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九章 ~29話 リベンジスパー

用語説明w

エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える

ロン:ラーズのトウデン大学の同期で、共に格闘技をやって来た仲。現在は消防官兼総合格闘技のプロ、エマと付き合っている

ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている



※シーベルの演説まであとあと七日


「…間違いないの?」


「信じられないことですが…、間違いありません…」

セフィリアとエマが難しい顔をしている



ウルラ領にある灰鳥(あすか)


その一室に設けられたエマの私室

現在は医療設備が持ち込まれて、エマの研究室のようになっている


これは、セフィリアが頼んでフィーナが用意したもの

エマは、セフィリアの依頼でラーズの体を定期的に検査をしているのだ


ラーズは、貴重な完成変異体となった

そして、国宝級の神具である竜族の呪印を受け取っている

その影響をエマが調べている


神具とは言っても、竜族の呪印は持ち主の理性を失わせるという困った特性がある

使用者に呪印の力を与えるが、そのデメリットが大きすぎて今までに使いこなせた者はいない


ドラゴンの闘争心を具現化した呪印は、まさに宝の持ち腐れとなっていた

それが今回、セフィリアの権限と采配によってラーズに与えられたのだ


その影響について、ラーズからデータを取っているのだが…



「ラーズが呪印をある程度制御していることは間違いないと…。実際に、極短時間であれば意図的に発動…、それだけではなく…発動を停止させることも…」


「それは私も見たわ。でも、それって使役対象達の思念で無理やり意識を呼び戻しているから…」


「過去のデータを調べましたが…、呪印を発動した者は、そもそも外からの刺激に反応しなくなっていて…、思念を受けたからといって理性が戻るとは…」


「…」


「結論として、ラーズはトリガーを前提とした理性を維持する力が強いのだと…。それによって、わずかでも意識を失わず、思念によって我に返ることが可能に…」


「ラーズが…」


セフィリアはエマの作った資料を見て考え込む

トリガーによる意識の消失と戦っていたラーズに、呪印を与えたのは自分だ


意識の維持、その強い力をラーズは持っていた

セフィリアの予想よりも、呪印に対する大きな適性を持っていたのだ


ラーズには何度も予想と期待を裏切られている

それも、いい方にだ


セフィリアは、自分が天才であり、努力もしてきているという自負がある

それでも、ラーズの特異性は自分を超えることがある



「そして、次に変異体とナノマシンシステムの親和性についてです…」


「何か問題があったの?」


「いえ…、これもいい情報です…。変異体となって筋密度や骨密度が高くなり、常人よりもナノマシン群を多く取り込んでいて…。ナノマシン群の含有量と密度が上がったことで、身体強化能力や変形能力が上がっています…」


「…」


「言うなれば…、変異体のナノマシン群による強化個体…、又はナノマシンシステム2.2…とでも呼ぶべき…、予想もしていなかった変異体とナノマシンシステムの融合状態…」


「驚かされることばかりね…」


「更に、呪印が霊体と接続状態に…ラーズの体内カロリーとは別の、新たなエネルギー源となっている可能性が…。それに伴い…絆の腕輪による使役対象達とのネットワークが強化され…」


「ちょ、ちょっと待って。いったい、ラーズの体に何が起こっているの?」


「これは…あくまで私の予想…」


「ええ、優秀な研究者であるエマの考えを聞かせて?」


「はい…。ラーズは、今まで不自然にアンバランスな体…、そして心で戦って来た…。そして、極限状態を経験したことで、体が適応するために生き残る能力を磨き続けて来た…。そして、ようやく体内の複数の要素が絡み合い、活かし合うバランスを構築した…。それが今のラーズ…」


