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十章 ~15話 フィーナの母親

用語説明w

(そら)の恵み:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」とダンジョンアタック用の地下施設、通称「下」がある。騎士団によって制圧済み


ドース:クレハナのウルラ領の領主で、第二位の王位継承権を持つ。フィーナの実父


フィーナがドースさんの前に立つ


「お父さん…。私、調べたの。全部を…」


「フィーナ、何を言ってるんだね?」

ドースさんが優しく言う


だが、フィーナの表情は固い


「クレハナの財政、ブロッサムの出資、全部調べた。そして、お父さん個人の口座も」


「…」


ドースさんがわずかに反応した


「そうしたら、お父さんの口座から(そら)の家という営利団体にかなりの資金が送られていた」


「…」


「この(そら)の家について調べたら、(そら)の恵みの地上拠点を管理するカモフラージュ団体だったことが分かった。…お父さん、(そら)の恵みがどんな活動をしていたか知らなかったって言ってたよね?」


「…」


「…それって、嘘、だよね? 取り引きしておいて…。しかも、地上施設の直近でウラン濃縮までもを行わせていたなんて…」


「…」




内戦の最中、ジライヤの調査結果を見てフィーナは戦慄を覚えた


ドース父さんは、いつもと変わらない優しそうな表情を向けてくれる

忙しくても、ウルラ領民のために必死に考えて、どうやって内戦に勝つかを考えている


でも、それなのに、この事実が明らかに…

あの大崩壊に関与したことを物語っている


それだけじゃない、あの施設がどんなことをしているのか

全てを分かった上で、ラーズにあの施設を紹介したとしか思えない


…いつもと変わらない、一生懸命なドース父さんの笑顔が怖い


この笑顔は本物なのだろうか?

フィーナの背中に冷たいものが走った




ドースさんの表情は変わらない

相変わらずの威圧感はあるが、穏やかな表情のままだ


「フィーナ…」

ドースさんがフィーナに歩み寄ろうとする


「ドース様、動かないでください」


その前に、セフィ姉が立ちふさがる


「あなたを、大崩壊に関与した容疑者として拘束します」


「…容疑者? 私を犯人だと決めつけるおつもりですか?」


「その通りです。フィーナとジライヤの調査結果によって、あなたが関与したことは間違いありません。カエサリル家とドルグネル家の連名を持って、あなたを拘束します」

セフィ姉が静かに言う


セフィ姉は最初からこのつもりだったようだ

何気ない会話に最中でも、臨戦態勢を維持している



「ふぅ…。では、拘束される前に、フィーナとラーズ君には弁解をさせてもらっていいですかな?」


「…」

今度はセフィ姉が黙る


「私にも言い分はある。拘束された状態ではなく、目の前でしっかりと伝えておきたい。その分、貴重な情報であることは約束しましょう」


「…いいでしょう」

セフィ姉が応じる



非戦闘員のドースさんであるならば、危険性は少ないと判断したのだろうか

更に、貴重な情報という交換条件を重視したのかもしれない



「まず、論点は二つ。私が大崩壊に関わったのかどうか。そして、なぜラーズ君に(そら)の恵みの情報を渡したのか、だ」

ドースさんがフィーナに語りかける


「…うん」

フィーナが頷く


「この二つには共通点がある。何かわかるかな?」

ドースさんが優しく尋ねる


「…どちらも、ラーズが関わっている?」


「その通りだ」

ドースさんが頷いた


「結論から言うと、この二つはどちらもラーズ君のせいで起こった」


「…え?」

「は?」


俺とフィーナが、同じタイミングで声を出す


「…お、俺!?」


「ラーズ君。君は、大学入学時に私に何と言ったのかね?」


「は? いや、えーと…」


急に何だよ!?

そんなの覚えてねーよ!


「…フィーナが付き合った男のことを私に伝えるという話をしたはずだ」


「あ、あぁ…、はい…」


そう言えば、そんな約束をしたな

懐かしい…、って、それが何なんだ!?


「私はね、フィーナが大学生になってから定期的に監視を行っていたんだ」


「…はい?」


「ウルラは忍者の地。君たち二人の監視など容易い。そして、ラーズ君は誠実に、健全にフィーナとの同居生活をしてくれていた」


「は、はぁ…」


「だから、油断してしまったのだ。就職し、フィーナが騎士団に入れば立場の違いができ、二人は自然と離れていくと思っていた」


「…っ!?」


「フィーナは私の宝。フィーナを幸せにできるのは私だけだ。それを、たかだか一般兵、闘氣(オーラ)も持たない小僧に汚されてしまった。…その気持ちが分かるかね?」


不意に、ドースさんの目が変わった


表情は穏やかに微笑んだまま

だが、明らかに笑っていない


その眼には狂気を孕んでいる

その眼には見覚えがあった



「お、お父さん…?」

フィーナがドースさんに声をかける


「フィーナ。お前は自分の母親について、どこまで知っている?」


「え…、出て行って、遠くにいるって…。でも、今まであまり話してくれなかったから…」


「いい機会だ、話しておこう」

そう言うと、ドースさんは話し始めた


脈略無く、突然にフィーナのお母さんの話を始める

ドースさんは、一体どうしたんだろうか?




