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十章 ~2話 サバイバーズ・ギルト

用語説明w

絆の腕輪:対象の一部を封印することでテレパス機能を作れるアクセサリー。リィと竜牙兵、フォウルとの思念通話が可能


フィーナ:B+ランクの実力を持ち、漆黒の戦姫と呼ばれるウルラ最高戦力。仙人として覚醒、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップ、更に複合遁術を習得した大魔導士。ラーズとの別れを選んだ

エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える


「エマ、ラーズの容体は?」

フィーナが尋ねる


「よくはない…。でも、さすが変異体…、峠は越した…安心して…」

検査を終えたエマがホッと息を吐く


「…良かった……」


冷属性魔晶石による魔法陣で極寒の環境を作り出し、凍結爆弾によって更なる極低温に晒された

ラーズの体は重度の低体温症と凍傷になっていた


だが、寒さ対策の火属性の護符、バッテリー式のヒーター、そして変異体の生命力がその命を繋ぎ留めた


「でも、霊体の損傷が酷い…」


「封印術…」


大霊能力者、天叢雲(あまのむらくも)カンナ

その力を七日間かけて詰めた、非可逆霊体圧縮封印


その威力はマサカドが降ろした鬼神の力を消し飛ばし、マサカド本人の霊体を封印

極低温による肉体の代謝の低下と共に、強力な力を持つB+ランクのマサカドを封印して見せた


だが、それは常人の霊体しか持たないラーズにとっては霊体を破壊されることと同じ

ラーズの霊体は完全に破壊され、死を迎えるはずだった



「いったい、どうやって生き残った…? 普通なら霊体が消し飛んで即死…」


エマは、ラーズが生き残ったことに安堵しながらも首を捻る


そう、あの封印術が発動した時点で、周囲三メートル以内の霊体を持つ生物の死は確定した

つまり、ラーズの死も確定していたはずなのだ


実際、ラーズは死を覚悟して、自爆のつもりで封印術を発動している



「それは絆の腕輪のおかげよ」


「え…?」


フィーナがラーズから顔を上げる



ラーズのアクセサリーである絆の腕輪は、仲間の力の一部を封印することで絆を作る

仲間と精神共有し、思念による意思疎通を可能とするのだ


力の一部とは、魔力や霊体の一部を封印することが一般的だ



「絆の腕輪でどうやって…?」


「ラーズからの思念を受信するために、私は輪力で作った大量の雲を封印したの」

フィーナが言う



…フィーナはラーズの様子がおかし事に気が付いていた


急に吹っ切れたような態度

フィーナやセフィ姉に対しての感謝の念


マサカドの強襲による死を覚悟したことで、ラーズの心の中で何かが変わったのだと思った


でも、戦いの前に会った時、ラーズは言った


「…最後に話せてよかった」、と


強敵であるマサカドと戦うのだから、その危険性を考えての言葉だと思った


でも、もし違ったら?

死ぬつもり、刺し違えるつもりだったとしたら?


だからこそ、フィーナは対策をした

絆の腕輪に、自身の雲遁で作り出した雲を大量に封印したのだ


思念をより正確に発信するため、そして、いざとなれば封印を解除して目くらましにでもなればいい

そう思って、フィーナはありったけの力を使って雲を封印したのだ


ラーズの絆の腕輪には、フィーナが驚くほどの量の雲が封印できた

それが、結果としてラーズの命を救ったのだ



「雲が…、ラーズの命を…?」


「ええ。あの封印術は霊体を破壊する。でも、ラーズの霊体は別の霊力を含んだ存在が囲んでいた」



雲遁は遁術であり、輪力を使って構成されている

輪力とは、霊力と氣力の合力である


封印術は、フィーナが絆の腕輪に封印した雲を構成する霊的質量を破壊

その封印エネルギーを消費したことにより、ラーズの霊体を破壊する力を弱めた


そのため、ラーズの霊体の損傷が抑えられたのだ



「そんなことが…、でも、それなら納得…」

エマが頷く


「結果論だったけどね…」



ラーズは、マサカドと差し違える覚悟を持っていると思っていた


でも違った

予想は完全に外れていた


ラーズはマサカドを倒すために戦っていたんじゃない

死ぬ理由を探していただけだったんだ


…あの大崩壊で刻まれた後悔、そして罪悪感

その苦悩は、それほどまでにラーズを苦しめていたのだ


絆の腕輪から伝わって来た、ラーズの安堵感


やっと終われる

解放される


ラーズはマサカドに親近感を持っていた

マサカドがヒルデに負けた、その時に見せた表情


やっと終われる、そのマサカドの感情を感じ取り、マサカドさえも気が付いていなかった本当の願望を悟ったのだ



1991小隊の壊滅、()()()()


