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十章 ~10話 決闘

用語説明w

ナノマシン集積統合システム2.1:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化、更に、左腕の銃化も可能

装具メメント・モリ:手甲型の装具で、手刀型のナイフ、指先に鉤爪、硬質のナックルと前腕の装甲が特徴。自在に物質化が可能


ガレウスが俺に手袋を投げつける

それを、俺はキャッチした


「小僧、貴様の暴言は貴族の名誉を傷つけるもの。…決闘だ」


「…これは殺し合いではありません。両名の実力を見るためのもの、紳士的にお願いします」

セフィ姉が言う


「ふん、小僧相手に本気など必要ない。軽くひねってやるわ」

ガレウスが頷く


「あんた、頭に花畑でもできてるのか?」


「何だと?」


「セフィ姉の言葉を鵜呑みにしてるなら、おめでたすぎる」


「…!」


「これは潰し合い、事故が起こっても文句の言えない決闘だ。後から言い訳並べたくなければ全力で来るんだな」


「小僧…!」


こっちは仲間がやられている

一切、手を抜くつもりは無い



「ラーズはまだまだ甘いですね。油断に付け込めばいいものを…」

マキ組長がヤレヤレとつぶやく


「マキさん、ラーズは大丈夫なの?」

フィーナが心配そうに言う


「クレハナの内戦で、ラーズは何人ものBランクを屠ってきました。実践経験のない、あの程度の相手に問題はないでしょう」


「そう…」


「フィーナ姫様、何か勘違いをされているようですが」


「え?」


「この中で、私やラーズに技量で敵う者はセフィリア様だけです。ただ、フィーナ姫様には闘氣(オーラ)という技能があり、複合的に私達よりも上を行っています。逆に言えば、単純な技量ならラーズは私とセフィリア様に次いで第三位という実力なのです。心配はいりません」


「…!」




ガレウスがレイピアを構える

構えがそれなりに堂に入っている


俺は装具を物質化

両腕に手甲を纏って構える



ドヒュヒュヒュッ…!


レイピアのしなる高速の刺突

闘氣(オーラ)を纏おり、俺の装具に溝を付けて行く



同時に体を削り、細い傷が刻まれる

流血していくため、ナノマシン群で塞ぎながらガレウスの動きを観察



「はっ、どうした一般兵! 闘氣(オーラ)が無ければ、こんなものだ!」


「…」



ガレウスがレイピアを振って火の玉を撃ち出す

火属性の投射魔法のようだ



俺は踏み込んで腰を落とし、掌底による突きを放つ



ブフォッ…!!


「なっ…!?」



火の玉を、掌底の風圧で消し飛ばしてやる


「だいたい分かったよ。さ、続けよう」


「な、生意気な…!」


ガレウスがレイピアで斬りかかる


その一瞬早く、俺はガレウスに踏み込む

両腕で胴をクラッチ、足を刈って頭から落とす



ゴガッ!


「…っ!?」



変則の大外刈り


闘氣(オーラ)を纏っていようと、体重は変わらない

つまり、抵抗されなければ投げることは可能だ


格闘技や武術の熟練者であれば、素人に反応させないことなど簡単だ



床にひびが入ったが、当然、闘氣(オーラ)の防御力でダメージはない

俺は静かに離れて、さっさと起き上がるように手招きする



「こ、この小僧!」


ドドドッ!



起き上がって怒鳴ろうとした瞬間、ナノマシンシステム2.1によって銃化させた左腕で三点バースト

顔面に撃ち込んで視覚を一瞬だけ封じる



ゴガァッ!


「くっ…!?」



ガレウスの胴を側面からクラッチ

引っこ抜いて背面側に反りながら落とすスープレックス


そして、もう一度手招きをする



「き、貴様、神聖な決闘に置いて銃などという無粋なものを使いおって…!」


「いや、それなら闘氣(オーラ)なんか使わずお前の腕だけで勝負しろや」


「屁理屈を!」


「いや、正論だろ」



闘争本能を向けるべき目標を設定


脱力、リラックス、集中力だけを保つ



ドゴンッッ!!


