二章~13話 武器選び
用語説明w
変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある
ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた
タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っている
ガマル:ドラゴンタイプの変異体。魔族の男性で、ナースさん大好き
「ラーズ、大丈夫か?」
ヘルマンが声をかけてきた
ヘルマンの持つ、両手のジャマハダルも血で染まっている
「はい…。俺、また…」
意識を引っ張られる、引っこ抜かれるような感覚
高揚感に支配される
興奮し、気が付くと敵を叩き潰している
トラウマに悩まされていた時からこの感覚はあった
いや、この施設に来る前から…
軍時代、変異体因子の覚醒の兆候が出始めたころからだろうか?
「ラーズ、人が変わったみたいだった…。スイッチが入ったというか、トリガーを引かれたというか…」
タルヤが心配そうに俺を見る
「選別終了の放送は入ったぞ」
へルマンが言う
「はい…」
この感覚は何だ
まさか、暴走モード…って、アホなこと言っている場合じゃない
意識が飛んでいるような、我を忘れるような感覚はまずい
冷静な判断ができない状態だ
いつか足を掬われる
「ラーズ、左腕の怪我は大丈夫なの?」
「え…、痛っ…!!」
タルヤに言われて、俺の左の二の腕の怪我を思い出す
モーニングスターの棘で肉が抉れていたんだった
だが、血はもう止まっている
治癒力はさすがだな
「このまま、診療室に行ってくるよ」
二人にけがは無さそうなので、俺だけ診療室に向かった
我を忘れる感覚が怖い
少し一人になりたいからちょうどいい
「今回はけが人が多い! 怪我のない被検体は個室に戻れ!」
施設の職員が指示を出している
生き残りの被験体と襲撃者の搬送、死体の運び出しが始まっている
診療室の区画に行くと、セクシーな男女のナースさん達が廊下に出て動き回っていた
部屋に入りきれずに、廊下に負傷した被検体が寝かされている
「軽症者はこっちよ!」
金髪の獣人ナースさんが、軽傷者を並ばせている
頭を割られていたり、腹に穴が空いたり、胸を斬られたり、腕が無くなっていたりする被検体に比べれば俺は軽傷だ
あんな大けがでも生き残っている
変異体って凄いんだな…、死ににくいってのは兵士の利点だ
軽傷者の数が多く行列になっていたが、一人一人の処置には時間がかからない
カプセルワームを貼り付けて回復薬を飲まされて、回復魔法ではい終わり
そんな流れ作業だ
俺の順番になる
金髪獣人のナースさんは、白衣の下に何も着ていないようだ
そして、他のナースさんと違って貧乳で背も低いため、…見えてしまう
ロリ系のナースさんなのだろう
他にも、いろいろな嗜好に対応できるナースさんがいる
あれは男の娘…、あれはハードゲイ…、女性も満足できるように、かっこいい男のナースさんも結構いる
今回はけが人が多いため、全員が出てきているのかもしれない
…俺は、やはり巨乳がいい……
「あのー…」
「え?」
「順番がきているのに、巨乳を目で追いかけるのは失礼ですよ?」
「え、いやいや、そんな?」
「そんな? って、疑問形で聞かれても…」
そう言いながら、ロリナースさんが俺の二の腕にカプセルワームを貼り付ける
「うん、もう出血は無いですね。回復薬は必要ないです」
そう言って、回復魔法をかけてくれた
「うぅっ…」
傷が埋められていく感覚がある
「はい、包帯を巻いておくので、明日までは取らないでくださいね。コードと名前を教えてください」
「D03、ラーズです」
「えーと…、あら、前回も左腕の怪我なんですね。今日はこれで終わりです、お大事に!」
ナースさんがカルテを確認する
そういえば、前回は斧が左肩にめり込んだんだ
怪我が多いな、気を付けないと
「ありがとう」
俺は、ロリナースさんの胸元に目が行かないように気を付けながら、立ち上がってお礼を言った
