三章~2話 基礎訓練1
用語説明w
ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴
ギガントタイプ:身体能力に特化した変異体。平均身長2,5メートルほど、怪力や再生能力、皮膚の硬化、スタミナの強化、高い免疫、消化能力を獲得
エスパータイプ:脳力に特化した変異体。サイキック能力とテレパスを含めた感覚器が発達し、脳を巨大化させるため額から上の頭骨が常人より伸びる
流星錘:三メートルほどの紐の先に、細長い重りである錘が付いた武器。錘にはフックが付いており、引っかけることもできる
基礎訓練が始まった
被験体が運動場に集められている
嬉しいことに、初日はタルヤと一緒だった
「ラーズ、一緒なのね! 嬉しい」
「うん、がんばろう」
トラビス教官が前に立つ
「これから、基礎訓練を行う! 内容は、戦闘訓練、鬼ごっこ、忍耐訓練だ! 基礎訓練を早く終えたい者は、努力を惜しまないことだ!」
…嫌に、基礎訓練で脅してくるな
そんなにやべー訓練なのか?
あと鬼ごっこって何?
最初は戦闘訓練
まずは武器術からだ
俺達は自分の得意武器を申告し、それぞれに武器の指導者が付く
最初はナイフ術だ
ザシュッ…
ガキッ
シュッ!
うん、ヘルマンの技のキレを知っているため、指導者のナイフがよく見える
圧勝はできないが、対等には戦える
「やるな、D03…」
「どうも」
俺のナイフ術は評価が高かったのか、初日で卒業になってしまった
もっとやりたかったのに…
そして、流星錘
これはマイナーな武器のためか指導者がいなかった
だが、被検体の中に得意な者がいたため、習うことになった
「G21、ウィルだ。俺の鉄球を教えろって言われた」
「鉄球って、それか?」
ギガントのウィルが持っているのは、鎖の先に付けられた直径五十センチメートルほどの棘付き鉄球だった
「オラァッ!」
ゴガァッ!
コンクリートの塊を粉砕する鉄球
破壊力がありすぎて、俺の流星錘とはもはや全く別の武器だ
「投げつける最中に鎖を動かせば、ある程度軌道を制御できる。試してみろ」
「こうか?」
投げつけた流星錘の紐を揺らすと、錘の軌道がぶれる
「避けられると思っても、紐の動きでリカバーできることもある。引き戻す時も、一直線だけでなく軌道をぶらせば攻撃に変化させることもできる」
「なるほど…」
意外と流星錘との共通点があった
戦闘訓練は近接武器や徒手格闘、そしてサイキックにも及ぶ
テレキネシス、テレパスの発動訓練
「精力を常に意識しろ。サイキックを何に働かせるのか、対象と目的を意識しろ!」
サイキッカーの指導者が言う
俺は言われた通り、テレパスを使っての精力の位置把握、目に精力を纏わせて視覚的に精力を見る透視などを訓練する
ドラゴンタイプは、エスパータイプに次ぐサイキック能力を持っている
それなりに使えるようになるはずだ
そして、テレキネシスの訓練
物を持ち上げる訓練、保持する訓練、運動エネルギーを与えて投げつける訓練
そして、近接武器にテレキネシスのエネルギーを纏わせて、弾くような衝撃を作り出す訓練
この衝撃を近接武器に纏わせることが出来れば、全ての近接武器の威力が上がる
…軍時代を思い出す
俺は、特殊な大剣を使っていた
特殊というのは、パイルバンカー機構を組み込んだ近接武器だったからだ
そして、更にテレキネシスの衝撃を圧縮してパイルバンカーに重ねるという使い方をしていた
この衝撃を乗せられれば、高威力の攻撃となるはずだ
…ステージ3
俺は思いの他、充実していることに気が付いた
今までのステージ1、2は、意味の分からない選別という名の殺し合いがメインだった
生き残るため、力を得るためにできることは自主練だけ
結果的に、ヘルマンやタルヤと出会えたことでいろいろなことを学ぶことができたが…
だが、やっと変異体の力を生かせる技術を学ぶことができている
選別に時間を取られることなく、集中して技術を学べているのだ
変異体の強化兵は、各国が躍起になって探している強化人間だ
なぜ、変異体の価値がこれほど高いのか?
