表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/394

三章~4話 基礎訓練終了

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


流星錘(りゅうせいすい):三メートルほどの紐の先に、細長い重りである錘が付いた武器。錘にはフックが付いており、引っかけることもできる


訓練、鬼ごっこ、殺戮、拷問…


訓練、殺戮、鬼ごっこ、拷問…


訓練、殺戮、拷問、鬼ごっこ…



「た、助けて…」


ゴギャッ…!



「うわあぁぁぁぁっ…!」


ドスッ…



「や、やめ…」


ゴッ!




今日も生き残った


…反比例して心死んでいく


覚醒した身体能力と五感、サイキック能力

無感動になっていく精神


俺はもう、普通の人間じゃない、強化人間だ


普通の人間とは基本性能が違う

簡単に壊せてしまう



「…」


流星錘とナイフを洗う



血が染み込んで落ちない


血だけじゃない、俺が手をかけてきた悲鳴や恐怖までもが染み込んでいるかのようだ


落ちない…


落ちない…


血が落ちない…



ステージ3の訓練は、ステージ2よりも難易度が低い


素人や怪我人など、止めを刺すための材料とされた者

ひたすら拷問を受ける訓練

Bランクの教官に追い回される訓練


死ぬ確率としては、武器の熟練者と戦わされていたステージ2の方が圧倒的に高かった



だが、心が折れそうだ


ひたすら止めを刺す


泣きわめこうが命乞いをしようが、止めを刺す



すまない


いつもこの言葉を飲み込む


俺はこんな所では死ねない


謝ったって、やることは変わらない



「…」


淡々と、ただ手を汚していく




拷問と殺戮


拷問で心を折り、残虐性を増させる

従順な犬となり、言われたことを狂気のように実行させるためだ



「…拷問にも慣れてきたようだな」

トラビス教官が言う


「はい。爪を剥がされようが、骨を折られようが、肉を削がれようが、もう声一つ上げません」

拷問を担当する小男が自慢気に言う


「今期こそ、ダンジョンの制覇者が出るといいが…」


「鉄拳とアイアンメイデンはギガントとエスパーの理想形です。ダンジョン制覇に最も近いでしょう」


「あの二人は確かに突出している。だが、ドラゴンタイプに目ぼしい者がいないな」


「あっしはトリッガードラゴンに目を付けていますが」


「あいつは止めを刺す時に心を乱している。戦場では致命的だ」


「…エスパーのE111、タルヤといいましたか。あの者もなかなか…」


「ふむ…そうか。ダンジョンに入る前に二つ名を考えておくか」


「商品には二つ名がないと格好が付きませんものな。へっへ…」




・・・・・・




ステージ3の訓練は、努力するべきことがない


俺より弱い者を殺す、そして拷問に耐える

この二点が主な内容だ


…全てに無感動になっていく


その合間に戦闘訓練を受けるが、正直ヘルマンから習った内容の方が濃い




トラビス教官が被検体を集めた


「…これより、お前達に試験を課す。この試験で生き残ればダンジョンに入る権利を与える。つまり、基礎訓練は終了だ」


「や、やった…!」

「終われるのか!?」

「やっと…」


被験体達が口々に言う

基礎訓練の終了、それは今の俺達の最大の望みだ


「試験とは戦闘、訓練場の敵を全滅させれば終了だ。油断せずに挑め」

そう言って、被験体達が一人づつ指定されていった


「やっと、この拷問から解放されるのか…」

「拷問の憂さ晴らしに、止めを刺す前に痛ぶってやるか」

「俺は手足をもぎ取って死ぬまで眺めてたぜ」


待っている間の被験体達の会話


…反吐が出る


倫理観なんて大層なものじゃない、ただ()()()()()()()だけの会話だ



その行為に打算があるのかね?


軍時代、デモトス先生に言われた言葉

怒りに任せて動いてしまった時に言われた言葉だ


俺は打算で動く


意味を考える



この環境に流されるな


人間性を捨てるな


意味があるならする、意味がないならしない


自分を特別な人間と勘違いするな


何をしてもいい人間なんていない



…最初に入った被験体が()()()()()()()()


