十章 ~25話 ピンクの実力
用語説明w
真・大剣1991:ジェットの推進力、超震動装置の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラー特性を持つ大剣、更に蒼い強化紋章で硬度を高められる。真のスピリッツ化を成し遂げ、ラーズと霊的に接続している
自己生成爆弾:宇宙技術を使った四種類の爆弾の超小規模生産工場。材料とエネルギーを確保できれば、使用後に自動で新しい爆弾を生成してくれる
ウンディーネ…粘着性のあるゲル状爆弾
サラマンダー…液体型焼夷弾
ジン…蜂のような羽根で跳ぶ小型ミサイル
ノーム…転がることである程度の追尾性を持つ球形手榴弾
ピンク:カイザードラゴンの血を引く龍神皇国の貴族で新人騎士。カイザードラゴンのブレスを纏った特技スキルの威力は凄まじい
ピンクが意識を集中
その体に闘氣を纏う
そして、更なる変化
カイザードラゴンの力を自身に反映させる
ピンクの頭から生えた角が大きくなる
手足が甲殻化し、更に翼と尻尾が出現する
皇竜化
ピンクのトランス・レベル4…、トランス・アドバンスと呼ばれる変化だ
トランス・アドバンスが使えるということは、Aランクへと至るための資格を持つということ
更なるトランスの力を得ることで、人類の限界を超えた戦闘ランクへと至る可能性があるということだ
だが、俺の前で堂々と隙だらけで変身するのは頂けない
まぁ、本気を出す気なのだけは評価しよう
俺も静かに集中する
「ガウ」「ヒャン!」「準備完了だよ!」「…」
フォウル、リィ、データ2、竜牙兵の配置は終わっている
今回は、戦うのはあくまでも俺で、フォウル達は外部センサーとして働いてもらう
「さぁ、始めよう」
俺はナノマシンシステムを起動、装具の具現化、そして1991のスピリッツ化を終える
「うん。…行くよ、ラー兄ぃ」
ピンクが片手剣を構える
その眼は、ただ俺だけに集中している
…正解だ
俺も1991を槍のように構える
ボゥッ…!!
突然、ピンクの翼が燃え上がる
翼から炎を噴出したのだ
後ろに噴き出した爆炎によって、ピンクの体が急激に加速
一気に跳び込んでくる
ピンクらしい豪快な初撃
だが、隙の無く意表を突ける攻撃だ
「…」
武の呼吸、観の目
俺はピンクの挙動を感じ取る
速度を乗せながらも一撃任せではなく、連撃で削ろうとしている
一般兵の俺相手に堅実な戦い方だ
ドドドッ!
銃化した左腕による三点バースト
視界の阻害に有効な銃の射撃
そして、ピンクの一つ目の斬撃に攻撃を合わせる
「…きゃあぁぁっ!?」
斬撃の直前の踏み込んだ足を刈る
同時に、剣の持ち手を流す
この二つの動作を同時にやることで、スピードの乗ったピンクの体はバランスを崩して吹き飛ぶ
サイキック・ボムを1991に込める
エアジェットと飛行能力を同時に使用
俺の最高速度で跳び込みながら、呪印を発動する
竜の闘争心に定める目標は、当然ピンクだ
「………!」
ゴォッ… ズッガァァァァァァァァン!!
ジェットブースターとパイルバンカーの威力を叩きつける俺の全力、真・フル機構斬りだ
だが…
「ぐぅぅ……うあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
ピンクが吠える
甲殻化した左腕、そして左肩で俺の1991を受け止める
当然、刃体が突き刺さって入る
だが貫通はせず、闘氣を纏った強靭な肉体で止め切ったのだ
ピンクの闘氣を薄くさせてはいない
だが、俺はその分、呪印の力を乗せている
それでもフル機構攻撃を止められた
これは、単純にピンクの闘氣と肉体が規格外ということを意味している
出血し、千切れかけて骨が露出した左腕を握りしめる
その傷がどんどん塞がっていく
…再生能力か!
ピンクが右手で片手剣を振るう
俺は1991を手放してバックステップ
右手の流星錘アームで錘を発射
予想外の攻撃で戸惑ったピンクに再接近
サードハンドを使って1991を引き抜く
距離が開いたところを、ピンクが愚直に突進
俺は、自己生成爆弾のノームを投げつける
ナイフの投擲
更に、装具のニードルを発射しての刺突
離れ際に、サラマンダーを投げつけて、足元にハンドグレネードを転がす
連続投擲
俺の忍術、高速アイテム術だ
ゴオォォォォーーーーッ!
サラマンダーの炎がピンクを包む
「なっ!?」
だが、それに構わずにピンクが炎を吐き出した
凄まじい火炎、ドラゴンブレス
広範囲を薙ぎ払う炎が扇状に広がる
ピンクは火属性に耐性を持つ
つまり、高熱に強いということか
ブレスによって、サラマンダーの炎が吹き飛ばされた
火属性を纏ったピンクの剣が振るわれる
へぇ…、この炎を纏った攻撃がピンクの本領か
今までは、まだ本気じゃなかったんだな
舐められている、それが悔しい
だが、舐められた状態でも俺はいまだにピンクを仕留められていない
それは俺が弱いからだ
龍神皇国の至宝、才能の塊であるカエサリル家の令嬢か
気に入らない
変異体とは、変わりたいという意志から生じる変異
変わりたいという意思は、自分に足りないものを自覚し、渇望するからこその意思だ
その力が契りを交わしただけで、心臓の外科手術を受けるだけで簡単に手に入るだと?
