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二章~6話 選別の反省

用語説明w

ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴


ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた

ガマル:ドラゴンタイプの変異体。魔族の男性で、ナースさん大好き


食堂を覗くと、敵が数人グチャグチャになって倒れていた


その中で、ギガントタイプの男とエスパータイプの女が立っている


敵は拳でぶん殴られて殺されたようだ

おそらく、一撃で絶命している


一撃必殺を繰り返して、武器を持った襲撃者を殺していったのか…

どんな攻撃力してやがるんだ!?



「よぉ、ラーズ。生き残ったか」

声をかけられて振り向くと、ドラゴンタイプのガマルだった


「ガマルも無事だったか」


俺達は拳を合わせて、お互いの生還を祝う


「ガマル、あの二人は?」

俺は食堂の二人をガマルに示す


「ああ、ステージ2のこの区画のトップ、鉄拳のハンクとアイアンメイデンのアーリヤだ」


「鉄拳とアイアンメイデン…?」


「ステージ2での活躍者は、二つ名で呼ばれたりする。みんな暇だから、面白がってつけるのさ」


「なるほどねー」


「あの二人は桁違いに強いけど、間もなくステージ3に上がるらしいぜ」


「ステージ3に…」


ここの施設はステージ3まである

この施設を出るまでの道のりはまだまだ長い


「あの二人は付き合ってるんだよ。二人で同時に上がるからと言って、ハンクは一度ステージ3行きを断ってるんだ」


人のことなのに良く知ってやがるな

暇なの?


「ステージ3へはどうやって上がるんだ?」


「最終的には教官連中の判断で決まるけど、選別である程度の人数を殺さないと進めないって噂だよ」


「…」


「あ、やべっ! 話してる場合じゃない!」

ガマルがはっとして言う


「え?」


「お前も早く行かないと、診療室の順番が取れなくなるぞ!」


「診療室? 俺は別に怪我してないから…」


「バカ、ナースのかわいこちゃん達に癒してもらう順番だよ。選別の後は、男も女も癒しを求めて診療室に集まるんだ。あ、男を相手にしてくれる男もいるけど人数が少ない。そっちが趣味なら急いだほうがいいぞ」


