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二章~22話 七回目の選別

用語説明w

魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力(じんりょく)、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと


流星錘(りゅうせいすい):三メートルほどの紐の先に、細長い重りである錘が付いた武器。


タルヤは、ウルにある国ブリトンの一般家庭の娘だった


母親が小学生の頃に事故死し、高校に入る際に父親が再婚した


新しい義母(はは)は優しかった

それでも、タルヤは父親が裏切ったと感じてしまった


そんな、家に居場所が無いと感じていた時、悪い仲間に声をかけられた

夜遊び、恐喝、ドラッグ…、次々と遊びの内容が振り切っていき、気が付いたら少女売春に手を染めて小遣い稼ぎを始めていた


学校にも行かず、家にも寄り付かない日々

そんなある日、父親と義母に呼び出された


しっかりと話をする父、泣きながら話す義母

娘のことを考えてくれる家庭がそこにあった


タルヤは反省した

そして気がついた


居場所は家にあった

自分で見ないようにしていただけだった


タルヤは売春をやめると言いに行った

そして普通に戻ると、悪い仲間とはもう手を切ると


そんなタルヤを、売春を斡旋していた男たちは拉致した

そして、海外に売り飛ばされた

売春組織のバックにはマフィアがいたのだ


拉致されて売られた先は、よく分からない傭兵組織だった

そこでは、体を弄ばれながら従順に生きていくしかなかった

そんなある日、体が変異を起こし始める


その変化が起こった後、タルヤはこの施設に連れてこられたのだ



「そ、そんなことが…」


「私が悪かったの。お父さんとお母さんにもう一度会いたい。マフィアに拉致されて、もう五年以上になるから…」

タルヤが俯く


「うん、一緒に生き残ろう。そして、帰ろう」


「ラーズ、私怖いの…」


「そりゃ、俺だって怖いよ。でも、力を合わせれば…」


「違うの。私はトリガーを持ってないことが怖いの」


「…トリガー?」


引き金のこと?

急に何の話?


「ラーズもヘルマンも、選別になったら心のトリガーを引いている。殺す覚悟ができて、いつもの優しい顔が引っ込む。…でも、私はそんなことができない。殺すが怖いの…」


「…」


…殺すのが怖いか

タルヤは、元々戦闘員だったわけじゃないから仕方ないのかもしれない


だが、俺だって戦いは怖い

そして、何も感じなくなることも怖い




ピーーーーピーーーーピーーーー!!


「…っ!?」



突然鳴り響く警報



「…選別だ、武器を取れ!」

ヘルマンが立ち上がる


くそっ!

訓練で疲れているのに、タイミングが悪いな



俺達は運動場の近くの廊下に陣取る

今日はガマルも一緒だ


「ど、どうするんだ!?」


「ガマルはタルヤの防御に付け。俺とラーズで前後の敵を相手にする」

ヘルマンが、両手にジャマハダルを構えながら言う


俺も流星錘を手に持ち、前に出る


「両側から一人づつ接近、敵よ!」

タルヤが声をかける


「距離を詰められる! ラーズ、体捌きと歩法で敵の動きに反応するんだ、忘れるな!」


「了解!」


俺とヘルマンが走り出す

タルヤとガマルから距離を取るためだ



廊下を走ると、すぐに襲撃者の姿が見えた

ヘルメット、胸当てタイプのアーマーを付け、薙刀…、いや、青龍偃月刀を持っている


長い射程で突く槍と違い、長い射程で斬る武器だ



「…恨みはないが、死んでもらう」

襲撃者が構える


「…」

俺は無言でボクシングのように脇を閉めて構える



最初の狙いは、武器を隠すこと

流星錘は、暗器

隠しやすいというメリットがある



ゴガッ!


「なっ!?」



コンパクトに振った右腕で錘を投げつける

意表を突いたことで、襲撃者の肩に直撃


すぐに引いて、二撃目を狙う

だが襲撃者が、すかさず間合いを詰めて突きを繰り出す


俺は横に大きく避ける


だが、襲撃者の追撃

突いた武器を頭上で振って横に薙ぐ



ブオン!


「ちっ…!」



しゃがんだ俺の頭の上を青龍偃月刀が通り過ぎた


横に跳びながら、流星錘を投げつける


避けられ、間合いを詰められる



ザシュッ!


「ぐっ…!」



今度は下段の薙ぎ払い

俺の脛を刃体がかすった


槍と違い、この斬るという動作は攻撃範囲が広い

上段や下段、更に突きを混ぜられると反応が遅れる!


襲撃者が、ジャンプをしながら振り下ろし

刃体を叩きつけてきた


足のダメージで一瞬動きが遅れた

右肩の肉を削られながら、ぎりぎりで避ける


近接距離

勝負だ、反応しろ!



ゴキッ!


青龍偃月刀を持つ襲撃者の右ひじに左フックを叩き込む


ゴガッ!


同時に右手で短く持った流星錘を、上からフレイルのように叩きつける


だが、襲撃者のヘルメットのおかげでダメージが少なかった

襲撃者は痛みに歯を食いしばりながら、青龍偃月刀の石突を俺の腹に突き上げる



ドッ…!


「ごふっ…!!」



少し刺さった感覚

内臓が波打つ感覚

中身が口まで上がって来る感覚


今度は俺が歯を食いしばって流星錘を叩きつけようとすると、襲撃者がバックステップで距離を取った


逃がすか!