…ふざけるな
俺達が変異体になるまで、どれだけの地獄を見て来たと思っている
変異体の肉の出荷…、嫌な記憶が蘇る
そんな簡単に変異体の力を手に入れられてたまるか!
ピンクの炎を纏った斬撃
マサカドの斬撃が霊属性を纏っていたように、ピンクは高熱を纏っている
Bランクの攻撃は、基本的に飛ぶ
斬撃という線が距離を無視して切り裂く
その点で、銃にはアドバンテージが無い
だからこそ、俺は敢えて近距離戦闘を挑む
近距離での高速立体機動で翻弄
一気に沈み込み、流星錘を足に絡める
「うぁっ…!?」
紐を引いてピンクのバランスを崩す
高熱に焼かれながら、払い腰でピンクを地面に叩きつける
置き土産にノームを転がし、小型杖で軟化の魔法弾を当てる
ゴッガァ……
ドッゴォォォォォォォォォン!!
「…っ!?」
ノームの爆発を、巨大な爆発がかき消す
ピンクの広範囲を吹き飛ばす火属性の特技のようだ
吹きつける高熱の中、風に微かな違和感を感じる
変異体のドラゴンタイプ、俺の感覚がピンクの位置を捉える
「はぁぁっ!!」
炎を纏いながら、巨大な炎の壁を作りだしたピンク
その炎の壁の面積を攻撃に使う、広範囲攻撃
避けるのは不可能、防御が出来なければ詰み
だが、俺は高機動型、悪手だな
飛行能力で飛び上がり、空中で角度を変える
そして、上空から引き寄せの魔法弾をピンクに撃つ
だが、咄嗟の方向変換では完全には炎の壁は避けきれない
俺は力学属性の引き寄せ効果によって、ピンクの体が俺に引き寄せられる力を与えた
「ぅあっ…!?」
ピンクの体が空中、俺のいる方向に浮かび上がる
ピンクはバカ力だが、それはあくまでも支える大地があってこそ
空中では無意味だ
発射台であるピンクの体が動いたことにより、炎の壁の方向を無理矢理変える
俺は炎に被弾しながらも1991を構える
…さぁ、勝負だ
「ラーズ、楽しそうね」
セフィリアがマキに言う
「Bランクに通じる、それは自分が積み重ねて来た力の実証です。成果を実感することは、求道者たる者の一番の喜びですから」
マキはラーズを見つめる
積み上げて来たものを、とことん使い切る
ピンクは決して弱くはない
死の乙女ヒルデが仕込んだ剛剣、鍛え上げられた特技、火属性の親和性という才能…
努力と才能を兼ね備えた逸材だ
「ラーズ、本当に強くなったわ」
「人は、時に爆発的に成長します。それは、まるで才能という殻を破るかのように。…稀に、天才さえもを凌駕するほどに」
「ラーズの、その爆発力のきっかけは何なのかしら」
「…本人は、出会いではないかと」
「出会い?」
「あこがれの人、先生、師匠、仲間、恋人。人見知りながらも、出会って来た人によって自分は変われたと。良くも悪くも、過去の出会いがラーズを変えたということでしょう」
「…」
ピンクが空中で体勢を立て直し、炎の翼で羽ばたく
引き寄せ効果を断ち切り、剣を構える
「…っ!!」
「おぉぉっ!!」
ドラゴンブレスの力を乗せた斬撃を放つピンク
カイザードラゴンのブレスを乗せた必殺の竜皇剣だ
これに対して、俺は真・フル機構斬りを放つ
呪印の瞬間発動、サイキック・ボム…、完璧な発動だ
そして体勢を立て直した分、ピンクの動きは俺よりも一瞬遅い
その差を、俺は予想していた
たった一瞬、だが、この差は大きい
残念だったな、ピンク
マサカドとの刹那の勝利で得た、至高の一撃のイメージ
俺の一撃をピンクが受け止めたのは、あくまでも防御に意識のリソースを振っていたから
必殺の竜皇剣を繰り出すこの瞬間、防御を意識する余裕はない
その防御をさせない刹那のタイミングこそが、俺が求める至高の一撃
闘氣とは違う、求道者たる強さだ
「………!」
…これで勝った、そう思った時
ピンクの顔が歪んだ
その目からは涙があふれている
お互いに攻撃を繰り出したとき、負けが分かったのだろう
悔しい、ずっと努力をしてきた
ラー兄みたいになりたかった
自分で決断して、自分で歩いて行く、そんな大人になりたかった
それなのに、こんなに努力しても届かなかった
「…っ!?」
そんなピンクの顔を見た時、俺の攻撃の手に躊躇いが生じてしまった
戦場ではあり得ない、集中力の遮断
交錯する攻撃は止まらず、ピンクの剣が先に俺に届く結果となる
ドッ……
ピンクの剛剣が炸裂
ギリギリ体を捻るが、俺の体をこれ以上ない勢いで弾き飛ばす
1991が衝撃を吸収
だが、その力は容易に俺の手首を砕き、肩関節を捻じり、回転エネルギーを与えて錐揉み状態を作り出す
飛行能力でブレーキをかけるが、その勢いは止まらない
二秒後、俺は校庭に叩きつけられ、溝を作りながら吹き飛んでいった
トランス・アドバンス 閑話18 ピンクの修行
変異体の肉 一章~14話 お肉
至高の一撃 九章 ~35話 クレハナ統一戦4