…フィーナの母親は、クレハナの裕福な家庭の令嬢だった


過去に、一般人でありながら官僚として名を馳せた叩き上げの男性と大恋愛をしたそうだ


しかし、家族の反対もあってその大恋愛は成就せず、二人は残念ながら別れることとなった


その男性は、その後も必死に働いて官僚としてステップアップしていく

フィーナの母親のことを忘れても、先へと進んでいったのだ


その後、ドースはフィーナの母親とお見合い結婚をした


ドースは、ナウカのシーベルと政権争いをしながらクレハナのために仕事に勤しんでいた

前王のパヴェル王も良い王であり、クレハナがどんどん発展していた時期だ


そんな時、シーベルの元にフィーナの母親と付き合っていた、あの男性が働いていたのだ


フィーナの母親は、フィーナを身ごもっている時にその事実を知った

そして、その男性と会うようになったのだ


おそらく、未練があったのだろう

だが、ドースはその事実を知ってもフィーナの母親を責めなかった


フィーナの母親は、フィーナが生まれれば家庭に戻ってくれる

そう信じて、ドースは必死に仕事をしてきた


クレハナのために

産まれてくるフィーナのために

みんなが幸せになれる国を作るために



そして、フィーナが生まれて少しした頃


次代の王を決める、大切な時期

シーベルとドースのどちらが候補になるのか、お互いの陣営が火花を散らす、そんな時期


あの男性は、その権力争いの中で禁忌を犯した

シーベルの元で手柄を上げるため、フィーナの母親に手を出したのだ


それは、ドースの情報や弱みを握るためだった


しかし、その甘言によってフィーナの母親が情報を渡そうとした時、ドースの忍び達が現場を抑えた


そして、その男を断罪

シーベルにも徹底して抗議をした


当然、その男性は立場を無くした

だが、そんな男性を庇ったのもまた、フィーナの母親だった


ドースを裏切ったにも関わらず、フィーナの母親は泣いてその男性の許しを請うた


それを見て、ドースは何を思っただろうか


ドースは、その男性を許さなかった

追求し、とことん追い詰めた


その数日後、その男性は衝動的に川に飛び込んでしまう

一命は取り留めたが、おそらくは植物状態、もう目は覚まさないとの診断を受けた


その男性の姿を見て、フィーナの母親は泣き崩れた



…そんなフィーナの母親を、ドースは必死に支えた

励ましながら、フィーナの家庭を支え続けたのだ


そして、ドースはついに大仕事を成し遂げる

龍神皇国との連携を取り付けることに成功したのだ


これから、龍神皇国との取引で大きな利益を得られる

クレハナは大きくなる、そうなればシーベルを差し置いて王をなれる可能性も出てくる


この喜びを家族に話したい

そう思って、ドースは珍しく早い時間に帰宅した



「…っ!?」


ドースは目を見開く



迎えたのは、首を吊っているフィーナの母親の姿だった


…それから、ドースは変わった

フィーナへの異常な執着を見せるようになったのだ


おそらくは、何かが壊れてしまった


調和よりも、利益を重視すようになった

仕事にのめり込み、家庭を顧みなくなった


フィーナへの愛はある

だが、フィーナのために仕事をしないわけにはいかないからだ



「…お、お母さんが……」


「すまない、フィーナ。お母さんが死んだことを、帰りをずっと待っているフィーナに言うことがどうしてもできなかったんだ」


「…!」


フィーナが、あまりの事実に目を見開く



「…私はね、フィーナ。お前に何を残せるかを悩んでいたんだ」


「え…?」


「母親を守ってあげられなかった。だからこそ、そんな可哀そうなフィーナに何かを残してあげたい。私は決めたんだ。フィーナに国を贈る。クレハナをフィーナの者にするとね」


「…っ!?」



ドースさんの目が狂気に染まっている


そして、その眼の正体が、俺にはようやく分かった


ドースと(そら)の恵み 四章 ~6話 立場

ブロッサムの調査 閑話25 証拠探し

フィーナの母親 閑話19 漆黒の戦姫

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の中をずいぶんあっさり認めるなと思ったら、重く毒々しい感情をお持ちとか [気になる点] ラーズ云々よりもフィーナの時点であれなのでは [一言] 面白いです
[一言] まさかほんまにフィーナを連れ戻す、変な男と関わらせない、とかだったとは……しかし浮気された上に支えたけど自殺とかキツイなぁ。ドースさんが裁判のとこで妻への思いを断ち切れていたらまた違った未来…
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