二章~21話 新入り
用語説明w
ペア:惑星ウルと惑星ギアが作る二連星
ウル:ギアと二連星をつくっている惑星
ギア:ウルと二連星をつくっている相方の惑星
ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた
タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っている
ガマル:ドラゴンタイプの変異体。魔族の男性で、ナースさん大好き
ダッダッダッダッダ……
「おーい、ラーズ!」
声をかけられて振り向く
「ガマル、え…!?」
ガマルが全力で走って来る
その顔が腫れあがっていた
その後ろを、被検体が二人追って来る
ドラゴンタイプとギガントタイプだ
「た、た、助けてくれ! あいつらが…」
ガマルが俺の後ろに隠れる
「おい、そいつを渡せ。お前は関係…」
「…失せな」
俺は話を遮って拳を見せる
「なっ…」
ドラゴンとギガントが青筋を立てる
舐められない
手を出すならリスクを呈示する
さぁ、どうする?
「おい、こいつ、ヘルマンに教わって食堂で乱闘した奴だぞ…!」
「ちっ…、あんまり調子に乗ってるなよ!」
リスクが高いと判断したようで、被検体の二人は舌打ちをして去って行った
「何があったんだよ?」
俺はガマルの顔を見る
「いや、食堂でお前らが訓練してるから俺も参加しようかなって話をしてたんだよ。そうしたら、お前なんかがやったって意味ねぇとか言って殴られてよ…」
「全然意味が分からなくね? どこに殴られる要素があったんだよ」
「そりゃ、このステージ2で唯一前向きに努力しているお前たちが眩しいんだろ。選別の恐怖で腐ってる自分を嫌でも分からされるんだから」
「ふーん…」
「と、いう訳で俺も参加させてくれよ。行こうぜ!」
「あ、あぁ…」
俺はガマルと連れ立って運動場に向かった
ステージ1のクレオもそうだったけど、こういう対人スキルって凄いよな…
すぐに人に話しかけられて仲良くなれるって
・・・・・・
「また連れて来たのか…」
「はい…。困ってたみたいなんで」
「俺達は仲良しクラブじゃない。あくまで生き残るための研究をしているメンバーなんだぞ?」
ヘルマンがため息をつく
「私からもお願い。ガマルは私を助けてくれていたの」
タルヤもヘルマンに言う
「俺、お前らを見て羨ましかったんだ。頼む、俺も変わりたいんだ!」
ガマルが頭を下げた
ヘルマンが、実力的にも俺達のリーダーだ
それに、メンバー全員が納得できなければ選別に支障をきたす
「ドラゴンタイプ三人にエスパーが一人か。バランスは悪いが仕方がない。だが、これ以上人数を増やすと、選別の時に敵を引き寄せやすくなるからな?」
「分かりました」 「うん」
俺とタルヤが頷いた
最初は、ヘルマンがタルヤとガマルに戦闘術の基礎を教えることになった
俺は、歩法の反復練習だ
「ラーズ、今日から新しい訓練を追加する」
「何をやるんですか?」
「これだ」
ヘルマンが、大きな木の柱に小さい棒がいくつか刺さっている物を持ってきた
「なんですか、これ?」
「これは木人と言って、拳法の鍛錬に使うものだ。柱が敵の胴体、木の棒が敵の手足を想定している。歩法と組み合わせて、敵の攻撃に合わせた動きを試してみろ」
「へー、面白そうですね。分かりました」
俺は構えて、突き出た棒を払う
そしてボディに一発
肘、中段蹴り、下段に突き出ている足への関節蹴り、ローキック
左右に動いてのパンチ、上体を振ってのフック…
木でできているから固いな
「ラーズ、体捌きと歩法を忘れるな。体勢を崩せば刃物で斬られるんだぞ!」
「はい!」
そうだった、相手は武器を持っているだ
パンチで殴り返されるのとナイフで斬られるのはリスクが違いすぎる
隙を突いて入り込み、反撃を許さずに止めを刺す
無理なら防御に集中する
俺がやっているのは武術で殺し合い
格闘術を捨てるわけじゃない、使いどころが違うんだ
格闘技の技術を武術に応用しろ
「よし、そろそろ終わるか。次はサイキックの訓練に移ろう」
「はぁはぁ…、オッケー、私の番ね」
「…」
ヘルマンとタルヤが話しているが、その横でガマルが仰向けで倒れている
うむ、タルヤも体力がついたもんだ
変異体だけあって、慣れてくれば体力は常人より高い
