一章~4話 人体実験
用語説明w
魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと
この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」
変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある
検査室に行くように命令された
「ここに座れ」
研究者に言われて、俺は椅子に座る
ガチャッ…
「…っ!?」
すると、俺の足と手がベルトで拘束される
「な、何を…」
「検査したところ、お前の脳は精力を纏っていることが分かった。お前はサイキッカーなのか?」
「…一応、テレキネシスに発現していました。だけど、かなり弱く…」
「テレキネシスか、分かった」
研究者が俺の言葉を遮って頷く
テレキネシスとは、サイキックの一種だ
精神の力である精力を物理的な力に変える
正確には、物体に運動エネルギーを与える能力だ
俺は、軍に入ってからサイキック能力が発現した
軍の怪しい薬と戦場のストレスが原因らしいのだが、真偽は定かではない
…だが、俺のテレキネシスは力が弱く、軽いものを浮かすのが限界だった
重いものを持ったり、物に運動エネルギーを与えて投げつけるなんてこともできなかった
それでも、サイキッカーは希少であり、俺の数少ないアイデンティティーだ
「これから、お前の強制進化を促進するための処置を行う」
そう言うと、研究者たちが何人かで電極のようなものを俺に取り付けていく
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
突然、体に走る電流
激痛が体を駆け巡る
「魔素の注入を開始しろ」
「魔素の注入開始」
痛みで叫んでいる俺の口にマスクのようなものが取り付けられる
そこから気体が噴き出しており、吸い込んだとたんに吐き気と頭痛が始まる
「-------っ!!」
もう声も出せない
それでも、何かをしようと唯一自由な頭を振る
痛い
苦しい
熱い
やめろ!
止めろ…!
ヤメロ…!!
どのくらい悶えていたのか分からない
こんなのただの拷問だ
…ようやく解放されたときは、疲労困憊でもう指一本動かせなかった
だが、研究者達は、マスクだけ外して手足の拘束は外さない
動けない俺の頭に電極を付け、ヘルメットみたいなものをかぶせる
電極にはコードが付いているようで、それぞれがお札のようなものに接続されている
あれは霊札か?
そうだとしたら、霊力を封印した札だ
「サイキックの計測準備完了です」
「霊力の出力準備完了です」
まだやる気か…
ふざけるな、もうやめてくれ…
抗議の声を上げたいが、疲労で声が出ない
そして、出したとしてもこいつらは止めないだろう
抵抗する気力が出ない
「おい、D03! これよりサイキックの誘導実験を行う。霊力でお前の霊体の頭部に干渉するため、かなりの苦痛を受けるはずだ。だが、精力を出せるなら、霊力を押し戻せるため苦痛を和らげる、出来る限り放出し続けろ」
「サイキック…!?」
そもそもサイキックとは
脳の力で、精神の力である精力を操る能力だ
物理的な力に変換するテレキネシス、思念や情報を読み取るテレパスの二種類がある
変異体のエスパーとドラゴンタイプはこのサイキック能力を得意としている
エスパーは強力なテレキネシスやテレパスとして、ドラゴンは多少のテレパスとテレキネシス、そして背中の触手にテレキネシスを通して浮遊することができる…らしい
俺を少し休ませると、研究者が立ち上がった
「よし、始めるぞ」
「了解、霊力を注入します」
研究者が、電極に繋がった霊札を発動
「があぁぁぁ…が……っ!!」
頭が急激に重くなる
鉄でも入れられたかと思うくらいの何かが頭に入って来る
霊力が無理やり俺の霊体に干渉
急激に激痛に変わった
声が出せないほどの痛み
霊体と肉体は相互に影響し合うため、肉体も凄まじい激痛を感じている
「ぐうぅぅぅっ…!!」
必死にテレキネシスを発動、精力を頭に纏う
「くっ…!」
激痛が少しだけ弱まる
だが、重たい何かがすぐに迫って来て、俺の精力を押し込んでくる
ダメだ…抑えきれな…い…
「があぁぁぁぁっ!!」
また激痛
そして、五感が暴走、感覚が体から抜けてどこかへ旅に出る
血の匂いがする
鉄の臭いがする
腐臭、焼けた肉の臭い、火薬の臭い
…これは戦場だ
肌に生暖かい血をぶっかけられる
鋭い痛みと高熱
泣き叫ぶ声
断末魔
呪詛
口の中に砂の味がする
砂に混じった血の味もだ
不意に目の前が真っ暗になる
…ここはどこだ?
