十章 ~8話 審議開始
用語説明w
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている
フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ
俺達マキ組はグロウス・ブルトニアをハメた
全面戦争時、グロウスが保身に走り独断で撤退したことで、俺達の大切な仲間であるコウが戦死した
更に、その撤退を止めようとしたヤエがグロウスによって撃たれた
…だから、俺達はグロウスを消した
直接手を下したのはナウカ軍だ
そうなるようにしむけた
だからこそ、俺はブルトニア家に告訴とやらをされても騒ぐ気は起きない
俺はグロウスを殺した
それが真実であり、それが落とし前だと思っている
「それでは、ブルトニア家側からの告訴内容を。ガレウス様」
進行役の貴族がブルトニア家に促す
「はい。一般兵であるラーズ・オーティルは、我が弟グロウスが領境に出た際に護衛についていました。しかし、護衛であるにも関わらず、グロウスがナウカ兵に襲われた際に逃げ出した。これは、貴族を守るという重大な義務の不履行であり、断罪すべき行為です」
ガレウスが俺を睨みつける
「ありがとうございます。では、この行為の真偽について。被告訴人は、認めるのかね?」
審議官が俺を見る
「はい、認めます」
俺はグロウスを残して逃げ出した
そこに否定する余地はない
「では、なぜグロウス様を置いて逃げたのかね?」
「それは、ナウカ兵の部隊に攻撃されたからです。Bランク戦闘員もいて、一般兵の俺達では太刀打ちできないと判断しました」
「…バカ者!」
「…!」
響き渡る怒声
見ると、ブルトニア家の長机に座る女性が立ちあがっていた
「一般兵は貴族を守るためにある! なぜ、死んでも立ち向かわなかったのだ!」
「立ち向かうよりも、応援を呼んだ方が助けられる確率が高いと判断しました」
「お前は護衛なのだろう! 貴族を守り、ナウカ兵を守るためにある。お前の行為は敵前逃亡、万死に値する!」
「…」
ヒステリックに叫ぶ女性
この人にとって、貴族以外の一般人は捨て駒、貴族のために使い潰される存在として映っているのだろうか?
「落ち着いてください、キャリー様。弁護側、キャリー様の意見に対して何か申し開きはありますか?」
審議官が言う
「では、僭越ながら。キャリー・ブルトニア様、私達マキ組はグロウス様を助けられずに一時撤退、すぐにウルラ軍に応援を要請しました。この行為が敵前逃亡であるという意見は重く受け止めます」
マキ組長が頭を下げる
「それは当たり前のことだ。我々騎士も、お前達兵士も、守るべき対象を持つ。その守るべき対象のために命を捨てでも動くべきなのだ!」
ガレウスが言う
「では、それが出来なかったときは…?」
「もちろん、断罪されなければならない。お前達は敵前逃亡をして貴族を死なせた。極刑も有り得る制裁を受けるべきだ」
「はい、全て同意させていただきます」
マキ組長が神妙な顔をする
「うむ、そうだろう。その小僧は極刑だ!」
ガレウスが勝ち誇ったように言う
…おかしい
こんなに簡単にマキ組長が認めるわけがない
それと、俺を見捨てるわけがない
マキ組長は仲間を守る、そこに疑いは一切ない
俺はマキ組長を信頼している
「…ですが、一つだけ誤解があります。それは、グロウス様とマキ組との契約についてです」
「契約だと?」
「私達がグロウス様と交わした契約は斥候の依頼のみ。ですから、私達にとってグロウス様は守る対象ではありません」
「な、何だと?」
「斥候として契約はしましたが、グロウス様は貴族であり、ウルラ領のためにご尽力なさっている方。せめて、お助けしようと思い義務ではありませんでしたが、助けを呼びに行ったのです」
もう一度、マキ組長が頭を下げる
「審議官の皆さま、これがウルラ王家に提出された契約書でございます」