それは、闘氣の性質による
闘氣は技術であり、使いこなせば使いこなすほど能力に磨きがかかる
その能力とは、対象を包むことで強化することだ
例えば、人体を闘氣で包めばその能力が強化される
防御力が格段に上がり、闘氣がバリアのように働く
そして、筋力と骨格が強化され、凄まじい力と耐久力を発揮するようになる
戦車を素手で引きちぎり、砲弾を受け止めても無傷であるような超人になるのだ
更に、武器や防具を闘氣で包むことでその硬度が跳ね上がり、更に闘氣がバリアのように働き傷一つつかなくなる
この効果は闘氣の発動者と接していることが必要で、必然的に近接武器を選ぶ闘氣使いが増えていく
「次は魔法訓練だ! 魔法技能を持つ者は隣の訓練場に移動しろ! それ以外は鬼ごっこを始める!」
トラビス教官の指示が飛ぶ
「ラーズ、またね」
タルヤが魔法訓練の方に向かう
「ああ、タルヤ。お互い頑張ろう」
タルヤは魔法が使えるのか
いいなぁ…
さて、俺は鬼ごっこと呼ばれる訓練か
アスレチック場のような場所を全力で駆け回るパルクールを行う
要は、鬼から逃げる鬼ごっこをする訓練で、駆け引きと高度な身体操法が必要だ
この鬼ごっこは、全般的に動きが速いドラゴンタイプが活躍している
ステージ3のドラゴンタイプは、半数以上が飛行能力に目覚めているようだ
…なぜ、変異体が必要とされるのか
それは、闘氣の性質が倍率という言葉で表現されることに起因する
変異体の身体能力は一般人の五倍に近い
そして、闘氣を極めた者は、時に百倍近く身体能力を上げることもあるという
闘氣を使う者とは、トラビス教官のようなBランクの戦闘員だ
一般人に対して、五倍の身体能力を誇る変異体
一般人に対して、百倍に身体能力を上げるBランク
勝負をすれば、当然Bランクの戦闘員が勝つ
…だが、もしこの変異体が闘氣を身につけたらどうなるだろうか?
一般人の五倍の身体能力をを持つ変異体が、百倍に身体能力を上げる闘氣を使う
1 × 5倍 × 100倍 = 500 となり、
通常のBランクの五倍近い性能を持つ、強力なBランクが出来上がることが理由だ
トラビス教官が訓練場に入って来た
…そして、俺はここで基礎訓練の過酷さを理解した
この訓練はクソだ、この施設はやっぱりクソだった
何が充実しているだ、ふざけるな
基礎訓練とは、地獄と同じ意味だった
「…空気が緩んでいるな。少し気合いを入れてやろう」
そう言うと、トラビス教官はサーベルを抜いて闘氣を纏った
ゾクッ…!
訓練場にいる被検体の顔色が同時に変わる
闘氣を発動したという危険性、闘氣から感じるプレッシャー
「うわあぁぁぁぁっ!」
「ぎゃあぁぁぁっ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
超スピード、超反応で、トラビス教官が次々と被検体を切り裂いていく
死なない程度に、しかし、かなり痛い斬り方をする
「ぎゃあっ…、め、目が…!」
「ぐあぁぁっ、俺の腕がぁぁぁぁぁ!」
血まみれになりながら、必死に逃げまどう被検体
この時間が延々と続いた
………
……
…
切り裂いては回復魔法で回復され、また追いかけては切り裂かれる
悪夢のような時間がやっと終わった
十人ほどいる被検体は、全員が血まみれで息も絶え絶えだ
「…よし、最後は忍耐訓練に移る」
トラビス教官が、俺達を訓練場から連れ出した
「お前達は強化兵士の卵だ。常に実戦を想定した訓練を行う必要がある」
俺たちが連れて行かれた場所は、パーティションで仕切られ、中に歯医者で使うような長椅子が並べられている場所だった
全員が長椅子に座らされて、しばらく待っていると…
ガチャッ
「…っ!?」
俺達の首に鉄の輪が取り付けられ、椅子から動けなくされる
「なっ、何をする…!」
もっともな疑問を口にする被検体を無視して、白衣の担当者が俺達の足や手などを拘束していく
「今から行う想定は、お前達が敵に捕まった時の訓練だ。しっかり学ぶように」
そう言って、トラビス教官が無表情で言う
悲惨だった
地獄だった
基礎訓練の卒業を必死に願う、その理由が分かった
「ーーーっ!!」
この施設は、やっぱりとんでもない場所だ
頭のおかしい場所だ
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
…訓練内容は、拷問に耐性を付ける訓練だ
拘束された状態で殴られる
鞭で皮膚を破られる
焼けた鉄を押し付けられる
体中に穴を空けられる
爪の間に針を突き刺される
歯を抜かれる
耳を千切られる
指を切り取られる
電流を流される
「…ぁぁぁぁぁぁ………!!」
…心が壊れて行く
ここは地獄だ
地獄で生き抜くには?
地獄を知っておけばいい
あの光景を思い出せ
絶望と怒りで心を満たせ
俺は、もう地獄を知っている
感情を爆発させろ、恨め、呪え!
こいつらにも地獄を見せてやる
こいつら全員、絶対に…!