十章 ~35話 1991小隊
用語説明w
フィーナ:漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズと復縁した
交差するサンダーブレスと霊属性ブレス
そして、正面から禍々しく変形した竜牙兵が魔属性を纏った爪を叩きつける
雷・霊・魔の三属性攻撃に対して、ギガントを中心とした冷属性範囲魔法(大)が発動
その攻撃は、自身のダメージを厭わず敵を吹き飛ばす意思
ギガントの意識が攻撃へと集中
同時に、ギガントの闘氣が竜牙兵と二つのブレスへの防御に当てられる
これはつまり、残った背面の闘氣を薄くすることに成功したということだ
冷属性の魔力が爆ぜる直前
経験則によって刹那を見極め、1991の青き輝きに全てを重ねる
真・フル機構突きによる、至高の一撃だ
「………ぁぁぁぁあああああっっっ!!!」
ゴゥッ… ズッガァァァァァァァァン!!
1991の刃体がギガントの後頭部、もう一つの顔に直撃し、貫く
ギガントの頭蓋が砕け、中に埋まっていたオーブのようなものが粉砕
その中にあった、絡みついた脳のようなものが飛び散る
その肉片は、蒸発するかのように
まるで世界から存在を否定されるかのように
霧散して消えていった
シャキキーーーーー……!!
その直後、ギガントの冷属性範囲魔法(大)が発動
俺の体が強烈な冷気に巻き込まれる
「…っ!!」
一瞬で冷気が浸透、焼けつくような刺激が体を通り抜ける
また相打ち、もう俺の力では回避は不可能
いつも通りの不格好な結末だ
………
……
…
「……ーズ……!」
「…ラーズ……!」
「…ぁ…ぁ……」
ゆっくりと目を開ける
眩しい日の光で目がくらむ
「ラーズ! 大丈夫!?」
暖かい光が俺を包んでいる
これは…、回復魔法の暖かさか
「フィー…ナ……?」
「ラーズ…!!」
フィーナが、泣きじゃくりながら回復魔法を使い続けている
俺の体はぐっしょりと濡れており、回復薬の臭いがする
「ありがとう、フィーナ。もう大丈夫だ…」
俺は、ゆっくりと体を起こす
「ヒャン!」「ガウ…」
リィとフォウルがすり寄って来た
「ありがとうな、お前達…」
リィは冷属性範囲魔法の発動を感じ取ると、すぐに火属性範囲魔法(小)の巻物を使った
そのおかげで、冷属性を相殺して俺のダメージを軽減してくれたのだ
フォウルは、吹き飛んだ俺に回復薬をかけ続けてくれた
「ご主人! フィーナが来てくれなかったら危なかったよ!」
データが言う
「データも、回復の魔法弾、助かったよ」
データ2は、装備している魔石装填型携帯用小型杖を使って、すぐに聖属性回復の魔法弾を撃って俺の命を繋ぎとめてくれた
「竜牙兵は砕けちまったか…」
だが、一番の功績は竜牙兵だ
俺がフル機構攻撃をぶち込んだ直後、竜牙兵が飛び込んで俺を突き飛ばした
そのおかげで、冷属性範囲魔法の効果範囲にいた時間は極短時間で済んだのだ
竜牙兵は、範囲魔法のダメージで消し飛んでしまった
アンデッドとはいえ、しばらくは復活できない
「バ、バカー…! な、何でこんなところで戦っているのよ! あれは何っ!?」
フィーナが怒鳴りながら、ハンクとアーリヤの名を語ったギガントの残骸を指す
「いや…、隊舎に入ったら突然襲われたんだ。明らかに俺を狙っていた」
「そ、それなら、どうして私に連絡しないの!? 死んだらどうするのよ!」
フィーナが怒る
「そう言えば…、フィーナを呼べばこんなに苦戦しなくてよかったのか…」
「そ、そうだよ! バカ! 本当にバカ! いつもいつもいつも! 一人で勝手に突っ走って…!」
フィーナが俺に縋りつく
「…思い出したよ、俺が教わったことを」
「え?」
フィーナが顔を上げ、そんなフィーナを抱きしめる
「…俺は一人では何もできない。そして、それでもいいって教えてくれたのが1991小隊だったんだ」
「…」
「…あいつは、絶対にやっちゃいけないことをした。だから、どうしてもこの手で……」
「…もう、私を置いて危ないことしないで。本当に私のことが好きなら、一人で行かないでよ…」
「ああ…、約束する。ごめん、心配かけて」
「嫌。絶対に許さない」
「…」
「…」
「どうしたら許してくれる?」
俺は、フィーナの頭を軽く撫でる
また、心配かけちまったか
そりゃそうだよな
リィ、フォウルが心配そうに見ている
俺は、そんな二匹も撫でてやる
「…」
「フィーナ?」
「反省してる? 許して欲しい?」
「うん…」
「それじゃあ、もう一回ちゃんとプロポーズしてくれたら許してあげる」
「…はい?」
ようやく、フィーナが落ち着いた
俺の体も動くようになり、ゆっくりと立ち上がる
「そういや、あのギガントは倒せたのか?」
「ヒャン!」
