表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/394

一章~2話 D03

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」


男は、痙攣して血の泡を吹いていた



意識が飛んで…


我を忘れて…


気がついたら…



これを、俺がやった…?




「…よくやった」


振り向くと、白衣の研究者が銃を持って入って来た

そして、今にも死にそうな男の顔を覗き込む


俺がやってしまったことなのだが、早く治療してもらわないと!

このままじゃ死んでしま…



ダァン…!


「は?」



銃声


研究者の持っている銃が火を噴いた

見ると、男が脳天を撃ち抜かれている



「なっ…!?」



俺が固まっていると、研究者は男の瞳孔を確認した後に振り向いた


「ここまで壊れたら使い物にならん」


「つ、使い物…!?」


「…こいつは女子供を拷問して殺した死刑囚だ。動けなくなったら処分することに決まっていた」

呆然としている俺に、研究者が淡々と言う


「…っ!?」


「これがお前の仕事だ。悩む必要はない、言われた相手を殺せ」


そう言うと、俺を置いて研究者は去って行く


「…出来なかったら、お前が死ぬだけだ」

という言葉を残して




・・・・・・




その後、俺は検査室に連れて行かれた


ナイフを刺された傷はそこまで深くなかったため、簡単な縫合をされただけで終わった

その後、採血や検査、投薬をされ、注射をされる


腹の傷が浅くてよかった

正直、死んだかと思った…



「本格的にステージ1が始まった。お前に、ここのルールを説明する」


検査が一通り終わると、白衣の研究者が俺の前に立った

その声は威圧的であり、監獄の囚人に話しているような態度だ


「まず、この施設についてだ。ここは、変異体による強化兵の研究施設だ。通称、上と呼んでいる」


「…上?」



変異体強化兵


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のことだ


完成した変異体による強化兵は、常人の数倍の筋力、空腹に耐え、休まずに長時間活動し、ケガに耐えられる体、病気に負けない免疫を持ち、極寒や猛暑などの極地環境での活動をも可能とする人の限界を超えた生体兵器だ


しかし、変異体因子の覚醒者は希少であり、完成率はかなり低い



「お前は、変異体の被検体になったということだ」


「被検体…」


「そうだ。そして、お前のコードは被検体D03だ。今後はこのコードで呼ぶから覚えておけ」


「D03…」


「一番大切なことを言っておく」

研究者が、おもむろに銃を取り出した


「…っ!?」


「ここの被検体になった時点で、お前は人権を失っている。つまり、我々にはいつでもお前を処分する権限があるということだ」

研究者が、俺の額に銃を向けた


「なっ…!?」


「具体的な処分事由は、()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()の二つだ。何かあればすぐに守衛が駆けつける」


研究者が首で示した検査室の入り口には、パワードアーマーを着た守衛二人が控えていた


「この施設は閉鎖されていて脱出は不可能。変な考えは持たないことだな」


「…」


絶対に逃がさないということか


何でこんなことに…?

気が付いたら人権を失っていた?


理不尽すぎて頭がついてこない



「次は、このステージ1の説明をする」

研究者が銃を下ろしながら言う


「ステージ1…」


「このステージ1は、お前の変異体としての基本性能の調整が目的だ」


「…基本性能?」


「お前の体は、変異体としての処置を終えている。つまり、お前はもう強化人間になっているということだ」


「お、俺が強化人間に…?」


仮面をしたバイク乗りじゃあるまいし、勝手になんてことしてくれてんだ!?


「だが、変異体としてはまだ未完成だ。変異が足りていない。そのために変異…強制進化というが、これを促進させるのがステージ1の目的だ」


「ステージ1…、ということはステージ2も…」


「ああ、当然ある。ステージは3まであり、それが終わればここを卒業だ」


「卒業…」


「このステージ1の区画は、個室と食堂、複数の運動場がある。こちらから指示をする時以外は自由に生活していい。ただし、就寝時間と薬を飲むことだけは必ず守れ」


食堂もあるのか

今までは、病室のような個室で流動食のようなものを食べさせられていた


そうか…、やっとまともな飯を喰えるのか



…研究者の説明では、指示される内容は二種類


・検査のために検査室に行くこと

・選別という名の殺し合いのために選別場に行くこと


これ以外の時間は、ステージ1の区画内で自由に過ごしていいとのことだった



…説明が終わり、検査室を出た


とりあえず、自分の置かれた状況は分かった

しばらくは様子を見るしかなさそうだ


俺は、始めてこの施設の中を歩き回る


今まで部屋から出られなかった

頭痛や吐き気、幻覚や幻聴などでまともに動けなかったからだ




食堂


そこは長いテーブルが並べられ、全部で五十席ほどある広さだの広い部屋だった



ググゥゥゥ……


殺し合いを強制された直後にも関わらず腹が鳴る

緊張と恐怖から解放されたからだろうか?


