十章 ~24話 試し合い
用語説明w
ピンク:カイザードラゴンの血を引く龍神皇国の貴族で、騎士見習い。カイザードラゴンのブレスを纏った特技スキルの威力は凄まじい
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
カイザードラゴンの血を引く者の中でも、トップクラスの力を持つカエサリル家
そのご令嬢で、才能溢れるピンク
契りとは、お互いの血肉を取り込むこと
つまり、兄弟姉妹のような関係になると考えられなくもない
カイザードラゴンの力だけでなく、カエサリル家と血縁的に近い関係になる
それは、貴族の血縁を得るという可能性があること
普通に考えれば破格の条件だ
だが…
「ピンクに不満があるってこと?」
セフィ姉が言う
「…その通りだよ。ピンクだけじゃない、カイザードラゴンの力は俺の変異体の価値に及んでいないと思うんだ」
「…」
俺は地獄を見て来た
そして、ようやく手に入れた価値、それがこの変異体の力だ
マキ組長に示された、求道者としての道
自己を高め、技を、身体を、心を鍛える
そして、ようやく垣間見えた境地
マサカドとの戦い
心を折られるほどの疲労、苦痛、恐怖
限界を超えた先が見えた、微かな勝利の可能性
その先に得た、俺だけの価値だ
「聞き捨てならないわね、ラーズ君」
振り返ると、キリエさんとピンクがいた
「カイザードラゴンの力は、生まれ持った強者の血。特に、カエサリル家の力は皇竜化を可能とする。変異体に負けているとは思わないわ」
キリエさんの言葉には、鋭さが含まれている
「…カエサリル家の力が低いと言っているわけではありません。カイザードラゴンの力が強力なのは認めます。それに、ピンクが嫌なわけでもありません」
「それなら、何が不満なのかしら」
キリエさんが微笑みながら言う
貴族の、貴族たる視線
否定を許さない力が、その言葉には含まれている
「俺は、この変異体という力に縋っています。何の力も持たなかった俺が、ようやく持つことができた俺だけの力。そして、セフィ姉や、カエサリル家が認めてくれた力です。この力を、ただ貴族に産まれただけのピンクに渡していいものか、納得ができないんですよ」
「…」
キリエさんの目つきが鋭くなる
「だから、試させて欲しいんです」
「な、何を試すの?」
ピンクが不安そうに言う
「ピンクの実力をだ。…カエサリル家は俺の力が相応しいかを試した。次は俺の番だ」
「実力って…?」
「ピンク、俺と戦え。俺の全ての力を叩き伏せられるのか。ピンクが俺に相応しいかどうかを証明して見せろ」
「え、そ、そんなこと…!」
ピンクが驚く
一般兵の俺がBランクの騎士である自分と戦うのか?
そういう疑問からの驚きだ
もう、いい加減うんざりする
「…バカにするなよ、ピンク。俺はB+ランクのマサカドと引き分けて見せたんだ。いいか、俺はブルトニア家の件で貴族が嫌いになった。この条件を飲まなければピンクとの契りは結ばない。俺は他の方法でカイザードラゴンの力を得る」
「ラ、ラー兄ぃ…」
「キリエさん、お互いに試し合うのがフェアな条件ってものでしょう? もう一度言いますが、俺の変異体因子は、カエサリル家の血よりも貴重だと思っています」
「…気に入ったわ、ラーズ君。あなたの言っていることには正当性がある。ただし、貴族との契約を軽く考えないでね?」
「約束は守ります。貴族とかは関係なく、俺にとってピンクは可愛い後輩です。裏切るようなことはしません」
「分かったわ。ピンクも、それでいいかしら?」
「…う、うん、分かった」
ピンクが不安そうに頷いた
・・・・・・
マキ組の拠点 廃校の校庭
俺とピンクの試し合いは、ここで行うことになった
騎士学園時代のパーティメンバー、ミィ、フィーナ、ヤマトが久しぶりに揃っている
「な、何でラーズとピンクが?」
「契りをするかどうか決めるんだって」
「あいつ、何でBランクとばっかり戦いたがるんだ? 一般兵のくせに」
…どうやら、野次馬をしに来たようだ
「エマ、準備はいいですか?」
「オリハ、回復薬とカプセルワームをまとめておいて…」
エマとオリハが、怪我をしたときのための準備をしている
