閑話3 龍神皇国の実家
用語説明w
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
クレハナ:クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
フィーナ:ラーズの二歳下の恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している
フィーナは久しぶりに実家に帰っていた
龍神皇国のファブル地区
同国の北側に位置し、クレハナという国に接する和な地域だ
「フィーナ、最近仕事のしすぎじゃないか? 顔が疲れてるぞ」
「うん、セフィ姉にもそう言われて休みをもらったの。今日はゆっくりするー」
「フィーナ、今日はシチューにしたからね」
「やったー! シチュー大好き」
フィーナの両親
父 パニン・オーティル 竜人 ジャーナリスト
母 ディード・オーティル ハーフエルフ 教師
ラーズの実の両親で、フィーナの養親だ
ラーズが十八才、フィーナが十六才の時に、フィーナはオーティル家の養子となった
つまり、二人は戸籍上の兄妹となっている
ちなみにオーティル家は純然たる一般家庭だが、貴族であるセフィリアの遠い親戚でもある
セフィリアとは個人的な付き合いがあり、昔はよく遊びに来ていた
「最近、クレハナの情勢はどうなの?」
ディード母さんがパニン父さんに尋ねる
「…良くはないな。今まで三竦みとなっていた勢力の内、二つが連合を組んだんだ。その連合とドースさんの勢力が全面衝突になりそうなんだ」
パニン父さんがため息をつく
クレハナ
フィーナの産まれ故郷で、龍神皇国の北側と接する小国
後継者争いの内線状態にあり、三つの勢力が争っている
龍神皇国が仲裁に入り、内戦調停と治安維持部隊の派遣を行っているが、内戦が終わる気配はない
「それって、ドースさんは大丈夫なの?」
ディード母さんがフィーナに尋ねる
「うーん…。忙しそうだけど、戦争のことは聞かないから分からないな」
フィーナがシチューを食べながら答えた
フィーナの実父、ドース・ウルラ
ウルラ家の家長、クレハナの領主の一人であり、内戦の当事者の一人でもある
クレハナ第二位の王位継承権を持つ
…このドースの立場によって、フィーナは複雑な境遇となっている
まず、フィーナのクレハナでの立場だ
フィーナは王位継承権を持つドースの実の娘であり、れっきとしたクレハナの姫だ
フィーナ自身も、クレハナで第四位の王位継承権を持っているクレハナの重要人物なのである
そして、クレハナの情勢だ
クレハナでは現在、王位継承権第一位から第三位が武力によって後継者争いを行っている内戦状態となっている
お互いが王位継承権の正当性を主張し合っている状態だ
フィーナが未成年だった頃は、まだ参政権が認められていないため特に問題は無かった
だが、成人が近くなると、クレハナでのフィーナへの関心が高まっていく
第二位のドースは当然フィーナを迎え入れる気満々だったが、第一位と第三位の王位継承権者、そして新たな勢力にも動きがあった
フィーナを担ぎ上げて、王位継承権を狙う新たな勢力
自分の勢力に取り込み継承権の正当性を増したい第三位
自らの正当性を脅かすフィーナを消したい第一位
クレハナでは、十八歳から参政権が認められている
つまり、十八歳になると、フィーナが王位継承権を主張できるようになる
フィーナの年齢が十八に近づくにつれて、クレハナでの動きが激しくなった
同時にフィーナの動向が注目され、その命と立場を利用される危険性が高まっていったのだ
「パニン父さん、どうしたの?」
フィーナが、顔を見つめてくるパニン父さんに言う
「あんなにちっちゃかったフィーナがこんなに大きくなって、嬉しくもあり寂しくもあり…」
「そうね、ちっちゃかったフィーナはお人形さんのようだったわねー…」
ディード母さんも頷く
「もー、やめてよ…」
ちょっと恥ずかしくなるフィーナ
王位継承権を持っていた、当のフィーナはと言うと…
クレハナも王位継承権も王家も大嫌いだった
小さいときから母親はいない、父ドースは仕事で家に帰らない
周囲はフィーナを懐柔しようとしたり辛く当たる者ばかり
フィーナに味方はいなかった
そんな時、龍神皇国の貴族であるドルグネル家のセフィリアと出会った
そして、龍神皇国のファブル地区で、オーティル家との親交を持ったのだ
王家やクレハナとの関わりが一切無い一般家庭で、純粋にフィーナのことを可愛がってくれたオーティル家
その後、オーティル家の長男ラーズと全寮制の学校に入ることになったのだが、フィーナは優秀で二年飛び級で入学、二歳年下にも関わらずラーズと一緒に入学となった
在学中は長期休暇の度にオーティル家に遊びに行き親交を深めた
