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二章~23話 テレキネシスの復活

用語説明w

サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス


ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴


選別の終わりを告げる放送が鳴り響く



「はぁ…はぁ……」


俺が我に返ると、目の前に頭蓋骨が陥没した死体があった

服装で幻術使いと分かる



「ら、ラーズ…」 「あ…あ…」


タルヤとガマルが、震えながら俺に声をかけた


「選別は終わりだ。シャワーを浴びよう」

ヘルマンが俺の肩に手を置いた


「…はい……」


俺は、何とか呼吸と整えた



感情を叩きつけた

この行為の意味はなんだろうか?


感情とは、絶望感と怒りだ


何に対する絶望と怒り?


仲間を殺されたこと、そして、助けることができなかった自分への無力さだ



「…」


俺は、ただ八つ当たりで感情を叩きつけた



そのトリガーを引いたのが幻術使いだとしても、後味の悪さが残っていた




・・・・・・




シャワーを浴びて武器を磨いた後、俺達は食堂に集まった


「今日はもう休もう。訓練をしてからの選別だ、これ以上は疲労を抜かないと危険だ」


「分かったわ」

ヘルマンが言い、俺とタルヤ、ガマルが頷く


「ガマル、診療室はどうだった?」


「だめだ、今回はけが人が多くて行列だったよ。廊下にまで簡易ベッドを並べていた」

ガマルが首を振る


さっき、怪我が無かったガマルに見てきてもらっていたのだ


「…そうか、仕方がないな。ラーズ、大丈夫か?」

ヘルマンが俺の顔を見る


さっきから頭痛がする

ズキズキと、頭の中で痛みを伴うような脈を打っている感じだ


「…腹のけがは大丈夫です。ただ、頭痛が…、さっきの幻術の影響でしょうか…」


「ラーズ、精力(じんりょく)が凄く乱れているわ。一度、テレキネシスを使ってみて」

タルヤが俺の頭に目をやり、脳から発生している精力(じんりょく)を見ている


「テレキネシスを?」


「ええ、なんでもいいわ」


「…?」


意味は分からないが、とりあえず試してみる

俺は、テーブルの上のフォークにテレキネシスを使った


まずは精力(じんりょく)の腕をフォークに伸ばす

そして、重力に逆らう力を発生させる



フワッ…



フォークが持ち上がる

浮いているように見えるが、フォークに繋げた精力(じんりょく)の腕を使ってフォークに力を与え続けているのだ


「次は、上下左右前後に動かしてみて」


「うん…」


俺は集中しながら、フォークを落とさないように動かす


上下、左右、前後…


「次は、静止させたままフォークを回転できる?」


「回転…」


静止させる、つまり重力に逆らう浮力を出し続けながら、回転する力を…

フォークの先端に回転する力を与えると位置がずれる、柄の部分にも同時に…


「おお、回転した!」


「エスパータイプじゃないのに、やるじゃないか」


ガマルとヘルマンが驚きの声を出す

この二人はサイキックが苦手だからな



「…どう? 頭痛が少しは治まってない?」


「え? …あ、確かに」


頭痛がかなり治まっている

凄い、何で!?


精力(じんりょく)が増えると、感情の起伏で勝手にサイキックを発生させちゃうことがあるの。その場合は、あえて意識してサイキックを使うことで、サイキックのスイッチを意識下に戻すことができる。今ので。ラーズの精力(じんりょく)がかなり治まってるわ」


