十章 ~13話 誤解
用語説明w
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ
ブルトニア家の親子が、フラフラと審議院を出て行った
「それじゃあ、セフィリアさん。迎えに行ってくるわね」
「キリエさん、ありがとうございます」
セフィ姉とキリエさんが頷き合う
「ラー兄、また」
「ああ。分かったよ、ピンク」
そして、キリエさんとピンクが出て行く
「ラーズ、お疲れ様」
セフィ姉が微笑む
「うん。ありがとう、セフィ姉。これで良かったんですかね、マキ組長…」
俺はマキ組長を見る
ブルトニア家への報復、正解が分からないままに俺が勢いで決めてしまった
これでいいのか…、自信がない
「出来る限りの要求はしました。そして、コウとヤエが守りたかったウルラ領とクレハナに利益になる要求が出来た。上出来ではないでしょうか」
「はい…」
「ブルトニア家を消したところで、その穴に他の貴族候補が据えられるだけ。それなら、見せしめの広告塔としてクレハナのために働き続けてもらいましょう」
マキ組長は、そう言うと手を振って審議院の出口へと体を向ける
「マキ組長、いつクレハナに帰るんですか?」
「私の用事は終わりましたから。今日の飛行機で帰ります」
「あ、そ、そうなんですか!?」
急だな!
俺は…、そもそも退院できるのか?
「ラーズ、ここからはあなた次第です。あなたにとって何が大切なのか、今一度心に問いなさい」
「はい?」
「死んだ大切な仲間のためにやれることをやる、大切な事でしょう。でも、それに囚われてはいけません」
「え…」
「戦場でも人生でも、囚われること、居着き、慣れること、その全てが悪手です。自然体に、今の自分にとって何が大切なのかを見極めなさい。その判断力があなたの力であり、武の呼吸の本質です」
「マキ組長、何の話をして…」
「では、ラーズ。本当の意味で、過去を乗り越えたあなたとの再会を楽しみにしています」
「あ…」
そう言って、マキ組長は行ってしまった
審議員の貴族たちもすでに退席している
残っているのは、俺とフィーナ、セフィ姉だけだ
「ブルトニア家のことはこれでお終い。良かったわね」
セフィ姉が言う
「そうだね…」
「これで、あなたの秘密は無くなった。フィーナとも普通に話せるわね」
「え?」
セフィ姉が微笑む
グロウス・ブルトニア家への制裁
それは、王族を巻き込む危険な手段だった
だからこそ、俺はフィーナと距離を取る必要があった
巻き込むわけにはいかないから
でも、その危険性自体が無くなった
…セフィ姉は全てを把握していた
相変わらず、権力ってのは怖いわ
「…フィーナ、ありがとな。王族なのに、俺なんかの味方をしてくれて」
俺はフィーナを向く
「え? ううん、当たり前だよ。ラーズを助けるためだから…」
フィーナは、はっとしたように顔を上げる
「どうした、何か考え事か?」
フィーナが何か思いつめたような顔をしている
ブルトニア家のことが終わったのにどうしたんだ?
「うん…、その…」
「もしかして、ブルトニア家にクレハナの支援をさせるのがまずかったか? ごめん、思い付きで言っちゃったんだけど…」
「それはいいの。クレハナとしても、無償で資金を出してくれるなんてありがたいことだから」
「それなら、何を悩んでるんだよ?」
「うん…」
フィーナがチラッとセフィ姉を見る
すると、セフィ姉が優しく頷いた
二人して何なの?
「……私ね、ジライヤと…」
フィーナが、躊躇いながらも口を開く
「あ、うん…」
俺は、その言葉を聞いて覚悟を決める
話してくれるだけで嬉しい
フィーナが幸せならそれでいいんだから
自分でも驚くほど、穏やかにフィーナの言葉を待つ
「その…、ずっと…」
フィーナが口を動かすが、なかなか言葉にならない
やっぱり言いにくいのか?
もう、俺とは別れたんだし気にしなくていいのにな
「フィーナ。俺はフィーナが幸せなら別にいいんだ。気を使わないでさ、幸せになってくれよ」
「え?」
「ジライヤと付き合ってるって話だろ? 俺はあいつのことは嫌いだけど、フィーナが決めたのなら…」
「な、何の話をしてるの!? 私、ジライヤとなんか付き合ってないよ!」
「え、だって前にジライヤと…」
「ち、違うよ! 前は言えなかったけど、ジライヤと…!」
「うん。俺は、一国の姫になったフィーナが俺のことを気にかけてくれただけで充分だよ。応援するからさ」
「………っ!?」
「…?」
俺は、固まったフィーナを見て首を傾げる
何か違和感があるが、何だ?
