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十章 ~14話 答え合わせ

用語説明w

(そら)の恵み:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」とダンジョンアタック用の地下施設、通称「下」がある。騎士団によって制圧済み

神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍


大崩壊:神らしきものの教団や龍神皇国の貴族が引き起こした人為的な大災害。約百万人に上ぼる犠牲者が出た



「ド、ドースさん…!?」



審議員に入って来た人物


それは、シーベルが逮捕された今、クレハナの第一位王位継承権を持ち、次期国王となることが確実視されている人

…そして、フィーナの実父だ



その後ろにはキリエさんが付き添っている


「カエサリル様。この審議院に何かあるのですか? ブルトニア家の審議が行われていると聞きましたが」

ドースさんがキリエさんに尋ねる


「はい。この審議院は、審議を受けるべき者が審議の開始と同時に正面の扉から入るというの決まりとなっているものですから」


「ほぉ、やはり歴史が古い龍神皇国では、いろいろな決まりがあるのですな」

ドースさんが頷く


「…しかし、ブルトニア家の審議は終わったのではないのですか?」

ドースさんが、部屋を見渡して首を傾げる


「はい。これから行うのは、龍神皇国とクレハナにとって重要な審議。よって、非公開で行います」

キリエさんが、そう言ってドースさんを部屋の中央に導く


「重要な審議?」


「これから行うのは、ドース様。あなたの審議となります」


「…何ですと?」

ドースさんがキリエさんを振り返る


「この審議は、カエサリル家、ドルグネル家、そしてウルラ家の立会いの下で行います。ラーズ君は、ムタオロチ家の討伐に大きく貢献していることから、特例で同席を認めました」


「…」


ドースさんが、静かに立ち止まる



この部屋には、審議の対象であるドースさん

そして、フィーナ、セフィ姉、キリエさん、俺の四人が立ち会っている


…これから始まる、今日の本命である大崩壊の関与についての審議


ウルラの領主であるドースさんが、大崩壊の関与者?

正直、信じられない



ドースさんは、大崩壊を画策した龍神皇国の貴族ムタオロチ家と取引きをして内戦の兵器を輸入していた

そのため国営企業ブロッサムの資金をつぎ込んでいたのだが、その資金を大崩壊に利用されてしまった


これが発覚したことでドースさんは国の内外から責任を追及され、内戦でも立場を弱めた

そして、シグノイアとハカルに謝罪のために向い、大崩壊直後に俺と出会ったのだ


その、ドースさんが…、大崩壊の関与者だと?



「それでは、ドース様。始めさせていただきます」

セフィ姉が口火を切る


「セフィリア殿。私は、クレハナを制した国主として皇帝陛下と会談するつもりで来ました。…これはあんまりではないですか?」


「申し訳ありません。疑惑を解消するべきと判断させていただきました。大崩壊絡みであれば、見過ごすことはお互いにできませんから」


「…」


そんな二人のやりとりを、フィーナが心配そうに見守る



「まず、疑惑についてお話ししたいと思います」

セフィ姉が続ける



大崩壊とは、シグノイアとハカルの二つの国を崩壊させた大災害であり、百万人に近い死傷者が出ている

この二国は、現在は龍神皇国に組み入れられて独立行政地区となっている


そして、現在も実態解明のための調査が続けられている



大崩壊の流れを簡記すると、



地脈を使った六芒星型国土級魔法陣の建設


 → 六つの頂点に五つの巨大魔晶石を用意


 → 巨大魔晶石の無い頂点が戦地となる


 → 戦地で原子爆弾を使うことで魔法陣を起動


 → 五つの巨大魔晶石が連鎖暴走し、五つの大災害が発生


 → 更に、国土級魔法陣によって極大力学属性魔法(メテオ)を発動



…という流れになる


いつごろからこの国土級魔法陣が作られたのかは分からない

だが、この魔法陣を神らしきものの教団、及び、ムタオロチ家が利用したことは事実だ


そして、もう一つの疑念

それが、戦地への原子爆弾の持ち込みだ


当たり前の話だが、原子爆弾は大量破壊兵器であり、簡単に製造、持ち込みが出来る物ではない

だからこそ、持ち込まれた経緯について追跡調査が行われていた



この爆弾は、デスペアと呼ばれる正体不明の化け物が起動させたことが分かっている

だが、それ以前に、どうやって戦地に持ち込まれたのかが不明

龍神皇国の総力を挙げた調査によっても、その経緯が判明しなかった


そこで、一つの仮説が持ち上がった


これだけの調査でも持ち込み方法が分からない

それなら、調査に引っかからない方法とは何か?