フィーナにとって、オーティル家は家族の温かさを教えてくれた場所だった
だが、フィーナが卒業を控えた頃、クレハナからの干渉が大きくなっていった
ドースの元に戻るのか、新たな勢力となるのか、それとも…
クレハナ国内では好き勝手に新聞やニュースに取り上げられた
ドースはフィーナがクレハナに戻ってくることを望んでいたのだが、フィーナはメディア共々、権力争いに嫌気がさしていた
そこで、フィーナは自分の身の安全を主張してドースを説得し、王位継承権の放棄を決断
ドースも、娘の命のためならと渋々了承した
「フィーナがうちの娘になったことを思い出すわね」
「あれは嬉しかったな…」
パニンとディードは、相変わらず思出話に花を咲かせている
「もー…」
フィーナはそんな両親を眺める
王位継承権を放棄するためには、養子に出されて王家から離脱する必要がある
だが、普通は王位継承権を持つ者を養子になんかしない
ウルラ家の味方からは懐柔され、敵からは睨まれ、リスクが大きいからだ
だが、俺の家庭は一般家庭でクレハナとはなんの関係もない
王位とも全くの無縁だ
更に、龍神皇国の貴族でもあるセフィリアが仲介することで、フィーナとオーティル家への干渉はドルグネル家への干渉となる構図を作った
簡単にはフィーナに手を出せない防衛戦を張ったのだ
その結果、オーティル家との養子縁組みが実現、同時にフィーナの王位継承権の放棄が実現したのだ
「ドースさんに、帰ってこいって言われないの?」
ディード母さんが心配そうにフィーナに尋ねる
「言われてはいるけど…、私はこの家が好きなの。戦争してるクレハナになんか行きたくないよ」
フィーナが答える
フィーナは龍神皇国の騎士団に就職した
もう、クレハナに関わらなくても自立して生きていける
内戦と権力争いの坩堝に戻る気なんて更々無い
「そう?」
ディード母さんは、満更でもない顔をする
ディード母さんの実子はラーズだけなのだが、元々は娘が欲しかったらしい
そういう訳で、養子になったフィーナのことが大好きなのだ
ちなみに、パニン父さんも実は娘が欲しかったらしく、ラーズからいいかげんにしろと言われている
「そういえば、じいちゃんがフィーナに会いたいって言ってたぞ?」
パニン父さんが思い出したように言う
「おじいちゃん? そういえば、大学卒業してから会ってないな」
「ラーズもフィーナも就職して忙しかったからな。まぁ、落ち着いたら時間作ってあげてくれ」
「うん、わかった」
ラーズは一般兵、フィーナは騎士として就職、ここ数年は新社会人として忙しい生活を送っていた
祖父、ドミニク・オーティル 竜人 農業
ファブル地区の北側にある農村部に住んで、農業を営んでいる
昔から、夏休みにラーズと一緒に遊びに行っていた
久しぶりに会いたい
またラーズと一緒に遊びに行きたい
そういえば、ラーズと一緒に田んぼで足を取られてどろだらけになったことがあったなー…
フィーナは、昔を思い出して少しほっこりした
「フォウル、今日は羊の肉だぞ」
「ガウ…」
パニン父さんが、リビングで肩乗りサイズの小竜に肉をあげている
雷竜フォウル
ラーズの使役対象で、こう見えても一回だけ強力なサンダーブレスを吐ける
だが小竜だけあって、すぐグロッキーになってしまう
ラーズが行方不明になってしまい、現在は両親のいる実家で世話をしている
「フィーナ、明日の朝早いんでしょ? そろそろ寝たら」
ディード母さんがフィーナに声をかける
「あー、もうこんな時間。朝から騎士団の本部に行かなきゃいけないから、そろそろ寝るね」
「ラーズのことは心配だと思うが、どこかで生きているに決まってるんだ。心配し過ぎるなよ」
パニン父さんも声をかける
ラーズはいまだに見つかっていない
本当は、実の両親である二人の方が心配なはずなのだが、それを態度には出さない
そんな両親を見て、フィーナはもっと仕事を頑張ろうと思った
セフィ姉の負担を減らせれば、それだけラーズを探す時間が増えるからだ
フィーナはベッドに横になる
「ラーズ…」
フィーナはラーズの両親の養子になった
戸籍上は、ラーズとは義理の兄妹になっている
でも、そんなの関係ねぇ!
結局、なんやかんやで付き合うに至った
フィーナは、脳ミソがピンク色に染まった恋愛脳真っ只中だ
そんな最中、ラーズが行方不明になってしまった
好きで好きでたまらない状態の時に会えなくなってしまったのだ
ラーズに会いたい
ラーズに会いたい
ラーズに会いたい
ラーズに会いたい
ラーズに会いたい
我慢できない
…ラーズのことが頭から離れない
色ボケのオリハの影響もあるしれない
「ラーズ……」
絶対に見つけ出す
両親に会ったことで、また決意を新たにしたフィーナだった
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