「私が教えた二人がぶつかり合うとはな…」
「お主、意外と弟子候補をかわいがっておるな」
ヒルデとカンナ様がお茶を飲みながら観戦している
「あの小僧、カエサリル家に啖呵を切ったらしいの」
「ラーズには、私が求道者としての道を示しました。ただ生まれ持っただけの才能と、鍛え上げてきた力を等価交換などと言われれば憤慨して当然ですね」
ジライヤとマキ組長も見守っている
「ラーズ、弾薬はオッケーだ」
「爆弾とナイフはこっち、霊札と魔石はここだ」
ルイとゲイルが俺のアイテムを揃えてくれる
「外部稼働ユニットもオッケーだ。リィ、この巻物を使え」
ジョゼが俺の使役対象達の準備をしてくれた
戦いのルールは一対一
俺はアイテムも使役対象も全て利用可能
ピンクも、魔法や特技、闘氣の全てを使用可能
但し、オーバーラップされたMEBは使わない
MEBは自分の力ではないからと、ピンクの方から言ってきたためだ
ピンクは自分に厳しい、求道者としての素質があるのかもしれない
「…ラーズ。正直に言って、余計なことをしてほしくはなかったわ」
セフィ姉がため息をつきながら言う
「ごめん、セフィ姉。カエサリル家が貴族だからって、俺の力を得られるというのがどうしても我慢できなかったんだ」
俺がどんな道を歩いて来たと思っている
どうやって変異体の力を得たと思っているんだ
「私はね、ラーズ。あなたをアイオーンに加えるだけじゃない。クロノスに入れることを想定しているの。それは、つまり…」
「つまり?」
「ラーズにアイオーンプロジェクトを託すということに等しいのよ」
「え…?」
「クロノスはアイオーンの舵取り、意思決定の機関。クロノスが崩れればアイオーン・プロジェクトは瓦解する」
「そ、それを俺なんかにって…」
「ただのBランクごときにクロノスは務まらない。力、技、そして意思…。変異体の力、カイザードラゴンの力、そして、チャクラ封印練を終えて、闘氣や魔法、特技を取り戻すこと。それが、クロノスに入るための最低限の条件よ」
「さ、最低限!?」
ただのBランクって、Bランクってだけでハードル高すぎるのに!
いや、だがクロノスって、高い実力を持つジライヤやヒルデ、カンナ様、そして聖女テレーズ…
それに、ミィやオリハなどの特殊な技能を持った者たちで構成されている
確かに、全員がただのBランクではない
「ラーズ、私はアイオーン・プロジェクトの実現にはあなたの力が必須だと思ってるわ」
「い、いや、俺なんか…」
だから、何で俺なんかがそんなに評価されてるの?
才能の無い騎士学園の劣等生で、今やただの一般兵なんだよ!?
「そして、それだけじゃない。前も言ったと思うけど、私はラーズをパートナーとして育てるつもりなの」
「パートナー…」
「私は、ラーズにその資格があるかどうかをクレハナで試した。そして、ラーズはその資格を勝ち取って見せた。後は、ラーズが純粋に必要な実力を付けるだけ」
「う、うん」
そう簡単に、そんな実力が付くとは思えないけどなぁ…
「その実力の一つがカイザードラゴンの力。あなたにとって、カイザードラゴンの力を得ない理由はない。…分かっているの?」
「…それを、これから試してくるよ。俺はもう試された、セフィ姉にもカエサリル家にもね。次はカエサリル家とピンクが試される番なだけだよ。俺の変異体因子に相応しいかどうかをね」
「…」
俺はセフィ姉にそう言って、校庭に進み出る
ピンクは準備を終え、片手剣を抜いて待っていた
その表情は固い
俺と戦うことに抵抗があるからだろうか
「…ピンク、分かっていると思うけど全力で来い。実績では俺の方が上なんだからな」
Bランクとは言え、新人の小娘に舐められてたまるか
「う、うん…」
「俺が勝ったらカエサリル家との契約は破棄する。俺は俺で、勝手にカイザードラゴンの力を探して取り組む」
「…」
「一般兵を舐めたBランクを、俺は戦場で何人も叩き潰して来た。俺には、お前を叩き潰せるという自信がある。…失望させるなよ」
「…っ!! 分かったよ、ラー兄ぃ…!」
俺の言葉で、ピンクの目つきが変わった
セフィ姉の試し 六章 ~5話 クレハナへの出発
パートナー 五章 ~1話 セフィ姉の真意