閑話32 ホワイト村
用語説明w
ロン:ラーズのトウデン大学の同期で、共に格闘技をやって来た仲。現在は消防官兼総合格闘技のプロ、エマと付き合っている
マリアさん:ドミオール院を切り盛りしている院長。慈愛に満ちた初老のエルフ女性
クレハナ
ウルラ領とナウカ領の領境
ここに、一つの新しい村が完成した
ここは元々は小さな集落があった
そこに龍神皇国から小さな村が移転し、一つの村のなったのだ
この村の名前はホワイト村
大崩壊を経験した龍神皇国の住人と、クレハナの内戦に晒され続けた住人の村だ
「…ここに、新しいホワイト村の発足を宣言します」
パチパチパチ…
村長であるオズマが、派手な紅白のリボンをハサミで切って開村を宣言する
その後、クレハナのフィーナ姫、龍神皇国のセフィリア騎士団長がスピーチを行った
「…小さな村の開村式には不釣り合いな、豪華なメンバーね」
「個人的な繋がりが有りますからねー」
話しているのは龍神皇国の騎士、クレジットクィーンのミィ
そして、クサナギ霊障警備という民間の警備会社の社長、レイコ
ミィはクレハナの内戦後にトライデントという会社を立ち上げた
メインはモンスター・ゴースト・バウンティハンター業務、それに伴うフィールドワークと情報収集だ
ゴーストハンター業務は、業務提携を行っているクサナギ霊障警備に委託
更に、クレハナの忍者衆であるフウマの里マキ組とも連携、こちらはバウンティハンター業務を委託している
トライデントの目的として、貴重なモンスター情報、フィールド情報、更に神らしきものの教団や、真実の眼の情報収集という目的も持っている
そのため、アイオーンや騎士団の仕事と重なる部分もあり、セフィリアからの依頼も受ける予定だ
だが、マキ組はホワイト村の警備に従事中、更に新人を育成中で動きが取れない
今日も、新人のタルヤを連れて開村式の警備と周囲の見回りを行っている
ラーズも入院中のため、トライデントの活動は実質休止、ミィ、スサノヲ、エマが、それぞれが情報収集を片手間で行っている状態だ
「フィーナさん、スピーチお疲れ様」
「レイコさん、ありがとうございます」
フィーナがレイコに挨拶する
レイコ社長、ビアンカ、ホフマン、プリヤ、ビッキの五人
メンバーは、ラーズが大学時代にバイトしていた頃と変わっていない
「ラーズは大丈夫なの?」
「はい。でも、こんな大事な時に体調不良でドクターストップなんて…」
「バカよねー、無理するから」
レイコが笑う
「ええ、本当に…」
ラーズは入院中
無理してチャクラ封印練を続けたせいで体調が悪化
エマのドクターストップがかかり、チャクラ封印練解除後に入院となってしまったのだ
おかげで、ホワイト村の開村式に間に合わないという失態を犯すことになってしまった
「フィーナ、お疲れ」
「あ、ミィ姉とヤマト」
クレハナの混乱も収まりつつあり、ようやく龍神皇国騎士団の治安維持部隊としての活動が終わる
今後は常駐する少数の龍神皇国騎士団員やクレハナの自治軍が治安維持に当たる
ヤマトも、龍神皇国に戻ることが決まった
「良かったね、遠距離が終わって」
フィーナが言う
「そうね…、長かった」
ミィがため息をつく
「やっと終わったからさ、いろいろ遊びに行こうぜ」
ヤマトが元気に言う
「そう言えば、ホワイト村にも龍神皇国の騎士団から一人常駐するんだって?」
「ええ。ファブル地区南支局のティトっていう一般兵よ。これで、少しは村の人も安心できるんじゃないかしら」
ホワイト村はやはり田舎だ
治安の部分で問題があり、一般兵とはいえ龍神皇国の騎士団から派遣されるということは安心できる材料だ
エマもロンと開村式に来ている
エマは旧ホワイト村とドミオール院と集落の人達の医療に携わっており、病院と医療体制へのアドバイスも行った
「エマ、ロン君。今日はありがとう」
「フィーナ…、ホワイト村が無事に…始まってよかった…」
エマが微笑む
「フィーナさん、ラーズは大丈夫なのか? ぶっ倒れたって聞いたけど」
「うん、意地張って無理した自分が悪いんだよ。少し入院したら体調も元に戻るって」
「ラーズ…、霊力と氣力の欠乏症状が出て…」
「そっか、よかった。フィーナさん、ラーズにサイモンさんのことを伝えておいてよ」
「ええ、分かった。ありがとう…」
ロンとエマは、大崩壊後すぐにシグノイアの災害復興に向った
そして、1991小隊の隊舎を見に行った
隊舎を片付けたり、サイモン分隊長を隊舎に埋葬してくれたのは、実はロンとエマだったのだ
「フィーナ、ラーズの馬鹿に写真を贈っといてやったぜ」
スサノヲが写真を見せて来る
フィーナとセフィ姉がスピーチをしている写真だった
「恥ずかしいからやめてよ」
「フィーナは散々メディアに出てたじゃないか」
クシナダが笑う
スサノヲとクシナダは、二人で工房を開いている
