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十章 ~28話 目覚め

用語説明w

龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中

クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している


フィーナ:漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズと復縁した


龍神皇国ファブル地区


郊外にある病院に俺とフィーナは駆け付けた

ウルラの王家で、実質的にクレハナを統べる王となったフィーナが堂々とプライベートジェットを飛ばしたおかげで、二時間足らずで到着してしまった



「お母さん!」


フィーナが、病院のロビーにいたディード母さんに呼びかける


「フィーナ、病院だから静かに」

母さんが静かに言う


「あ、ごめんなさい…! それで、パニン父さんは!?」


「ええ、もう大丈夫。ちょっとポヤッとしているけど話せるわ」


マサカドの襲撃によって、パニン父さんが重傷を負ってから数か月

もう、目を覚まさないかもしれないという可能性を考えざるを得ないところまで来ていた


そんなパニン父さんが、奇跡的に目を覚ましたのだ



「会えるの?」

俺はディード母さんに聞く


出来るなら、すぐにでも話したい


「大丈夫よ。でも、まだ記憶の混乱があるから少しだけね。それと、変なことを言っても話を合わせてあげて」


「う、うん…」



俺とフィーナは、母さんについて父さんの病室に向った


「おぉ、ラーズとフィーナ…」


パニン父さんは、背上げをしたベッドにもたれていた

数か月寝たきりだったために、筋肉が落ちてしまっている


「父さん、大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫だ。まもなく、ラーズとフィーナの結婚式だからなぁ…、寝てなんていられないよ」


