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二章~27話 ナノマシンシステム

用語説明w

クレハナ:クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している

大崩壊:神らしきものの教団や龍神皇国の貴族が引き起こした人為的な大災害。約百万人に上ぼる犠牲者が出た


ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。ラーズの身体導入されているが、現在は停止措置を施されている


突然、ヘルマンに呼ばれ、俺とタルヤがへルマンの部屋に集まった


「どうしたの? 個室に来いだなんて…。私達、仲はいいと思っていたけど、いきなり三人でなんて…そんな…」

タルヤがドキドキしている


「…いかがわしい理由で呼んだわけじゃない。そもそも、仲間内での恋愛はお勧めしないと…」


思考がピンク色のタルヤと真面目なヘルマン

うむ、平常運転だ


ガマルのショックはある

だが、前に向けて歩かないと全てが無駄になってしまう

絆も、努力も、死の恐怖に耐えてきた時間も全てがだ



「それで、どうしたんです?」

俺はヘルマンに続きを促す


「ああ、昨日、定期検診に行った帰りにエスパータイプの新入りを見かけたんだ…」



ヘルマンの見た新入り


最近ステージ1から上がって来たらしいエスパータイプの新入りだ

目を引いたのが、額にあった第三の目だった



「第三の目って…、」



第三の目


魔眼や邪眼と呼ばれる額に後付けされる目で、強化手術の一種

機械タイプのサイバネ手術や生体素材の移植手術など様々なものがある


今回のエスパータイプは物理的なものではなく、魔力と霊体素材で構成した呪物を霊体に接続する霊体手術のようだ


霊視、魔素、属性の判別、氣脈など、魔導法学的な視界を得ることができ、エスパーながら視覚に関してはドラゴンタイプを凌駕する可能性もある



「…おそらく、ここに来る以前に受けた強化手術なんだろう。変異体になった後でも生かせるため、強制進化の施術後もそのまま残されたんだ」

ヘルマンが言う


「確かに使えそうな能力ですけど、それがどうしたんですか? ガマルの代わりに引き入れるわけじゃないですよね」


ガマルも、脳内インターフェースを導入した被検体の話をしていた

人体強化術を行っている被検体は何人かいるのだろう


「ああ、トラビスに釘を刺されているからな。俺が言いたいことは、その停止措置についてだ」


「停止措置?」


「そうだ。そのエスパーは魔眼の機能は停止させられていると言っていた。定期健診で封印術式を使われてるらしい」


「ああ、やっぱり使用は許されてないのね」

タルヤが言う


「ラーズの強化手術もだろう?」


「ラーズの強化手術って…」

タルヤが俺を見る



俺の強化手術とは、ナノマシン集積統合システムだ

コアを移植してナノマシン群を体内で運用するが、現在は強制進化の妨げになるとして停止されている



「俺も停止されてますね」


当たり前だけど、停止措置は俺だけじゃなかったんだな


「ラーズも、ナノマシンシステムの停止のために何かされているんじゃないか?」


「…え?」


「この施設では、俺やタルヤみたいに魔法が使える者は魔封じの呪印を施されている。この呪印は、定期的にチェックはされるが、効果が長いため何度も使われるものじゃない」


「そうね」

タルヤが頷く


俺達被検体は、魔法の使用が禁じられている

魔法は強力な兵器であり、武器を持った襲撃者を遠距離から簡単に倒すことができてしまうからだろう


ちなみに、俺は魔法が使えないため呪印は施されない


「だが、魔眼を含めた身体の強化術は代謝によって変化しやすい。つまり、停止の維持のためには()()()()()()が必要なんじゃないかと思ったんだ。それをラーズに聞きたかったんだ」


「………それは、確かに」


俺のナノマシンシステムも、研究者の説明では導入されたままになっている

何か停止のための処置をされているんだろうか


「そもそも、ナノマシンシステムの停止ってどうやるの? 霊体じゃないから呪印で封印とかできないでしょ」

タルヤが言う


もっともな意見だ

俺のナノマシンシステムって、どうやって停止させてるんだ?


いや、待てよ

確か、過去に一度停止した時がある


あれは…、軍時代の…


「デモトス先生のテストだ…!」



デモトス先生


俺が軍時代に師事した、もと暗殺者の軍人だ

凄まじい強さ、冷静沈着な物腰、哲学的な思慮深さ

俺の尊敬する先生だ


だが、訓練はむちゃくちゃだった

何回死にかけたか分からない


特にテストは頭がおかしかった

視覚を奪われ、ナノマシンシステムを停止させられ、森に放置された

危なくのたれ死ぬところだった…


あの時、確か左肩にナノマシンシステムを停止させる溶液を注射した

そうだ、俺のナノマシンシステムのコアが左肩の側にあるからだ


…ん?


注射?


俺はこの施設で注射をされてないか?


しかも、定期的に…


そういえば、ステージ1の頃から定期的に射たれている!