「ーーーっ!?」



全員がその姿を見て固まる

連れ出されたドラゴンタイプは、身体中に何発もの銃弾を受けていた



「ちっ…、こいつは拷問部屋からやり直しだ」

トラビス教官が、回復魔法をかけながら舌打ちをする


「次、入れ!」



トラビス教官の指示で、次の被験体が訓練場に入っていった




………




……







次々と被験体が入っていくが、自力で出てこれたのは一人だ

その被験体も、火属性魔法を受けて重度の火傷を負ったギリギリの勝利だった



「次、入れ!」

トラビス教官の声が響く



俺の番だ


訓練場に入っていく



被験体がこれだけやられているなら、いつものような殺されるために用意された敵ではない


静かに呼吸をする

障害物に身を隠し、周囲の状況を伺う



「…」


何かが動く音

等間隔で詰めてくる


訓練された部隊だ



なんとなくの位置を把握


各個撃破していかないと殺られる



気配を全力で感じる

具体的には、音が一番の情報源だ


小石を投げて音の誘導


飛び出す



「…っ!?」


アサルトライフルを構えた男が小石の飛んだ方向を見ていた



流星錘を投げつける



ドシュッ


「がふっ…!」



喉に錘が突き刺さる

一気に距離を詰めて、首を捻り折った



アサルトライフルを拾おうとするが、すぐそこに足音


俺は高い壁のような障害物で身を隠す



二人目が、倒れている一人目に近寄る

俺は流星錘を壁の上に引っ掻けて、紐を引きながら飛び越える


上からの攻撃に人間は弱い

意識が向きにくいからだ


慌てて銃口を向けようとするが、俺の方が早い



近接戦闘


銃口を弾きながら着地


同時に左ローキック



この接触で仕留める


逃がせば銃で攻撃される


俺の唯一のチャンスだ



右拳で金的


右肘を掴んで捻り上げる


顎を掴んで後頭部から落とす大外刈り



「…」


これが武の呼吸…



銃や杖を持つ敵が相手だと、改めて理解ができる


一瞬の勝負、一回の接触で仕留められなければ撃たれて殺される


チャンスの重さの違い、そしてチャンスを逃したときの死のリスク

これが格闘との差だ


格闘技では、ペース配分が重要だ

逆に武術では、一回の攻防にどれだけ力を注ぎ込めるかが重要になる


どちらかが上ではない、使い方と勝つ条件の差だ



三人目


障害物の上によじ登り、上からのかかと落としで頭蓋骨を叩き割る



ドガガガガッ


弾丸を避けて姿を隠す



シャキキーーーーーン!


冷属性範囲魔法(小)から体を外す



…後三人か?


回り込んでくる



躱す


隠れる




「ぐっ…!」


弾丸が二発、右腕を抉る



範囲魔法で出足を止められる


気が付いたら訓練場の角だ



「くそっ…、追い込まれたか!」


こいつら慣れている!



一番近い障害物に隠れる

とりあえず銃弾から身を隠す


だが…



シャキーーーーン!


「ぐあぁぁっ!」



冷属性範囲魔法が左半身と接触

範囲魔法の真骨頂、障害物を無視しての範囲攻撃だ


同時に、アサルトライフル持ちが突っ込んでくる

勝負に出たか…



このままでは殺される


俺も勝負に出る


一瞬でアサルトライフル持ちを殺せなければゲームオーバー、残り二人の攻撃で死ねる



武の呼吸


命を対価に生を掴みとる


高密度な殺意と必殺攻撃



「ーーーっ!!」


意識が引っ張られる



この感覚、俺のトリガーだ


身を任せるな、勝手にトリガーを引かせるな


手綱は俺が握るんだ



走る


跳ぶ


壁を蹴っての三角飛び



「…っ!?」


俺の動きにアサルトライフルの銃口が遅れる



…充分だ


空中で流星錘を投擲


突っ込んで紐を首に絡める



「がは………!!」


背中に回り込んで背負い、首を折る



そのまま、アサルトライフル持ちを障害物の影に引きずり込む

仲間が生きているかもしれない、お前らは攻撃できるか?


俺はやることをやる、そして生き残る

それが俺の打算だ




杖持ちと銃持ちが、警戒しながら障害物の裏に回って来た


二人が仲間に近づく



「うあっ…!」 「なっ!」


仲間に突き刺されたアサルトライフル



一瞬、動きを止める二人


目を引くだろ?

その瞬間を狙っていたんだ


ナイフで突進

トリガーを引いた状態の俺は早い


杖持ちの喉を掻っ切り、そのナイフを銃持ちに投げつける



「ひっ…!」


銃持ちが怯えるが、もう遅い



ナイフを弾いた時には、俺はすでに近接戦闘の距離に到達している

つまり、俺の距離だ


銃を掴んで手首を捻るように反転、銃口を持ち主に向ける



ドンッ…!



脳天を撃ち抜いた




・・・・・・




「この班では、お前が一抜けだな」

トラビス教官が笑顔で俺を迎えた


「一抜け?」


「お前の基礎訓練は終わりだ。次から実戦訓練、ダンジョンアタックに移る」


「…」


俺は毒されていく


生き残る、死ねない、それは間違いない

だが、生き残れば生き残るほど、人間性が壊されていく


感情が薄くなっていく

全ての物事を淡々とこなしている自分がいる


…もう、手を汚すことも、何も感じなくなるのかもしれない



「D03、ラーズ。トリッガードラゴン」


「…はい?」


トラビス教官が俺を呼び止める


「私は、お前のトリガーを再評価した」


「…」


「トリガーが入れば、お前は殺戮者となる。全ての感情を殺意に向け、絶対にしとめるという意思を感じた。本来、ゲリラ戦を想定した強化兵には不向きなものなのだがな」


「俺は不合格ですか?」


「まさか。お前には強化兵としての適正がある」


「強化兵…」


「兵士に最後に残る武器は、膂力でも速さでも、魔法の技能でもない」


「…」


「…殺意こそが最大の武器だ。躊躇せず、甘さを捨てて殺意に従え。ダンジョンでの活躍を期待している」


そう言って、トラビス教官は訓練場に戻っていった


その後ろ姿を見て思う


トラビス教官…、お前も殺意の対象だ

俺が力を得たら真っ先に殺してやる


俺は返り血を浴びた体を引きずりながら、シャワー室に向かった




デモトス先生

二章~27話 ナノマシンシステム 参照


明日は閑話、その後にダンジョンアタック開始です(やっと)

もったいぶったわけじゃなく、基礎訓練が必要な要素でして…(言い訳)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