リィがギガントだったものの残骸の上を飛んでいる
頭が吹き飛び、体液が飛び散っている
そして、頭蓋の中にあったオーブの欠片のようなものが散らばっていた
「絡みつく樹木…、前に戦ったデスペアと同じだ。このオーブのようなものの中に肉片のようなものが入っていた。そして、砕けると消滅してしまうんだ」
「デ、デスペアって…!? どうして突然…」
フィーナが驚いた顔をする
大崩壊にも関与した、謎の生命体デスペア
その正体は一切判明していない
知性と目的を持つ何か
神らしきものの教団よりも不気味な存在だ
「このデスペアは…。あの施設で俺とダンジョンを制覇した、ハンクとアーリヤを名乗っていた。本当かどうかは分からないけどな」
「え…、そんなことって…」
「そして、明確に俺を狙って来ていた。この隊舎の死体を…って、そうだ!」
俺は、すぐにハンガーに走る
「ラ、ラーズ!?」
それを、フィーナが慌てて追いかけて来た
…ハンガーの中は静かだった
外の陽気を、覆っている蔦が遮ってひんやりとしている
もう、動く者は無い
床には、スケルトンとなっていた人骨が静かに転がっていた
「ヒャーーン……」
リィが良く響く声で鳴く
すると、散らばった人骨の側に何かが浮かび上る
…リィの霊属性効果の干渉だ
「あ…あぁ………!」
それは、懐かしい姿
1991小隊の制服を着た仲間達
穏やかに佇み、そして、俺を眺める
その姿は、あの頃のまま
まるで、大崩壊が嘘だったかのように
…まさか、ラーズなのか?
巨漢のサイモン分隊長が言う
…戦いはどうなったんだ?
小隊長代理だったジードが尋ねる
「…大崩壊の後、黒幕だったムタオロチ家は粛清されました。1991小隊の活動のおかげですよ」
俺は必死に、あの頃と同じように答える
まるで、職場に出勤して挨拶をするかのように
…エマは元気?
小さな女の子、リロが心配そうに言う
…メイルは大丈夫でしたか?
メガネの整備班、エレンが尋ねる
「…エマは医者として頑張ってる。メイルも無事で、びっくりすると思うけどオズマと結婚して子供も出来たんだ」
俺は、無理やり笑顔を作る
それでも、目から溢れる液体によって、視界がぼやけてしまう
…ラーズは、ちゃんと幸せになっているか?
整備班のクルスが尋ねる
…いつもみたいに無理していない?
同じく整備班のホンが心配そうな顔をする
「頑張ったんだ。みんなが死んだのが許せなくて、なんとかしたくて。でも…俺……」
体が震える、言葉が途切れる
たくさん話したいことがある、それなのに、上手く口が動かない
…ラーズ、生き残った者の仕事は、死んだ者の分まで幸せになることだよぉ。分かってる?
白髪の女性兵士、ロゼッタが笑う
「…うん……でも、俺……」
寂しさ、哀しさ、どうしようもない感情が後から後から吹き出してくる
もう、自分では止められない
…バカ野郎! お前、そんな顔で俺達を見送るつもりか!?
そんな俺を、サイモン分隊長が叱る
「あ…、いえ…その……」
…妹さんよ、このバカをしっかり見ていてやってくれよ。いい奴なんだが、いつも危なっかしいからよ
「サイモンさん…」
フィーナが、涙ぐみながらも頷く
…さ、そろそろ時間か。ゼヌ小隊長や、ここにいないカヤノ、シリントゥ整備長にも、お前達が元気だったと伝えておく
ジードが言うと、みんなの姿が淡く光り出す
「…ま、待って! これを見て下さい! ブルー小隊と呼ばれた、みんなの装備品を取り込んだら、1991がこんなに青く染まったんです! あと、リロの起動ディスクは新しいMEBに…!」
俺は、早口で伝える
短時間であろう、この再会の愛おしさ
もう終わってしまうであろう、奇跡の時間
すでに、みんなの姿が朧気になってきている
…お前とエマ、メイルが生きていることが私達の成果だ。息災でな。
ジードが微笑む
…何でだかここに留まっちまったけどよ、最後にラーズの顔が見れて良かったぜ
…会えて嬉しかったよ!
…体に気をつけて下さいね
…ラーズ、よく頑張ったな
…メイルとエマにもよろしくね
…すぐにこっち来ちゃダメだよぉ
もう終わり
みんなの姿が消えていく
その顔には、安らかな微笑み
悲しい
寂しい
それでも無理矢理に笑顔を作る
涙を止めるのは諦めた
せめて、みんなが不安にならないように、俺とフィーナは泣き崩れないように耐える
逝ってしまったみんなに対して、できることはただそれだけだったから
これにて十章が終了です
一日空けて、終章の投稿を開始します
本日から新しく投稿を始めました
ですペア ~騎士学園劣等生の葛藤~ ダンジョン、パーティ、モンスター、タクティクス…騎士への道が厳しすぎる!
https://ncode.syosetu.com/n1038hu/
こちらも、よろしくお願いします♪