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二章~8話 三回目の選別

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴


タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っている


深夜であろう時間帯



ピーーーーピーーーーピーーーー!!


「只今より、選別が開始されました。活躍を期待します。繰り返します、只今より……」



警報が鳴り響き、選別の開始を知らせる放送が流れる



ガバッ!


「…っ!!」



俺はベッドから飛び起きる


死の危険、殺される恐怖が、一瞬で眠気を吹き飛ばした


俺は個室に持ち込んでいた装備を身につける

ハンマー、ショートソード、ハンティングナイフ、投げナイフ四本はいつも通り、そして槍を持つ


射程距離は、長ければ長いほどいい

槍は突きという最大射程攻撃に特化した兵器だ

やはり安心感が違う



ガキキィッ!



金属音が響く

食堂の方からだ


廊下を曲がって覗いてみると、ドラゴンタイプの被験体が襲撃者と戦っていた

襲撃者の武器は刀だ




片刃で反りがある形状、「折れず、曲がらず」と言われる強度の刀身を持ち、切れ味に特化した武器だ



そして、戦っている被験体の顔が目に入る


「あっ…」


戦っているドラゴンタイプは、狂犬と呼ばれていたジョルジュだ



ジョルジュは持っていたナイフを二本、テレキネシスで空中に浮かす

同時に背中の触手にもテレキネシスを纏っている


こいつは、精力(じんりょく)が多い

同時に複数のテレキネシスを発動する気だ


同じドラゴンタイプの俺も、いつかテレキネシスを使いこなせるようになるのだろうか?

テレキネシスの情報が欲しいな…


軍時代は、同僚のサイキッカーに教われていたが、ここだとそうもいかない



ヒュン!


ジョルジュが空中のナイフを襲撃者に飛ばした



同時に、触手へのテレキネシスで推進力を生み出し、ジョルジュが突っ込む

手には大きめのファイティングナイフを持っている



襲撃者が二本のナイフを刀で弾く


だが、ナイフを突き出したジョルジュがすでに接近

ジョルジュがナイフを突きつけて勝負ありだ、飛行能力凄ぇーな



ドシュッ…!


飛び散る血しぶき




「…は?」


俺は呆けた声を出してしまった


()()()()()の体が、左の肩から腹まで割けている


スピードに乗り高速で迫っていたジョルジュを、襲撃者の刀がそれより早く叩き斬ったのだ



あ、あの刀の構え…

あれは八相の構えってやつか?



示現流


蜻蛉の構えという、右肩の前て柄を持ち、上段の構えからの高速袈裟切り

二の太刀要らずと言われ、初太刀に全てを掛けた刀の流派だ



…そう言えば、こいつはナイフを弾くとき、ちゃんと峰の方で弾いて刃を守っていた


こいつ、強い…!



「あ…が…… ま、待て……く…れ……」

下からの声がする


よく見ると、ジョルジュは肩から胸、腹を切り裂かれているにも関わらず、まだ息があった


この生命力、さすが変異体だ

他人事みたいに言ったが、そう言えば俺も完成変異体だった


俺も、斬られたらこいつみたいに即死しないのか?

…さすがに試したくはないな



ザシュッ…


「…っ!!」



襲撃者は、表情を変えずにジョルジュの首を切り落とす

さすがのジョルジュも、痙攣しながら動きを止めた


…首を斬られたら、さすがの完成変異体でも死ぬ

限界を知っておくことは必要なことだ


ステージ2では、選別毎に呆気なく完成変異体が死んでいく

被検体に対する保護が無くなっているのを実感する


ステージ1の致死率はやはり低かったんだな

生き残りたけりゃ頑張れってことか


…上等だ



襲撃者は、ジョルジュの止めを刺しながらも俺に意識を向けて隙を見せない


こいつは強い

完成変異体の息の根を簡単に止めやがった


俺は左手にナイフ、右手にショートソードを持つ

襲撃者は変わらずに右肩の前で刀を上段に構える


じりじりと間合いの調整


振り下ろしが見えなかった

刀を振られたら反応できない


先手を取る



ヒュン!



俺はフェイントを入れながらナイフを投げつけ、ショートソードでの切りつけを狙う

だが、襲撃者は最低限の刀の動きでナイフを弾き、いつでも袈裟切りに入れる構えを崩さない



…強い、隙が無い


集中力が削られるていく

だが、高揚感がある


この施設に来て、初めての感覚かもしれない

技と集中力のぶつかり合い


死合いだとしても、積み上げて来たものをぶつけあうという高揚感だ



俯瞰しろ


こいつの全てを見ろ


動きの挙動、変化に反応


刀じゃない、全体から変化の兆しを探し出せ



「…っ!!」


ビュッ!



