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十章 ~19話 ウルラ領の雰囲気

用語説明w

ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象

スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋


フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ


ウルラ領の町は、不思議な雰囲気に包まれていた


クレハナの内戦が終わったことは喜ばしい

だが、ウルラは内戦の勝者とはならなかった


領主であるドース様が、実はあの大崩壊に関わっていた

そして、姿を消してしまった


その責任を取ってフィーナ姫が王位継承を断り、コクルのツェルが王となることに決まった

そのツェルがクレハナを龍神皇国に組み入れることを決断


クレハナに飛び交うこの数日間の情報の密度が高すぎて、住民がオーバーヒートを起こしている

気持ち的にも消化が出来ていないのだ


だが、いい面もある


龍神皇国とのこれからの関係が主題となり、ウルラとナウカの対立構造に変化が生まれた

内紛などよりも、龍神皇国の一員としてどうやって自治を維持していくのかに思考が向いたからだ



「ラーズ、思ったより元気そうね」


「まぁな。ミィは暇そうだな」


「私の仕事は終わったから。後は、龍神皇国へ戻るまでの数週間、ゆっくりさせてもらうわ」


「真実の眼の調査はどうなったんだ?」


「あれから進展はないわね。バビロンさん達も頑張ってくれていて、学会でもかなり注目はされているみたいなんだけどね」


「ふーん…」


「今は、私達が発掘して来たクレハナと龍神皇国の真実の眼の遺跡の保存を優先してやってる。貴重な遺跡だから、今後の調査でまた何か分かるかもしれないし」



俺達が発掘して来た龍神皇国ファブル地区、マイケルさんの土地の遺跡、クレハナのウルラ領の遺跡、そして、あのダンジョンの最下層にあった遺跡…

気が付いたら、三か所も発掘に携わったんだな



「ラーズ、ラングドン先生を覚えているでしょ」


「騎士学園の? そりゃ担任だしな」


ラングドン先生は、騎士学園時代の担任だった

歴史が好きな先生で、部活の顧問もしてくれていた


俺が大学を選ぶ際に、考古学の先史文明を専攻したのはラングドン先生の影響も大きかった


「メッセージを送ったら、興奮していたのよ。今度、真実の眼のことを知りたいって」


「へー、変わってないな」


「だから、また今度四人で会いに行きましょうよ」


「それ、いいな」


確かに、大学時代には何度か会ったが、就職してからは会えていない



「そう言えば、ブルトニア家がクレハナに領地を置くことに決またわよ」

ミィが話を変える


「それって、クレハナが龍神皇国の一部になるからか?」


「それもあるけど、事実上の更迭。ブルトニア家の権限をセフィ姉のドルグネル家が取得して、ブルトニア家はクレハナに送られるんだって。騎士団に関与する他の貴族に対する見せしめでしょうね」


「見せしめ…」


「騎士を名乗る以上、騎士の名に誓って戦いに背を向けることは許されない。必要があれば死になさい。そういうメッセージでしょ」


「ま、まぁ、ちょっと極端ではあるけどな」


死ぬのが分かっているのに突っ込むのは自殺と同じだ


ただ、住人と自分のどちらが死ぬという究極の選択の際には、自らが死になさい

そのために、騎士には普段から大きな権限と利益が与えられている

…ということを明確に示したということだ


これは、龍神皇国騎士団の権限の維持、そして、実力の維持にも繋がっていく

死の危険から逃げられないなら、少しでも早く対策して危険に備える

人間とはそう言うものだ


「ブルトニア家の財産もクレハナの復興につぎ込むことになる。クレハナにとってはいいことなんじゃないかしら」


「そんなにやってくれるなら助かるだろうな。ドミオール院とか、国の支援が必要な場所はたくさんあるだろうし」


「今回のブルトニア家の措置は、キリエさんが厳命したらしいわ。ウルラ王家がブルトニア家の問題を明るみにしなかったからこの程度で済んでいたけど、本当だったら龍神皇国騎士団が仲間を見捨てて敵前逃亡したと取られてもおかしくなかったからね…」