最初は、タルヤが精力の波を当てて、それを俺達が感じる
第七感の覚醒訓練だ
俺は、自分で言うのもあれだが、かなり第七感の感度が上がってきたと思う
エコーのように精力が当たるのが分かる
精力は、物質に対して無干渉なわけではない
その精力の波の乱れで、そこに何かがあるということが分かる
さらに霊体に対しても干渉するため、目では見えない、そして霊力が無ければ認識できない霊体の位置を知ることもできる
前回の選別では霊力の一撃を受けた
次からは、精力でのセンサーも併用しよう
「はい、いったんブドウ糖を補給しましょう」
タルヤが、食堂でもらってきたブドウ糖を配る
脳は、体重の十パーセント以下の重さしかない
しかし、脳が使う栄養や酸素は、体全体のニ十パーセントを占めるという
体の中で一番の大食漢だ
そして、俺達変異体は更にサイキックの発動まで行っている
変異体となり肺機能が強化されて酸素の取り込み量が増え、酸欠にはなりにくくなっている
だが、栄養は外から摂取しないとどうしようもない
消化能力も上がり食べられる量も増えているが、訓練でサイキックを発動させ続けると、低血糖に近い症状を引き起こす場合があるのだ
「二人とも、もう少し第七感を開発した方がいいわね。私の精力を感じる訓練を続けましょう」
「またか…」 「地味だな…」
ヘルマンとガマルが渋々と床に座る
同じドラゴンタイプの二人を見ていると、やはりサイキック能力の伸びが遅い
俺は、サイキックが得意な方なのかもしれないな
伊達に、変異体になる前からのサイキッカーじゃないってことか
「何か嬉しそうね。どうしたの?」
「え? いやいや、何でもないよ!?」
そう言ってタルヤの前に座る
たまに人よりできることを見つけると、ちょっと得意になってしまう
小さい人間だよ、俺は…
「今日から、ラーズはテレキネシスの訓練を始めましょう」
「テレキネシス?」
「ええ、ラーズの第七感はかなり覚醒しているわ。これなら、テレキネシスが発動できるはずよ」
「そ、そうなの?」
俺は、床にナイフを置く
そして、タルヤに言われた通りにテレキネシスを発動した
まず、精力の腕をナイフに伸ばしていく
「そうそう、それが出来ていなかったのよ」
「は?」
「急に精力の量が増えた変異体は第七感が覚醒していない。だから、ただ精力を放出することしかできてないの」
「あ…」
そういえば、精力の腕を伸ばすという感覚が久しぶりかもしれない
テレキネシスを使おうとしたとき、俺は持ち上げる物を見ていた
だけど、最初に持ち上げる腕を作らなくちゃ、持ち上げられるわけがない
俺は軍時代にテレキネシスを使っていたのに…
まさか、出来ていたことを忘れていたとは
目を閉じて精力でナイフの位置を把握
ナイフに精力の腕を接続し、重力に逆らうように上に向ってナイフに力を与えて行く
「いいわね、浮いているわ」
タルヤの言葉で目を開くと、ナイフが十センチほど浮いていた
「浮かせられた!」
「それを繰り返せば、テレキネシスはすぐに使えるようになるんじゃないかしら」
「うん、タルヤのおかげだ。ありがとう」
「え…、う、うん…、いいのよ」
タルヤが、ちょっと恥ずかしそうに顔を背けた
あれ、ビッチやってたくせに、こういうの恥ずかしいの?
「でも、ラーズ。最終目標は、背中の触手にテレキネシスを通して空中浮遊をすることだからね? 満足しないでよ」
「ああ、そうだね」
そうか、テレキネシスだけなら軍時代にもできていた
あくまでも、ドラゴンタイプの変異体としての目標は空中浮遊だ
俺は、少し休憩しながらブドウ糖を食べる
タルヤは、俺と話しながらも精力をヘルマンとガマルに送っている
やっぱエスパータイプは凄いな
「…タルヤは、何でこの施設に来たの?」
「え?」
ふと、疑問に思って聞いてみる
「タルヤって、俺やヘルマンみたいに戦闘を仕事にしてたタイプじゃなさそうだから不思議でさ。嫌なら言わなくていいけど…」
「…」
少しの沈黙
だが、タルヤは口を開いた
「私は、ギアにあるブリトンっていう国の出身だったの」
「へー、ブリトンなんだ」
ブリトンとは、ギアの北半球にある国だ
「知ってるの?」
「高校まで、俺はブリトンの学園に通ってたんだ。でも何でこの施設に? 多分だけど、この施設はウルにあるんじゃないかと思ってるんだけど」
「それは…」
タルヤが話始めた