「…注射だ!」

「デ、デモトスだと!?」


ヘルマンと俺の声が被る


「え?」「は?」


「…ラーズからいいぞ」

ちょっと恥ずかしそうにヘルマンが言う


「あー、それじゃあ…。ナノマシンシステムの停止は注射ですよ! 検診の度に、俺の左肩に射たれているやつだと思います」


「間違いないの?」

タルヤが言う


「ああ、間違いない。完全に忘れてたけど、以前ナノマシンシステムの停止溶液を注射したことがあるんだ。その時は、実際にシステムが沈黙したよ…って、あ!!」



その時、気がついた


しばらく続いている、俺の左手の違和感だ

痺れるような、違うような、そんな違和感

しばらく前から起こっている謎の感覚だ


「…まさか、ナノマシンシステム?」


「え?」

タルヤが俺を見る


「しばらく前から左腕に違和感があって。大したことなかったから放っておいたんだけど。よく考えたら、ナノマシンシステムが動き始めているのかも…」


「突然起動するって、何か心当たりは無いのか?」

ヘルマンが言う


「…」


心当たり…、何があるだろう?

この違和感は、何回か前の選別の時からあった


最近、変わったことってあったか?


「…最近、左腕を連続で怪我していたから注射を射たれていない。もしかしたら、それで起動を?」


そう考えれば説明がつく


「ちょうどいい。その注射を射たれないようにすれば…、()()()()()()()()完全に再起動ができるかもしれない」

ヘルマンが言う


「…バレずに?」

タルヤがヘルマンを見る


「…」

ヘルマンが一瞬だけ黙って俺達を見つめた



「…ガマルが殺されたことで、俺は認識を改めた。俺達は、()()()()()()()()()()()()()()()()


「…っ!?」 「ーー!!」


俺とタルヤは同時に目を見開く



「…もちろん、今すぐにという話じゃない。下手に動くと殺されるからな。ただ、施設側が把握していないアドバンテージは確保しておいて損はない」


「そ、そうですね」

俺は頷く


ナノマシンシステムが復活し、それを施設関係者に隠すことができれば、脱出の際のアドバンテージにはなる


ヘルマンが、この施設を出ることを考えていた

それを素直に感心した


俺は、いつの間にか素直にステージを上がることしか考えていなかった

ヘルマンやタルヤ、ガマルとの訓練で、武術とサイキックが開花してきたことも理由かもしれない

このメンバーとなら…、そう考えてしまっていた



「…それで、ヘルマンはデモトス先生を知ってるんですか?」


俺はさっきの話に戻る


まさか、ヘルマンからデモトス先生の名前が出るとは思わなかった


「ああ、同じ名前の別人でなければ、通りすぎる影と言われた凄腕の忍者だ。俺が忍者として活動していた頃、クレハナの戦場でよくその名を聞いた」


「デ、デモトス先生がクレハナで忍者を…!?」


恩師がクレハナで忍者だと!?

新情報多すぎだろ!

全然知らなかった


「もう十数年以上前の話だがな。通りすぎる影のデモトス。凄腕の殺し屋だったと聞いている」


「殺し屋…」


「クレハナでの活動期間は短かったがな。同じ忍者を次々と殺す、とんでもない実力を持っていると聞いた。俺の仲間も一人やられたんだ」


「…」


暗殺を生業とする忍者の暗殺…、忍者キラー

それは、かなりの実力がないと無理だろう


あの人、確かにやべー腕だったけど本当にやべー人だったんだ

俺は、とんでもない人に師事していたんだな


「デモトスは今何をしてるんだ?」


「…死にました。Bランク戦闘員との戦いで」


「そうだったのか…」


大崩壊と、それにまつわる戦いで、本当に多くの人が死んでしまった


「………」

少しの間、沈黙が俺たちを包む



コンコンッ


そんな静寂を破ったのは、通りかかったナースさんのノックだった



「あ、D03のラーズ! やっと見つけたわ。診療室に来てくれる? 延び延びになってた定期検診をやらないといけないの」


タ、タイミングよすぎるだろ!

まずいな…、今あの肩の注射をされたら、せっかく起動仕掛けているナノマシンシステムがまた停止させられる


「え? えーと、もう少しだけ待ってください。後で行きますんで!」


「すぐ終わるから。その後、思いっきりエッチなこともさせてあげるし…」

ナースさんがセクシーに、そして有無を言わせずに俺の手を取る


「待ってください、ナースさん。彼、早いからすぐ終わるの。そうしたら私がすぐ連れていくから…」

タルヤが、俺に抱き付く


だ、誰は早いだ!

いや、早いかも!


「お願ーい…」

タルヤが、今度は俺の顔を自分の胸に押し付けた


うわっ…、柔らかい! いい匂い!

あぁ…


それを見て、ナースさんが俺の手を放す

「うーん、仕方ないわね。じゃあ、終わったらすぐに来てね」


ナースさんの察したような顔


タルヤのスーパーファインプレーで、俺のナノマシンシステムは守られたようだ

(一時しのぎだけど)





参照事項

ナノマシンシステム

一章~11話 テレパスハック実験

脳内インターフェース導入型強化人間

二章~24話 初の一本

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