フィーナが、紙の契約書を審議官に渡す
この契約書には、しっかりとグロウス・ブルトニアのサインがある
そして、その内容は『鉱石竜の討伐のために斥候を仰せつかる』と記載されていた
「…鉱石竜だと?」
「ナウカ兵との戦闘ではないのか?」
審議官たちの間から、ざわざわと話声が聞こえる
「これはブルトニア家の名誉のために私の独断で黙っておりました。お許しください」
そう言うと、フィーナが話始める
「実は、グロウス様は重大な軍規に違反される行為を行っておりました」
「い、違反だと…!?」
ガレウスとキャリー親子の顔色が変わる
「はい。全面戦争が終わり、ウルラ領とナウカ領周辺はお互いの戦力が点在する大変危険な場所。監視はすれど、立ち入りは避けるように命令しておりました。ウルラ領民の安全のためです」
「…」
「しかし、あの周辺で鉱石竜の目撃情報が得られたことから、グロウス様は討伐を思い立ったようです。もちろん、ウルラ王家としては許可を出すことはできません。それをわかっていたグロウス様は、独断で秘密裏にブルトニア家の部隊を引き連れてあの山に入りました。そうですね、マキ組長?」
「はい。フィーナ姫に告白することが心苦しいのですが、私達は大切な仲間を二人、全面戦争で失いました。急遽、一人の忍びを雇い入れたことで資金が底をつきかけていたところにグロウス様のお誘いがあり…。軍規違反であることは分かっていましたが、つい応じてしまいました。申し訳ありません」
マキ組長がフィーナに頭を下げる
「いえ、過ぎたことです。それに、グロウス様から直々に頼まれれば断れないことも理解はできますから」
フィーナがマキ組長の肩に手を添える
この二人、このやりとりを練習でもしてたのか?
ちょっと演技っぽいんだけど
「なっ、そんな馬鹿な話が…!」
「事実無根よ!」
ブルトニア親子が怒鳴る
だが、契約書が実際に存在する限り言い逃れはできない
「そ、そうだったとしても! お前達一般兵が貴族を置き去りにして逃げるなど許されるわけがない!」
ガレウスが言う
「それは、グロウス様がクレハナにとって、大変有益であるという理由だからでしょうか?」
マキ組長が静かに尋ねる
「そうだ! グロウスはBランク、龍神皇国の騎士であり、数々の功績を上げて来た! そんなグロウスがナウカ兵ごときに殺されるなど…!」
「残念ですが、クレハナに関して言えばグロウス様の貢献度はそこまで高くない。対して、ラーズは全面戦争を勝利に導いた英雄です」
「な、何だと?」
「全面戦争でウルラを勝利に導いたスタンピート。あれは、ラーズが引き起こしたもの。一般兵の機転によって勝利を勝ち取ったと発表すれば、ウルラ王家の威信にかかわるという判断で秘匿された事実です」
フィーナが続ける
「…なっ!?」
その事実に、ブルトニア家の二人が口を閉じる
「それにグロウス様は、治安維持部隊を除く龍神皇国の騎士団がクレハナの内戦からはじき出される原因を作り出したと聞いております。貢献度で言えば、ラーズはグロウス様よりもはるかに上でしょうね」
マキ組長が淡々と述べる
「き、貴様…!」
ガレウスがマキ組長を睨みつける
お前、マキ組長をただの細い女だと思ってると後悔するぞ?
「ブルトニア様。あなた方は先ほど、敵前逃亡は万死に値するとおっしゃいました」
「ああ、そうだ。それが何だ!?」
ガレウスがイライラとした口調で言う
「グロウス様から聞いていないのですか? 先に逃げ出したのは龍神皇国の騎士であり、龍神皇国騎士団の代表であり、クレハナの内戦を終えるために唯一戦うことを許された龍神皇国の戦力、ブルトニア家の部隊です」
「な、何!?」
「敵前逃亡が万死に値するのであれば、グロウス様は残念ながら死ななければいけなかったということでしょう」
マキ組長が無表情で続ける
…審議は続いて行く




