの体を流すように後ろに回り込み、ナイフを首に当てる


「うぐっ…」

フアンが驚愕する


「終わりでいいか? 続けるならこのまま刺す」


「ま、まいった…! わかったよ…」

フアンが、両手を上げた



ふぅ…

とりあえずは終わりだ


後は、ダンジョンの入口まで無事に帰るだけだ

余計な仕事を増やしやがって…


「三人とも聞いてくれ。俺が提案するのは、全員が確実に生き残って帰れる方法だ」


「生き残る…?」

セリーヌが言う


「そうだ。ダンジョンで一番危険なのは、奇襲を受けること。俺の五感とセリーヌのテレパスの索敵は常に行う」


「わ、分かったわ」

セリーヌが頷く


「そして、戦闘だ。戦う時は俺とフアンが二人で前に出る。セリーヌは硬化魔法を俺達にかけてくれ。その後は、サイキックで近づかれた敵だけを攻撃すればいい」


「はい!」

セリーヌが、コクコクと頷いた


「そしてエド」


「ああ、俺はどうしたらいい?」


「フアンが戦っている敵の止めを頼む」


「フアンが戦っている敵?」


「そうだ。フアンが戦っている以外の敵は、俺が牽制して散らす。そうすれば、フアンに敵が集まりすぎることもない。エドは、フアンの相手を確実に減らしていってくれ」


「分かった」

エドが頷いた


「最後にフアン」


「…ああ」


「フアンは、防御役をやってもらうが、敵が集中しすぎないように俺が動く。エドも後ろからどんどん敵を減らしてくれる。仲間を信じて戦えば、変異体の俺達が苦戦することはあり得ない」


「わ、分かったよ…」

フアンが頷いた



一応、全員が納得

俺達は地下一階層を戻り始める


俺が軍の経験者だからか?

こんな当たり前の役割分担ができないとは思わなかった


変異体とはいえ、経験が無いとそう簡単には兵士になれないってことだ



「…敵よ。前の部屋」

セリーヌが声を出す


「…いるね。腐臭がする、多分アンデッドだ」


セリーヌがまじめに索敵をしてくれている


「俺が前に出て先制攻撃をする。その後下がるから、三人で迎撃態勢を取っておいてくれ」

部屋の入り口で指示


ライオンのような大きめのモンスターのゾンビ、骸骨が四体だ


中距離攻撃と機動力を持つ俺が前に出て敵を散らす



流星錘を投げつける


投擲は、やはり先手が取れる便利な攻撃方法だ



ライオンゾンビの頭に錘がめり込む

腐った肉が飛び散った


くそっ、錘に腐った肉が…



「…」


無言で動き出す骸骨とライオンゾンビをフアンたちの方に誘導


密集しないように、敵の横方向に陣取っておびき寄せる

ゲームで言うヘイトの分散ってやつか?


大型のライオンゾンビをフアンに任せる

エドの範囲魔法もあるから大丈夫だろう


仕留めるまでは、骸骨四体を俺が請け負う


錘をフレイルのように殴りつけて頭蓋骨を砕く

ヌンチャクのように、遠心力を保ったままの連続攻撃



ゴッ ガッ バキッ!


