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十章 ~21話 聖母の癒し手

用語説明w

(そら)の恵み:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」とダンジョンアタック用の地下施設、通称「下」がある。騎士団によって制圧済み


エスパータイプ:脳力に特化した変異体。サイキックと魔法能力が発達し、脳を巨大化させるため額から上の頭骨が常人より伸びる


装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能


フィーナは、ミィ達と合流するために行ってしまった


…フィーナは、遠慮がちに俺に抱きついてきた

その暖かさが手に残っている


少しだけニヤついている自覚がある

フィーナと、また付き合えた…んだよな?



ボーっとしていると、長く美しい白色に近い金髪を持つ女性が近づいて来た



「こんにちは、ラーズさん」


「あ、あなたは…」


その女性はシスター服を着ており、そのデザインには見覚えがある


バルドル教の聖女

高額の寄付の見返りに手の欠損を治した、神の奇跡の使い手だ


「あなたは不思議な人ですね」


「はい?」


「あの大崩壊から生き残り、大気圏外の宇宙ステーションから生還した」


「な、何ですって?」


「更に、あの大仲介プロジェクトに抜擢、ナウカの最高戦力である鬼神マサカドと引き分けた。まさか、天叢雲(あまのむらくも)カンナの封印術から生き延びているとは思いませんでした」


「…」


おいおい、聖女様が何で俺の素性を知ってるんだ?

しかも、大崩壊や宇宙ステーションについては公表されていないはずだぞ


「フウマの里マキ組中忍、トリッガードラゴン。あなたは救われるべきです」


「…救い?」



「あ、あの、聖女様…」


ふと、聖女の後ろにいた若い男が呼びかける


「どうしました、クレオ?」


「そ、その…、今日の相手って…」


「はい、トリッガードラゴンと呼ばれるこの兵士に救済を与えます」

聖女が清らかに微笑む


その若い男は、気まずそうに俺を見た


「ま、まさか…、お前、クレオか!?」


「ラーズ、久しぶり。(そら)の恵みのステージ1以来だな」


「生きていたのか…!」


「あ、うん。俺はステージ2に上がった途端に、あの施設が制圧されて解放されたんだ」


「そうだったのか…」


クレオは、ステージ1で俺と出会ったエスパータイプの被検体だ


色々あったが、お互いに苦労して生き延びていた

生きていて嬉しい



「まさか、クレオの知り合いだったとは…。ですが、神の教えは優先されます。祈りなさい」


「あ、あの…、は、はい…」


聖女は、有無を言わせない微笑みでクレオを諭す


「それで、一体何の用なんですか?」

俺は聖女に尋ねる


久しぶりの再会に割り込んでくるんじゃねーよ

俺達が生きて会うなんて奇跡なんだぞ?



「…これより、背徳者であり、修羅道に落ちたあなたの救済を行います」


聖女の背後が淡く輝き出す

聖属性の光だ


「…」


俺は咄嗟に飛び退く



フオォォォッ!!


輝く光の束が俺が立っていた場所に収束する



「動いていはいけません。あなたは戦いから解放されるべきです」

聖女が歌うように言う



…これは、聖属性の範囲魔法だ


聖属性は生命力を増す力

攻撃として使うために聖属性の密度を上げた場合、命と生命体を焼き尽くす


魔属性や火属性などのエネルギーは、生命を維持するために、生命が本能的に避けようとする


しかし、聖属性は生命が本能的に求めるエネルギーである

生命は聖属性を抵抗なく受け入れてしまい、結果として過多のエネルギーで焼かれてしまう


強すぎる聖属性は生命を老化させ、更に焼き尽くしてしまうのだ



「…理由は分かりませんが、あんたは俺を攻撃した。これは正当防衛だ」

俺は聖女を見据える



「ラーズ…」

そんな俺に、クレオが近づいてくる


「クレオ、お前も俺を?」


「い、いや、知らなかったんだ。俺はバルドル教の信徒で、変異体だからとスカウトしてもらって聖女様のお付きになっただけで…」


そういえば、クレオはバルドル教だと言っていた気がする


「クレオ、神の奇跡を使います。祈りなさい」

聖女が慈愛に満ちた声を発する


「………!」


その瞬間、クレオの表情が消える

目が虚ろとなり、俺を見据える



「何っ!?」


突然、身体が拘束される


こ、これは精力(じんりょく)!?