俺は流星錘を足に投げつける

襲撃者が反応して避ける


だが、狙いはもう一つ!


腕を振るって、流星錘の紐をくねらせる

先端の錘の動きが左右にぶれたところで思いっきり引けば、襲撃者の足に絡まった



「うおっ!?」


ドタッ!



足を取られて、襲撃者が倒れる


俺はナイフを抜いて飛び乗る

上から全体重をかけて、倒れた襲撃者の胸に突き刺した



「ぐっ…」


びちゃびちゃ…



ようやく一呼吸置けて、俺は上がって来た胃の内容物を吐き出す

腹からの出血があるが、そう深くはなさそうだ



「…」


被弾した…



ダメだ…、やはり分からない


武術の呼吸って何だ…?

俺の戦い方は何がダメなんだ!?


石突が刃物だったら、俺は腹を貫かれて死んでいた

この何回かの選別で痛烈に感じてきたこと


俺が生き残って来たのは、単に運が良かっただけだ

運が悪かったらとっくに殺されている


くそっ…

腹が痛ぇ…


どうしたらいいんだ…!


「ラーズ、大丈夫か!?」

ガマルが心配そうな顔で俺の所に来た


「あ、ああ…、もう大丈夫だ」


「本当に大丈夫か? いくら俺達の体がタフだからって、ダメージが大きければさすがに死ぬぞ」

俺の腹の傷を見てガマルが言う


「…思ったよりダメージは少ないよ。ヘルマンとタルヤは?」


「ヘルマンの所にもう一人襲撃者が来たんだ。タルヤが応援に行った!」


「分かった、俺達も行こう」


俺とガマルは廊下を戻る




「タルヤ!」

ガマルが声をかける


廊下でタルヤが襲撃者と交戦している

両手にナイフを持った襲撃者だ


「気を付けて、幻術使いのサイキッカーよ!」

タルヤは、肩から血を流している



幻術使い


敵に対して、幻覚を見せたり催眠状態にする技を持つ

映像を使った視覚情報、音声、お香などの五感からのインプット、テレパスや魔法、瞳を使う特技(スキル)など、様々な手法がある



幻術使いから、精力(じんりょく)の触手が脳から飛び出している

あの触手がセンサーのアンテナとなり、精力(じんりょく)を感知したり対象に接続して情報を読み取ったりするのだ


幻術使いが、目を見開く


「目を見ないで! 瞳術の特技(スキル)よ、瞬間催眠に…」

タルヤが自分の目を覆う



「…うあ……外だ…やっと…!」


ガマルが、どうやら瞬間催眠にかかったらしい

ボソボソと何かを言いながら、虚ろな目で笑い始めた



ヒュン!


「…っ!?」



幻術使いがナイフをテレキネシスで飛ばす

狙いはガマルだ


俺はぎりぎりでナイフを叩き落す


「タルヤ。もし俺が催眠状態になったら、あいつの止めを頼む」


「え? う、うん!」


俺は流星錘を投げつけながら、間合いを詰める



「くそっ、受けろ!」


また、瞳術の特技(スキル)を発動した幻術使いの瞳が光る



目を逸らし、流星錘を引きながら右ストレート、左ボディのコンビネーション



「ぐはっ…!!」


「…っ!?」



拳が幻術使いを捉えたが、同時に幻術使いのテレパスが俺に接続される

イメージを相手の脳に直接流し込む、ハック型テレパスだ


「お前の一番辛い過去をもう一度体験させてやる」

…というイメージと共に、目の前の光景が変わる



…しまった、脳をハックされた!


これは幻だ

だが、俺の記憶を使っているだけあってリアルだ



ここは…


この建物は…



壊れた装甲戦車、MEB、上階が吹き飛んだ建物


倒れている敵兵



やめろ


この先には…




やめろ



やめろ!



やめろ!!





「ぐがぁぁぁあぁぁあぁぁーーーーーーっっ!!!」


人生で最悪の光景が蘇る





血、焼け焦げた肉、鉄、体から零れ落ちた糞尿の臭い、腐臭…




…あぁ……、やっぱりだ


()()()()()




また、明確に思い出せた


殺す対象、神らしきものの教団への憎悪



この絶望感が安心する


一度忘れ去っていた復讐


一番怖いことは、この憎悪を忘れてしまうこと




…二度と忘れないために、俺の記憶と魂に焼き付けろ


この感情を思い出すと安心する


忘れていない、この憎悪が俺のなかで()()()()()()()()()




俺は、幻術使いに目を向ける


今からお前を殺す、という意志


殺気で射貫く




「ひ…ひぃっ……!」


幻術使いが震えながら尻餅をつく




後は、体が勝手に動く


怒りに任せればいい


感情を叩きつけろ



体が、鼓動が、高まる…


集中力と殺気の密度が上がる……






「タルヤ、あれがラーズのトリガーだ。近づくな」

戻って来たヘルマンが言う


「す、すげぇ…」

ガマルが口をあんぐり開けている


「…トリガー……トリッガードラゴン……」

タルヤが呟いた






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― 新着の感想 ―
[一言] 今から次話読もうと思ってログインして書いた感想へのロロアさんからのコメ見てたら トリーガーオン!のアニメ思い出した!なんだっけ……えーと、、そや!ワールドトリガーや
[一言] トリッガードラゴンwww 『ッ』を何故入れたんだww
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