表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
377/394

十章 ~27話 現ホワイト村

用語説明w

マリアさん:ドミオール院を切り盛りしている院長。慈愛に満ちた初老のエルフ女性

ウィリン:ヘルマンの息子。龍神皇国の大学生だが、現在は休学してドミオール院に戻ってきている

タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う。重症を負い冷凍保存されていた


ドミオール院


この孤児院にセフィ姉とフィーナがやって来た


外では、マキ組のルイとゲイル、ジョゼが子供達と遊んでいる

俺の使役対象である、フォウル、リィ、データ2、竜牙兵も一緒だ



「こんな場所に、フィーナ姫様と龍神皇国のお貴族様がいらっしゃるなんて…」

マリアさんが恐縮しながらお茶を入れてくれる


「この集落は、私達にとってとても大切な場所になります。何度でも足を運ばさせて頂きますわ」

セフィ姉が言う


「それで、この集落はどうなるのですか?」

ウィリンが尋ねる



ドミオール院のある、この領境の集落に、龍神皇国から人が移り住んでくる

ドルグネル家の領地にあったホワイト村という村がそのまま移転してくるのだ


「ホワイト村の村長の人柄は私が保証します。村人で動けない者がいるため、この集落に療養施設や病院を作ることになり、それに伴ってインフラも整備し直されます。単純に住人が増えることで出来ることも増えるかと思います」


「龍神皇国からの村の移転ですか…」

マリアさんが呟く


いきなりそんなことを言われてもピンとは来ないだろう


「この集落とドミオール院にとって、環境が変わるためにご迷惑をおかけすることになります。ですが、国からの補助も出しますし、ドミオール院の子供たちにとって良い環境になるようにしていくつもりです」

フィーナが説明する


「この集落には村長さんはいないとのこと。集落の方にも聞きましたが、ホワイト村の村長がそのまま任に就き、特に要望が泣ければホワイト村の名前をそのままこの集落に付けさせてもらえませんか?」

セフィリアが聞く


「それは別に構いませんが…」

マリアさんには特に抵抗はないようだ


「この機会に、ドミオール院への補助が上がるのは助かりますね。人も雇えますし」

ウィリンも乗り気だ


「ホワイト村の村長夫妻は、ラーズの戦友でもあるんですよ。信頼は出来ます」


「それなら安心ですね」

「良かったわ」


最後のセフィリアの言葉に、ウィリンとマリアさんは安心したように頷く


ドミオール院でのラーズの評価は、下手をすると王家よりも高い

だが、そんなことをラーズは知る由もなかった



セフィ姉とフィーナがマリアさんとウィリンにホワイト村のことを説明している間、俺は外にいた

タルヤに呼び止められたからだ


「タルヤ、どうしたの?」


「幸せそうなラーズを近くで眺めたかっただけよ」


「…この姿を見て、幸せそうに見える?」



俺はピンクとの激闘で腕を負傷、更に広範囲の熱傷となっていた


ピンクの発する高熱が徐々に俺の皮膚にダメージを与えていたため、結局、医療カプセルに入ることになってしまったのだ


カイザードラゴンの力を持つピンク、皇竜化とやらの力は恐ろしい

あんな変身能力、騎士学園時代には持っていなかったのにな



タルヤが俺を見つめ、そして少しだけ俯く

そして、覚悟を決めたように口を開いた


「…ラーズ、ごめんなさい。私、あなたを英雄視して苦しみを分かってあげられていなかった。ドミオール院を守りながら、ずっとずっと苦しんでいたのに」


俺のサバイバーズ・ギルトのことを言っているのか

そんなこと、俺自身が理解していなかったんだからタルヤに分かるわけがない



「タルヤ。俺は何がしたかったのか、何を求めていたのか、自分でも分かっていなかったんだ。大切な人たちを失って、悲しくて、苦しくて。その気持ちをどうにもできない。何をしても、どうにもならなかった」


「ラーズ…」


「でもね、どうしようもなくなって泣き叫んだ。それを許してくれた人がいた。そうしたらね、気が付いたんだ」


「何を?」


「…ずっと被害者面して壁を作っていた、どうしようもない俺に、手を差し伸べてくれる人がいた。救おうとしてくれていた人がいた。そして、一緒に戦って来た仲間がいたってことに、さ。タルヤもその一人だ」