「…なるほど、これは凄い発見だよ」


今後も起こり得る頭痛

次からは自力で対処できるかもしれない


「ラーズのテレキネシスは、もう実用レベルかもしれないわね」


「え? …うん、それだったら嬉しい。軍時代に使ってた感覚が戻って来た感じがする」


「ラーズって、テレキネシスをどんなふうに使ってたの?」


「それは…」



俺の軍時代のテレキネシス


俺のテレキネシスは出力は弱かったため、攻撃には使えなかった

そこで発想を変えて、攻撃の補助に使った


具体的には、手を離した武器を落とさずに自分の体の側に保持し、落とさずに持ち変えられるという使い方だ

これにより、銃、小型杖、ハンマーやナイフ等の武器を、距離や敵の数に応じて次々に持ち変えることができた

地味だがかなり使えた技能だった



「へー、攻撃だけじゃなく、三本目の腕として使ってた感じね。そんな使い方もあるんだ…」

タルヤが感心する


タルヤは、テレキネシスで数本のナイフを投げつけたり、敵の体に作用させて吹き飛ばしたりしている

攻撃としては使うが、補助的な使い方の発想は無かったのかもしれない


「そうだね。軍時代は、サードハンドって言う名で俺の技能に登録されていたよ」


キャットハンドという名と悩んだことは…、言わなくていいか



「…ラーズは、サイキックの素養があっていいな」

ヘルマンがため息をつく


ヘルマンはサイキックに苦手意識が出てきている


「ヘルマンだって、第七感はかなり開発されてきてるわよ? もう少ししたら、テレキネシスが使えるようになると思う」

タルヤがフォロー気味に言う


「そうだといいがな。…ただ、ラーズ。テレキネシスなどの訓練は、今後は運動場でやれ」


「え?」


「今回の選別で、お前はかなり注目を浴びた。これ以上目立つのもよくない」

ヘルマンが周りの被検体達を顎で示す


俺とタルヤ、ガマルが周囲を見ると…、なにやら、こっちを見て話している


「あいつ、廊下で暴れてた奴だろ…」

「ああ、襲撃者の頭が潰れてた…」

「何かの地雷を踏んだら、俺達にも襲い掛かってくるかもしれないぞ…」



「と、とんでもないことを言われてる!?」


何で俺が同じ被検体に襲い掛からなきゃいけないんだ!?


「…まぁ、でも、あのラーズを見ちゃったら仕方ないかもな」

ガマルがのほほんと言う


「は?」


「凄かったぞ、ジェノサイドモードに入ってたもんな…」


「…ちょっと、自覚はあるけど。でも、あれは人のトラウマを軽はずみに刺激するから…」


「ラーズとヘルマンは、ステージ2(ここ)に来て間が無いのにもう二つ名持ちだからね。凄いよ」

ガマルが言う



「 「二つ名?」 」

俺とヘルマンがハモる


…若干恥ずかしい



「ヘルマンもラーズも、運動場に籠ってあまり他の被検体とは絡まないからな…」

ガマルが笑う


「私も聞いたわ。ラーズはトリッガードラゴン、トリガーを引いて暴走するドラゴンタイプって呼ばれてた」

タルヤが言う


何だそれ?


「…ヘルマンは?」


「ヘルマンは先生って呼ばれてるよ。ラーズ達に教えてるし、戦い方は洗練されてるから」

ガマルが答える


「先生…」

ヘルマンが微妙な顔をする


二つ名で先生って…、まだトリッガードラゴンの方がそれっぽくね?


そういや、ステージ3に上がったっていう、ギガントとエスパーのカップル

あいつらも、鉄拳とアイアンメイデンっていう二つ名持ちだった



「…まぁ、二つ名なんてどうでもいい話は置いておいてだ。俺達には、選別を生き残る力が足りていないことは事実だ」

ヘルマンが咳ばらいをする


もしかして、自分に二つ名がついて恥ずかしくなってない?


「タルヤとガマルは、最優先で個人での戦闘術を身につけよう。それが、生き残る上で一番難易度が低い」


「はい」 「分かった」

ガマルとタルヤが頷く


「そして、ラーズだ」


「はい」


「まず、格闘術だ。もう少しで、武術の呼吸とお前の格闘術が融合するところまで来ている」


「融合…」


「だから、しばらくは武術の時間を多くとろう」


「お願いします。…正直壁にぶつかっています」


武術の呼吸…

()()()()()()()()()()()()()()

今のままだと、被弾を減らせないことは間違いないのに、改善方法が分からないのだ



そんな感じで、方針が決まった


「そろそろ診療室に行きましょうか」

タルヤが立ち上がった


「もう空いてきたかな?」

ガマルが言う


「ガマル、あんた、今日もナースさんの所に行くの?」


「え? うーん…、やっぱりストレスは発散しなきゃと思ってさ。タルヤは?」


「もう、欲望に逃げることはやめたの。だから、ね? ラーズ…」


「欲望に逃げないって言ったばっかだよね!?」

俺は、抱き着いてくるタルヤをぎりぎりで止める


「だから、逃げるんじゃなくて本気のアプローチよ。女に全部説明させたいの…?」


「ダメだって、ちょっ、タルヤ!?」



「…さっき目立つなって言ったばかりだろ。やるなら個室でやれ」

ヘルマンが冷静に言う


「ほら…、ラーズだって、こんなに元気に…」


「そりゃ、こんなことされたらなるわ! ダメだって…!」



他の被検体に舌打ちされながら、俺達は診室に向かった


…俺は悪くない



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― 新着の感想 ―
[一言] タルヤも恐らくここを逃したらチャンスはないからな…外に出される時は離れてしまうだろうしそれにフィーナに会えるようになったら性欲はすっぱり発散されるだろうし
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