辺りを見回す
誰かがいる
一人じゃない
全員が俺を見ている
顔が見えない
服装も分からない
影のような真っ暗なシルエット
それが、真っ暗闇の中に浮かんでいる
お前は誰だ?
戦場で殺してきた奴か?
失った仲間達か?
大崩壊に巻き込まれた一般人か?
…これは罰なのか
仲間を守れもせず、俺だけが生き残ったから
どこかで、俺はこの苦痛を受け入れていたのかもしれない
俺は、許されない
俺は、苦しまなければいけない
「…っ!?」
突然、目の前が明るくなる
どうやら、気絶していたようだ
俺の視界には、今の霊力の注入の影響か、意味不明の文様や何かのシルエット、幾何学模様現れては消えていく
これは現実か?
俺の顔を覗き込む研究者の顔が、幾何学模様に覆われている
研究者は何も言わずに拘束を外し、何かの点滴を俺の腕に刺した
体がピクリとも動かせない
凄まじい倦怠感が俺を襲っている
白衣の魚人の研究者が、俺の体温を計っている
「…」
どうでもいいが、ここの研究者にもいろいろな人種がいることに気が付いた
人種
ペアでは、ウルとギアのそれぞれに由来する人種が存在する
ギア由来の人種は一種類、ノーマンだ
ノーマンとは、いわゆる普通の人間のこと
特徴のないことが特徴だ
そして、ウル由来の人種は七種類
・獣人、獣のような耳を持ち、尻尾を持つ者も
・竜人、ドラゴンのような角を持ち、尻尾を持つ者も
・魚人、魚のヒレのような耳を持ち、水かきがある者も
・エルフ、とがった大きな耳を持つ
・ドワーフ、筋肉質で背が比較的小さい
・神族、霊体の頭に光輪を持つ
・魔族、羊のような角を持ち、尻尾がある者も
人体の特徴はこのようになっており、八種類とも交配が可能で子供はどちらかの特性を引き継ぐ
ちなみに俺は、竜人の父とハーフエルフの母を持ち、基本的には竜人の特性を引き継いでいるが耳はハーフエルフのようにとがっている
大昔は、文化や民族の違いで戦争もあったらしい
だが、現在の国家では全ての人種が住んでおり、差別や偏見などは少なくなった
だが、完全には無くなっていないのが現状だ
特にギア全土にいた数の多いノーマンの中には、未だに古臭いノーマン至上主義の者もいるらしい
ちなみに、変異体因子の覚醒率と人種との因果関係は認められていない
「…どうだ?」
「精力の数値はなかなかでした。元からサイキッカーというのは嘘ではないようですね」
「欲を言うなら、もう少し強制進化を早めたいところだがな…。選別を続けながら様子を見るしかないか」
「D03の強制進化はまだ始まったばかりですから、試行回数を増やすしかないですね」
…点滴の最中、研究者達が何かを話し合っている
いや、ふざけるなよ!
こんな人体実験をまたやるつもりなのか!?
「…あ……!?」
文句を言おうとするとが、体が動かない
口も動かない
な、何を点滴されたんだ…
その様子を見て、俺は車いすに乗せられて個室まで運ばれた
「明日はまた選別だ。生き残りたければ、しっかり寝てコンディションを整えておくんだな」
俺を運んできた研究者が言う
「…」
こ、こんな状態で、また選別…
あの殺し合いをさせられるのか…?
いったい、あの殺し合いに何の意味があるんだ…
前回の選別
突然、言いようのない恐怖を感じた
俺の中で恐怖を巻き散らした何か
…あれはいったい何だったんだ?
あいつが、また出て来るかもしれない
俺は、そんな状態で戦えるのか?
…
選別の恐怖を感じながら、俺の意識は闇に沈んで行った
明日は閑話です
※閑話は、基本的にはラーズ以外が主人公の話となります