「…」


「騎士団の膿、そして、貴族界への見せしめ。キリエさんとセフィ姉の二人で、龍神皇国の上層部の意識もかなり変わるんじゃないかしらね…。凄いわよね」


「ミィ、部外者の俺にそんな内情を放しちゃっていいの?」


「いいわよ、誰でも知っていることだし。ブルトニア家のことは私も頭来てたから。正直、ざまぁって思ってるわ」



受けた命令を真摯に実行する

できなければ騎士としての身分を剥奪する

当たり前のことを当たり前に


…それが、身分や立場、利害関係が絡むと難しくなる

セフィ姉とキリエさんは、この難しいという認識に一石を投じたのだ



「ラーズ、これからどうするか決めたの?」

ミィが緑茶を飲みながら言う


「…まだ、何も決めてないよ」


「ピンクとの契りは受けるの?」


「いや、それもまだ…。いきなりそんなこと言われたって、どうしていいか分からないんだ」


「優柔不断な男ね」


「お前、いきなり心臓を交換しようって言ったら受けるのか?」


「…絶対に受けない」


「だよなぁ…」



ピンクとの契り

ピンクに変異体因子の覚醒を与える代わりに、俺がカイザードラゴンの力を得られるというトンデモ術式


魅力は大いにあるが、正直、何言ってるの? って感じだ



「あ、いたいた」

赤ずきんの女子が近づいて来る


「おう、スサノヲ」


「ラーズ、元気そうじゃないか」


「もう退院したからな」


「それじゃあ、そろそろ大人のビジネスの話をしようか」


「へ?」


スサノヲが紙を取り出す


「ほら、請求書」


「…こ、これって?」


「ラーズの装具の設計とコーチ代。そして、お前の忍術に使うポーチとかベルトの代金だ」


「結構な値段だな…」


「そりゃ、ラーズ専用の完全オーダーメイドだからな。その分、性能と使い勝手は良かっただろ」


「それは、確かに…」


スサノヲのサポートが無ければ、俺の装具、そして忍術は完成しなかった

ここまでやってもらうと、それなりに対価が必要にはなるが、果たして俺の持ち金で足りるか…


「ラーズの装備のメンテナンス代は、マキ組が支払ってくれている。それ以外の、ラーズ自身の支払い分だ」


「すぐには用意できない、少し待ってもらっていいか?」


「ああ、分かってる。だけど、急げよ? あたしらは、しっかりビジネスとして契約しているわけだからな」

スサノヲがじろっと見てくる


「分かってるって」


クレハナの内戦も終わった


マキ組がどうするのかは分からない

俺も、少し身の振り方を考える必要があるのかもしれないな



「それで、ラーズ。フィーナのことはどうするつもりなの?」

ミィが口を開く


「…どうするも何も……」


「ちゃんと決めてあげて。フィーナのために」


「…」


ミィが、珍しくまじめな、そして少し強い口調で言う



俺はどうするべきなのだろうか?


本当は、フィーナに恩返しがしたい

そして、クレハナの内戦に少しでも尽力して、フィーナの前から去るつもりだった


だが、ドースさんの件でフィーナはショックを受けているはずだ

そんなフィーナを一人にはできない


…いや、今更か


素直になれ

俺はフィーナを一人にしたくない


「…違うな」


「え?」


ミィが、俺が思わずつぶやいた言葉を聞き返す


「俺、フィーナと一緒にいたいんだ」


フィーナを一人にしたくないんじゃない

俺が、勝手に、フィーナと一緒にいたい

…そう思っている


フィーナが、俺のことをここまで考えていてくれた


俺なんかのことをここまで思っていてくれた



「それなら、ちゃんと言ってあげてよ」

ミィが言う


そして、スサノヲはポカンとしている

馬鹿なの?


「でも、よく考えたら、俺一回振られてるんだけど…」


「別れたら、もう付き合えないなんてルールはないでしょ。むしろ、やり直せる関係って素敵だと思うし」


「…」


「フィーナ、モテるからいろんな人に声かけられてたんだよ? 金持や貴族、騎士、イケメンも性格がいい人もいた。でも、誰とも付き合わなかった」


「それって、内戦のせいじゃないのか?」


「それもある。でも、それだけじゃない。分かるでしょ? ラーズから言ってあげて、ダメならもう一回振られなさいよ」


「そうだな、分かったよ」


「…分かったの? どうせ、またグチグチ言い訳並べると思ってたのに」


「お前、俺のことそう言う感じで見てたの?」



絶対の恋、完全な愛なんてない

別れたって、人は幸せになれる


時間が立てばやりなおせることだってある

別れたからって、それが愛じゃないなんてそんなことはないはずだ


いや、もう、どうでもいい

もう、我慢できない


俺はフィーナが…


そう、フィーナのことが…


大学の専攻 四章 ~30話 ナンパされるフィーナ



十章後半戦、開始です!

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