「いや、俺はノーマル……」


ガマルは俺の返事を聞かないで走って行ってしまった




・・・・・・




食堂は、死体の片付けと清掃作業が入るためしばらくは立ち入り禁止となった

廊下でも、いろいろなところで死体が袋に入れられ、回収作業員に引きずられながら運ばれていく


さすがに完成変異体が集まるステージ2だけあって、死んでいるのはほとんどが襲撃者だ

だが、被検体も数人が殺されている


被検体達は慣れたもので、仲間が死んでいるのに特に気にもしていない


「あー、あいつ死んだんだ」

なんて声が聞こえるくらいだ



「あっ…!?」


たった今、俺の目の前を運ばれていったのはエスパータイプの被検体…の死体

選別が始まった時に、奥へ行けと声をかけて来た男だった


被検体の死体は、襲撃者の死体と違って担架に乗せられて丁寧に運ばれていく

…錬金術処理されて、食材として取り扱われるからだろう



選別は危険だ

ここの襲撃者は武器を持っていて、しかも使い慣れている

攻撃を受ければ、完成被検体でも普通に殺される


俺も今回、三回戦って三回ともぎりぎりの勝負だった


俺は完成変異体となった

身体能力で優っているはずなのに、ぎりぎりの勝負だった


このままじゃダメだ

いつか負ける


まだ、この体をうまく使えていない

この身体能力を使いこなさなければ…



そして、もう一つの大問題

それが武器の扱いだ


俺が軍時代に使ってきた武器は、銃と魔法武器だ

魔法武器とは、魔石装填型小型杖とモ魔のこと


魔石装填型小型杖とは、単発式の魔法が封印された使い切り魔石の魔法を発動する短い杖だ

土属性土壁の魔石で弾避けの土壁を作ったり、怪我の応急処置用の聖属性回復の魔石、照明弾の代わりになる火属性照明の魔石など、便利なものが多かった


モ魔とは、モバイル型魔法発動装置の略称で、巻物と言われる範囲魔法(小)が封印された使い切りの呪文紙を読み込ませて魔法を発動させる

魔法を使えない俺の、貴重な魔法攻撃の手段だった



…つまり、俺は近接武器をメインで使ったことがほとんどない

あくまでも、遠距離攻撃のつなぎで近接武器を叩きつけるだけ


近接武器同士の駆け引きや技の引き出しが、圧倒的に足りないのだ


モンスターに近接武器を叩きつけるのと、近接武器を持った人間同士の戦いはまるで違う

犬に竹刀で殴りかかることはできても、剣道の試合で勝つ事ができないのと同じで、駆け引きと技の有無が勝敗を決めるからだ


対人戦闘用の武器の扱いを早急にマスターしなければいけない


完成変異体の体でも、武器を叩きつけられたら殺される

皮膚が硬化して刃が通り辛くなっているとは言っても、防具ほどの頑強さはないのだ



運動場に行くと、ヘルマンも来ていた


「ヘルマン、無事だったんですね」


「おう、ラーズもな」


俺達は拳を合わせる



「選別が終わったってのに、すぐに運動場になんか来てどうしたんだ?」


「ちょっと、武器を選び直そうと思って。このままじゃ生き残れません」


「お前、まじめだな。よし、それじゃあ推手でもやるか?」


「選別終わったばっかなのに、ヘルマンこそいいんですか?」


「…俺も同じさ。ステージ1で五年間も体を鈍らせたんだ、勘を取り戻さないとまずい」


「お願いします」



俺達は、また目隠しをして右手の甲を合わせる


推手


ヘルマンの動きを感じる


俺のやりたいことをイメージ、ヘルマンの動きに合わせる



「…」


布の擦れ合う音


息遣い


地面の振動


力と動き



俺はドラゴンタイプの変異体だ


ドラゴンタイプの特徴は人体拡張

背中から生えた翼のような触手にテレキネシスを使うことで浮力を発生、独力での空中浮遊を実現する

その他の能力としては、身体能力とサイキック能力の強化だが、これはギガントとエスパーの劣化に過ぎない


だが、今回の選別で分かったことがある

ドラゴンタイプの特徴にはもう一つ、五感の強化がある


俺は軍時代に視覚を塞いだ状態での生活を訓練で行ったことがある

だから分かったのだが、変異体となってから目を閉じても格段に周囲の状況が分かるようになった


聴覚、嗅覚、触覚が極端に上がり、更に温度、振動なども感じやすい

センサーの感度が格段に上がっている


生き残るためには、このセンサーの掌握と理解が必要だ

相手の動きを察知できれば、近接武器の腕で負けていたとしも、生き残れる可能性が格段に上がる

この目隠し推手はちょうどいい訓練だ



「うわっ!?」


ヘルマンに足をかけられて豪快に吹っ飛ぶ


「大丈夫か?」


「はい、もう一回お願いします!」



そして、感覚を向上させる理由がもう一つ


俺は、今回の選別でスタミナ切れを起こした

軍時代でも、もっと長い戦いを経験しているのにも関わらずだ


その理由は簡単、死のストレスだ

どこから襲われるのかと常に警戒し、恐怖心によって呼吸が乱れ、余計な力を使っていた

その結果、スタミナを使い切ってしまったのだ


周囲の状況が分かれば、もっと落ち着いて行動できる

スタミナの消費や精神的な負担を軽減できると思ったからだ



…俺は、ヘルマンと練習を続ける


こんなところで死ねない

選別での一回一回の戦いを舐めることはできない


生き残るための準備が必要だ



サイキックの訓練もしなきゃいけないし、武器の練習も…

やるべきことは山積みだ


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― 新着の感想 ―
[一言] 武器の扱いかーラーズはナイフなら使えるんだったっけ?
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