テレキネシスの腕が地面の下から生えて俺体を掴んだのだ


「よくやりました、クレオ。さぁ祈りなさい、トリッガードラゴン」

聖女が微笑む


「ぐっ…、クレオ!?」


「………」


クレオは俺の呼びかけには応じない



やられた、クレオは俺の視界にテレキネシスを入れないため、地面の下から精力(じんりょく)を伸ばしたんだ


クレオはエスパータイプの変異体、テレキネシスは俺とは比較にならないほど強い

もがいているが完全に動きが取れない!



「クレハナの内戦という、無益な殺生に加担した罪を浄化します。受け入れなさい」


「な、何だと!?」


「あなたは内戦を止めるべきでした。死にゆく人たちに手を差し伸べるべきでした。戦うという手段は悪なのです」


聖女が俺の戦いを否定するだと?


「…戦争を辞めろ? 死力を尽くして戦うという意味が分かってるのか?」


「もちろんです。人と人は分かり合えるもの、あなた達は対話を怠った。その罪を懺悔すべきです」


「あんたは今、神の力で俺を懺悔させようとしている。…対話を怠っていると思わないのか?」


「罪人の言葉は私には届かない。さぁ、覚悟を…」


聖女の後ろに光が集まって行く



「戦わなきゃ失う。だからこそ、俺達は兵士は戦っている。戦いが始まったら、人は対話じゃ戦いを辞めない! …俺達を否定するな!」


バチュッッッ!!



俺は、精力(じんりょく)を圧縮してサイキック・ボムを展開

クレオのテレキネシスの腕を弾き飛ばす



戦場では、兵士は文字通り自分の命を懸けている

それだけの理由がある


それを、戦場にいない者が否定するだと?

そんなことは許さない



「…くっ!?」


聖女が反応、聖属性投射魔法と思われる光を発動

扇型に広範囲に照射する



同時に、クレオがテレキネシスの腕を伸ばす


俺は、その腕を掻い潜ってクレオに接近

顎と側頭部を交差するように叩く



「…っ!?」


脳を大きく揺らして脳震盪を起こさせる

意識を飛ばしたクレオがゆっくりと倒れる



「…神の御名において、抵抗は許しません」

聖女の体には闘氣(オーラ)が纏われている


こ、こいつはBランクか!


そして、おそらく高位の魔法も使う

更に、俺の腕を再生した神の奇跡


…強敵だ



だが、許せない


戦争を辞めろ?

内戦を止めろ?


