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一章~28話 選別九回目

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


選別場


俺は、静かに目の前の男と対峙する


ストレスで、相変わらず頭痛がする

目覚めたころのように、吐き気が無いだけましだが



…この選別場での殺し合いに慣れてきてしまった自分がいる

俺はすでに、どうやって戦うのか、こいつの能力は何なのかを考えている


俺は死なない、お前が死ね



目の前には、筋肉質な男がナイフを持って立っている


「いや、ちょっと待て! 武器を持ってるなんてルール違反だろ!?」


「…いつ、武器が禁止などと言ったんだ?」

研究者の声がスピーカーで答える


「…」


そういえば、言われてないかもしれない

だが、最初の素人死刑囚以外、武器は持っていなかった


…いや、魔法使いが杖でなぐってきたか



そんなことを考えていると、いつも通り勝手に戦闘が始まった


男は、首にチョーカーのようなものを巻いている

筋肉質でではあるが、ギガントタイプの被検体を見慣れた俺からすると特に脅威は感じない



「…あぁ…ああぁ……」


男が、突然涎を垂らしながら恍惚の表情を浮かべる



…気持ち悪い

いきなり、何でそんな表情に?



そして、つぎの瞬間には、凄まじい殺気を放出しながら男が迫って来る



「…っ!!」


感情の浮き沈みが激しすぎるだろ!?



ドシュッ…!


「ぐぁっ!?」



そして、一瞬で間合いを詰められ、俺の腕をナイフがかする


体を沈めたのは分かった

そして、次の瞬間には切られていた


一瞬でこの間合いを飛び込んで来やがった

尋常じゃないスピードだ


普通じゃない、だが、身体強化の補助魔法を使ったわけでもなさそうだ

強化人間か!?



男はナイフを突き出し、薙ぎ、斬ってくる

ぎりぎりで避ける、避ける



スパッ!


シュッ!



くそっ、こいつは素人じゃない

フェイントを入れるし、動きが早すぎるしで、どうしても被弾してしまう

切り傷がどんどん増えていく


男の殺気に、こちらの意識が上がっていく

集中力が上がっていく


感覚が研ぎ澄まされ、身体能力も上がっていく

意識が引っ張られる



ゴッ!


「ぐっ!?」



ナイフに合わせて、右のフックを合わせる

そして、肩を掴んでの膝


よし、このままナイフを奪う!

男の右腕を掴もうとすると…



サクッ!


「いっ…!」



ナイフを引かれて、俺の左腕に血の筋を引かれる


ダメだ、深追いするな



俺は、右足を返して、左足でローキックをふくらはぎに蹴り込む

カーフキックだ


男は、一瞬顔を歪めながらも俺から離れる

その瞬間を狙って、踏み込みながら今度は右のローを蹴る


ナイフや刃物使いには、ローキックが簡単に入る

武器使いは武器で受けるのが基本であり、武器で下段の防御はかなり難しいからだ


まず足を潰す、そして可能ならナイフを取り上げて奪う



「うおぉぉぉっ!」


「なっ!?」



男のナイフ躱した瞬間、もう片方の腕で俺の服を掴まれる

そして、力任せに振られると…、俺の体が浮いた!?


な、なんだよ、この力は!?


倒れながらもすぐに起き上がる


また男が突進してくる

早すぎて対応できない


ナイフに集中、攻撃を避ける

攻撃の全ては躱せない、致命傷を選んで避けろ



ゴッ!


「うがっ!?」



ナイフが俺の肩を掠めた瞬間、男の正面が開く

その瞬間に頭突きを叩き込む


追い詰められて集中力が上がっている

粘る、諦めない、泥臭くいく


足払い、ローキック、ジャブ

リスクの少ない攻撃を積み重ねる


鼻、目、額を打つ

足、膝を攻撃


呼吸の阻害、視界を狭め、足を殺す

隙を見て、肘、ミドルキック、ボディでスタミナを奪っていく



…戦いはいい

生き残ることに集中できる


今までは、トラウマに悩まされていた


だが、その原因が分かったことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



少し距離を取る


男は突然スタミナが切れたのか、肩で息をしている

さっきまでガンガン攻めてきていたのに、ようやく疲れたか

スタミナまで化け物だった


だが、ここまでだ

俺のスタミナも切れてきたが、まだ余裕がある


終わらせてやる…



「はぁはぁ…、はぁぁーー…」


また突然、男が恍惚の表情になる

よく見ると、首に付けたチョーカーのようなものが動いている



「おらぁぁぁ!」


「なっ…!?」



また男が襲い掛かって来る

男は、スタミナが回復したかのようにナイフを振り回す


な、何なんだこいつは!