オーダーメイドの防具、そして武器を作っているのだが、個人の意見を取り入れたカスタムをしてくれるために評判はいい
大仲介プロジェクトに抜擢され、異世界の技術を持ち帰ったスサノヲは、業界でも注目されている
「ラーズも来たがってたんだけどね」
「今度スサノヲとお見舞いに行くよ。治ったらハカルに墓参りも行かないといけないからな」
大崩壊前、敵でありながら戦友となった、ハカルのBランク戦闘員、白き盾のルーク
そして、ラーズが戦場で相まみえた、ルークの妹である光刃のリサ
この二人はハカルの墓地で静かに眠っている
ラーズは、クシナダと共にかつての敵国ハカルに墓参りに行くという約束をしてた
クレハナの内戦が終わり、ようやくシグノイアの地を踏むことが出来たラーズ
この約束も果たされるときが来た
「フィーナ姫様、ありがとうございました」
「あ、マリアさん。おめでとうございます」
ドミオール院のマリアさん、ウィリンが、村長一家であるオズマ、メイル、サクラちゃん、コウメちゃんと話していた
サクラちゃんはドミオール院の同年代の友達とよく遊んでおり、コウメちゃんは多忙な両親のために幼稚園感覚で預けられている
「ウィリン君、大学はどうなの?」
「はい、いい勉強ができています。来年度で卒業したら、オズマさんの元で村の運営について学びながら法律関係の資格を取りたいと思っています」
「ウィリンが手伝ってくれるなら心強いよ。ホワイト村の住人の信頼も厚いし、法律の知識もあるからな」
オズマが言う
「ラーズも来られればよかったのにね」
メイルが笑う
そんなメイルの後ろには、幼稚園くらいの子供を連れた夫婦がいた
「あ、ボルドーとカーラ。そう言えば、まだラーズに会えてなかったもんね」
「行方不明になったり、戻ったと思ったら異世界や宇宙、クレハナに行ったり…」
「ラーズが忙しすぎるのよ。シグノイア防衛軍にいた頃からそうだったけど」
ボルドーは、シグノイア防衛軍に所属していたBランク戦闘員
そして、カーラはボルドーの妻でシグノイアの護衛官だった
共にラーズの戦友であり、大崩壊後はホワイト村で暮らしていた
「フィーナ、ラーズは大丈夫…?」
サクラちゃんが心配そうに言う
「ええ、大丈夫。よくなったら、すぐに連れてくるからね」
「うん、絶対だよ!」
フィーナは、サクラちゃんの頭をなでる
大崩壊で失った絆
でも、代わりに出来た絆がこれだけある
ラーズは一人じゃない、ラーズは幸せ者だ
パニン父さんの経過も順調、間もなく退院できるそうだ
ディード母さんが嬉しそうに電話をくれた
そう言えば、ドミニクお祖父ちゃんにもまだ会いに行けてないな
ドミニクお祖父ちゃんは、龍神皇国のファブル地区北側で農業をやっている
騎士学園の頃は毎年遊びに言っていた
また、ラーズと遊びに行きたいな
「フィーナ、お疲れ様」
「セフィ姉、挨拶は終わったの?」
「ええ、回って来たわ」
セフィリアの仕事は、龍神皇国騎士団とクレハナ国軍や地元の忍者衆との連携
ホワイト村との関わりもその一歩だ
龍神皇国の一部となったクレハナは、これから自治と治安維持の主張がぶつかり合っていくことになる
だからと言って、国民の安全を疎かにはできない
シグノイアとハカルでもあった、その軋轢を少しでも減らしていかなければいけないのだ
「ようやく、ここまで来たね。ありがとう、セフィ姉」
クレハナの内戦の終結
それは、思い描く終結とは違うかもしれない
…それでも、フィーナが求めたものは実現できた
「私は、自分のためにやっただけよ」
「うん。それでも、私だけの力じゃ実現できなかったから」
「…お互いに、利益のために結果を出しただけ。そうでしょ?」
「…」
「そして、ラーズもそう。自分の目的のために戦っただけよ」
「うん…。ね、ラーズは、どんな騎士になるのかな?」
チャクラ封印練を終えたラーズが、ついに闘氣を手に入れる
騎士学園で一度は諦めた騎士への道
その道を歩き始めるのだ
「私のやりたいことはまだ先、クレハナは通過点よ。…フィーナはこれからどうするの?」
「私は…」
クレハナの安定
それが、姫である自分の仕事
ソラコア属性魔法、雲遁、巫女の神降ろしの術の精練
騎士としての実力の向上
そして、ドース父さんの行方、ドース父さんのやって来たこと、ドース父さんが変わってしまった原因の調査
やることはたくさんある
でも、一番は…
トライデント 四章 ~23話 ミィとのクエスト
クサナギ霊障警備 四章 ~32話 クサナギ霊障警備
ティト 四章 ~24話 懐刀
白き盾のルーク 十章 ~27話 現ホワイト村
ボルドー 閑話7 違法変異体研究施設の制圧
クシナダ 四章 ~22話 データ
ドミニク・オーティル 閑話3 龍神皇国の実家
明日、最終回!
エピローグです!