一瞬の違和感、反射的に反応

左前に逸れることで、俺の右肩を刀が削った


その瞬間、ショートソードを横に薙ぐ


「ぎゃあぁっ!!」


頬から右目にかけて、襲撃者の顔をショートソードの刃が通る

呻きながら、襲撃者が倒れた


「…はぁ…はぁ…はぁ……」


どっと汗が噴き出す

冷たい汗が背中を流れ落ちる


躱しはしたが、太刀筋は全く見えなかった

変異体の目で追えない太刀筋…、こいつは強かった


「うぅ…見事だ…」

襲撃者が顔を押さえながら言う


「…あんたも強かったよ。全然見えなかった」


「反応されるとは思わなかった。お前、剣は素人だろ?」

襲撃者が、残った片目で俺を見る


「…ああ、そうだ。だが、俺は達人クラスの剣士を二人も知ってるんだ。その太刀筋を経験してなきゃ、俺が負けていたよ」


純白の双剣の騎士、そしてトランスを使う青い片手剣を使った軍の同僚

俺の近接武器の理想は、あの二人の太刀筋だ


「経験の差か、負けたよ…」


「…」


俺は襲撃者を見下ろすと、その場を離れる


「…殺さないのか?」

襲撃者が声をかけて来る


「もう一度襲ってくれば殺すからな」


俺は別に快楽殺人者じゃない

そして、尊敬できる技の持ち主を殺したくないという気持ちもある


たった今、自分が殺されそうになったのだが…、たまにはこういう選択もあるだろう


後で後悔しませんように…、そう祈りながら、俺は食堂に向かった

…俺の小心者




・・・・・・




食堂の扉の向こうからは、戦闘の音が聞こえて来た


そっと扉を開けると…


「タルヤ!?」


エスパータイプの女、タルヤが戦っていた


敵は、片手斧を両手に二本持った戦士だ

鎖帷子のようなものを着ている


タルヤがナイフや食堂の椅子をサイキックで飛ばしながら、俺の方に走って来る

鎖帷子で、タルヤのテレキネシスではダメージが通らないようだ


「ラーズ!」


タルヤが涙を浮かべながら抱き付いてくる


「え!? ど、どうした?」


「もう無理…、ラーズ、お願い…」


タルヤが、俺に抱き付きながら反転し、



ドンッ


「え?」



タルヤが俺を食堂に押し込み、ドアを閉めてしまった


「ちょっ…、おい!」


ドアを開けようとするが、外から取っ手に棒状の何かを差し込んで閂にしたようだ


このクソ女、人を犠牲にして逃げやがった!



「オラァッ!」


ブォンッ!



斧野郎が、片手斧で斬りかかる


「うおっ!?」


斬撃を避ける


もう一回


もう一回


そして、打ち終わりにショートソードで突く



「…っ!?」


だが、斧野郎が反応、斧を突き出してくる



斧での突き、振りよりもコンパクトな動きで、大きい斧の面積を突き出す

ぶつかったショートソードがいなされる


更に、もう一つの片手斧を振りかぶる



負けるか!

いなされたショートソードを薙ぐ



ガッ!


斧野郎の胸に当たるが、鎖帷子で刃が止められる



ダメだ、鎖帷子ずりーな!

刃物が通らねぇ!


斧野郎の斬撃をショートソードでガード



ガキィィィン!


「なっ!?」



斧でショートソードが叩き折られる

更に勢いを殺せず、斧が左肩にめり込む


「ぐっ…!?」


咄嗟に折れたショートソードを顔に突き込むも躱される

そして、斧が爪のように俺の肉に突き刺さり、肉を引っかけられることで無理やり体制を崩された



「ぐあぁぁぁっ!」


お、斧強いぞ!?



防御無視の攻撃力


爪のように引っかける、突き出すなど斬撃以外の多彩な攻撃がある



ただ、攻撃回転が遅いという欠点もある

俺は、左肩にめり込んだ斧の持ち手を掴み、右手でハンマーを握る


斧野郎が俺の動きに察知し、もう一つの斧で斬りかかる

だが、俺のハンマーは小型の分軽い



ゴガッ!


「ぐはっ…!」



斧野郎の右手を俺が左手で掴んでいる

この状態で、俺は右手のハンマー、斧野郎が左手の片手斧で殺し合う



ゴッ!


バキッ!


ゴキッ!



斧を頭に喰らったら一発で死ねる

斧野郎の動きを見ながら、斧の持ち手、目、こめかみ、人中、急所を狙ってハンマーを入れていく


攻撃させない

コントロールする



「…ゴホッ……」


ついに、斧野郎が血を吐き出しながら膝をつく



俺は、斧野郎の右腕にハンマーを叩きつけ、ようやく左肩の斧を外して斧野郎から距離を取る

斧野郎の左耳からは、ドロッとした血が流れ出し、左目は破裂している


小型とはいえ、ハンマーを十発以上叩き込んだんだ

もう終わりだろう


息を吐いて気を抜いた瞬間…



ビュンっ!


「うおぉぉぉっ!?」



勢いよく飛んできた斧が、俺の頬を掠りながら食堂の壁に突き刺さった

斧野郎が最後の抵抗に、片手斧を投げつけたのだ


そして、斧野郎は前のめりに倒れたのだった







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― 新着の感想 ―
[一言] 襲撃者の意思も技量もすごいな、どこから引っ張ってきてるんだろう もしナノマシンが使えるようになったら怪力増し増しになるのかな?
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