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二章~12話 四回目の選別

用語説明w

ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた

タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っている

ガマル:ドラゴンタイプの変異体。魔族の男性で、ナースさん大好き


朝起きて食堂に行く


ヘルマンとタルヤ、そしてガマルもいた


「へー、運動場でサイキックを教えたのか」


「そうなの! そして、ヘルマンに戦い方を教わったのよ」

タルヤが、昨日の訓練のことをガマルに話していた


タルヤは嬉しそうに話している

生き残るための努力、それは、死の恐怖から逃げるために性欲でごまかすよりは、よほど健全なのかもしれない


「それなら俺も参加させてもらおうかな。ナースさんの予約が取れなかったときに、俺も顔出して……」



ピーーーーピーーーーピーーーー!!


「只今より………」



ガマルのお気楽発言の途中で警報が響き渡る


「来たか」

ヘルマンが立ち上がる


「やべー!」

ガマルは、慌てて個室に武器を取りに行った


俺達は、腰に武器をつけて準備していたので落ち着いている


「食堂は被検体が多いな。廊下で迎え撃とう」


「分かったわ」


俺とタルヤが頷き、三人で廊下に出た



今回の俺の武装は、トンファー、片手用ハンマー、ナイフ、投げナイフ五本だ

さすがに食堂に槍は持ってきていなかった


タルヤは投げナイフとファイティングナイフ、ヘルマンはジャマハダルを両手に持っている


俺達被検体に防具は用意されていない

身体能力で襲撃者たちに勝ってはいるが、防具の有効性を考えると一概に有利とはいえない状況だ



「…前から三人、後ろから一人来るわ。…どちらも被検体じゃない、襲撃者よ」

タルヤがサイキックのテレパスで探知を行う


エスパータイプの探知能力は凄い

俺とヘルマンのようなドラゴンタイプの五感の強化とは違うが、精力(じんりょく)を発する生命体であれば、五感の探知よりも広範囲に把握できる


「ラーズ、後ろの一人を頼む。タルヤ、俺が三人を迎え撃つからテレキネシスで援護を」


「了解」 「分かった」


この選別では、数人で協力するのが一番効率が良い

被検体の人数が多すぎても襲撃者が集まってきてしまう

おそらく俺達の位置は把握されているのだろう


かと言って、一人だと複数の襲撃者の相手は厳しい



俺が少し進むと、前から大柄の男の襲撃者が現れた

手には、長い武器を持っている


「やっと見つけた。お前一人か?」

男がニヤリと笑う


持っている武器は珍しい形をしている

長い柄の先に刀の刀身が付いている

柄の長さと刀身の長さが同じくらい…?


あれは長巻だ

大太刀を振るいやすく、かつ距離を延ばすために柄を伸ばした太刀だ



「…」

俺は男の言葉を無視して、右手にハンマー、左手にトンファーを構える


左手のトンファーで斬撃を止められれば、その隙に距離を詰める

トンファーは、打撃だけでなく盾としても使える武器だ



ブオッ!


「…っ!?」



男が一歩間合いを詰め、長巻を振り下ろす

凄まじい速さの剣筋が俺の動きを止めた


長巻の利点、それは長いこと

俺の攻撃が全く届かない位置から、長巻で斬りつけられる


トンファーで受けたくとも、叩きつけられる威力、男の腕力で簡単にはいかない

下手すると、その威力で体ごと両断される


受けるのは最終手段しかない



「あぁぁぁっ!」


ブォン!


ビュッ!



長巻の連続斬り


「ぐっ…!?」



避けるのに精一杯だ

どんどん後退させられる


このままだと、ヘルマンとタルヤの所まで下がらされてしまう

そうなると、挟み撃ちの構図になり危険だ



そもそも、人間が武器を持つ理由とは何だろうか?

一つは、その威力だ


刃物を刺す行為、鉄の塊を叩きつける行為

同じ腕力を使うにしても、相手を壊すという行為の効率性は段違いだ


だが、それだけではない

武器や兵器の最大の利点、それは射程距離ではないだろうか


狩をするのに一番大切なのことは、反撃を受けないこと

弓で射ち、槍を投げ、弱ったところを近接攻撃で倒す


相手の攻撃が届かない位置から攻撃できるからこそ、武器は強いのだ


刀より槍、槍より弓、弓より銃

射程距離が伸びるほど、強力な武器となる



ドガッ!


「…っ!?」



横に斬り払われた長巻が、廊下の壁に直撃する


来た! チャンスだ!

距離を潰すためには、防御や環境を利用するしかない


長物の動きを壁を使って制限

壁にぶつかった隙に、手に持ったハンマーを投げつける



ゴッ!


「ぐぁっ!!」



一気に突っ込み、左に持ったトンファーを下から突く



ゴシャッ!


