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二章~29話 注射対策

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。ラーズの身体導入されているが、現在は停止措置を施されている


トマホーク使いは事切れていた


左右の足さばきで、俺は倒れそうになるトマホーク使いを拳で倒れないように打ち続けたていた

無意識のうちに、理解した武の呼吸で自分の体の動きを試し続けていた


武術の片鱗が見えた…気がする

一段…、いや、十段くらい階段をか駆け上がった感覚


今まで身につけてきたと思っていた物を、もう一度発見できたような…

凄まじい量の気付きがあったような…

でも、たった一つの発見のような…


不思議な感覚だ


俺の戦闘術は通用していなかった

斬られ、怪我をし続けた


何か悪いのかが分からず、改善方法が見いだせない

…苦しかった


毎回、変異体の身体能力でなんとか勝ち残れていただけだった



今回、この攻撃を止めなければタルヤを殺される状況

このコンタクトで勝負を決めるという、賭けに近い勝負

…今までのとは、覚悟と集中力の密度が違った


武術とは、人を壊す術

そして、自分が壊されそうな状況から生き残る技術だ


武の呼吸

それは、要は()()()()()()()()()()()()()



覚悟


武術における戦いは一撃必殺の撃ち合いだ

拳銃を突きつけ合うのと同じ、一発も受けられない戦い


攻撃を外せば死、攻撃を受ければ死

命を賭けて、相手を仕留めるための攻撃を繰り出す

()()()()()()()()


この攻撃で絶対に仕留めるという覚悟

武術特有の、生死を賭けた覚悟だ


…この覚悟の違い

簡単なようだが、これは近接戦闘という実戦を経験しなければ理解できなかった


銃や魔法などの兵器を使った軍での遠距離戦闘でも身に付かなかった

膨大な攻撃の選択肢がある中に飛び込まなければならない、近接戦闘ならではだろう


実感がある

この理解は俺を引き上げた



そして、意識


相手と自分を俯瞰してみる

何ができるかを把握するためだ


逃げるのか、急所を狙うのか、武器を投げつけるのか


膨大な選択肢から最適な行動を選ぶ

その為に、相手の行動を観察する


最適な行動の定義は二つ

相手の意表を突くこと

最高効率の攻撃であること


タルヤを攻撃させない最高効率の動き

それは、動きを止める一撃と、急所を狙う連撃だと判断した


…俺は、今までどうやって攻撃しよう、どうやって攻撃を躱そう

そう悩んでいた


違った

生き残る、守る、最終的な目的を持ち、視野を狭めない


常に多くの選択肢を用意しながら、集中のしどころ探す…

相手の状況の観察して、最適解を選び、自分が蓄積してきた動きに任せるというか…

言語化が難しいが、反応と経験をリンクさせるというか、一つの攻防に拘らないというか…


これが武の呼吸

いや、武の意識?


やっと掴んだこの感覚を忘れたくない


忘れる前に使いたい、繰り返したい


早く反復練習をしたい


敵を、選別を…


早く…早く…早く……!



「…ラーズ……」


「…っ」


呼ばれて、はっと我に返る

また、思考の渦に飲みこまれていた


タルヤが、少し震えながら俺を見ている


何だ?