…食欲が湧く自分に、少し幻滅する



食堂では、十人ほどが食事をしていた


全員が俺と同じような上下白色の服を着ている

全員が変異体の被検体ということだろう


変異体の覚醒者は十万人に一人の超低確率だと聞いたことがある

その希少な覚醒者が、この食堂だけで十人もいる


…信じられないな



俺は食事の受け取り口に行く

食事は一種類しかないようで、職員が俺の左の手の甲に機械を当てた後、職員に事務的に渡された

静脈認証か?


食事は茶色いレーション、緑色のオートミール、そしてスープとジュースだ


味は…、うーん…、上手くも不味くもないな


久しぶりに歯で物を噛む

ゆっくりと咀嚼して、ゆっくりと飲みこむ


「…」


流動食と違って、この噛むという行為で食べているという実感が湧くな



俺が久しぶりの食事をしていると、数人の被検体が入ってきた


入ってきた者の中の一人は、体が明らかに大きい

身長が2.5メートルほどはありそうだ



「ちっ…、飯がまずくなったぜ」


そう言って、食事をとっていた一人が立ち上がる


「ふん、負け犬はさっさと俯いて帰ればいい」


「…あ? 死にたいのか?」


「やってみろや!」



立ち上がった男は、背は高めだが線は細い

額より上の頭蓋骨が長くなっている、特徴的な顔だ

体のでかい男の方が体格では圧倒的に上だが、細い男は全く怯まない


食堂の雰囲気が、一気にピリピリとした緊張感に包まれる


「殺すぞ!!」

「あぁ!?」


そして、目の前で始まる殴り合い


なんだ?

俺は何を見ているんだ?


ここは刑務所か?

いや、刑務所には秩序がある


それなら荒廃した世紀末ですか?

こいつらなら、モヒカンにすれば世界観も合う気がする



ドガァッ!


「ぐはっ…」



…バカな!?


でかいやつが細い方を殴った

そして、殴られた細い方が数メートル先の壁まで吹き飛んだ


マンガじゃあるまいし、パンチでそこまで人が飛ぶとかあるか!?



「てめぇ! 淫売のガキのくせしやがって!」


「…殺す!」



ドガァッ!

ゴシャッ!


細い男が近くにある椅子やフォークを空中に浮かし、でかい男に向けて飛ばした



…サイキックだ



「ドラッグでラリってた野郎が、ずいぶんと健康的になったもんだなぁ!」


「ガキのケツの穴追いかけて来たド変態のくせしやがって、偉そうにしゃべってんじゃねー!」



被験体同士の乱闘がしばらく続くと、パワードアーマーの守衛達が食堂に駆け込んで来た


「やめろ! 貴様ら、また懲罰部屋に入りたいのか!?」



ドンッ!


「ごはぁっ!」



守衛達は暴徒鎮圧用のゴム弾を乱射し、モーターにより強化された腕力で暴れていた被検体二人を制圧した




…やっと静かになった

俺はこれから、こんな世紀末みたいな場所で生活しないといけないのか


俺は、とっくに食べ終わっていた食事のトレイを下膳口に下げる



「おい」


声をかけられて振り返ると、頭が長い男が立っていた

額から上が常人より物理的に長い


さっき暴れていた細い方の男と同じ感じだ


「お前、新入りだろ?」


「ああ…」


「その体格を見ると、ドラゴンタイプか?」


「…分からない。まだ、なんの説明も受けていないんだ」


「ふーん…」

頭の長い男が頷く


「俺はクレオ、E07でエスパータイプだ」


クレオは、耳が獣っぽいので獣人なのだろう

獣人のエスパータイプか


「俺はラーズって言います。D03です」


「…そうか、お前がD03になったんだな」


「え…?」


クレオが頷く


「いや、前のD03のおっさんが死んじまってすぐだからさ」


「…死んだ?」


「ああ、変異体の強制進化に適応できないで死んでいく奴は結構いるんだ。コード番号はタイプと番号の意味で、死んだら次の新入りがその番号を使い回すのさ」


「あー…」


「ま、よろしくな」


そう言うと、クレオは行ってしまった



…突然殺し合いをさせられたと思ったら、適応しない奴は死ぬだと?


俺は、理不尽さで頭痛を感じた



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 茶色いレーション、緑色のオートミール……栄養だけを重視してそう。あんまり美味しそうな色合いじゃないね… 作者さんへ ほうほう じゃあラーズがトラウマを克服した時が見ものですかね〜色々と妄想…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