金属の錘とカルシウムの骨がぶつかれば、やはり錘の方が勝つ

二体の骸骨の骨をどんどん砕いていく


密集すれば、体捌きとフットワークで拳を叩き込む



「ラーズ、こっちは終わったそ!」

フアンの声


俺はすぐに反転して走り出す


陣形を取ったパーティでの対処がダンジョンの鉄則だ

逆に、陣形が崩れた時が全滅の危機となる



フアンの横まで来ると、エドが土属性投射魔法を、セリーヌがテレキネシスで岩を投擲

四体の骸骨のうち、壊れかけた二体を粉砕する


フアンが前に出て、一体を斧で叩き割る

俺もショートソードで首を叩き折り、戦闘が終了した



「やった!」

セリーヌが喜ぶ


「安定していたな」

エドが言う


「楽勝だぜ!」

フアンが笑う


お前ら、嬉しそうだな


「…全員が役割を果たせば当然の結果だ。俺達は変異体、戦闘力は高いんだからな」


俺の言葉に全員が頷いた

やっぱり、結果を出すことが一番の説得力だ


「さ、進もう。あと二部屋を通れば、ダンジョンの入口だ」



ダンジョンを出るまでは油断できない

遠足と同じだ




………




……







疲労が溜まっている

身体的ではなく、精神的な疲労だ


次の部屋は、セリーヌの索敵でモンスターを十体近く感知したため、別のルートから回ることにした


すると、三つの部屋を通ることになる


運良く、一つ目の部屋はモンスターはいなかかった



「ふぅ…」


俺達は少しだけ休むことにした



ダンジョンの部屋は、先客がいるとモンスターが入って来にくい

つまり、俺達が先客になれば、新たなモンスターが入ってきにくいのだ


まぁ、絶対に入って来ないというわけではないのが怖いところだが



お互いに口数が少なくなる


ここは、たかだか地下一階だ

一番モンスターが弱い階層のはずなのだ

それなのに、こんなに消耗してしまっている


()()()()()()()()()()()、それはとてつもなく危険な状態だ



「よし、そろそろ行こう」

俺は立ち上がって三人を促す


「…」 「…」 「…」

全員が無言だ


まずいな

精神的な疲労が溜まっている


集中力が切れなければいいけど…



二つ目の部屋


「…モンスターはいないわ!」

セリーヌが嬉しそうに言う


「やった!」

フアンが喜んでいる


これで、残りの部屋は一つ

もう少しだ…



三つ目の部屋


「…」

モンスターの獣臭がここまで流れてきている


「…モンスターが六、七体…くらい……」

セリーヌが、がっかりしたように言う


「…音の感じから、モンスターは大きくなさそうだ。ここを抜けよう」


俺の言葉に三人が頷いた



「ゴブリンだ」


俺が部屋の入口から中を除くと、小鬼と呼ばれるゴブリンが七体たむろしていた


部屋は薄暗いが、俺は夜目が効く


「武器を持っている。弓もいるな、厄介だ…」


遠距離攻撃は強い

俺が流星錘を選んだ理由は射程のアドバンテージだ


「どうやって戦うんだ?」

フアンが俺を見る


俺は別に立案役じゃないからな?


「俺が単独で入って攻撃、その後から三人で入って陣形を取る。そして、エドとセリーヌは遠距離攻撃で、最優先で弓を使うゴブリンを狙ってくれ」


「俺は?」

フアンが言う


「弓使いを仕留めるまでは、防御役に徹っする。その後は、攻撃に出てもゴブリン相手なら大丈夫だ」


ゴブリンは、戦闘ランクFの個体がほとんどだ

つまり、人間が素手でも戦えるモンスターってことだ

ただし、武器や防具を持っていることが多く、現実には人間も武器を持って戦う必要がある



俺が、先に部屋に入ってゴブリンに奇襲

流星錘で一匹を仕留める


近づいたゴブリンの頭をショートソードで叩き割る


入口を見ると、フアンたちがまだ入って来ない

一瞬、あいつらビビッて入らないつもりかよ! と、思ったが、その後すぐに入って来た


弓使いを魔法とテレキネシスの投擲で撃ち殺す


残り四匹を、俺とフアンで斬っていく



やはり、俺達変異体は強い

人間の力では、刃物でモンスターを切るという行為は簡単には出来ない

だが、俺達なら刃物で簡単に止めを刺せる



…ゴブリンを殲滅し、部屋を抜ける


「やった…!」

「出口よ!」

「帰りつけた…」


三人が口々に言う


ようやく、俺達は無事に入口にたどり着いたのだった



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