だが、フィーナの幸せを願っているのは間違いない
それだけは伝えておきたい
「ば…」
「ば?」
「こ、こ…」
「ば? こ?」
「この、バカっっっ!!」
バッチィィィ……
「…っ!?」
ブツンッ…!!
このタイミングで、想像もしなかった一撃
拳を握らない平手によるフルスイング
だが、漆黒の戦姫と呼ばれた英雄の一撃は、闘氣が無くとも容易に人体を吹き飛ばす
殺気のない一撃が、無警戒だった俺の脳を揺らした
「………?」
ガバッ!!
俺の目に、天井と覗き込んでいたフィーナの顔が飛び込んで来た
「あ…、あれ、俺は…」
「ご、ごめんなさい。つい…」
「…っ!?」
ま、まさか、武の呼吸を身につけた俺が意識を飛ばされただと!?
いや、あのタイミングで平手が来るとか分かるか!!
しかも、ただの平手があんな威力あるとか!?
「いや、何で!?」
「え?」
「何でいきなり殴られたの、俺!?」
「だって、ラーズが訳わかんないこと言うから…」
「だ、だから何がわかんないの!? え、ちょっ、ほんとに意味わかんないんだけど!」
「はぁ…。ラーズ、落ち着きなさい。もう、話が進まないから私から話すわ」
ため息をつきながらセフィ姉が口を開く
「え、うん…」
「結論から言うと、フィーナとジライヤは付き合っていないわ」
「え?」
「フィーナとジライヤには、私がある仕事を頼んでいた。それを二人でやっていたのよ」
「仕事って?」
「その仕事はラーズに大きく関わること。だから、ラーズには言えなかったの。そして、その仕事の結果、フィーナはラーズに恨まれるんじゃないかと心配している」
「俺がフィーナを? 何で?」
「…クレハナに出発する時に最初に言ったはずよ。クレハナには、大崩壊の関与者がいるって」
「あ…!」
「フィーナとジライヤには、シーベルの前王パヴェルの死の調査。そして、大崩壊の関与者についての調査を依頼していた」
「そ、そうだったのか…」
俺は、フィーナを見る
「セフィ姉の極秘依頼だったから、ラーズには言えなかったの。私、本当にジライヤとは…」
「そうか、ごめん。俺の勘違いだったのか…」
どこかでホッとしている自分がいる
だけど、何で俺がフィーナを恨むことになるんだ?
「私、怖いの。ラーズに伝えなくちゃいけない。でも、ラーズに嫌われるかもしれない…」
「それよりさ、フィーナ」
「え?」
「フィーナって、今は付き合っている人はいないってこと?」
「は? あ、うん…、いない…よ…?」
フィーナが俺を上目使いで見る
「それなら、さ…」
「ひゃいっ!? え、え、え…!?」
俺はフィーナの頬に触れる
フィーナが幸せになればいいと思った
でも、本当は?
…本当は、俺が幸せにしたい
一緒にいたい
内戦の陰で、大崩壊のことを調べてくれていた
それって、俺のためなんだろ?
やっと、マキ組長の言葉の意味が分かった
今の俺にとって、何が大切なのか
サバイバーズ・ギルトはまだ払拭できてはいない
それでも、受け入れる準備ができた
それは、俺の側には、こんなに愛しい女性がいたから
大崩壊に囚われて、俺はその幸せな事実に気が付いていなかった
「…フィーナ、好きだ」
「え…あ…」
我慢が出来ない
伝えたい、振られたっていい
純粋に気持ちを伝えたい
そして、感謝を伝えたい
「ま、待って…! ま、まだダメなの!」
フィーナが慌てて言う
「まだ?」
「…大崩壊の関与者。それを伝えないと行かないから」
「…」
大崩壊
俺の全てを壊した人為的な災害
「さ、ラーズ。真実を明らかにする時間よ」
セフィ姉が言う
「真実って…」
「ブルトニア家のことはおまけ。今日の本当の目的は、大崩壊の真実を明らかにすること」
「あ…」
フィーナが声を出すと、審議院の入口が開いた
「ま、まさか…」
そこから入って来た人物を見て、俺は目を見開いた
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誰か分かる?
分かんないよねぇ、ほぼノーヒントだしw
え、分かんないよね?
( ´∀` )