苦悩からの解放

そして、罪悪感から逃れる方法


ラーズが悟った方法とは、自分の命を目的のために使い切ること

死の大義名分を持つことにより、後ろめたさを感じることなく、全てから解放されること


自分の罪からは逃げられない

忘れ去ることもできない


それなら、大切な人のために命を使う

そして、この世という舞台から消え去る


…それが、苦悩からの解放

ラーズとマサカドが望んでいた、本当の望みだったのだ



「ラーズ…、そんな…」

エマの目に涙が溜まる


同じ1991小隊の仲間であるエマ

その仲間の死は、当然、エマにも大きなショックを与えていた


「ラーズが意識を失う直前、思念が大きく膨れ上がって弾けた。その時、色々な感情が伝わって来たの」


「1991小隊の壊滅はラーズのせいなんかじゃ…」


「…ラーズは、そう思っていなかった」

フィーナが俯く


「サバイバーズ・ギルト…」

エマが呟く



サバイバーズ・ギルト


戦争や虐殺、大事故、大災害など、悲惨な状況から生き残った人々が、犠牲者に対してもつ罪悪感のこと

自分の命は他人の犠牲によるものではないか、自分にも助けられる人がいたのではないかと、自責の念を持ってしまう精神作用であり、心的外傷(トラウマ)反応の一種



「私、ラーズの悩みに気が付いてあげられていなかった…」

フィーナの目にも涙が浮かぶ


「…私、医者として失格……」

エマの目からも涙が溢れ出す


「私も、恋人失格だよ…」



ラーズは悩んでいた


あの大崩壊から生き残った意味を

あの施設で殺し合いをしてまで生き残って来た意味を


でも、答えは出ない

何をやっても大崩壊の記憶から逃げることはできなかった


それでも、死んで楽になることもできない

それでは、仲間たちの死が無駄になってしまうから



「ラーズ…」

ついに、フィーナの目からも涙が溢れ出す



でも、ラーズは死ぬ理由を見つけてしまった


マサカドという強敵

自分では到底かなわない相手

その足止めは自分にしかできない


フィーナのために、ウルラのために、自分の命を使うという理由を見つけてしまったのだ



「あの大崩壊で…、ラーズは必死に戦ってくれた…。おかげで、メイルとサクラちゃんを助けることが出来たのに…」

エマが涙を流しながらラーズを見る



あの大崩壊は、もう誰にも止められなかった

あの聡明なゼヌ小隊長や、デモトス先生、そしてセフィリアにもできなかったのだから


それでも、シグノイア、ハカル、龍神皇国という三国の国を跨いでの協力作戦により黒幕を特定、神らしきものの教団を壊滅に追い込んだ

それは、壊滅した1991小隊とラーズの戦いが実を結んだからだ


全てを救うなんて、国のために働く公務員だったとしても不可能


問題は、自分が出来ることを、出来る限りやったかどうか

…1991小隊は、間違いなくその身を賭してやり切ったのだ



「ラーズは、まだ自分が許せないんだね…」

フィーナが、涙がこぼれるままにラーズを見る



その顔は凍傷でボロボロ

痛々しく再生用シートが貼られている


…こんなになっても、まだ自分が悪いと思っている

自分が許されてはいけないと思っている


本人も気が付いていなかった

無意識に誤魔化し、目を背けていた後悔だ



「エマ、私はラーズの心を救う。サバイバーズ・ギルトから救うわ。協力して」


「え…」

エマが涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる


「クレハナの戦いは終わった。ラーズが私を助けてくれた。…次は私がラーズを助ける番よ」


「あ…はい…」

エマが頷く



フィーナが俯く


これからは、待ったりはしない

ラーズを一人では行かせない


ラーズと一緒に行って、一緒に帰って来る

私があなたを救う、幸せにしてみせる



「…」


…私、ラーズのこと、こんなにも思っていた



もう、一人で悩ませない

この男が抱える責任の中に、私が割り込む



「最初に何をしたらいい?」

フィーナがエマに尋ねる


「ええ…、まずはカウンセリング…、たくさんを話をして、何度も繰り返して伝えること…」

エマの目にも力が戻る


1991小隊の戦友であり、数少ない生き残りであるラーズ

そのラーズを救うためのプランを考え始める


もう一人の戦友、あの人に助けを求めよう


エマは、フィーナにラーズの治療方法について話し始めた





難産…難産だよ…

この話、どうやってまとめりゃいいんだ…

あと、地味に話数が足りなくなりそうな予感(汗)


十章は要所要所で意外な人と戦います

最後の見所、読んでいただけたら嬉しいですw

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― 新着の感想 ―
[気になる点] すっっっげぇ今更だけど、これ絆の腕輪がスピリッツ装備だったから中に入ってた雲も含めての防具として機能する事ができた、て話よね? もし、絆の腕輪が破壊されていたり、スピリッツ装備ではな…
[一言] すげぇ…! 普通、完全に専門外な人は省略しがちな戦争の病気を真っ向から書こうという作者様の意気込みがすげぇ…! しかも、理想高く、具体的なカウンセリングの苦闘を描くなんて 恐ろしい。これリア…
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