「葛藤と苦悩の末の…」


「はい…。ラーズは長い時間をかけて、()()()()()()()()()()()()()…、と結論付けます…」


「…」


セフィリアは、しばらく無言でエマの資料を読みふけった




・・・・・・




俺がマキ組の拠点、廃校の校庭で待っていると車が入って来た


「おー、ラーズ!」


黒髪のノーマン男性、ロンだ

その横にはエマもいた


「本当に来てくれたんだな」


「ああ、エマがウルラ王家に頼んでくれたんだよ」


内戦がまだ終わっていないため、本来一般人はクレハナに渡航が出来ない

だが、俺からセフィ姉とミィに頼んだこと、エマがフィーナに頼んでくれたことで、特例としてロンの入国が許可されたのだ


「ロン、タイトルマッチ見たよ。手刀受け、凄かったな」


「一応、空手部出身だからな。フックに合わせる練習をしてたんだ」


俺達は大学時代に空手部に所属していた

そこで、ゴドー先輩からしごかれたのだ


ロンは拳法をやっていて、お互いに組手をやったり技の研究をしたりと大学時代を楽しんだものだ



「聞いたよ。とんでもない化け物と戦うんだって?」


「ああ、そうなんだ。だからこそ、ロンの力を貸して欲しい」


「俺の試合前と同じだ。気持ちは分かるよ」



俺が宇宙に行く前、俺はロンの頼みでスパーリングをした

プロのロンが俺とのスパーを求めた理由、それは大学時代のギラギラした、怖いもの知らずだった時の感覚と意欲を思い出したいから


そして、マサカドとの戦いの前に、俺もそれを求めている


今日は使っていない教室をリングにして、ロンとガチのスパーを行う

そのためにロンに来てもらったのだ



お互いにアップをして、教室へ

ルイとエマが立ち会ってくれる


「ルールは総合ルールでいいのか?」

ルイが尋ねる


「マジ(マンジ)ルールで頭突きも有り。それと、金的と目以外の急所も有りで」


マサカドとの戦いは、全てを使う必要がある

そのためのスパーだ


「…よし、準備オッケーだ」

ロンが言う


お互いにマウスピースをはめる

噛みつきは、マサカドには通じないため今回は無しだ



「それじゃあ、怪我をしないように…」

エマが言う


「よし、行くぞ…、始め!」

ロンが声を出し、スパーが始まった


ゴングは無し、時間の計測も無し、制限時間も無し

そして、身体能力を平等にするため、俺の体に変異体因子を不活性にするエマの薬を使っている



鍛え上げられたチャンピオンであるロン

変異体因子を不活性にした俺


身体能力的には互角だ



「…」


目の前のロンに集中



ロンが静かに動く



パン パパンッ!


高速のジャブ・ワンツー



伊達にチャンピオンになっていない

普通のコンビネーションが驚くほど速く、威力が乗っている


手で叩きながら、強引に右手で右腕を掴む



一瞬の間


その瞬間にお互いが動く



ゴガァッ!


「…っ!?」



俺の左フックが直撃

ロンの左ストレートが空を切る


俺が右腕を掴んで微妙にコントロールしたのだ



ロンが右腕を引く

俺は静かに右腕を放す


引きに合わせて、胴タックル

がっちりとクラッチ



ゴガァッ!


「…!!」



ロンの頭突き


視界が歪むが、構わずに持ち上げる

スープレックスで床に叩きつける


受け身を取ったロン

互いに、ポジションを取るために動く



お互いに経験がある

不用意に技には出ない


有利なポジションを取る

そのための…



ゴッ…

ドスッ…


寝ながらの打撃の応酬



ロンが立ち上がって肘を叩きつける


合わせて体を回転、もう一度寝かす


そのままサイドポジションを取る…!



「うおっ!?」


ロンの喉を狙った掌底



ロンは、大学時代に俺とストリートファイトをしてきている

つまり、喧嘩もできる総合格闘家なのだ


やっぱりロンは最高だ


あの頃の感覚が蘇る


ワクワクする気持ちを集中力に変える



俺はギリギリで避ける


「こ、これを避けるかよ!」


ロンの伸びた腕を取って一気に腕十字へ



ビキッ…


「ぐっ…」



俺の顔に拳を落としながら、ロンが強引に腕を引き抜く

だが、おそらく筋は伸びたはずだ



お互いに立ち上がる


立ち上がった瞬間の、この攻撃で決まる



右ストレートのフェイント


ロンがタックル


ガブって潰す



…勝負!



左腕でロンの右腕を掴む


右腕でロンの左腕の下から俺の右腕を掴む


ロンの左腕の肩関節をロック



「ぐっ…!?」


ロンが動きを一瞬止める



総合格闘技では珍しい、実戦のCQC技術である立ち関節


だが、すぐに反応して俺の腕を掴んで極まるのを阻止



「おあぁぁっ!」


崩して膝を腹に叩き込む



ロンの体がくの字に曲がる

だが、そのままタックル、組み付いてくる



膝の追撃


一発


二発



完璧に入っているはずだが、ロンは倒れない

俺はロンを無理やり突き放す


ワンツー


前蹴り



逃がさない


ここで決める


壁際、パンチのラッシュ



ボディ、アッパー、蹴りは使わずにパンチで押し込んでいく…



「やめ! 終りだ!」


「え?」


ルイが大声でスパーを止める

まだ、仕留め切れて…


気がつくと、エマが泣きながら俺の背中にしがみついていた



「ま、待ってくれ、まだ終わってな…」

そう言うロンも、エマを見て動きが止まる


見た目的にはロンがボコボコにされていた

それをエマが止めた、それが全てだろう


「神聖なるレフェリーが止めたんだ、仕方ないよな」

俺が笑いながら言う


「…納得いかない。確かに押されてたしピンチだったけどよ」


「エマに文句言う気か? 泣いてるのに」


「…お前、絶対にリベンジ受けろよ。俺も受けたんだ、勝ち逃げなしだからな」


「………あぁ」


「なんだよ、その間は」


「…このまま勝ち逃げもいいなって思ったんだ」


いい練習、いい集中が出来た

ロンとのスパーは楽しい


だが、マサカドとの戦いに生き残れる可能性は、はっきり言って低い

それが分かっているからこそ、俺はロンに即答が出来なかった



ロンは時間限定の入国のため、すぐに帰ってしまう


俺達は空港で飯を食いに行くため、すぐにシャワーを浴びに行くのだった




ゴドー先輩 五章 ~3話 ロンとのスパー

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