何でそんな顔を…


「…ラーズ、殺気を消せ」

ヘルマンが、辛そうに口を開く


「え…」


言われて気が付いた


俺は殺気を放っていた

武の呼吸を試したい、…人を壊したい、この思考が殺気を生んでいたようだ


ダメだ、落ち着け

この興奮を押さえろ


自分の意識が変わった

さっきから、この掴んだという興奮がとまらないんだ


「掴んだようだな。ここまで変わるとは思わなかった。選別前とは別人に見える」

ヘルマンが言う


「タルヤがやられると思って…、ここで倒さなければって思ったら体が動いて…、その瞬間、分かった気がして…」


「突き詰めれば、武術と格闘技の違いは心の置き所の違いだ。今まで積み重ねて来たものが、ようやく形になったんだ」


「…はい!」


「その感覚はお前の財産になる、大切にしろ。…だが、分かっただけではまだ未完成だ。まだまだやることはあるからな」


「もちろんです。ヘルマン、訓練に付き合って下さい」


「お前の素直さは才能かもしれないな」

ヘルマンが笑った



「さ、そろそろラーズの注射対策を考えないと」

タルヤが言う


そうだった


今は診療室がけが人であふれている

だが、数時間もすれば、また呼び出されるだろう


「よし、シャワーを浴びたらラーズの部屋に集合しよう」

ヘルマンの言葉に、俺達は頷いた




・・・・・・




診療室


「あら…、また左肩を怪我したのね。痛みはある?」

セクシーなナースさんが、こぼれ落ちそうな胸を揺らしながら注射を用意する


「いえ、今回は深く刺されていないので大丈夫です」


「そぉ? それじゃあ、採血して注射をしちゃうわね」

ナースさんが、話しながらも検査を進めて行く


「はい、じゃあ注射して終わりね」


「…その注射ってなんの注射なんですか?」

俺はナースさんの持つ太い注射を見る


「栄養剤みたいなものよ。変異体に必要なものよー」

そう言って、ナースさんは俺の左肩に注射針を刺して液体を入れて行く


「はい、お終い。もう少ししたら私の仕事が終わるんだけど…、しちゃう?」


「え…、いや…」


「私、マッサージもできるの。体の疲れをもみほぐしてあげる」


「あー…」


「エッチなことだと思った? 私は構わないわよー」


「あ、そ、その内お願いしますね!」


俺は、勘違いしたことが恥ずかしくなり、そそくさと診療室を出た

いや、あの会話の流れでマッサージとか分かるわけねーだろ!



個室に戻ると、ヘルマンとタルヤが待っていた


「どうだった?」

タルヤが聞く


「やっぱり左肩に射たれた。変異体に必要って言ってたけど、タルヤやヘルマンは射たれてないでしょ?」


「ないわ」 「俺もだ」


やっぱり、あの注射は俺だけか

注射については誤魔化された


ナースさんは優しいから心を許しそうになるけど、やっぱり施設側の人間なんだな

信用しちゃダメだ


「…やるわよ」


「うん…!」


タルヤがナイフを取り出して、俺の肩の傷口に差し込む


「ぐぅぅぅぅ……!!」


傷口をもう一度抉られる激痛

予想通り、傷口から注射されたと思われる液体が血と一緒に流れ出て来た






…一時間ほど前


選別が終わって、俺達は個室に集まった


俺の強化手術である、ナノマシン集積統合システム

現在は停止措置を取られている


停止の方法は、左肩に定期的に射たれている注射…

あれが、停止用の溶液と推測


しかし、最近、左肩への怪我で注射をされてなかったため、ナノマシンシステムが動き出している感覚がある

このままナノマシンシステムを停止されないで、施設側にばれないように再起動しようと考えているのだ

だが、注射を免れることは不可能、逃げ続けてもいずれはBランクの教官が出て来るだけだ


であれば、ナースさんを何とかするしかない


「でも、ラーズのナノマシンシステムって、強制進化に影響があるから止められてるんでしょ? 動かしちゃっていいの?」

タルヤが言う


「俺達は、すでに完成変異体だ。変異が進むような段階でもないし、強制進化に影響があるとは思えない。停止措置に正当性を持たせるために行っているだけだろう」

ヘルマンが腕を組んで言う


「確かに…。それじゃあ、どうやって注射から逃げますかね」


「…ナースを惚れさせて味方に引き入れるか?」

ヘルマンが言う


「…間違いなく、私が誘惑されて骨抜きにされます」


「ラーズのエッチ」

タルヤが頬を膨らませる


いや、セクシーを極めたナースさんに勝てるわけないって


「注射器をすり替えるとか」

タルヤの意見


「診療室には同じような注射があるかもしれないけど、盗むのも無理だし、何の薬品か分からないものを注射されるのも…」


死のリスクが高すぎる


それぞれが考え込む

後一時間もすれば、ナースさんが俺を呼びに来てもおかしくない


「…一つ、アイデアがあるんですが」


「何だ?」


「注射を射たれるのは防げない。それなら、停止溶液をナノマシンシステムのコアに触れないようにすればいいと思うんです」


「どうやって?」

タルヤが言う


「あまりやりたくないんだけど、鎖骨の下辺りにナイフを刺して、このビニールを差し込んで液体が下に落ちないようにすれば…」


無理矢理の力技だが、物理的に停止溶液を遮断する

コアの上にビニールで傘を作るイメージか

変異体の治癒力があればこそだ


「…凄く痛そう」

タルヤが嫌そうな顔をする


「だから、あまりやりたくないんだよ…」


「他に方法は無さそうだな。よし、さっさとやろう」

だが、ヘルマンはナイフを取り出して石鹼できれいに洗い始めた






…どうやらうまくいったようだ


毎回、太い注射を左肩に射たれていた

停止溶液は、ある程度の量が無いと効果が無いように思える


今回は、かなりの量の溶液を捨てることができた

左腕の違和感は、まだしっかりと残っている


この違和感が続けば、ナノマシンシステムが復活するかもしれない


楽しみだ



「ごふっ…」


「…ヘルマン!?」

タルヤが悲鳴を上げる


はっと顔を上げると、ヘルマンが吐血しながら床にゆっくりと倒れた








誤字報告ありがとうございます

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