大振りになったナイフがわき腹を掠めるが、そのまま腕を脇に抱えて肘を極める

このままナイフを落としたかったが、男の動きが速かった


俺の服を空いた手で掴み、また振り回す


まずい、倒されたらナイフでやられる

耐えろ!


俺は脇に男の腕を抱えながら、右手で男の後頭部を掴む



「うおぉぉぉっ!」


俺を振り回す男のスタミナが切れるまで耐える!

同時に、男の首を前に倒すように力を入れる



必死だった

無我夢中だった


体から力が湧き出て来る

男の怪力に、俺は耐えきった


全力で俺をぶん投げようと暴れていた男の動きが止まる

その唇が若干紫になっている


過剰な運動量による酸素の消費量が、呼吸で得る量を超えた典型的なチアノーゼだ


左腕で男の腕を脇に抱え右手で男の後頭部を掴んだ状態から、男の体を引き出して体を反転、男の左足の内ももを跳ね上げて投げる


内股だ



倒れると同時に男の首のチョーカーを引きちぎり、脇に抱えた男の右腕を腕十字で叩き折る



ビキッ!


肘の靭帯が切れて骨が折れる音がする



しかし、男は痛がる素振りを見せない

俺はすぐに立ち上がり、落ちたナイフを遠くに蹴り飛ばす



引きちぎったチョーカーには、薬のような液体が入ったビニール袋と、おそらく男の首筋に刺さっていた注射針のようなもの、そして小さなポンプのような機械がついていた


「ドーピングによる強化人間か…」


覚せい剤のような成分で人間の認知機能を強化、マリファナのような成分で痛みや苦痛を減らし、体の限界を超えて動き続けられる


これが、あの怪力や突進力、腕を折られても戦い続けるこいつのからくりか


…薬物の効果は高い

劣悪な環境や戦場の恐怖からのストレスを忘れさせ、その効果は戦場において素晴らしい成果を上げる


だが、あくまで兵士の運用時間が延びるだけだ

当然、継続的に長期運用すれば、その兵士がゆっくりと壊れていくことは間違いない



「はぁー…はぁー…」


…薬の注射針を引き抜くと、途端に男の呼吸が荒くなる


疲労感が増したのか、ぐったりと倒れ込み起き上がれなくなった

これなら殺さなくてもいいだろう


勝負ありだ



…俺は、変な高揚感を感じている


PTSDによる体の硬直が無い、戦闘に集中できる状況

集中すると、頭痛などが治まり体調がいい


更に、身体能力の向上が自覚できる

ドーピング野郎の筋力を抑え込める力

ナイフをぎりぎり躱し続ける認知能力と集中力

背中の触手は本当のドラゴンの翼のようにピンと伸びている


体の活性化


その半面、人間を壊すという行為に躊躇いが無くなってきている


…俺は、人として大切な物を失っていないのか


いや、悩むな


俺は死ねない

強くならなければいけばい


俺には変異体の力が必要だ

やるべきこと、ぶっ潰すべきものがあるのだから




別室


選別場のモニターを見ながら白衣の研究者が話している



「D03…、あの動きを見切っていましたね」


「認知機能の強化と身体能力の覚醒を確認できた。まさか力比べで、強化薬クアドラを使った強化人間と渡り合うとは思わなかったな」


「クアドラは、短時間とはいえギガント並みの怪力が出るんですけどね。…ま、使えばオーバードーズになって確実に死にますけど」


「こいつはドラゴンタイプとして完成でいいな。次の選別が終わったらステージ2へ行かせろ」


「分かりました。今回ステージを進めるのは、D03とD27の二体ですね」


「ドラゴンタイプが二体か。どちらか一体くらいは強化兵として完成までいくといいんだがな…」




クアドラ

集中力強化、リミッター解除による身体能力強化、抗ストレスと興奮作用、無痛の四つの作用を与える強化薬、だが主成分は高濃度の麻薬


D03:ラーズ

D27:ヘルマン


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