「…」


「それが本当に嬉しくてさ。俺、生きている間に、この人たちに何かを返したいって思ったんだ」


「…もう、大丈夫なの?」


「どうだろうな…。でも、やっとアイオーンっていう進むべき道も見えたからね。少しずつ動き出したいとは思ってるよ」


長い時間がかかったが、やっと心の整理、記憶の整理、そして意思の整理がついてきた


大崩壊の元凶、神らしきものの教団

俺は、ようやく奴らと対峙できる冷静さと冷徹さを手に入れられた…、そんな気がする


何年経ったとしてもツケは払わせる

関わったクズ共も、一人ずつ見つけ出してやる



「…ラーズは、やっぱり凄いね」


「え?」


「そうやって答えを自分で見つけ出す。そんなところに、私はずっと憧れて来たの」

タルヤが微笑む


「何を言ってるんだよ。これは、タルヤが教えてくれたことだろ」


「わ、私?」

タルヤが素っ頓狂な声を上げる


「そうだよ。あの施設でのトラウマを、子供達を救うことで克服して来た。タルヤは、俺と違ってずっと前を向いて歩いていた。嫌な記憶から逃げ続けていた俺とは違う。…尊敬してるよ」


「そんなこと…」



「あー、ラーズ―!」

女の子の声がして振り向く


赤ちゃんと小学校くらいの女の子を連れた夫婦がやって来る


「サ、サクラちゃん! オズマにメイルも!?」


「あのね、ラーズにお家に来てって言ったのに、お引越しになっちゃったの」

サクラちゃんが指を立てて説明する


「そ、そうなんだ。この集落に引っ越してくるんだよね?」


「うん! それで、村長のお父さんとお母さんが挨拶に来たの」


「凄く分かりやすい説明だったよ」

俺はサクラちゃんの頭を撫でる


小学校低学年にしてはしっかりとした話し方だ

うん、賢く育ってるな



「ラーズ、もう大丈夫なのか?」

オズマが聞いてくる


シグノイアで会った時、俺は生きている理由を見つけられていなかった

元公安の警察官だけあって、洞察力は高いな


「ええ、なんとか。あの時は、ちょっと混乱していて…」


「ラーズは、私達1991小隊の全てを背負ってくれた。私、何もできずにごめんなさい…」

メイルが謝ってくる


「何を言ってるんですか。1991小隊の生き残りであるメイルがしっかりと生きている。そして、サクラちゃんをしっかり育ててくれている。…充分ですよ」


「…」


「俺、今度、改めてシグノイアを見に行こうと思っているんです。1991小隊が人知れず戦って守った国を」


「ええ、シグノイアはしっかり復興した。1991小隊のおかげでね」

メイルが、少しだけ涙ぐみながら言う


「それと、ハカルもだ。白き盾のルークの墓参り、まだ行っていないんだろ?」

オズマも言う


「あぁ…」



白き盾のルーク


ハカルのBランク戦闘員であり、敵国であるシグノイアの1991小隊と協力して大崩壊を止めるために戦った

敵であり仲間だったのだが、神らしきものの教団のスパイであった白刃のテラに殺されてしまった


そして、ホワイト村の元となった集落は、この白刃のテラが神らしきものの教団から捨てられた者を集めて世話をしていた場所だった


ホワイト村とは、白き盾のルークと白刃のテラの二つ名から取っている



「ラーズ、村の引っ越しが終わったらまた遊びに来てくれる?」

サクラちゃんが俺を見上げる


「うん、もちろん。遊びに行ってもいい?」


「うん、来て! 約束だよ!」


俺とサクラちゃんが指切りするのを、メイルとオズマが見守る

そして、妹のコウメちゃんもニコニコしていた



「長旅で疲れたでしょう、どうぞ中へ」

タルヤが、メイルの抱っこするコウメちゃんを見て微笑む


「ありがとうございます」


タルヤがサクラちゃん一家をドミオール院に招き入れる


なんか、ドミオール院が集会場みたいになっているな

まぁ、集落で一番大きい建物だからそうなるか



ちょうどその時、集落の方から出かけていたマキ組長が戻って来た


「ラーズ、マキ組で長期間の依頼を受けました」


「え、依頼って出撃ですか?」


内戦が終わったのに?


「忍びの請け負う仕事はどこにでもあります。内戦は関係ありません」


「う…」


マキ組長に心を見透かされてしまった


「ですが、今回の依頼は出撃ではなく防衛です。ホワイト村が軌道に乗るまで、マキ組で自警団を担います」


「自警団…」


「モンスターやマフィア、住人同士のトラブルが、しばらく続くでしょうからね」


それはやりがいがある仕事だ

俺個人の人間関係があるため、いつも以上に全力で取り組める



「あ、いた! ラーズ!」


「うおっ!? どうした、フィーナ?」


突然、フィーナが飛び出して来た


「い、今、龍神皇国から連絡があって…!」


「え、何の連絡?」


「お、お父さん…、パニン父さんが…!」


「父さんが?」


「め、目を覚ましたって!!」


「…っ!?」




サクラちゃん 十章 ~4話 シグノイア

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