「…っ!?」

「な、な、何を…!?」


俺とフィーナが同時に吹き出す


「そうだ…、お前達が付き合って…、それから…」


「あなた、大丈夫よ。それはまだ先の話だから」

ディード母さんが優しく言う


「んー、そうだったか…」


「まずは、あなたの体を元に戻すこと。もう、何も心配はいらないから」


「…母さん、少し顔が疲れているよ。大丈夫かい?」

父さんが、心配そうに母さんの顔を見る


「大丈夫。やっと心配事がなくなったから。後は、元通りになるだけよ」


「そうかい? それじゃあ、すぐに退院して母さんと買い物に行かないとな…」


「買い物?」


「フィーナの誕生日プレゼントを買いに行こうって行ってたじゃないか」


「そ、そうだったわね…」

母さんが目に涙を溜めながら頷く


父さんは何日も昏睡していたことに気が付いていない

そして、相変わらず優しく、母さんや俺達を大切に思ってくれていた


そんな父さんを、俺は誇りに思う

そんな父さんだからこそ、武器も持たずに恐怖を巻き散らすマサカドに向って行ったのだ



「さ、あなた。今日はそろそろ休みましょう? 早く退院するためにね」


「そうだなぁ。ラーズ、フィーナ、すまない。父さん、疲れているみたいだ」


「ううん、いいの。早く良くなってね」

「無理しないで」


フィーナと俺は笑顔で言う

そして、父さんの病室を後にした




「…お医者さんが言うには、記憶の混乱と喪失を起こしている可能性があるって。これから、徐々に思い出していくことになる。ゆっくりとリハビリをしていくわ」

母さんが言う


「パニン父さん…、良かった」

フィーナが涙ぐむ


「フィーナ、心配かけたわね」


「ううん、お父さんは私のために…」


「ドースさんも私達も、可愛い娘のためなら何でもする。それは親のエゴ、あなたが気に病むことじゃないわ」

ディード母さんがフィーナを抱きしめる


「私、でも…」


「フィーナ、あなたが母親になったら分かるわ。それまでは、私のことを信じて悩まないで」


「うぅ…」


しばらく、フィーナは母さんの胸で静かに泣いていた



「…ラーズ、しばらくはフィーナのことを見てあげるのよ」


「分かってるよ」


俺は母さんに頷く

そして、ようやく落ち着いたフィーナと病院を後にする




ファブル地区に点在する草原のオープンカフェ

俺達は、その一つに入る


「落ち着いたか?」


「うん…」


フィーナが紅茶を飲みながら頷く


「父さん、よかったよな。もう、目が覚めないかもしれないって覚悟もしていたから」


「本当に…、よかった…」


「でも、記憶が混乱していたな」


「本当だね。落ち着いて、自分が寝ていた期間を知ったらびっくりしそう」


俺達は笑い合う

それは、ホッとした安堵の笑いだった



「…父さんが治ったらさ、ホワイト村を案内しようよ。父さんが必死に守ってくれた集落が、立派な村になったところをさ」


「そうだね。ホワイト村かぁ…」


フィーナが頷くも、言葉を濁す


「どうしたの?」


「…ううん、何でもないよ」


「言ってよ、気になるじゃん」


「うーん…」


「…?」


フィーナの歯切れが悪い

俺は静かにフィーナの言葉を待つ



「あの…、さ…」


「うん、何?」


「私とラーズってさ、また付き合ったんだよね?」


「え? うん、俺はそのつもりだったけど。違うの?」


「…違わない。だから聞くんだけど」


「うん、何なの?」


フィーナが俺を見る


「ラーズとタルヤさんって、どういう関係なの?」


「………は?」


き、急に何言ってるの!?



「ラーズとタルヤさん、抱き合ってた」


「いや、あれは不可抗力で…」


抱き合ってたって、あの時のことだよな


「不可抗力でも、絶対に抱き合ってた」


「え? いや、タルヤもあの時は不安定だったんだ。でも、別にタルヤとは本当に何でもないよ」


…うん、自分で言っていていい訳臭い

本当に何もないのに、何でこんな感じになっちゃうんだ!?


「それは知ってる。ジライヤが言ってたから」


「え? ジライヤ?」


「忍びを使って、タルヤさんを監視してたんだって。ラーズが手を出したらすぐに分かるからって」


「…え、めっちゃ怖いんだけど」


タルヤに手を出していたら、自動的にフィーナに知らされるようになっていた?

タルヤの自覚のないハニートラップでやられてたってこと?



「…私、許してないから」

フィーナが横を向く


「だ、だから…。いや、ごめん。でも、俺が好きなのはフィーナだ。今も、昔も、あの時もそれは変わらないよ」


「…」


「ほ、本当なんだって。フィーナとずっと一緒にいたい。それに、あの時は俺がフィーナに振られて…」


「アレ、許してないから。そういうの、やらない義務があると思う」


フィーナが、めちゃくちゃな理論をゴリ押ししてくる


それでも、惚れた者の弱みだろうか?

許してしまいそうになっている


こんな分かりやすい嫉妬があるだろうか?

こんな、理論的に破綻しているフィーナは珍しい


だから、俺はしっかりと頷く

フィーナの嫉妬に対する感謝を込めて



「分かった、絶対にやらない。その代わり、俺のことをもう振らないでくれ」


「…」


フィーナが無言でうなずく



こいつは、天才で仕事が出来て頭の回転が速い


それなのに、弱くて、ちっちゃくて、子供っぽい

そんな小ささも含めてフィーナのことが好きだ


そして、分かりやすく、浅ましいところも好きだ



「俺、もしかしてフィーナから結構思わてるのかな?」


「バカ」


「もっとフィーナの考えていることを知りたい」


「私だって知らなかったよ。ラーズが、あんなに鼻の下のばすなんてね!」


分かりやすく怒るフィーナ

うむ、かわいい


俺も大人になったもんだな



「…それで、何でジライヤはタルヤの監視なんてしてたんだ?」


「私に、ラーズのことを軽蔑させたかったんだって。ちゃんと別れさせたかったみたいね」


「あの野郎…」


「…ウルラの忍びは、大学時代から私とラーズの生活を監視していたみたいだし」


「そういえば、ドースさんが言ってたな…」


学生時代にフィーナに手を出していたら、ドースさんに筒抜けだった

…それって、下手すると消されていたのかもしれなかったってことか!?


こ、怖いんだけど!



「ラーズさ、これからどうしたいの?」

フィーナが聞いてくる


「うーん、とりあえずはゆっくりしたいかな」


「ゆっくり?」


「うん。そして、自分の考えをまとめたい。あと、フィーナと一緒にいたい」


「え?」


「ただ、フィーナと一緒に過ごしたい。変なイベントはいらないから、一緒にいられる幸せを噛みしめたいんだ」


「…」



フィーナは、空を見上げる


顔が火照って、赤くなっている気がする

ラーズに見られたくなかったからだ



…バカみたい、タルヤさんのことでムキになって


本当に大人げない

ラーズが、私のこと好きでいてくれていることを知っているのに


それなのに、つい確かめたくなっちゃう


私も、ラーズと一緒にいたい



「ん、どうしたフィーナ?」


「何でもないよ」


変な顔をしているフィーナと、俺達は店を後にしたのだった



マサカドの襲撃 六章 ~25話 重傷者

抱き合ってた 六章 ~27話 支援物資

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