まずは密輸か、密入国等による持ち込み

しかし、あの規模の原子爆弾は大きさがあり、空間属性魔法を使ったとしても通常なら不可能だ


次に、税関に検査されない方法

…例えば、国賓の入国などの際だ



「…大崩壊の直近で、シグノイアとハカルへの入国の記録を調べたところ、税関検査を受けずに入国した者はドース様しか該当がありませんでした。それが疑惑の理由です」

セフィ姉が静かに言う


「確かに、私はシグノイアにもハカルにも行きました。ムタオロチ家にブロッサムの資金を利用されたことが発覚し、謝罪に訪れましたから」

ドースさんが頷く


「…ですが、それだけで私が大崩壊に関与したと? 大崩壊によって私は内戦で立場が悪くなり、ナウカとコクルが連合を組んだことで戦況まで悪化した。私に、大崩壊に関わるメリットがないのですよ?」


確かにそうだ

ドースさんは、ムタオロチ家と神らしきものの教団の悪事が発覚した段階で手を切った

…ウルラ家にとって、他国の大虐殺に手を貸すメリットは一切ないはずだ



「もちろん、それだけでウルラの領主であるドース様をお呼びすることなどありません」

だが、セフィ姉は続ける


「…」


そうか、ドースさんが大崩壊に関わったという根拠がまだあるということか



ぎゅっ…


「ん?」



気が付くと、フィーナが俺の袖を掴んでいた

そして、少しだけ震えている


フィーナにとって、身内が大犯罪に関与している可能性がある

…辛いだろう


だが、それでも真実を探してくれている


俺は…



「ドース様。あなたが主導しているブロッサムについて調べさせて頂きました」


「…ブロッサムを?」


「ブロッサムとは、貿易、原子力、魔石精製、農業・畜産、その他にも多方面の産業を手掛けています」


「…」


「私達が着目したのは、もちろん原子力の部分です。私達の仮説は、ブロッサムの原子力技術を使って原子爆弾を作成、ドース様がシグノイアに来た際に持ち込んだのではないか、と言うものです」


「…」


「実際に、ドース様がシグノイアに来た際は、戦災孤児のための贈答品を多くのコンテナに詰めて持って行かれておりました。その一つが、もしかしたら…」



そんな、まさか…


ドースさんには、原子爆弾を作成する手段と、持ち込む手段の両方を持っていたということか

しかも、どちらも秘密裏に行うことが出来る



「それは、あくまでも仮説なのですよね? その身に覚えのない行為に対して、やっていないという証明は、まさに悪魔の証明。どうやって身の潔白を証明しようか悩んでいるのですが…」


ドースさんは、少し悩んだような素振りをする

冷静で、特に動揺した様子は見せない



「…っ!?」


だが、フィーナの顔が真っ青になっている

俺の服の裾を握りながら、息が荒く、明らかに動揺している


下手をすると倒れてしまいそうな、そんな様子だ

いったい、フィーナには何が見えているんだ!?



セフィ姉は、そんなドースさんに対して淡々と続ける


「私達は、ブロッサムの再稼働の作業のために二人の騎士を派遣しました。クレジットクィーンのミィ、そしてサイバーヴィーナスのオリハです。…この二人には、密命として大崩壊の調査を命じていました。」


「…!!」


「その調査の結果、原子力発電所の核燃料が一本、消えていることが判明しました」


「…」


「そして、ジライヤの調査により、ウルラ領内にあったある地下施設にウラン濃縮とプルトニウム生産の研究施設までもが発見されました」


「……」


「その施設は、(そら)の恵みが利用していた、あの地下ダンジョンを制御する地上施設に作られていたようですね」


「………」



な、何だと!?

(そら)の恵みの地上施設、通称「下」に…、原子爆弾の研究施設だと!?



「そして、この調査に一番貢献してくれたのがフィーナです」


「…っ!?」

ドースさんが、驚いたようにフィーナを振り返る



フィーナは一度強く俺の裾を握ると、静かにドースさんの前に進み出た




…大仲介プロジェクトの最中、ラーズが宇宙へと旅立ちストラデ=イバリへ滞在していた頃


フィーナは、クレハナに戻ることを決めた

ラーズが拉致されていた施設、(そら)の恵みの情報をドース父さんからもらう代わりに、フィーナは王家に戻ることを約束したからだ


そして、その約束を果たすため、クレハナに戻っては姫としての政治の勉強、ジライヤに師事して複合遁術の修行を行った


…知れば知るほど、クレハナの国民の生活は酷かった

内戦が始まって、もう二十年以上が経っている


その間、クレハナの国民は戦火に怯え、インフラが破壊された環境での生活を強いられていたことを知った

知ってしまったからには、もう見過ごせない


更に、大崩壊後の時代の流れでクレハナの内戦も加速し始めた

大きな全面戦争が起こる、そのためにフィーナは決断したのだ



そんなフィーナに、セフィリアは言った


「おそらく、大崩壊に利用された原子爆弾はクレハナから運び込まれたもの。その調査をしてほしいの」


「…っ!?」


「これは、おそらくクレハナでもかなりの権限を持つ者でないと不可能。絶対に悟られないように」


「う、うん…」


フィーナはラーズのために、そして、亡くなった1991小隊のみんなのためにこの調査を引き受けたのだ


ドースと大崩壊 閑話17 フィーナ「姫」

国土級魔法陣 閑話25 証拠探し

ブロッサム 閑話21 ブロッサムの資金

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そんなまさか……流石にフィーナを連れ戻すためだけにやるのは考えれないから元々そっち側の思想を持っていて、そのついでにラーズを過酷な場所に送って、ラーズが死ぬか精神病むかでフィーナと関わ…
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