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二章~33話 飛行能力

用語説明w

サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス


ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた

タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っている


「ヘルマン、体調は大丈夫ですか?」


「…なんとかな。だが、一応診療室に行ってくる」


ヘルマンの顔色は悪い

やはり、無理して選別に参加させない方が良かったのかもしれない


「私も一緒に行くわ」

タルヤがヘルマンに言う


「大丈夫だ。今日は二人で簡単な訓練をしてステージ3に備えろ。やりすぎないようにな」

そう言って、ヘルマンは診療室に向かって行った



「…ヘルマン、体調は大丈夫なのかしら」


「そもそも不調の原因って何なんだろう?」


俺達は話しながら運動場に入る


ステージ3に行ける

それは嬉しい


だが、情報が足りない

生き残る術も足りない

アイデアと努力が必要だ


最初は、それぞれが足りない部分の訓練をする


具体的には、俺はテレキネシスの訓練だ

そろそろ、サードハンドをまた実戦で使えるようになりたい

自信が無いため、使うのを躊躇してしまっている



そして、タルヤはナイフ術だ


喉、内もも、股間、脇、太い血管を狙う

タルヤに必要なのは、ナイフ術の腕じゃない

必要な時に、必要な場所にナイフを刺せる技術だ


ナイフ複数本を同時に操るテレキネシス

その隙に、手で持ったナイフの攻撃

タルヤの能力を最も生かせるスタイルだ


タルヤは、仮想の敵に対して攻撃を繰り出す

自分の体に技をインストールする方法として、シャドーボクシングや型などの練習方法ほど高率のいいものはない

反復練習は自分を裏切らない



俺も、ナイフと流星錘を取り出して、的に向って攻撃

サードハンドを使って、浮かせた武器を交換しながら連続で攻撃を出していく



錘の投擲


ナイフに持ち替えて振る


錘にサードハンドを使って引き寄せる


紐を短く持っての振り下ろしの打撃



サードハンドは、要は少し遠くに届く三本目の腕だ

錘にサードハンドを使うことで位置を調整し、紐を巻き付かせる捕縛などに移行もできる



「ラーズ、テレキネシスが安定して使えるようになったわね。そろそろ飛行能力を試してみたら?」

タルヤが水を飲みながら声をかけてきた


「飛行能力?」


ドラゴンタイプの特徴である、背中の触手

ピンと張るとドラゴンの翼のようにも見える

この触手はサイキックとの親和性が高く、テレキネシスの運動エネルギーを減衰なく受けることができる


サイキックが強力なエスパーであれば、自身の体に浮力を発生させて多少は浮遊することができるが、ドラゴンタイプのように自由自在に飛行することは難しい


もっとも、サイキックと親和性の高い材質を体に纏うことで、ドラゴンと同様の飛行能力を得ることはできる

これはサイキック用の飛行ユニットとして、すでに実用化されている技術だ



「背中の触手も、自由に使えるんでしょ?」

タルヤが、俺の背中の触手を指す


「使えるとは言っても、張るか張らないかってだけだけどね」


俺は力を入れて、背中の触手をピンと張った

要は勃起だ


俺は、精神を集中

精力(じんりょく)の腕を背中の触手に働かせ…いや、違う


精力(じんりょく)が、背中の触手にどんどん吸い込まれていく

触手内で精力(じんりょく)の密度が上がっていくのだ

背中の触手はサイキックの親和性が高くなっているらしいが、これのことか


テレキネシスでは、ナイフを重力に逆らう方向に動かす力を作り出す

同様に触手に溜めた精力(じんりょく)でテレキネシスを発生させて、重力と逆らう方向に力を…



ググッ…


「うわっ!?」



背中の触手に引っ張られるように、俺の背中が空中に引き上げられる


「ラーズ、浮いているわ!」


「あ、ああ…、だけど…」