金的がつぶれる音

同時にストレートを顎に突き上げる


痙攣する男

変異体のパワーが乗ったパンチは、普通の人間の顎くらいは簡単に砕く


男は、仰向けに倒れた



「うわあぁぁぁぁっ!?」


その時、廊下の奥から悲鳴が響いた

何かを叩き潰す音、そして血の臭いが漂ってくる



…新手か


死のストレス

戦場の空気


高揚する

これは、()()()()()()


長時間、極限状態に置かれた者は常識を逸する

過度なストレスが生存本能を暴走させ、異常な暴力性に支配されることも珍しくない


そうか、この選別は、その精神性を見ているのかもしれない


いい兵士とは、その精神の壊れにくさを評価される

変異体の体を得たとしても、精神が付いてこれなければストレスで壊れてしまうからだ



…こんなところで死ねない


俺にはやることがある


暴力性に支配されるな



俺は、目の前から近づいてくる気配に対峙する

俺と同じくらいの体格で、プロテクターを付けた男


手には、先端に短い鎖と小さい鉄球が付いている棒

鉄球には小さい棘が付いている


これはモーニングスターだ


通常のメイスの先に鉄球付きの鎖が付いた、フレイルと呼ばれる形状

鎖の動きで遠心力が付き、棒だけのメイスよりも威力は上がる

しかし扱いが難しく、下手すると自分を傷つけかねない武器だ


男がモーニングスターを振り回す

俺もハンマーで応戦



ガッ!



モーニングスターとハンマーの柄がかち合う

近距離から飛び退き、また間合いを詰め合う


モーニングスターの振りを躱し、ハンマーの振り下ろし

だが、男はモーニングスターの動きを止めずに勢いをつけたまま第二撃に繋げられた



ゴガッ!!


「くっ…!?」



戻って来たモーニングスターの鉄球が俺のハンマーを弾き飛ばした

更に第三撃が俺を襲う


短い鎖が付いているだけなのに、モーニングスターの攻撃軌道はハンマーと全然違う

鞭のそれに近く、更に遠心力が付いていて破壊力が高い


咄嗟にトンファーでガード!



ゴッ!!


「…ぐぁっ!!」



左手のトンファーでモーニングスターの柄を止めたが、その先の短い鎖についた鉄球が俺の二の腕を直撃、肉を抉る

痛みでトンファーが手から落ちる


ぐっ…左腕が…!


右手でナイフを抜き斬りかかるが、今度は男が距離を取る


逃がすか!


ナイフを投げつける


続けて投げナイフを投擲


もう一本!



ナイフはモーニングスターで弾かれたが、投げナイフの一本が男の太ももに刺さった

モーニングスターは重い分、連続攻撃の速度は遅い

防御にも向かない武器だ


俺も左腕に一発受けたが、これで条件は五分だ

奴の太ももから出血がある、時間を引き延ばすか


だが、俺の武器は投げナイフ一本だけしか残って

武器を拾いに行くか…?


男を見るが、じりじりと距離を詰めてきている

隙を見せたら殺されるな


素手でモーニングスター相手と戦うのはきついな

くそっ、せめて投げナイフがもっと持てれば…



「おらぁっ!」


「…っ!?」


男が勝負に出た

太ももからの出血で、勝負を急いだようだ


モーニングスターが振るわれる


集中しろ!


ぎりぎりを避ける


そして、カウンター…!



ブオンッ!


「くそっ!!」



モーニングスターの返しの攻撃で間に合わない

大きく避け過ぎだ、心が怖がっている

スピードが乗った状態で戻って来るので、少しでも大きく避けると間に合わない


ホバーブーツがほしい


俺が軍時代に使っていた、圧縮空気をエアジェットとして使うことで高速機動を可能とするブーツだ

あの突進力があれば、隙を見て一気に突っ込めるのに…!



だが、無いものは仕方がない

手持ちのカードで勝負だ


モーニングスターの振りに合わせて、投げナイフを投げる!

唯一の武器を手放すが、賭けに出る


ナイフを弾いた男に突っ込む


そして、右ストレートを撃ち込む



ゴッ!


「ぎゃっ…!!」



男がモーニングスターを手放す

俺は、モーニングスターを持つ男の右手を狙ったのだ


素手同士、男が殴りかかって来る

男の左のパンチ合わせて、頭の髪を右手で掴む

そのまま、足を掛けながら床に頭を叩きつける


体落としだ



床に叩きつけた男の体が、一瞬弛緩する

だが、俺の勢いが止まらない


体の勢いじゃない、精神的な勢いだ


生存競争、死のストレス、そして引き出される高揚感…



殺す


生き残る


死んでたまるか



俺は拳を叩きつける


ここで決める


逃がしたら殺される


無我夢中で、拳を叩き続けた



「ラーズ!」


「…っ!?」



名前を叫ばれて、はっと我に返る

目の前には、血まみれの男と血まみれの俺の手


それを、タルヤが震えながら見ていた



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― 新着の感想 ―
[一言] モーニングスター使い2人目…?出てきたの見たらどの武器が襲撃者の中で多く使われるか知りたいなw なんかこの武器持ちをよく使おうかなー?みたいなのってありますか? それとも色んな武器持ちを…
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