俺の後ろにはまだまだ軽症者が並んでいる
「お、ラーズ! 生き残ったか」
「ガマルもな」
後ろの方にガマルが並んでいた
ドラゴンタイプのガマルは背中の触手を負傷したようだった
・・・・・・
個室に戻って寝ようとも思ったが、俺の足は自然と運動場に向かっていた
興奮が残っていて眠れない
…痛感した
俺には生き残る術が足りない
我を忘れて意識を持っていかれる感覚
ああなるということは、俺が死の恐怖を感じたということだ
変異体の身体能力、死ににくい体
今までは、この性能に助けられているだけだ
掴んで近距離での殴り合いになれば、普通の人間には負けない
だがそれでは、ギガントタイプやパワー系の強化人間に負ける
今のままじゃダメだ
近接武器での戦い方で勝つ必要がある
このままじゃ殺される
何か、俺に会った武器を見つけなければ
ショートソードは手数を出せる
防具をつけていない敵には有効だが、防具をつけていると刃が通らない
ハンマーは威力が高い
防具をつけている敵にも力押しでダメージを与えられる
だが、重心が先端にあるため切り返しが遅く、長巻相手に飛び込んでもショートソードほど手数を出せなかった
そして、何より近接武器の弱点
射程が短すぎる
長物相手には投擲武器がほしい
投げることによって、長物の射程を超えられる
そこで、隙を突けるのだ
今は投げナイフが三本だけ
そして、手持ちの武器を投げつけても四回しか投擲できない
「…決めた。やはり投げナイフを増やそう」
肩からたすき掛けのベルトを交差するように二本かける
多少動きにくいが、これで投げナイフが三本づつ六本になった
そして、大きめのファイティングナイフとハンマーを相手の防具有り無しで使い分ける
後は、トンファーをどうするかだが…
「おっ、伸縮式の特殊警棒にトンファータイプのハンドルがあるじゃん」
どっかの国の警察官とかが使ってるやつか
トンファーとして持て、警棒としても使える
伸縮式のため強度は落ちるが、持ち運びにもいい
警棒なら、防具の上から叩きつければある程度のダメージも通りそうだ
「…」
だが、結局武器構成は大きくは変わらない
つまり、戦い方がほとんど変わっていないということだ
同じ戦い方をすれば同じように苦戦する
この問題のブレイクスルーにはならない
俺は、軍時代に近接武器で殺し合った経験がない
大型の敵に対して、一気に突っ込んで弱点にパイルバンカー機構を叩きつけるような使い方だけだ
それだって、ホバーブーツというエアジェットを使った突進力が有ってできることだ
慣れない近接武器を持った敵との対峙
しかも、ここの襲撃者はその近接武器をかなり使い込んでいる熟練者ばかりだ
変異体の身体能力というアドバンテージがあっても、普通に殺される
…いや、弱気になるな
投擲武器の数は増えた
一つづつ、問題を潰していくしかないんだ
とりあえず満足し、俺は運動場を出た
「おう、ラーズ」
廊下からガマルが声をかけて来た
「ガマル、どこ行くんだ?」
「やっと治療のための診療室の封鎖が終わったみたいなんだ。ナースさんの所さ」
「好きだな…、ガマルは」
俺も行きたい
女の子の所に行きたい
行きたいんだぞ?
「ラーズも行けばいいじゃないか。殺されたときに後悔するぞ?」
「…そうならないように、やることをやるだけだよ」
「ふーん…」
ガマルが俺の顔を見る
「ん?」
「いや、ラーズって、何か俺達とは違うよな」
「何が?」
「ここで地獄みたいな生活をしているのに、目が死んでいないって言うか、諦めてないっていうか。ここなんかよりも、もっとひどいものを見て来ているような…」
「…」
「いや、ごめん、変なこと言って。じゃあなー」
そう言って、ガマルは歩いて行った
「…」
俺は、ガマルの後ろ姿を見送る
もっと酷いものか…
見てきたよ
俺はこんなところで死ねない
生き抜く力が必要だ
あの時の情景と感情が湧き上がる
忘れるな、この感情は俺にとって必要なものだ
ガマルの一言のおかげで、改めてやるべきことが分かった