浮力は働いている

だけど、左右前後にぶれて全然バランスが取れない


「テレキネシスの出力は充分ね。後は練習すればうまく飛べるようになるんじゃないかしら」


「前にヘルマンが見せてくれた飛行能力は、こんなにぶれてなかったと思うんだけどな…」


ステージ1でヘルマンがやっていた飛行能力

立った状態で、そのまま浮いていた

今の俺は、下手すると頭が下を向いてしまうくらいバランスが悪い


「ヘルマンはテレキネシスの出力が低かったからだと思うわ。ラーズはテレキネシスの出力が上がって、まだ持て余している状態ね」

タルヤが俺の精力(じんりょく)を観察する


「…確かに、いきなり飛べるようになるわけないか」


素直に反復練習するしかない


サイキックの飛行能力は、ドラゴンタイプに高機動力を与える

それは、ホバーブーツとは種類の違う機動力だ


俺は、飛行ユニットを使う女性兵士…、かつての仲間を思い浮かべる

あの人のように、いつか俺も自由に飛べるのだろうか?




・・・・・・




タルヤと戦闘術の組手、サイキックの訓練を行った

訓練を終えると、タルヤが深刻な表情で言う


「ラーズ…。私、最近怖いの」


「え、何が? 選別?」


「もちろん選別も怖いんだけど…。私が怖いのは、選別で変わっていく私たちのことよ」


「変わっていく?」


タルヤが頷く


「ラーズ…、最近殺すことに躊躇いが無くなってない?」


「え…」


「それどころか、嬉々として戦っているようにも見えるの。残虐な方法も平気で使うし」


「…」


「でも、それで私はラーズに助けてもらっている。それが悪いなんて言うつもりはない。でも…どうしたらいいのかも分からないけど…」



…タルヤの言いたいことは分かる


確かに、いつから俺は殺すことに疑問を持たなくなった?


殺し合いに慣れてしまう

それは恐ろしいことだ

ステージ1、2と進むにつれて、俺は染まってしまったのかもしれない



…だが、俺は生き抜かなければならない

そして、戦う術を身につけなければいけない


変異体の体を使いこなし、効率よく敵を破壊できる術を身につける

これが、ここで生き抜く最低条件だ


俺の目標は、ここを出る事だけじゃない

その先の、ぶっ潰すべき対象を見据える必要がある


「タルヤ。…俺は、後悔は生き残ってからしようと思う」


「…」


「まず、生き抜くこと。そして、タルヤ、へルマンとこの施設を出ること。そのためなら俺は何でもする。…絶対に生きてこの施設を出よう」


「…うん」


失った後に後悔したって何も変えられないから

それが分かっているから


最優先目標は生き残ること

それは変わらない

三人で生きてこの施設を出る


俺は、少し泣きそうになっているタルヤを部屋まで送った


「一緒にシャワー浴びる?」

タルヤが、いたずらっぽく俺を振り返る


「二人も入れないだろ…」


すぐに、いつも通りに戻ってくれてよかった

…空元気だったとしても


俺も自分の個室に戻り、シャワーを浴びてベッドに横になる


ヘルマンは大丈夫だろうか?



「…?」

左手に違和感がある


ナノマシンシステムが動いているのか?

左の肩の当たりが疼くような感覚だ


見てみると、肩の部分にナノマシン群の層のようなものが浮き出ている


何だ?

この感じ、完全にナノマシンシステムが起動している


肩に触れていた壁の漆喰に反応しているように見える

もしかして、ナノマシン群の素材として取り込んでいる?


俺は、横になりながら、左の肩を壁に押し付けて見る



カリカリカリ…



左肩のナノマシン群の層が動き続ける音がする

うん、よくわからんが、これを続ければナノマシンシステムがいつか完全に復活するんだろうか?



コンコン


「はい?」



ノックされ、ドアが開く

入って来たのはタルヤだった


「タルヤ、どうしたの?」

タルヤが涙を流している


「ヘルマンが…」


「ヘルマンが?」


「危篤だって…」


「え!?」




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