そんなことが出来たら、誰でもやってる

それが出来なかったから、みんなが苦しんで来たんだ



「…あんたは戦場を否定した。俺達兵士を正論と信仰で汚した」


「何を言っているのですか?」


「内戦が正しかったとは言わない。だが、()()()()()()()()()()()()()()()!」


「…っ!?」



全力の投擲

自己生成爆弾のノームを投げつける


そのまま飛行能力で突っ込む



聖女の目の前でノームが爆発

おそらくは力学属性の障壁魔法だ


…淡い光が発生、聖女の背後に何かの存在が顕現する


高次元生命体であり、神と呼称される存在


「聖母の癒し手よ、力を……」


大きな女神のような像が姿を現し、その右手を振るう



「ぐっ…!?」


神の手は、高速で動く俺を容易に捉える



だが、特に外傷は無く俺の体をすり抜ける



聖母の癒し手


バルドル教の神である千手の聖母が遣わした手

聖母の千手の一つとも言われ、聖属性と信仰の力を司っている


信仰とは、精神属性の作用であり多人数の意識の方向性を決める力

信仰の力とは多くの人間を動かす力であり、奇跡などではない


それは、集団心理を操作する精神属性の力

言葉や声、挙動から集団心理を誘導する力であり、個人の精神を繋ぐ生体脳によるグリッドコンピューティングを強力なテレパスで構築する

精神力が低いものを意のままに操る対多数攻撃であり、究極の精神属性、正に信仰を作り出す力だ



「終わりです」


聖母が、慈しむような目をする



強力な精神属性が俺の精神に干渉

意欲を奪っていく


それだけじゃない

集弾心理を操る強力な力を一人に集中すれば、精神が引き裂かれ、脳が焼け死ぬ

膨大な情報の力は、脳をオーバーヒートさせてしまうのだ


当たれば終わり、そして、躱すことも難しい

そんな必殺の奇跡、それが聖女が操る聖母の癒し手だ



「ぐあぁぁぁぁっ!!」


俺は、絶叫する



低下する意欲、考えることを否定する力


…これが救い?

戦いを捨てることが救いだと?


はは…、ははは……

糞喰らえだ!


あの戦場は確かにあった

その戦場を、俺達は生き抜いた


それは譲れない、大切なもののためだ!


それが間違っていただと?

絶対に認めない


信仰を、支配される快楽を、全否定してやる…!



ぎりっ…


歯を喰いしばる



コウの死に様を、ヤエのメッセージを、戦場の全てを思い出す

俺は吠え、そして解放した



「…っ!?」


膨大な情報を叩き込まれ、俺の脳が死んだ…、聖女はそう思ったことだろう



だが、違う

俺は脳のオーバーヒートを察知して、強制的に情報をシャットアウトした


どうやったのか?

簡単だ俺は意図的に呪印の力を全開放、竜の闘争心で脳を満たしたのだ



ゴガァッ!


「なっ…!?」



突然襲い掛かって来た俺に聖女が驚愕する


障壁魔法を躱して肉薄

俺は装具メメント・モリを展開して全力のストレート


その衝撃で聖女の体が吹き飛ぶ

繋げたボディが闘氣(オーラ)を貫いて、腹に拳がめり込む



戦場を生き抜くこと

それは、どうしようもない状況での判断を迫られること


その、ギリギリを生き抜いて来た経験値

それが俺の強さ



俺は呪印の力を乗せ、聖女に襲い掛かる



「くっ…!!」


聖女は回復魔法でダメージを一瞬で消す

そして、聖母の癒し手を再度俺に叩きつけた



「…ぁ……」


呪印の闘争心を無理やり抑え込む力

沈静化させようとする力と、爆ぜようとする闘争心がぶつかり合う



その刹那の時間

俺の意識がクールになる


体を動かす

そして、聖女に肉薄


聖女が杖で俺の攻撃を防御


やるな、いい動きだ

こいつ、武器術も使うのか…


しかも、一瞬でダメージを回復する超再生能力


一瞬しか使えない呪印の力を乗せて、たった一回の攻撃に賭ける

俺が選んだ攻撃は…



ガッ…!


「あぁぁっ…!? なっ…!!」



俺は、首筋に思いっきり噛みついてやった

予想外の攻撃に、聖女の反応が遅れた


回復されようが関係ない、肉を引きちぎってやる


泥臭い攻撃、これが兵士の強みだ



バルドル教の聖女 七章 ~14話 反復練習

クレオとバルドル教 一章~29話 シンヤとの決着1

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― 新着の感想 ―
[一言] いきなり戦闘が始まってビックリしたwwwナイスアタック‼︎
[一言] まさかの噛みつき!ドラゴン的に美味しそうだったのかな 聖女の血をすするとパワーアップしそうだけど、流石にそれはないか
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