「…っ!?」



ガレウスが少し慎重になった瞬間、アグレッシブに飛び込んで隙を突く

そして、一瞬だけ呪印を発動、その力を拳に乗せた崩拳を腹にぶち込む


体をくの字に曲げながら吹き飛び、天井に叩きつけられるガレウス


変異体の筋力とナノマシンシステムの身体強化の合力

そして、呪印の力が乗った装具のナックルがガレウスの闘氣(オーラ)を貫いた



「げはぁっ……! ……! …ぁ……!」


床に落下し、腹を押さえてのたうち回るガレウス



よし、一瞬の発動なら、呪印の本能による暴走までは行かない

少しは使えるようになってきたじゃないか


俺は闘氣(オーラ)を貫ける手段を得た

この呪印の力は本当に強いと思う


「な、何をしておるのだ、ガレウス! 闘氣(オーラ)があれば、一般兵の攻撃など…!」

ガレウスの母であるキャリーが叫ぶ


いや、内臓にぶにょんってめり込んだ感触があった

あれは痛い


俺も大学時代何回か喰らったことが有る

呼吸ができず、痛くて、死にたくなるような苦しさ、それがボディへの攻撃だ



「凄いわね、ラーズ君、どうやって闘氣(オーラ)を貫いたの?」

キリエさんがセフィ姉に聞く


完全にスポーツ観戦の気分だ


「一番の理由は、私の紋章と対を成す呪印の力を乗せられるようになったことですね」

セフィ姉が解説


「あんな危険な呪印、よく使おうと思ったわね。今まで使いこなせた人、一人もいなかったんでしょ?」


え、そうなの!?


「ラーズは完成変異体として、トリガーという暴走の危険性を孕む特性を持っていました。でも、その特性を使いこなしていくうちに、呪印のリスクまで克服する結果となったんです」


「へー、伝説級の呪印に適性を持ったなんて、本当に貴重な存在になったわね」


「それだけじゃないですよ。ラーズは、ただの変異体からグレードアップしたんですから」


「まだ何かあるの?」


「はい。変異体がナノマシンシステムと融合、更に呪印と霊体が融合。相乗効果で、他の変異体よりも生命力や治癒力、身体能力が向上、病気や環境変化に対して高い耐性を獲得した別種ともいえる存在になっています」


「それが、前に言っていた強化変異体…」


「はい。ですから、カエサリル家の血と契るのにラーズ以上の存在はいません」


「あぁ…、本当ね。絶対にゲットするわ」


キリエさんが、涎を垂らしそうな顔で俺を眺める


だから、契りって何!?

俺に何をする気なの!?



「がふっ…、くそ、この…平民ごときが……」


やっと悶絶から立ち直ったガレウスが、フラフラと立ち上がる



「凄い…、あの大剣、1991さえも使わないで龍神皇国騎士団の騎士を倒すなんて…」

フィーナが呟く


「ラーズの歩いて来た道は、常人では歩けない道でした」

マキ組長が言う


「どういうことですか?」


「努力の方法と方向性、その努力にかける時間が実力を向上させます。ラーズの継続力には目を見張るものがありますから」


「…!」


「そして、一番の理由は実戦の経験。実戦と反復練習の気の遠くなるような継続。その全てがラーズを達人の域にまで引き上げました」


「達人…」


「その愚直さは、狂気と呼ばれてもおかしくない。気が狂うほどに自分を鍛え上げ突き詰める、その意思があって初めてたどり着く場所。それが今、ラーズが立っている場所です」



俺が構えを取る

すると、ガレウスがビクッと体を強張らせる


「…っ!」


ガレウスは、闘氣(オーラ)を発動しながら俺を見ている

なかなか攻めてこない



左腕を軽く動かすと、またガレウスが反応

その動きは過剰ともいえるほどだ



俺は、また闘争本能の目標にガレウスを設定する


「ひっ…!!」


ガレウスが小さく悲鳴を上げて後ずさる



「…ラーズ、変わったわね」

セフィリアが言う


「ラーズの内面が変わったのでしょう。今まで囚われていた過去の戦場。そこから解放されたことにより、散漫となっていた意思が一つに集中しています」

マキ組長が言う



確かに俺は変わった

容易に殺気を集中できる


今までは、罪の意識を誤魔化しながら戦っていた

罪悪感から逃げられる安堵感が、集中力を減衰させていたようにも思える


今、俺は自然体だ


目の前のガレウスに対して何も思わない

目の前のガレウス以外のことを考える必要もない


達観してガレウスを見据えられるのだ



俺は右ストレートを打つふりをする

それを見て、ガレウスが顔を防御


今の俺には闘氣(オーラ)を貫く手段がある

だからこそ、フェイントが効く



ドシュッ


「がはっ……」



左腕の手刀が腹に突き刺さる


命の危険を避ける必要性があって、初めてフェイントが成立する

Bランクを殺す力があるからこそ、虚勢が効く



俺は、腹部からの出血を手で押さえ、床に倒れて荒い息をしているガレウスを見下ろした



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